問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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神明裁判 ⑤
「・・・このあたりは、これで終わりか?」
「はい。こちら側にももういません。」
一輝が前方を、スレイブが後方を確認して敵がいないのが間違いないと分かると、一輝は水を操ってスレイブの表面についた血を洗い流す。
あまりに切りまくっていたせいか、途中から新たな世代を作り出さなくなった血が残っているのだ。
「・・・ところで、どうして兄様は二つのギフトを併用できているのですか?」
「あぁ・・・正直、分からん。ただ、こう・・・今までとは、ギフトの感じが違うみたいなんだ。」
「といいますと?」
「これまでより、威力が高すぎる。正直に言うと出来る限り使いたくないタイプなんだよな。」
「それほどまでに・・・」
一輝は心底そう思っている。
そして、その原因は一輝の父親にあったりするのだが・・・まあ、その話はまた後ほどに。
「まあ、その話はいいんだ。それより、今は・・・」
「・・・でしたね。どうしましょうか?誰の方へ手助けに・・・」
その瞬間に、ある場所で爆発が起こる。
一輝が反射的にそちらの方を向くと、森が燃え上がっているのが見えた。
「スレイブ、あっちには確か・・・」
「境界門が、あったはずです。」
一輝はスレイブのその言葉で、これからの行動を決定。
是害坊の力で翼を生やして、そちらへと向かう。
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「・・・ホント、信じられない。境界門を壊すなんて、魔王たちでもタブーなのに。新鋭ストーカーの行動力をちょっと舐めてました。」
そう言いながら茂みから現れ、マクスウェルの前に姿を現したのは、ノースリーブにスカートという軽装のリン。
そんなリンに驚いた様子も無く、マクスウェルは
「誰かと思えば軍師殿か。丁度良かった。私は今から、例の男の迎撃に向かう。すまないのだが、私の代わりにウィラを連れてきては、」
「言われるまでもなく、もう捕まえましたよ。これでいいよね、リン?」
突然聞こえてきた湖札の声に「は?」と間の抜けた声を発するが、リンはそんな様子を無視してクルリ、と一回転。
すぐ後ろに来ていた湖札とジン、ペストの三人にあと一人・・・
「さてさて。大きく予定が狂ったけど、避難民はしばらくは無事ですか?」
「多分、大丈夫だと思うよ。これで停戦条約と、例の約束はOKってことでいいかな、二人とも?」
リンの問いかけに湖札が答え、さらに湖札がジンとペストの二人に尋ねる。
「湖札さんのほうはともかく、停戦契約の方はまだだ。まだ肝心の約束が果たされていない。」
「そうね。わざわざウィラを拘束する手伝いまでしたんだもの。一番大きな報酬を貰わないと割に合わないわ。」
そう言うペストの手には、最後の一人、ウィラの両腕を拘束している鎖が握られている。
そんなウィラの目は涙目だが・・・まあ、仕方のないものだろう。
どさくさに紛れて近づいてきたペストと湖札に捕まり、鎖を巻きつけられ、こんなところまで連れてこられたのだ。
だが、リンはそんなウィラの様子を気にすることも無く、満面の笑みを返した。
「勿論、そっちの約束も守りましょう。―――皆、準備はいいですか?」
そう言いながらリンが視線を動かすと、そこには別のものたち・・・湖札以外の、ウロボロスにおいて殿下についてきている者たちが集合している。
「・・・何の話だ、軍師殿。」
「やだなあ。そんなの決まってるじゃないですか♪」
そう言いながらリンは悠然とした笑みを浮かべ、ナイフを引き抜いてマクスウェルに宣言する。
湖札はそんなリンの様子を見ながら、『神成り』を発動し、いつでも戦えるようにする。
「“マクスウェル・パラドックス”。メイカーの権限を持って、貴方の首を挿げ替えます。二一ニ〇に現れる“歴史の転換期”―――“第三永久機関”の霊格をね」
その瞬間に、神と化した湖札が仕掛ける。
