魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep22教えて! 剣神シャルせんせー!! ~Interval 2~
“エモニシアの天柱”の最上階。円形に配置されている肘掛椅子が14却。腰かける幹部はとパーイオを除く13人。
椅子の中央には1つの球体状の空間モニターが展開されている。映っているのは1人の男性。歳は五十代と思われる男で、名をクライスラー。若き女CEO・ハーデの代行として“ミュンスター・コンツェルン”の表のCEOとして公に顔を出す男だ。
『――ということなのですが、いかがいたしましょうかお嬢様』
その男クライスラーに“お嬢様”と呼ばれたハーデは、報告された案件に思案する。その報告とは、オーレリア・アムストル社に管理局の強制捜査が入るというものだ。最上階に沈黙が流れる。その最悪を阻止することが出来なかったオーレリア基地に出向いた幹部たちが軽く項垂れていた。
(さすがにあそこまでハッキリとテスタメントとの関わりを知られればダメですね。仕方・・・ありませんか。アムストル社には悪いですが・・・)
フードの中に隠れたハーデの瞳に、ある決意が満ちる。そして彼女はゆっくりと口を開く。
「とても心苦しいのですが、アムストル社は切り捨てます。ミュンスターとの関係に繋がる情報はすぐさま抹消してください。アムストル社社長・ミスターグラースには、テスタメントへの支持・協力は独断だと証言するように言及を。彼や社員には、ミュンスターの予算から今後の生活に必要な資金を提供するともお伝えください」
ハーデは前面に展開されたグラフや数字が表示されたモニターを見ながらコンソールを操作、数字を書き換えていく。書き換えられたデータがモニター越しに居るクライスラーへと届き、彼は『かしこまりました』と頭を下げた。
「要件はそれだけで良かったかしら?」
ハーデが尋ねるとクライスラーは『いいえ』と答えた。
『つい今しがたなのですが、管理局よりオムニシエンスの調査のために、当世界への進入許可を頂きたいと連絡がありました。返答を待ってもらっていますが、いかがいたしましょうか?』
ハーデは「少し待ってください」と告げ、一度通信を切る。そして通信を聞いていた幹部たちの顔を軽く見回し、「みなさんの意見はどうでしょうか?」と尋ねた。
最初に口を開いたのはカルドで、「管理局が来たのなら徹底的に叩き潰した方がいいのでは?」と進言する。それを真正面から反対するのがディアマンテだ。
「何を馬鹿なことを。ここで完全に敵対行動を取れば、世間から一気に叩かれる。ここはレスプランデセルの円卓の結界を最大レベルにまで上げ位相をずらし不干渉にして、管理局の目を欺き乗り切る方がいい」
カルドの意見を真っ向から切り捨てた。最上階に険悪な空気が流れる。ディアマンテはそれを気にも留めずに話を続ける。
「マスター・ハーデ。下手に管理局の調査を断れば・・・」
「逆に怪しまれるということですか。そうですね、私も貴方の意見には賛成します。判りました。みなさんもそれでよろしいですね?」
ハーデの確認に、頷いて賛同する幹部たち。カルドは少々面白くないようで不機嫌だが。それを確認した彼女は再度クライスラーとの通信を繋げ、「管理局に進入の許可をお願いします」と告げた。クライスラーは『お嬢様の仰せのままに』と恭しく一礼した。ハーデは彼との通信を切り、ここ“オムニシエンス”に障壁を発生させている基地へと通信を繋げる。
「テスタメントリーダー・ハーデです。各基地へ通達します。オムニシエンスの障壁レベルを0へ変更」
“テスタメント”の主たるハーデからの直々の指示に、各基地の通信士は緊張、しかしそれを光栄に思いながら『了解しました!』と応えた。通信を切り、先程の通信士たちの対応に苦笑するハーデ。
「レスプランデセルの円卓の結界を最大レベルに変更します」
