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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep31白き羽根が散る~Noche Buena~

†††Sideフェイト⇒はやて†††

リインフォースとの戦闘の最中、シャルちゃんから通信が入る。

『はやて! そっちにルシルが向かってる! 理由は判んないけど、フェイトと私が行くまでルシルから逃げて!』

一方的に通信が切れる。空から落ちてくる蒼いスフィア。散弾砲やな。それに向かっていくんは真紅の斬撃。シャルちゃんが散弾砲に対処しとるゆうことや。

「リインフォース! ルシル君が来とる、逃げるよ!」

私はリインフォースとの未来を手に入れるために、今は出来ることをする。ルシル君が来ると知ったリインフォースの表情に陰りが差す。リインフォースの手をとって、何処か隠れられる場所を探そうとするんやけど、こんな開けた渓谷内やとどこにも無い。

「八神はやて二佐。ルシリオンに私の裏切りがバレたとなれば――」

「アカン! そんなんアカン! リインフォースはこれから、今度こそ私らと一緒の時間を生きるんや! 今度こそ私は、リインフォースを幸せにするんや! そやから、こんなところで・・・」

リインフォースだけでも逃がした方がええかもしれへん。それまでは私が時間を稼ぐ。たとえルシル君が相手やとしても、ここだけは絶対に譲らん。リインフォースの右手を握る手に力を入れてギュッと握りしめる。リインフォースもそれに応えるように握り返してくれた。

「リインフォース。逃げて。私が時間を稼ぐから」

「っ! いけません主はやて!」

そう止めてくるけど、もう遅かったようや。頭上から舞い落ちてくる蒼い光の羽根。上を見ると、小さな蒼い点が見える。リインフォースもそれに気付いて「っく。サフィーロ。私に何か用か?」見上げながらそう聞く。
少しの沈黙の後、リインフォースは私をお姫様抱っこして、物凄い速さで戦闘真っ只中の戦場を目指して飛ぶ。見るとリインフォースの表情は悲しみと焦りと怒り、複雑な色に満ちとった。肩から後ろを覗くと、ルシル君が私らを追って来てるんが判った。

「リインフォース・・・?」

「ルシリオンは、私を裏切り者として処断せよ、と命令を受けたそうです」

「誰にや・・・」

ルシル君にそんな命令を出したヤツに激しい怒りが生まれる。リインフォースはただ小さく「ディアマンテ」と呟いた。そいつがルシル君にリインフォースを消せと命令した。許せへん。そんなん絶対に・・・。

――轟き響け汝の雷光(コード・バラキエル)――

背後から飛んでくる蒼い雷光の砲撃。解かる。これは間違いなくルシル君の魔術とゆうことが。リインフォースは振り返ることなく砲撃を避けてく。

「私はルシリオンと3年もパートナーを組んでいたのです。彼の考えくらいは判ります」

――ハウリングスフィア――

そう言いながら深紫色の大きいスフィアを設置してく。6基目のスフィアが設置されたと同時。

――ナイトメア・ハウル――

ルシル君に向けて放たれる砲撃。ルシル君は砲撃を避けては左手に持った槍で裂いていった。私も見とるだけじゃアカンと思って、リインフォースの腕の中で魔法を準備。

「遠き地にて、闇に沈め。・・・デアボリック・エミッション!!」

遠隔操作でルシル君の真ん前に発生させる広域空間魔法。チラッとしか見れんかったけど、ルシル君は間違いなく突っ込んだ。神秘の無い私の魔法やけど、ほんの少しだけでも時間稼ぎになるはずや。そう思った。

――フォトンランサー・ファランクスシフト――

デアボリック・エミッションを突き破るように、黄金の雷の魔力弾が無数に飛び出してきて襲いかかってきた。

(フェイトちゃんの子供の頃の・・・!)

