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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep32戦い終わって~Interval 6~

1脚減って13脚となった幹部椅子。足を組み、腕も組んで座るハーデの目の前、そこには防衛戦に出撃した幹部たちが並列して正座させられていた。
しかし唯一その場にマルフィール・イスキエルドの姿はなかった。シャルロッテによって撃墜された彼女は、受けたダメージのフィードバックで存在(おもい)に損傷を受け、眠りについているのだ。

「ノーチェブエナの裏切り行為に対しての処罰は、納得はしませんが理解はしましょう。で・す・が! ディアマンテ、カルド隊には少々やり過ぎ感が否めません。もう少しやり方といったものがあるでしょう?」

彼女は大きく嘆息し、件の4人を見下ろす。

「あのまま私が戦闘中止の指示を出さなければ、ディアマンテ、あなたは特務六課の方々を本当に撃墜していたでしょう?」

ディアマンテ、グラナード、クイント、ティーダと、なのは達の戦闘を止めたのが彼女だった。だからこそなのは達は、はやて達の元に向かうことが出来た。しかし結局全てが終わってしまった後だったが。

「いえ、それはマスター・ハーデのご意思に逆らうことになりますので。ですから私は手加減をし、やり過ぎないように細心の注意を払っていました。それでもヴィータとレヴィ・アルピーノが意識不明になったのは、私の力が思いのほか強かった、ということです。その件に関しては深く反省しています」

ディアマンテは深く頭を下げ、「処罰は受けます」と告げた。

「カルド隊、何か弁明はありますか?」

「「「いいえ。何もありません」」」

「1度、皆さんには冷却期間が必要のようですね。テスタメント・リーダーとして、あなた方に4日間の謹慎を命じます」

ハーデがそう告げると幹部たちは「了解しました」と応え、最上階を後にしていく。そして最後にルシリオンに、【あなたはここに残ってください】と告げる。彼は立ち止まり、ハーデに振り返り「何か御用でしょうか?」と聞き返した。

「ノーチェブエナがいなくなって、あなたはどう思っていますか?」

「その質問の意図は量りかねますが。そうですね、こう半身を失ったような感覚を得ています。3年。長くもなく短くもない期間でしたが、私と彼女は繋がっていた。それがあのような形で失われたことに関しては、少々残念、寂しいですね」

胸に左手を添え、ルシリオンはそう答えた。

「それは本心?」

「はい。それに、私の戦力を安定させるのが出来るのも彼女だけです。毎回、マスターの命を危険にさらして力を取り戻していたのでは私はお荷物もいいところ。そのことから見ましても、ノーチェブエナ、彼女は私にとっては大切な存在でしたね」

「ふふ。まるで恋人みたいなことを言うのですね、あなたは」

「恋人、ですか? そう言ったものは理解しかねます。確かに大切には思ってはいましたが」

考える素振りを見せている彼に、彼女は「私のことはどうですか?」と聞いた。しかし彼は思考に耽っていた所為で聞き取れず、「何か言いましたか?」と聞き返す。彼女は咳払いし、「何でもありません!」と怒鳴るように返した。何故怒鳴られたのか解らない彼は、ただひたすらに首を傾げていた。

『ま、まぁ話はこれで以上です。自室に戻り謹慎してください』

『了解。マスターが御意思のままに』

ルシリオンは一礼し、最上階を後にした。ハーデは「ふぅ」と一息吐き、手元にコンソールを出し操作、目の前にモニターを展開させる。

「アギラス撃墜数19機。レジスタンス逮捕数68人。そして幹部が・・・1人。状況はあまり楽観視できないですね・・・」

映し出されたのは、今回の防衛戦で被った“テスタメント”の被害状況。失った戦力は、全体的に見れば“テスタメント”にとっては1割にも満たない。各拠点に配置している戦力を集結させれば簡単に取り戻せる数字。しかし、それでも彼女にとっては大切な仲間だった。

「もう最後まで往けそうにないですね・・・」

管理局との勝手ながらの約束の日まで残り15日。彼女は立ち上がって、姉・トパーシオの眠る部屋へと向かった。

†††Sideシャルロッテ†††

時刻は朝の7時ちょい過ぎ。日にちは11月29日。3時くらいに“オムニシエンス”から帰って、メンバーの大半が医務局へ運ばれるのに付き添ってしばらく過ごした後、私はひとり“ヴォルフラム”のなのはの部屋に戻って、ある映像記録をいくつか眺めていた。