コンソールを操作して、“レスプランデセルの円卓”の結界レベルを引き上げたディアマンテ。
「天秤座部隊。山羊座部隊。水瓶座部隊。各部隊は円卓へ帰還せよ」
さらに、“オムニシエンス”全域の哨戒任務を請け負っている空軍3隊に命令する。SOUND ONLYと表示されたモニターが中央に展開される。
『天秤座部隊、了解』
『山羊座部隊、了解』
『水瓶座部隊、了解』
各隊のリーダーから返答が入った。
「これより管理局の調査が入るので、スキーズブラズニル及び空母ナグルファルは出られません。そのため、調査が終わるまでは幹部のみで任務を遂行していただきます」
ハーデがコンソールを操作して、各幹部たちの目の前に小型モニターを展開させる。表示されているのは管理局の捜査情報。未解決である小さな事件から大きな事件まで、いろんな情報が表示されている。
「各自遂行したい任務を決め、出撃してください。ディアマンテ。マルフィール隊。ここには私が残りますから、貴方たちも出撃してください」
「「「「了解しました」」」」
ディアマンテとマルフィール隊の4人は一礼した。
「それでは。テスタメント幹部、出撃を」
ハーデの号令に幹部たちは一斉に立ち上がり「了解」と一礼し、エントランスまでの直通転送装置に入り、その姿を消す。
「あ、サフィーロは残ってください」
リインフォースと共に転送装置に入ろうとしていたルシリオンを名指しで呼び止めるハーデ。
「私ですか? ・・・了解しました」
「では、私は1人で行くことにしよう」
立ち止まり振り返ったルシリオンにそう告げるリインフォース。
「すまないなノーチェブエナ」
「いや、気にするな。それではマスター、失礼します」
リインフォースはハーデに一礼し、転送装置に入り姿を消す。ルシリオンは自分のペアであるリインフォースを見送り、再びハーデに向き直った。
「マスター権限発動」
その言葉が発せられたと同時にルシリオンの瞳から光が失せる。直立不動のまま佇むルシリオンに、ハーデは口を開く。
「ルシル。シャルロッテに関する詳しい情報を教えてください」
†††Sideシャルロッテ†††
「うん、美味しい」
リインが淹れてくれた何度目かのお茶をじっくり味わって飲む。それにしても5年で変わるものは変わるものだ。私は少し離れた場所で集まっている5人の姿を見つめる。
(ふふ、またこうして逢えるなんてね~)
エリオは背もグンと伸びて、どこからどう見ても一人前の男の子。キャロは・・・少し残念な部分(身長とか)もある。だけど本当に可愛らしい女の子になった。スバルとティアナも5年でビックリするほど大人びた。
そして一番信じられないのがレヴィ。初めて会った時は全然判らなかった。だけどすみれ色の砲撃を見て、あのレヴィヤタンだってようやく判った。しかも砲手から拳法使いにジョブチェンジ。だというのに砲撃も健在。厄介この上ない。
「ふふ」
あの子たちの凄まじい成長ぶりについ笑ってしまった。すると「どうしたの?」ってなのはが聞いてきた。見られていたみたい。
「5年ってすごいなぁって。スバルとティアナは凛々しくなったし、エリオはカッコよくなったし、キャロもさらに可愛くなったし。んで、なのはとフェイトとはやては・・・」
一度区切って、なのはとフェイトとはやてをゆっくり観察。ジロジロ観られるのが恥ずかしいのか、なのはは身体を抱いて「な、何かな・・・?」ってちょこっと引いた。フェイトとはやても私の視線に気付いたのか私の方に振り向く。
「老けたね」
だから私はそう一言、ポツリと呟いた。
「「「酷っ!」」」
おお! 綺麗な具合に声がダブった。
「老けたって、女の子に言うようなセリフじゃないよ!」
「見られとったかと思ったら、いきなり酷いこと言うなシャルちゃん!!」
「まだ24歳なんだよ私たち! それなのに老けたって・・・!」
私に詰め寄ってくる親友s。まずった。口にする言葉を間違えた。