暴風を操りマクスウェルに攻撃したところに、
「アウラさん!おじ様!湖札さんにあわせて!!」
「わかったわ!」
『了解した!』
竪琴の音色とともに現れた雷鳴と、黒龍の口内から放たれる気焔。
その二つが湖札の暴風と混ざり合い、青と赤の派手なコントラストで彩られた派手な外装をまとうマクスウェルに向かうが、
「っ、頭に乗るなよ木っ端がァ!!!」
その全ては、マクスウェルが両手を広げるのと同時に軌道を変え、空中で爆発する。
それによって現れるはずであったリンたちへの被害は、湖札が周囲の気圧を操っていたために無かったが、そうでなければかなり危険だったであろう。
そして、そんな様子から一旦、リンと湖札は距離を置いて、建物の影で拘束しているウィラに振り返る。
「高スペックなストーカーほど怖いものは無いねー。ちょっぴり同情しちゃいます。」
「私としては、かなり同情しちゃいます・・・気を強く持ってくださいね。」
「・・・・・・あぅ。」
二人の言葉に少しは救われた気にもなれたであろうが、それでも目まぐるしく変わっていく展開についていけず、ウィラは涙目で首を振る。
「それじゃあ、ウィラさんはお願いね、リン。私が相手をするから。」
「はい。ウィラさん、走るよ!ついて来て!」
あぅあぅ、と半泣きになりながら、ウィラは先導に従う。
そこに周囲を覆いつくすほどの大吹雪が襲い掛かる。
「私の花嫁を渡せ、メイカァァァァ!!!」
「だから、そういうことは一方的に言わないでください!」
湖札はそんな大吹雪を風で払いながらマクスウェルと拳を交え、それでも押されながら、後退しながら戦い続ける。
「私以外がウィラを縛るとは、何様だ貴様ァ!!!」
「貴方に縛る権利があるわけでもないでしょう!」
湖札はほんの一瞬、拳の先に集めた空気の固まりを開放し、爆発させる。
それでマクスウェルは一瞬後退し、初めて湖札を認識する。
「邪魔をするな、小娘ェ!!!」
「お断り!!我が百鬼より出でよ、青行燈!」
湖札はその隙に檻から青行燈を召喚する。
「我は汝の物語を読み解こう。汝は語られて顕現する。汝は百の物語を身に宿し、百一の存在であり一の存在であるもの。故に我は百より一つを選び出す。」
湖札の言霊に反応して、青行燈がその姿を変えていく。
「汝は八股の蛇!八つの首を持ち、酒を好み、姫を贄に求めたもの!今ここに、その姿となれ!ヤマタノオロチ!!」
そして、湖札の言霊が終わるのと同時に、その場にはヤマタノオロチが現れた。
そして、そのままマクスウェルに襲い掛かる。
「ふぅ・・・よし、検索開始。対象、マクスウェルの悪魔。」
そして、その隙に湖札は知識から検索を始める。
それは確実な情報を元に検索していただけ会って一瞬の間に対象を発見し、湖札の手に現れた矢にその言霊が込められる。
「まがい物の蛇で、私を止められるものかァ!!!」
そして、簡単にマクスウェルに引きちぎられた青行燈が檻に戻る間に、湖札は矢を放つが・・・それは、マクスウェルに届く前に逸らされ、森の木に当たる。
「邪魔だ、小娘ェ!!!」
「あぐっ・・・!」
そして、一瞬の間に肉薄してきたマクスウェルに、湖札は殴り飛ばされ、森の木に背中をぶつける。
「私とウィラの邪魔をするやつは、全員殺す・・・死ね、小娘ェ!!!」
そして、マクスウェルは湖札に向かって拳を振り下ろし、湖札は目を閉じて、身をこわばらせる。
・・・が、いつまでたってもその衝撃は、湖札の元に届かない。
「貴様は・・・!!!」
「・・・オイ、コラ。何人の可愛い妹に手出してんだ。」
「えっ・・・?」
そして、湖札は自分のすぐ前から聞こえてきた声に驚いて、目を開く。
そこにあったのは、自分の最後の家族・・・
「魔王ごときが、殺すぞ・・・!!!」
自分の兄の大きな背中が見え、左手でマクスウェルの拳を受け、右手に大剣を持ち、マクスウェルの魔王を睨みつけている。
「おにい、ちゃん・・・」
そして、そんな兄を見て、湖札は無意識のうちに、そう漏らした。
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