「えっと・・・これか・・・。どれどれ・・・」

なのはの“レイジングハート”を始めとしたデバイスに記録されていた映像だ。放たれていたサーチャーの映像。内容は1番気になるディアマンテ戦。私のカートリッジを使ったなのは達でも勝つことの出来なかった相手。始まりは白銀の砲撃によって、なのは達と幹部たちの戦闘が中断された辺り。煙幕が晴れた時にはマルフィール隊とカルド隊の姿が無かった。

(この後、私がマルフォール隊と当たったわけだ)

エリオとキャロとグラナード、スバルとティアナとクイントさんとティーダの戦いが始まる。数が合わず立ち尽くすなのは達。

「っ! アルトワルド!?」

そこに現れたのがディアマンテと、そいつが乗る純雷の皇馬アルトワルド。アルトワルドと言えば、それなりの力を持つ幻想一属で、その棲み処は中層となっている。格の高さで言えば魔人メノリアと同格か少し上。

「こいつもシュゼルヴァロードの名で召喚されたのか・・・。あーもう! ルシルってば、とんでもないことばっかしてくれちゃって!」

ここには居ないルシルに怒鳴り散らす。もう少しビンタでもパンチでも食らわしておけばよかった。

『君たちの相手は私がさせてもらおう』

アルトワルドに跨るディアマンテが、なのは達に向けて宣戦布告。そして始まる、なのはとシグナムとヴィータとレヴィの4人と、ディアマンテの戦い。先手を仕掛けたのはレヴィ。瞬走壱式で上手く懐に潜り込んだんだけど、すぐその場から姿を消すディアマンテ。

「やっぱり速度は並じゃないか」

純雷の皇馬アルトワルドは、文字通り自我を持つ雷の化身。幻想一属の中には様々な自然界の化身がいる(炎とか水とか影とかね)。特にその中でも、光や雷や風といった種はケタ違いに動きが速い。その雷たるアルトワルドの瞬発力に関しては、幻想一属・自然種の上位とされてる。
ディアマンテを見失ったレヴィの一撃は空振り。

『エクセリオン・・・・バスタァァァーーーーッ!』

姿を現したディアマンテに追撃を仕掛けるなのはのエクセリンバスター。それすらも消えるような疾さで回避。

『レヴァンティン!』

≪Schlange form≫

シグナムのシュランゲフォルムとなった“レヴァンティン”による連結刃結界。それによってディアマンテの身動きを封じようとしたんだと思う。だけど、

――我が往くは天の覇道――

銀雷の砲弾となって強引に突き破るディアマンテ。

『おらぁぁぁぁぁぁッ!』

そこに迫るヴィータのギガントハンマーの一撃。よしっ、タイミングはバッチリ。あまりにバッチリ過ぎて逆に恐ろしい。だけど振り下ろされた“グラーフアイゼン”がピタリと止まる。

『『『『なっ・・・!?』』』』

なのは達の驚愕もごもっとも。何せギガントハンマーが、ディアマンテの持つ剣の先できっちり受け止められているからだ。気合の咆哮と共にさらに力を込めるヴィータ。だけど、そこからピクリとも動かない。力押しじゃヴィータよりディアマンテの方が上みたい。そんなディアマンテの背後から迫るレヴィとシグナム。

――弧咬崩陣――

――紫電一閃――

ヴィータの一撃によってディアマンテの身動きが封じられているからこそ可能な挟み撃ち。

――拒みし者の光潰す雷幕――

2人の攻撃が当たるというときに、モニターが銀の雷光に染まって何も見えなくなる。モニター越しで観ている私でもあまりの発光量にクラってきたんだから、実際に戦っていたなのは達はもっと・・・。まったく、下手すれば失明ものだ。殺さなきゃ何でもいいっていうわけ?

(予想以上にヤバい相手ね、ディアマンテ)

ノイズに乱れたモニター画面がクリアになる。なのは達の視力が戻るまでちゃんと待っているディアマンテの姿が映し出された。もしこれがマジなバトルだったら、なのは達は確実に墜とされている。なのは達もようやく視力が戻ってきたのか、ディアマンテを見詰める。

『てめぇ、どういうつもりだ? さっきの隙であたしらを墜とせてた。なのに、何でなにも仕掛けてこねぇ・・・?』

ヴィータが少しヒビの入った“グラーフアイゼン”に視線を移して、すぐさまディアマンテを睨みつける。

『裏切り者を粛清するまでの時間稼ぎ。これが質問の答えだ』

『裏切り者?』

『ノーチェブエナ。君たちはリインフォースと呼んでいるな』


『ふざけんなっ! そんなこと絶対ぇ許さねぇッ!! アイゼン!!』

≪Jawohl ! Explosion. Raketen form≫

なのは達の表情が凍る。すぐにヴィータが叫びながら、ラケーテンフォルムになった“グラーフアイゼン”を振り回す。ブースターの加速力を持ってしてもディアマンテを捉えることが出来ず、瞬走弐式を連続発動したレヴィとの波状攻撃でも掠ることすら出来ない。