「えっと、大人びて綺麗になったねって言おうとしたんだけど、つい老けたねって・・・」
「大人びたと老けたって全然違うよ」
半眼で見てくる(ちょっと怖いよ、マジで)親友sについ気圧されて、椅子に座ったまま後ずさる。するとなのはがいきなり抱きついてきた。私はもちろんその突然さに驚いて、身体に無駄な力が入る。
「お仕置きだよ。抱きつきの刑、なんて♪」
「はい?」
「じゃあ私もお仕置き!」
「私もや!」
なのはに続いて、フェイトとはやても子供みたいに抱きついてきた。当惑する私だけど、親友sの温もりがすごく優しくて柔らかくて、なんだか泣きそうになるほど幸せな時間だと思った。だから私も前のなのは、左のフェイト、右のはやての背中に腕を回して抱き締める。んで、抱き締めて密着することで判ることもある。
「・・・にしてもフェイト。また大きくなったんじゃない、胸」
「ふぇ!?」
ちょっと左手を動かしてフェイトの胸を触り、5年前を思い出しながら大きさを比べてみる。当然フェイトは変な声を出して私から離れる。するとなのはもはやても顔を引き攣らせながら離れようとする。
「逃・が・さ・な・い・よ☆」
久々のスキンシップなのだ。元々ははやてのスキルを私が継承して、その上はやてから免許皆伝?を貰った。逃げ出そうとするなのはとはやてを、腕に力を込めることで逃がさないようにしようとしたけど、思っていた以上に2人の力は強かった。
「し、シャルちゃん、その・・・ダメだよそういうのは。ね?」
「そ、そうやで。もう私らも若くないしな」
「ほう、ピッチピチの24歳でまだまだ若いと言っていたのは、どこのどなたかなぁ?」
「言っていないし! その手の動きはかなりまずい、よシャル!!」
徐々に後退していく親友s。無論私は追う。一定の距離のまま膠着する私たち。これは埒が明かないな。こうなれば・・・
「閃駆で一気に・・・!」
「「「そこまでする!?」」」
親友sは自分の身体を抱くように後ずさりしながら絶叫。いざ!というときに、頭頂部から目ん玉へと突き抜ける衝撃が私を襲った。
「あいたぁッ!?」
「いい加減にしろフライハイト」
シグナムだ。シグナムが“レヴァンティン”の鞘で、私の頭を叩いたんだ。痛い! どうしようもなく痛かったよ、今の一撃! 目から火花が出た、とか、ピヨってる、とかだよ今の私・・・(泣)。両手で頭頂部を押さえて蹲る。くそぉ、ホントに痛い。あ、涙出てきた。
「「「た、助かったぁ」」」
安堵の溜息を吐いてる親友s。それ以前に私の心配をしてほしいものだ。
「痛いじゃん! 何するのさッ!」
頭を押さえながら勢いよく立ち上がって、シグナムへと振り返る。するとシグナムは担いだ鞘で右肩をトントンと叩いてから呆れ顔で溜息ひとつ。
「お前が悪い。先程のお前は犯罪者一歩手前だったぞ」
「確かに。セインテストを女装させてた時くらいにヤバかったな。もしくは暴走したシャマルくらいだな」
「何でまたそこで私を出すの!?」
ヴィータも参戦。だけど何故か、のんびりお茶を飲んでいたシャマルをまた引き合いに出した。シャマルもまたイジられやすいキャラになりつつあるのかもしれない。ご愁傷さま。だから巻き込まれたシャマルを慰めてあげようかなぁ。
「シャマルも大変だよね・・・」
「ええ!? 何でかフライハイトちゃんから憐れみの目で見られた上に同情された!?」
シャマルがさっきの廊下でのように泣き崩れちゃった。あれ? 何でシャマルは泣いちゃったの? ていうか、憐れんだ目なんかしてないし、同情も・・・少しした。ごめん。
「あ~あ、シャマルを泣かしちまったな、シャルロッテ」
「ええ!? 全面的に私の所為!? むぅ、異議あり! ヴィータにも非があると私は思います!」
ヴィータが私に罪を丸ごとなすり付けるのを阻止するために挙手。
「却下! 異議は認めねぇッ!」
ヴィータも挙手。
「こうなれば徹底抗戦だ、こんちくしょぉー!」
「「あだッ!?」」