映像でしか知らん子供の頃のなのはちゃんとフェイトちゃんの戦いで見た魔法。そやけど威力は段違い。威力・数・速度。どれをとってもフェイトちゃん以上。リインフォースが大きくよろける。アカン、私を抱えとる所為や。

「リインフォース!!」

数発のランサーが、リインフォースの左サイドの大きい方の翼を吹き飛ばした。

「大丈夫です。しっかりと掴まっていてください。主はや――八神はやて二佐」

笑みを浮かべようとしとるようやけど、全然笑ってへんよリインフォース・・・。何も出来ひん。ううん、足手まといでしかない自分の無力さに歯がみしながら、背後に居るルシル君へと視線を向ける。フードが脱げとるルシル君の目は真っ直ぐにリインフォースの背中を見つめる。そして右手を翳した。なんか来る。来てほしくない最悪な結末が。

「リイ――」

――トライデント・スマッシャー――

リインフォースに教えようとしたとき、真上から降ってきた黄金の砲撃がルシル君を襲った。ルシル君はこっちに集中しとったんか避けきれずに直撃。爆ぜた雷光に巻き込まれた。

「はやて!」

「フェイトちゃん!」

真上からフェイトちゃんが降りてきた。リインフォースに降ろしてもらって、フェイトちゃんにお礼を言うために近寄ろうとした。

――煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)――

――パンツァーシルト――

――ラウンドシールド――

ルシル君の蒼い砲撃が、爆ぜた黄金の雷光を吹き飛ばして私らに迫る。リインフォースとフェイトちゃんが前に躍り出て、2人同時にシールドを展開。1層目のリインフォースのパンツァーシルトはすぐに砕かれるんやけど、フェイトちゃんのラウンドシールドでなんとか防ぎきった。

「残念だよ、ノーチェブエナ。この手で君を粛清しなければならないとは」

ルシル君が姿を現しながら、リインフォースに悲しげな表情を向けてそう言った。粛清。完全な裏切りには消滅を以って償わせるゆうことや。

「ルシリオン、いやサフィーロ。私は確かにマスターに恩があり改革にも賛同した。しかし、主はやてとその守護騎士と戦うことはしたくないというのは、確かな本心だ。だが、だからと言って改革を止めるつもりはないし、裏切るつもりもない。だから――」

リインフォースの言葉を最後まで聞かんと、ルシル君は残像を引きながらリインフォースに迫ろうとする。

――ハーケンスラッシュ――

するとフェイトちゃんがルシル君に向かって突撃、“バルディッシュ”で迎撃する。

「行ってはやて! シャルのところに!!」

ルシル君の蒼槍と鍔迫り合いしながらフェイトちゃんがそう言ってきた。親友を置いていくことに少し躊躇いもあったけど。

「ごめんフェイトちゃん!!」

「・・・すまない、テスタロッサ」

リインフォースと一緒にシャルちゃんのところへ向かう。シャルちゃんやったらリインフォースを救える。そう信じて。

・―・―・―・―・―・

“エペラトゥリス・バウティスモ”最上階の管制室。ポツンと設置されたAIコアの真正面に佇むディアマンテが居た。彼の周囲にはいくつものモニターが展開され、“アドゥベルテンシアの回廊”で起こっている戦闘を映し出している。

【各幹部に通達。レジスタンスの撤退完了を確認。円卓の結界を再始動。砲撃による支援は無くなる。特務六課との戦闘を切り上げ、サフィーロと協力し、裏切り者であるノーチェブエナを処断せよ】

【カルド隊了解。というより俺たちにやらせろ】

【そうだ。裏切り者への粛清という大義名分が許される今、俺たちに復讐させろ】

カルド隊からの返答に【好きにしろ】と返すディアマンテ。カルド隊は狂喜の雄叫びを上げ、通信を切る。他の幹部からは返答がなかったが、少ししてマルフィール隊から【了解】と来た。

【ならオレ達は、このまま戦闘続行。六課の足止めをするぜ】

【あの両隊が行けば、もう十分でしょう?】

【僕たちはここに残ります】

そして次に、グラナード、アマティスタことクイントと、アグワマリナことティーダから返答が来た。ディアマンテは思案して【任せた。俺もすぐに向かう】と返し、通信を切る。グラナード達だけでなのは達を相手に完全に足止め出来ないと判断したための出撃。
そして最後に1発、砲撃を放った。位置は幹部と“特務六課”の戦地のど真ん中。もちろん当ててはいない。当てれば自分がハーデに何をされるか判らないからだ。

