問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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人類最終試練、二人
白夜叉と孫悟空の二人が忉利天の前で話をしていると、そこに近づくものがいた。
「天岩戸を準備してある。あそこなら誰にもバレない。」
「あら、それは準備がいいわね。」
「「!?」」
二人はその少女―――少なくとも、見た目は―――が近づいていたことに気付けず、声をかけられて一気に警戒心を高めた。
が、その少女はそんなこと気にも留めず、肩をすくめながら話しかける。
「全く、お釈○に悟空だけじゃ心配だから見て来い、って言われてきてみれば・・・何二人揃ってランデブーしようとしてるのよ?悟空は悟空で聞いてて感心したくなるくらい鮮やかに誑かしてくし。」
「・・・オマエは、だれだ?その面を外せ。」
「酷いわね・・・こんなお面つけてるの、あたしくらいだって分からない?」
「まあ、分かるんだが・・・確認のためだ。」
「用心深いわね、白夜叉は。いいわよ。」
そう言いながら少女はお面・・・二本の長い角に、牙を向いた口、鋭い目つきをしたお面を外す。
その下からは、先ほどのお面からは想像もつかないほどに、可憐な素顔が出てくる。
「で、どう?これで警戒心といてくれる?」
「・・・うむ。スマンな、疑って。」
「いいわよ、別に。確かに、いまの二人は警戒心を高めないといけない立場だものね。」
そう言いながら外したお面を側頭部にかけ、二人に近づいていく。
「で?お前は何しに来たんだ?ハンニャ。」
「さっき言ったわよね?お○迦に言われて、来たのよ。」
「つまり、目的は・・・」
「白夜叉が下層に行こうとして悟空がそれを止めようとしなかったら、あたしの“主催者権限”で止めて、二人とも無理矢理にでも連れて来い、って言われたわ。」
心底面倒そうに話すその姿からは想像できないが、ハンニャの“主催者権限”はそれを可能に出来るだけのものだ。
それゆえに、白夜叉と悟空の二人も警戒心を解いてこそいるが、一触即発の空気は消えていない。
「・・・なあ、ハンニャ。ここは同じ仏門の縁で、見なかったことにしてくれないか?」
「いやよ。そんなことしたら、あたしがあんたを見失ったってあれに言われるじゃない。」
「そこを、どうにか・・・」
「私からも頼みたい。ここは昔なじみの縁・・・それに、似たもの同士の縁で見なかったことにしてくれんか?正直、おんしと戦いたくはない。」
「確かに、白夜叉とは魔王だったころからの馴染みだし、似たもの同士よね。同じ、クリアされつつも、完全なクリアではない人類最終試練同士。」
そう、ハンニャは人類最終試練の一つを担っている。
名こそハンニャを名乗っているし、存在もハンニャとしての側面が強いのだが、本質まで覗くとそれはハンニャではない。
人類によってその存在の何面かははクリアされているが、全てがクリアされていないという意味合いにおいては、彼女は白夜叉と似ているのだ。
・・・まあ、本当に奥底まで覗いた場合、多少訳が違っては来る・・・かもしれない、微妙な存在ではあるが。
「でも、見なかったことには出来ない。そんな選択肢、あたしの中にないもの。」
「そうか・・・では、しかたないのう。まず、おんしから、」
「ちょい待ち。なんか勘違いしてるみたいだけど、最後まで話は聞きなさい。」
臨戦体制に入ろうとする二人を、ハンニャは手振りで止める。
「勘違い、だと?おんしのことだから、あやつに言われたことを遵守するのかと思ったが?」
「ああ、確かに私の主に言われた言いつけは、何があっても守るわよ。」
「それは、シ○カに言われたことをちゃんと聞くように、じゃろ?」
「それも有ったわね。あたしはお釈○の一部といっても間違いじゃないんだから、ちゃんと言うことくらいは聞いとけよ、って。」
「だったら、俺たちを止めるんだろ?」
「確かに、それだけだったらそうね。でも、言われたのはそれだけじゃないもの。」
そういいながらハンニャは再び、拳をおろすように催促する。
そして二人が降ろしたのを見て、それを話す。
「あの人は、ただし、コミュニティのためなら、気にせずやってくれ、とも言ってたわ。だから、あたしはここで白夜叉と悟空を止めない。」
もちろん、ここで言っているコミュニティとは、現時点での“ノーネーム”のことだ。
「だが、それでは命令に逆らったことになるのでは・・・」
「大丈夫よ。悟空もあたしも、言われたのは白夜叉を下層には行かせるな、ですもの。天岩戸に引きこもってくれるなら、それ以上助かることはないわ。」
「いいかげんじゃの・・・」
「それが、あの人から学んだことよ。」
「それでいいのか?悟りは。」
「いいに決まってるじゃない。あたしは、愛した人のために生きる、って決めたのよ。」
そして、ハンニャもまた白夜叉に一言。
「そういうわけだから、あたしも二人と一緒に行くわよ、天岩戸。」
「・・・は!?それこそ、シ○カのやつに怪しまれて、」
「報告の義務とかないし、大丈夫でしょ。それと、もう一つ。白夜叉からゆっくり聞きたいことがあるのよ。」
「聞きたいこと?」
白夜叉が聞き返すと、ハンニャは真面目な顔つきで、
「寺西一輝、って子のことを、聞かせて頂戴。」
そう、言った。
「それは構わぬし、暇つぶしになるから良いのだが・・・なぜ、一輝のことを?」
そう、それは事情を知らない人間からすれば当然の質問だ。
だが、事情さえ知っていればこの質問の意味はすぐに分かる。
「簡単なことよ。何回か色んな手段を使って彼を視たんだけど、似てたのよ。」
「似てた、とは?」
「誰にだ?」
「私の主様。」
その言葉に、二人が揃って絶句した。
ハンニャの主・・・高橋示道は、金糸雀が活動していたころに基本すぐそばで動いていた、たった一人で五十を超える魔王を討ち取り、その内の二十六人を隷属させたもの。
かなりの有名人だ。
「・・・それは、まことか?」
「ええ。どんな繋がりなのかは分からないけど、そこそこに深い繋がりのはずよ。血縁者とかじゃないかしら?」
「で?ハンニャはそれを聞いて、どうしたいんだ?」
悟空の質問は、当然のものだ。
いまの彼女は名目上お釈迦に仕えてこそいるが、それはあくまでも名目。
仕えていた示道が行方不明になったから仕方なくそうしているだけで、お釈迦もそのことは了解している。
だからこそ、そう聞いたのだ。
が・・・
「まだ決めてないわ。」
「・・・意外だな。間違いなければ、そのまま仕えるとばかり思っておったが。」
「そうしたい気持ちもあるけど、その前に悟りを従えることが出来るかどうか・・・」
「そういえば、そうだな。」
白夜叉は納得したように頷き、
「分かった。私が知っている一輝のことを、すべて話してやろう。」
「ありがとう、白夜叉。この恩は多分踏み倒すわ。」
「オイ、悟り。」
「あら、知らないの?悟りって言うのは、いろんな種類があるのよ?」
だとしても、ここまで適当になるのは・・・と思わなくはない。
だが、それは間違いなく示道のせいであって、ハンニャが悪いわけではないのだ。
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