と思ったら再び突き抜ける衝撃が、今度はヴィータにも襲いかかった。2人して頭を押さえて痛みに悶絶。だからシグナム、鞘で叩くのやめて。ホントに痛いから。
んで、そこから始まるお説教タイム。もちろん私とヴィータは正座だ。シグナムの説教を聞き続けて数分経過・・・。
「まったく・・・」
ようやく終わった、と思いたい。だから、続きに行くかもしれない危機をここで・・・挫く。シグナムがまた口を開く前に、こっちが先に口を開く。先を取る戦法なり。
「だって仕方ないじゃん。さっきも言ったとおりここ3千年、絶対殲滅対象との戦争激化とか世界滅亡とか、そんな契約ばっかだったんだもん。まぁそれだけじゃないけどさ。でもようやくこんな時間を過ごせる世界に来れた。少しは暴走するよ。したいよ。というかさせろ」
私がそっぽ向いてそう言うと、みんなが息を飲んだ。会議室がシャレにならない沈痛な空気になってしまった。またまたまずった。今のタイミングで言うようなことじゃない。この空気をどうにかしないと・・・だから。
「だから・・・少しの暴走は見逃せぇぇぇぇッ!!」
ちょっと無理があるかもしれないけど、この嫌な空気を吹き飛ばすために、無駄に元気に明るく振舞う。ターゲットは最も近いシグナム。にしようかと思ったけどバッサリと“レヴァンティン”に斬られるのも嫌だから・・・シャマル! 君に決めたッ。
シャマルに腰に抱きつくと、「ひゃぁ!?」なんて可愛い悲鳴を上げて硬直。
「はっ! これは・・・シャマル、少し太ったんじゃない?」
シャマルのお腹周りをちょいと指先でフニフニする。私のかすかな記憶だと、もう少し細かったような気がするんだけど・・・?
「ガーーン!!」
――シャルロッテの“禁句・乙女殺し”こうげき。
シャマルはショックをうけた。こうかはばつぐんだ。
シャマルはたおれた。シャルロッテはしょうりした。
2けいけんち(少なッ!)をもらった。なかまがあらわれた。
おっぱいまじんがあらわれた。えいえんのロリがあらわれた――
「今のはシャルロッテが全面的に悪いよな?」
「そうだな。フライハイト、弁明はあるか?」
「ありません、ごめんなさい」
――シャルロッテはおおげさにあたまをさげた。
シャルロッテはしあいにまけて、しょうぶにしょうりした
2000けいけんちをもらった。シャルロッテは“シャルロッテ2nd”にしんかした。
シャルロッテは“どげざ”をおぼえた。“くうきをよむ”をおぼえた。
シャルロッテはすこしかなしくなった。ぜんステータスが3さがった――
(作戦通りにさっきの空気が吹き飛んだし、まぁいいか)
シャマルと私だけがどうしようもない被害を受けたけど、それでもみんなの表情は少し明るくなった。これからはちゃんと考えてから口にしないとダメだな。
「そんじゃ、そろそろ続きの話にいこうか」
ゆっくりと立ち上がって、みんなを見回す。するとみんなはコクリと頷いて、自分の席に戻っていった。シャマルも「くすん。いいもんいいもん」と呟きながら席に戻った。後でマジ謝りしよう。うん、そうしよう。
「と言っても大体話したから、これからは質問タァ~イム! 名付けて、教えて!剣神シャルせんせー!のコーナー! わぁ~い! さあ! 私のスリーサイズ以外なら何でも聞いて! ヘイ! カマーンカマーン!!」
「すごいテンションの高さですね、シャルさん・・・」
リインが苦笑いしながらそう言ったから、私は「元気だけが私の取り柄だから!」と即答。みんなは「確かに」って一斉に頷いた。少しは“だけ”っていうのを否定してください。
「はい。結構大事なことなんで聞いておきたいんですが・・・」
そんな私のガックリ項垂れた心を余所に、エリオがいち早く礼儀正しく挙手。立派になって、お姉さんは嬉しいです。
「どうぞどうぞ」
だから今の私に出来る最高の満面の笑みで質問を促す。
「あ、は、はい。えっと僕たちに、テスタメント幹部と戦える術はあるんでしょうか?」