「効果は上々だな」

モニターに映し出される戦場。戦闘は噴煙によって一時中断されているようだ。そんな激しい煙の中からカルド隊とマルフィールが飛び出す。殺害目標をリインフォースとして。

「では行こうか」

彼は踵を返す。足元には白銀の召喚魔法陣。彼は一言囁く。「来たれ」と。召喚魔法陣が一際強く輝き、徐々にその姿を現す魔族。それは・・・。

「頼むぞ、純雷の皇馬アルトワルド」

銀に輝く雷光で構成された騎馬だった。口に30cm程度の白い柄を咥え、その柄の左右から刃渡り1m程度の、柳葉刀のような銀の刀身が伸びている。ディアマンテはアルトワルドに跨り、管制室より姿を消した。

†††Sideシャルロッテ†††

ルシルの散弾砲を全弾処理して、全力でフェイトの元をへ向かっていると、はやてとリインフォースを私のところに向かわせた、との念話が入った。

(よし、ここでリインフォースとはやてを契約させる)

すぐに「我が言の葉は幻想紡ぐ鍵」と詠唱して、儀式魔術をひとつ準備する。今からやることは、ルシルがルーテシアとレヴィの時にしたのと似たようなものだ。リインフォースに核を作って、はやてのリンカーコアとリンクさせる。それで今のシグナム達と同じ存在になるはずだ。

――翔け抜ける速攻の陽虚鳥――

だというのに、私の邪魔をしてくるのはどこの「どいつだっ!?」声を荒げる。背後から迫ってくる何かを察知して振り向くと、赤い弾丸っぽいのが3つ。愚直なまでの一直線の突撃。私はひらりと躱してすぐに、やってしまった、と後悔する。何もリインフォースを狙うのがルシルだけとは限らないんだ。すぐさま後を追いかけるんだけど、疾すぎる。

「今の感じ・・・まさかファノ・・・?」

徐々に離されていくのが判る。ファノ。上層魔界の中でもトップクラスの機動力を有する幻想一属だ。ならば、と振るうは愛刀“キルシュブリューテ”。発動する術式は最速の一撃。

光牙閃衝刃(シュトラール・ランツェ)!」

刺突動作と同時に放った紅光の槍が向かっていく。上手く具合に避けられたけど、その回避に使った0,何秒のラグが、私を近付けさせるには十分な稼ぎになった。すると3つの内の1つが反転してきて、その姿を露わにした。赤い甲冑の・・・たぶん女。それと数が3ということは・・・。

「マルフィール・イスキエルド」

私を足止めするつもりだろうけど、速さだけで、んで1人だけで私を足止めしようだなんて・・・。

「甘く見られたもの、ね!!」

――牢刃・弧舞八閃・絶対切断能力無しバージョン――

すれ違いざまに単なる斬撃の檻を放つ。“キルシュブリューテ”の能力・絶対切断を解放していないから甲冑だけを粉砕するに留まっている、と思う。何せ確認せずに残り2人のマルフィール隊を追いかけたんだし。この緊急時に確認していられない。

「はやて! リインフォース!」

――凶牙波瀑刃(シュヴァルツ・シュトローム)――

はやてとリインフォースと交戦してた残り2人と交戦開始。マルフィール隊を墜としすつもりで闇黒系魔力の波を全方位に放つ。2対2、じゃないか。はやては神秘を扱えないんだから実質1対2。ううん、それも違う。はやてを庇いながら戦うんじゃそれ以上のハンデを負うことになる。それなのにリインフォースは一歩も引かずに戦っていた。