『レヴィ。この中ではお前が1番疾い。フライハイトとテスタロッサが向こうに居るが、数としては不利だ』

『だからお前が援けに行ってくれ!』

――紫電一閃――

『でも、わたしが抜けたら・・・』

――紫光連砲(ハーツイーズ・ストライフ)――

シグナムも、ヴィータとレヴィに交じって近接戦をディアマンテに仕掛ける。なのはもアクセルシューターで支援攻撃。徐々に、だけど確実にディアマンテを追い詰めていく。

『行って、レヴィ! ここは何とかするから!』

≪Sacred Cluster≫

“レイジングハート”のセリフと共にシグナム達が一斉に離脱。放たれた3つのスフィアが爆散、小さな弾丸が無数にディアマンテを襲う。そこに、“モード・バスター”となったレヴィの特大砲撃、ハーツイーズ・ドライヴが撃たれた。

(なのはの散弾(クラスター)にレヴィの極太砲撃。悪くはないけど・・・)

『大人しく待っていてくれればいいものを・・・!』

ディアマンテがそう言ったと同時になのはとレヴィの攻撃がヒット、大爆発を起こした。それを最大のチャンスと思ったのか、レヴィは『判った! 任せて!』と言って、その戦域から抜けようとした。

――疾駆せし破軍の騎馬隊――

なのは達に向かって煙の中からとんでもない数のアルトワルドの群が突撃してきた。おそらくアルトワルドの身体を構成する銀雷で作り出したフェイク、偽物に違いない。だけど、本物と偽物の境界線なんてほとんどはない。だって同じアルトワルドを構成する銀雷なんだから。まさしくこの時だけはアルトワルドは増殖した、と言える。

「アルトワルドをこんな風に使う奴、初めて見た」

ディアマンテとアルトワルドの相性は、今までアルトワルドを召喚した魔術師の誰より合っている。銀光(アルトワルド)の波に飲み込まれたなのは達。そんな中からレヴィだけが飛び出してきて、そのままその戦域から離脱した。

(なるほど。レヴィをあんだけボロボロにしたのはコレだったわけね)

アルトワルドの偽物の群れが駆け抜け終わってその姿を消した。それと同時に、本物とディアマンテ、なのは達の姿も映し出される。なのは達はボロボロだった。私たちと合流した時と同じ。防護服の所々が裂けてる。

『ひとり取り逃がしたか。まぁ手負いがひとり向かったところで事態は変わらない』

ディアマンテは剣先を、息も絶え絶えななのは達に向ける。ダメだ。ディアマンテは強い。なのは達じゃまず勝てない。それでもなのは達はデバイスを構えて臨戦態勢に入った。ディアマンテもそれに応えるように身体を屈めて、突進する体勢になった。でも、ディアマンテはすぐに身体を起こして、なのは達に背を向けた。

『撤退命令を受けた。これ以上の戦闘は望まないそうだ』

ディアマンテはそう言って姿を消した。なのは達は互いに顔を見合して、『スバル達はヴォルフラムに帰艦、待機!』と指示してから、すぐにレヴィの後を追っていった。地上で繰り広げられていたスバル達の戦闘も、突然の相手の撤退で終わりを迎えているようだった。

「なるほどね。これは参ったな・・・」

これで一通りのことは知った。記録映像を切って、なのは達の居る医務局に行こうとしたとき、通信呼び出しのコールが鳴る。私はそれに応えてモニターを展開、クロノが映し出された。

『シャル。君に聞きたいことがある。時間は良いだろうか?』

『ええ、大丈夫。どこに行けばいいの?』

クロノに呼び出された私は、かつてグレアム提督と面接したあの応接室に向かうことにした。

†††Sideシャルロッテ⇒ヴィータ†††

カルド隊ん時よりかはマシな怪我だったあたしはすぐに治療を終えて、はやての病室に来た。ドアを開けると、そこにはすでにあたしを除く八神家が勢揃いしていた。頷き挨拶をして、静かに扉を閉めてはやての眠るベッドに歩み寄る。

「はやては?」

そう聞くと、シャマルは首を横に振った。はやては“ヴォルフラム”に運ばれてからずっと起きない。シャマルの話じゃ、リインフォースを目の前で失ったショックで目を覚まさないということだ。