エリオの質問内容に、みんなが頷いては自分もそう聞こうとした、とか言いだした。なるほど。確かにそのことに関しては何も触れてなかった。
「ん。ではその質問に、シャル先生が優しく解り易く忘れられないほどに答えよう。答えは・・・」
溜める。溜める。溜める。溜める。カタカナ5文字の某クイズ番組の、またまたひらがな5文字の某司会者さんくらいに溜める。みんなはソワソワしだした。もう少し溜める。まだ溜める。もっと溜める。そして、身を乗り出して、口をゆっくり開く。
「・・・はい、ここでコマーシャ――」
「さっさと言えぇぇぇぇぇ!」
「コマーシャルってなんや!?」
「ボケるとこじゃないよ!」
「真面目に話をしたいんだけど!」
ついにはツッコんだヴィータ、はやて、なのは、フェイトの4人。ずっこけるリインとアギト。呆れて溜息を吐くシグナムとザフィーラ。スバルとティアナとエリオとキャロは苦笑いを浮かべて「シャルさん・・・」と呆れてる。
レヴィも「相変わらずだねシャルロッテ」と苦笑い。シャマルは未だに「いいもんいいもん」とテーブルに“の”の字を書いてブツブツ呟いている。
「ご、ごめん。悪ふざけが過ぎた。答えはイエス。あるよ、みんながアイツらと真正面から戦って、そして勝つことの出来る術」
「ホンマか!?」
「「本当に!?」」
「「「「「本当ですか!?」」」」」
「「本当なのか!?」」
「いいもんいいもん」
「シャマ姉・・・」「シャマルよ・・・」
「あるよ。だから落ち着いて。ね?」
一斉に立ち上がって聞き返してきた全員に落ち着くように諭すと、みんなはゆっくりと座り直した。あとシャマル。ちょっと引き摺りすぎ・・・。
「方法は実に簡単。目には目を、歯には歯を、神秘には神秘を。はやて。未使用かつ魔力が充填されていないカートリッジを出来るだけ用意して」
「未使用カートリッジって・・・? あっ! まさかシャルちゃん・・・!」
はやてが、私が何をするつもりなのか察して絶句する。なのは達もそうだ。私の幹部を打倒する方法が何かを察して絶句してる。
「そうだよ。私の神秘が宿った魔力をカートリッジに充填して、そのカートリッジを使うことでみんなも神秘を使う。これでアイツらの神秘を有するという優位性は崩れる。ならあとは実力がものを言う。どう? みんなの実力ならきっと勝てると思うんだけど」
軽くみんなを見回す。はやては少し考える素振りをして、シグナムとヴィータへと視線を移す。
「・・・シグナム、ヴィータ。どうや? カルド隊に勝てそうか?」
「おそらく・・・いえ、間違いなく。カルド隊の強さは、あの炎による爆発力によるもの。あれを抑えることの出来る術を使えるのであれば、私でも勝てます」
「あたしもだよ、はやて。あの気持ち悪い黒い炎をどうにか出来るなら勝てる」
シグナムとヴィータはしっかりと自信に満ちた声で答えた。私も実際にカルド隊ってヤツと少し戦ったけど、間違いなくシグナムとヴィータの方が強い。神秘の高さだと私の方がゼルファーダやフォヴニスやラギオンより上。そう、たとえ弱体化してようともだ。だからカルド隊の問題はクリアしたと言っても過言じゃない。
(でも、さすがに悲哀の天使メノリアは難しいかもしれない・・・)
アイツばかりは私が相手しないといけない。それに王族クラスの魔術師。なのは達にはきっと荷が重い。それに、ヨツンヘイムの魔術師とは因縁のある私が片付けないと・・・。
「あのシャルさん。僕はグラナードにその・・・気に入られたというか目を付けられたというか、なんですけど。僕でもグラナードやフォヴニスに勝てるんでしょうか・・・?」
エリオがかなり自信なさげにそう聞いてきた。グラナードとフォヴニスのコンビ。エリオが勝てる確率は現状じゃ弾きだせない。
「エリオ。私の存在の調整は明日の夕方にでも終わるから、そのとき一戦お願い」
「え? あ、はい。えっと、それは良いんですけど・・・?」
「現状のエリオの実力がいまいち判らないからね。それで決めるよ」