「シャルちゃん! リインフォースをお願い!」

「解かってる。リインフォース、これを飲んで!」

――風雅なる赫沫の散々華――

――真楯(ハイリヒ・フライハイト)――

波瀑刃を乗り越えてきたマルフィール隊2人の攻撃。障壁を全面に展開して、連中の猛攻を防ぎつつリインフォースに手渡すのは、彼女の核となる宝玉。ルシルの持っていた“生定の宝玉”程の代物じゃないけど、核とするには十分だ。リインフォースはしっかりと受け取って、飴玉サイズの宝玉を飲み込んだ。

『ごめん! ルシルに突破された!』

フェイトの念話が来た。次の瞬間には、ルシルがリインフォースの背後に来ていた。ルシルの持つ蒼槍がハイリヒ・フライハイトを破壊しようと猛威を揮うけど、今1つダメージを与えていない。

「裁きの刻だ、ノーチェブエナァァァァーーーーーッ!」

だけど、マルフィール隊に加え、どす黒い炎を全身から噴き上げるカルド隊まで来てしまった。さすがにこれは防ぎきれないかもと思い、私だけ障壁の結界から出て迎撃に移る。その時、ルシルによって障壁が破壊されてしまった。ガシャァァン!という音が耳に届く。それはまるで終わりを告げるかのような最悪な音だった。

「しまっ――逃げて! はやて、リインフォース!」

†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††

ルシル君の右手がリインフォースに伸びる。アカン。そう思って身体を動かそうとするけど、断然ルシル君の方が速い。そやけどルシル君は「・・・っ!」リインフォースに伸ばした右手を止めて、苦悶の声を漏らした。

「ルシル君?」「ルシリオン・・・?」

「・・・出来ない・・・」

ルシル君はそう言って手を引っ込めた。何か知らんけど助かった。

「安心するのは早い!」

シャルちゃんの怒声。そうやった。まだ何も終わってへん。

――光牙聖覇刃(フンケルン・フルートヴェレ)――

シャルちゃんがカルド隊とマルフィール隊に向けて光の波を放った。赤い無数の羽根と闇色の炎の竜巻と衝突する真紅の光波。ルシル君もそれに巻き込まれて姿が見えんくなる。視界が何や判らへんものに潰れてしもうて何も見えんくなったとき、グッと私の腕を引いてくれる誰か。

「っ・・・!?」

硬くてゴツゴツしとって、体温なんてない冷たさが伝わってくる。視界が開けた時、目の前に居ったんは・・・。

「ミスった。ノーチェブエナじゃない。八神はやてだ」

「カルド・・・!」

カルド隊の隊長カルドやった。マントを羽織っとるから間違いない。さらに強く握られて思いっきり引っ張られたから「痛っ!」と声に出る。

「主はやて!」「はやて!」

リインフォースとシャルちゃんの声が後ろから聞こえた。

「何をしているカルド!」

「何をしている?だと。それはこっちのセリフだ、サフィーロ。粛清――処断しろと命令が出ているにも関わらず、出来ない、だと? 馬鹿を言うなよ。だがまぁそのおかげで、この手でノーチェブエナを消すことが出来るのだから感謝しているが」

「ぅく・・・!」

首に腕を回されて締め付けれて、その上大剣の刃を頬に突き付けられた。最悪や。この先の結果が予想できてもうて泣きたくなる。

「今すぐその手を離し、八神はやてを解放しろ、カルド。それでは完全に敵対行動となり、マスターの意向に逆らうことになる」

「本当にそうか? 俺たちの今の目的はノーチェブエナの処断。八神はやてはそのために必要なファクターだ。そいつが大人しく粛清されるための、な」

私を人質にして、リインフォースを逃げれへんようにする。シャルちゃんは動けんへんし、私も動こうとすればどうなるか判らん。殺されることはないと思うけど、多少の怪我は覚悟せなアカンやろな。

「やれ、カルド・デレチョ、カルド・イスキエルド」

なのはちゃん達が来るまで待つことも出来ひん。リインフォースは小さく「申し訳ありません」と謝った。1番聞きたくない言葉。シャルちゃんが動こうとしたとき、マルフィール隊の2人がそれを制止させて、武装を解くように言っている。いやや、こんなん。こんな結末。絶対に・・・。