「今度こそ、あの子とも過ごせる未来を手に入れられると思っていたのに・・・」

シャマルが指で目の端に浮かべた涙を拭った。あたしだってそうなると思ってた。だけど、それはもう叶わねぇ。あたしらがあの時、きっちり自分たちの役目、カルド隊を斃してりゃこんなことにはならなかった。

「ヴィータちゃん、自分を責めたらダメですよ・・・」

あたしの心を読んだかのように、リインが悲しげな表情でそう言って、いつの間にか思いっきり握りしめてた拳にそっと触れてきた。

「責任はお前だけのものではない。私も、同じだ。あの時、カルドとカルド・デレチョを討っていれば、と」

シグナムもあたしと同じこと考えてた。すると今度はアギトが「自分を責めるなよシグナム」ってリインと同じようなことを言って、シグナムに寄り添った。

「主は、我とシャマルで看ている。お前たちは寝ていないだろう? 少しは休んでいた方がいい。フライハイトが何かしらの打開策を立てているかもしれん」

「そうね。あなた達4人は、少しでも休んで体力を回復しておいた方がいいわね」

「それを言ったらシャマルとザフィーラも大変だったんだろ? ザフィーラはレジスタンス相手に暴れたっていうし、シャマルだって負傷した隊員たちをずっと看てたんだろ」

2人があたしらに休むよう言ってるけど、その2人だってあたしらに負けないくらいに疲れてるはず。

「確かにそうだけど、シグナム達の相手は私たちが相手にするのとは違うから。だからあなた達には万全の状態でいてほしいの。もう、誰も喪いたくないから。これ以上はやてちゃんを悲しませないように」

そう言われるともう何も言えない。ここはシャマルとザフィーラに任せて、あたしらは休むことにした。

†††Sideヴィータ⇒なのは†††

「――うん、ママは大丈夫だから。次に帰るときはちゃんとルシルパパも一緒だから、ヴィヴィオも良い子で待ってて」

医務局の待合室の片隅で、ヴィヴィオが登校する前に、今回の戦いで終わらなかったことを報告。それはそれでヴィヴィオにすごく心配させたけど、大丈夫だよ、って笑みをつくる。
ヴィヴィオももう子供じゃないから、たぶん私たちが負けたことに気付いているかもしれない。だけど、それでも『うん!』って笑って返してくれた。信じてくれている。だからそれに応えるのが親としての責任。

「それじゃあ切るね。いってらっしゃい、ヴィヴィオ」

『うん、いってきます!』

通信を切って、一息つく。考えることは今回浮き彫りになった“テスタメント”の本拠地“オムニシエンス”の防衛力。次元跳躍の“エンペラトゥリス・バウティスモ”。正確無比の防衛砲が18基。意図した相手を強制的に世界外に排除する障壁と呼ばれる結界。
それらは幹部たち以上に厄介と言ってもいい。上手く内部に入り込めたとしても、障壁に邪魔されたり、最悪次元跳躍砲で撃沈されたりするかもしれない。管理局の艦にアレを防ぐすべも回避する術もない。狙われたら最後、確実に墜とされる。

「・・・私じゃ何も思いつかない。今度もシャルちゃんに頼るしかないの・・・?」

それらに対する対抗策が何ひとつとして思いつかなかった。私は、シャルちゃんに頼ることしか出来ないことに歯がみした。

「思いつめたらダメだよ、なのは」

「フェイトちゃん・・・」

執務官の制服を着たフェイトちゃんがいつの間にかすぐ側まで来ていた。それから、コーヒーの入った紙コップを手渡してくれる。私は「ありがとう」とお礼を言いつつ受け取って、コップに口を付ける。ほど良い熱さと苦さが、思考の迷路に迷い込んでいた私を落ち着かせてくれた。

「思いつめたり、自分を追い込むと良くないことばかりが起きる。だからなのは、今は辛いかもしれないけど・・・」

「そう、だね。うん、ありがとう、フェイトちゃん」

フェイトちゃんの言う通り。私はここで折れたらダメだ。シャルちゃんに頼ってしまうけど、全てを任せるんじゃなくて自分に出来ることをする。手伝えることがあれば手伝って、シャルちゃんやみんなと一緒に進めばいい。
そう決めると、とたんに眠気が襲ってきた。そう言えば昨日から寝てないんだった。道理でこんなにも眠く・・・って、ここで寝ちゃダメだ。
それからフェイトちゃんに部屋まで送ってもらって、私はすぐに眠りについた。 
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