「いやや!!」

――紫光掃破(ハーツイーズ・ドライヴ)――

私の叫び声に応えるように、私を捕えるカルドと、リインフォースに迫ろうとしとった残りの2人を襲うすみれ色の砲撃。

「レヴィ!」

姿は見えへんけど、間違いなくレヴィの砲撃。それに対処するために、カルドは私を捕えとる力を緩めた。チャンス。そう思った瞬間には行動に移っとった。“シュベルトクロイツ”で思いっきりカルドの兜を突く。さらに緩んだ腕から逃げ出して、リインフォースの元へと・・・。

†††Sideはやて⇒シャルロッテ†††

レヴィの素敵なタイミングでの砲撃。私はすぐさま“トロイメライ”を起動させて、マルフィールとマルフィール・デレチョに遠心力いっぱいの一撃をお見舞いする。マルフィール・デレチョにはヒットしたけど、マルフィールは避けた。だけどそれで十分。はやての方も上手くやって逃げれてるし、レヴィが居れば勝てる。
はやてが解放されているなら、あとはリインフォースをどうにかすればいいだけ。レヴィに支援を求めるために念話を、と思った矢先、ボロボロになったレヴィが落ちてきたのが見えた。

「レヴィ!?」

レヴィに腕を伸ばして受け止める。それが隙になってしまった。

――内を拒みし不落の羽根檻――

マルフィールとデレチョが舞い散らせた羽根による檻が、私とレヴィを捕えた。そういう効果があるのか、私の魔力が弱まってきた。これ以上最悪な事態はない。

「やられた・・・!」

歯噛みしながらも、まずは腕に抱えた意識の無いレヴィを診る。防護服のあちこちに斬られた痕。そこから覗く白い肌には焦げた跡。炎によるものじゃないのは判る。これは、雷撃による火傷跡だ。

『なのは! ヴィータ! シグナム! スバル、ティアナ、エリオ、キャロ!!』

呼びかけの念話は返ってこない。この檻によって妨害されているのか・・・

(お願い・・・誰か・・・答えて・・・!)

それとも応えられない状況に陥ってしまったのか・・・。

†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††

シャルちゃんとボロボロのレヴィが、マルフィール隊の羽根の檻に閉じ込められた。今の状況を少し失念するほどのレヴィの有り様。レヴィがあんなことになったんなら、さっきまでレヴィが居ったはずの場所に残っとるなのはちゃん達は?と思った。

「粛清する気がないならそこで大人しく見ていろ、サフィーロ」

そやけど、親友と家族の心配をする時間すら与えてくれへんのがカルド隊。リインフォースにも復讐の炎をぶつけようとする。ルシル君はもう何も言わんくなった。諦めの表情や。

「ルシル君! お願い、リインフォースを助けて!」

無駄なことやというのは判っとる。半ば諦めてる中での懇願に、ルシル君は・・・・動いてくれた。

「・・・せめて、パートナーである私が、ノーチェブエナ、君を粛清する」

確かに動いてくれた。それも最悪な方向に。

――ライトニングバインド――

「「「「なにっ!?」」」」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンか!」

「邪魔な・・・!」

そんなとき、ルシル君とマルフィール隊を捕える黄金のバインド。カルド隊はデレチョだけが捕まったけど、あと2人は自由のまんま。私は力一杯に、未だに姿が見えへんけど「フェイトちゃん!」に助けを請う。
リインフォースは、シャルちゃんとレヴィを捕える檻を破壊しようと試みてた。アカン。リインフォースはまず逃げて、と声に出そうとしたとき。

――彼方より我らが望みし裁きの刻――

私ら全員を覆うほどの大きな闇色の炎の球体。見ればカルドもイスキエルドも、捕まっとったデレチョの姿もない。直感的に理解してしもうた。カルド隊は、私らを覆うこの炎の中に居る。

「リインフォース! デアボリック・エミッションを同時に――」

苦肉の策として瞬時に思いついたんが空間作用型の広域殲滅魔法。そう提案しようとしたとき、リインフォースの背後から、全身炎となっとるカルド隊の1人が飛び出してきた。リインフォースを助けるために身体を無意識的に動かした。

「避けて!」

リインフォースを突き飛ばして避けさせるんやけど、私がその一撃に掠ってもうて、背中の羽の大半を焼け散らされた。

「主はやて!!」

叫ぶリインフォースに私は「大丈夫や」と笑みを、出来とるかは判らんけどつくる。

「躱されたぞ、もう1度だ」

「次は外すな。邪魔者が乱入してくる前に決めろ」

「復讐の業火、その刻め、闇の書・・・!」

リインフォースに支えられながら、カルド隊の怨嗟の含まれた声を聞く。ヒシヒシと伝わってくる恨み、怒り、いろんな黒い感情。私にも向けられたそれに身体が震える。と、今度は2人同時の突進攻撃が来た。私はリインフォースを助けるために身体を動かそうとしたんやけど、それより早くにリインフォースが私を突き飛ばした。

「リインフ――」

私を突き飛ばしたリインフォースは笑っとった。そして・・・闇色の炎の砲弾となったカルド隊に呑み込まれた。それと同時に私らを閉じ込めとった炎の球体と、シャルちゃんを閉じ込めとった赤い羽根の檻が崩れていく。

「あ・・・あ、ああああ・・・ああああ・・・リインフォースゥゥゥゥーーーーッ!」

リインフォースの背にあった純白の羽が闇色の炎に燃やされながら散ってく。リインフォースが一瞬で燃やされたのを見た私の意識は、そこでプツンと途絶えた。

†††Sideはやて⇒シャルロッテ†††

私は、私はまた、はやてとリインフォースを救うことが出来なかった。マルフィール隊の檻が崩れたと同時に聞こえたはやての絶叫。耳を塞ぎたかった。けどレヴィを抱えた腕じゃただ見ていることしか・・・。

「はやて!」

はやてはショックのあまりに気を失ったようで落下し始めた。それを受け止めるのは「フェイト・・・」だった。フェイトも何も出来なかったことにショックを受けているようで、ただ頷いて応えるだけ。
それと同時にバインドから解放されるルシルと、マルフィールとマルフィール・デレチョ。その3人は何も言わずにただ、私たちを見ている。私は無理を承知でフェイトにレヴィを預け、ルシルに向かって飛ぶ。そして思いっきりビンタを喰らわしてやった。

「記憶が無かろうが操られていようが、今のあなたはとことん最低最悪な男だっ!」

ルシルは何も言わない。

「く、くくくく・・・あははははははははッ!」

「やったぞ! やってやった! あの憎たらしい女をこの手で消してやった!」

「この調子で、残りのヴォルケンリッターも焼滅させてやる!」

代わりにカルド隊の狂喜の声がこの一帯に響き渡る。あぁ、今の私の顔はどうなっているのだろう? おそらく今までの中でトップに入る怒りの形相に違いない。もうここで私がお前らを消してくれる。

「てめぇぇらぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!」

そう思って“キルシュブリューテ“を具現させると、ヴィータの怒りの咆哮がこの場に響き渡る。視線を向けた時、視界に入るのは、レヴィ同様にボロボロにされたヴィータとひび割れた“グラーフアイゼン”。

≪Zerstörungs Hammer≫

一直線にカルド隊に向けて打ち込まれる一撃。カルド隊は回避を試みたけど、完全には避けきれずにドリルに巻き込まれて、地上に落下していった。ヴィータは尚も追撃しようとするけど、力尽きたのかハンマーフォルムに戻った“グラーフアイゼン”を手放して落下。
それを受け止めるシグナム。シグナムも酷い状態だ。騎士甲冑のところどころが破けて、ポニーテールも解けてストレートになってる。そしてなのは。なのはも結構な疲労を見せている。防護服もレヴィやヴィータ達と同じようにボロボロ。

『ディアマンテより各幹部へ。本戦闘は終結した。ただちに帰還せよ』

この場に通信が流れる。視線を向けた先、1つのモニターが展開されていて、そこにフードを被った男が映っていた。ディアマンテ。こいつはヤバい。本能的に悟った。周囲から一瞬で気配が消える。見ればもうどこにもルシルやマルフィール隊はいなかった。

「貴様らを地獄の業火に叩きこむまで、報復せし復讐者隊(オレたち)は何度でも! 何度でも! 何度でも、貴様らの前に現れてやる!」

ずっと下の方からカルド隊の捨てゼリフが響く。それっきりカルド隊の気配も消えてしまった。

『手荒なマネをしてすまない。手加減はしたので、それほど酷いダメージじゃないはずだ』

フードに隠れて見えないけど、ディアマンテは確かになのは達を見ている。それで察した。こいつが、なのは達をこんなにボロボロにした張本人だ、と。なのは達は黙って、ただひたすらモニターの向こうに居るディアマンテを睨みつける。

『君たちに1つ伝えておくことがある。ここオムニシエンスに、障壁展開のための準備が進行されている。発動すれば、我々にとって余所者となる存在を強制的に世界外へと排除する、というものだ。意味はご理解できただろうか。このままその場に留まると、生身で世界の外にはじき出されるということだ』

私を含めたみんなの表情が驚愕に変わる。もしそれが本当なら、生身で宇宙遊泳するということだ。いくら魔導師でも生身でそんなことになったら生きていけるわけもない。

『すぐに帰艦し、自らの(あし)でお帰り願おう。それでは、これで失礼するよ』

モニターが消える。私たちはそれから何も声には出さずに、“ヴォルフラム”へと戻った。今回の戦い、私たちは負けた。

・―・―・―・―・―・

“オムニシエンス”よりそう遠くない管理世界の1つスプールス。
満月を映す湖の畔に、1人の女性がフラフラと現れた。彼女は長い銀髪を靡かせて、虚ろな真紅の双眸を伏せがち、少し焦げて破けた純白の衣装。その女性は間違いなく焼滅したはずのリインフォースだった。彼女はかなり弱っているのか何度も躓き、転倒しそうになる。そして1つの大木に背を預け、ゆっくりと座り込んだ。

「私は・・・何故・・・?」

ひとり呟く。振り返ってみれば記憶にあるのは、カルド隊の闇色の炎に全身を包まれ、燃やされそうになった時のこと。消滅を覚悟した。確かに自身の身体が消えていく感覚を得ていた。しかし、消えることなくこうして存在し続けている。何故か。その答えはすぐに判った。

「フライハイトの・・・あの珠・・・」

胸の奥底から感じる妙な“力”の鼓動。そして全てを克明に思い出す。完全に消滅する前に、転移して炎から逃げたことを。

(どういう理屈かは解らないが、あの時呑んだ珠のおかげか・・・。それに・・・)

リインフォースは気付いた。ルシリオンとの繋がりが途絶えていることに。彼女は推測する。消滅寸前まで行ったことで、ルシリオンとの繋がりが消えたのではないか、と。

「ルシリオン・・・」

奇跡的に燃えて消えることの無かったヘアピンをそっと撫でる。3年と繋がっていたルシリオンとの繋がりを失った。彼女は少し寂しいような気持ちになり、それでもこうして存在しているという嬉さで、その寂しさを無理矢理晴らした。
そして彼女はゆっくりとまぶたを閉じていく。完全にまぶたが閉じ、彼女はそれっきり動かなくなり静かに眠りについた。そう。彼女が慕う家族の力となるために必要な“力”を取り戻すまで。 
 

 
後書き
幹部最初の脱落者はノーチェブエナとなりました今回。
でもリインフォースは健在?とはいかずとも存在しています。あはは、消しませんよぉ、彼女は。まぁ最終的に・・・・どうしようか?いや、本当に。

あ、それと、今回は途中で区切ることなく一気に終わりまで行きたかった所為で、結構な長さになってしまいました。
それでも途中で止めることなく最後まで読んでくださって、感謝です。

 
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