そう、エリオの実力が現状どこまでなのかが判らないからね。だから無責任に、勝てるから大丈夫、なんて口が裂けても言えない。きっちり判断してから相手を決めていくしかない。エリオは私の意図が判って、礼儀正しく立ち上がって「お願いします!」と頭を下げた。私が頷くと、エリオは椅子に座り直して、キャロと頷ずき合っていた。
「あ、でもそれだとカートリッジシステムを搭載したデバイスを持つ魔導師じゃないとダメってことになるよね」
なのはが挙手して確認してきた。
「まぁそれはそうだけど・・・。実際に幹部たちと戦うのはこの六課だけなんでしょ? だったら十分じゃない?」
カートリッジシステムのデバイス持ちはなのはにフェイト、シグナムとヴィータ。そんでスバルとティアナとエリオ。レヴィはどうやら神秘を扱えるようだし度外視。はやてとシャマル、ザフィーラにキャロは・・・指揮や援護だし問題ないと思うんだけど。
「んー、そっか」
なのはが少し微妙だけど、まぁ納得した表情を浮かべて手を下した。私は「そんじゃ次の質問を受け付けるよ」とみんなを見回す。次に「はい」と挙手したのは、はやてとリインの2人。お互いを見合わして、リインが手を下げたところを見ると先にはやてが質問することになったようだ。
「・・・リインフォースのことなんやけどな。その、リインフォースはこの世界に残ることが出来るんやろか?」
「リ、リインもその質問です! シャルさんは、リインフォースをこのまま留めること出来ますか?」
はやての質問にリインも同意。そして視界の端で、スバルとティアナがピクッと身体を震わしたのが見えた。考えていることが手に取るように判った。でも2人とも。ごめん、それは無理なんだ。
「・・リインフォースに関しては、たぶん大丈夫だよ。こんなこと言うのはシグナム達にすごく失礼だけど、ここは敢えて言うね。リインフォースの心や想いは確かだけど、究極的には人間じゃない。だから今のレヴィのように、そして現在のリインフォースように固定することは出来ると思うよ」
世界を揺るがすほど強大な“力”を有さない者を残したくらいじゃ“界律”は干渉してこない。レヴィが良い例だ。だから元より神秘も無く人でもないリインフォースならきっと大丈夫だ。契約方法は魔術側になるけど、私が残っている間に行えば上手くいく。
「ホンマか? ホンマにリインフォースを残せることが出来るんか?」
はやてがフラッと立ち上がった。リインやシグナムたち八神家からの強い視線を感じる。そっか、そうだよね。あんな別れ方をしたんだもん。今度こそ幸せにしてあげたいよね。
「はやて、リイン、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、アギト。あとシャマル。大丈夫。あなた達の家族リインフォースはこの世界に留まれるよ」
はやてがポロポロ涙を零し始めた。リインも泣きだして、それを見たはやてが「なんやリイン、泣いとるんか?」と言って、リインも「はやてちゃんこそ」涙を袖で拭いながら微笑んだ。
「良かったですー。でもついでみたいな言い方にショックを受けましたぁ」
ここでようやくシャマルも嬉しそうに笑った、かと思えばまた塞ぎ込んだ。なんかもういろいろとシャマルは面倒だ。
「でも、スバル、ティアナ。あなた達には悪いけど、クイントさんとティーダさんは残れない、残ってはいけない。2人を想うなら、あなた達が2人を眠りにつかせてあげて」
「・・・はい」
「はい」
スバルとティアナには酷な話だ。死んだお母さんとお兄さんが敵で、最終的には別れが決定しているこの事実。どうにかしてあげたいけど、さすがの界律の守護神でも死者蘇生は不可能だ。それに、“界律の守護神”を“辞めること”になっている私じゃ・・・もう限られた力しか使えない。
「・・・次はどんな質問かな?」
またまた重い空気に満ちたこの会議室。過去が現代と関わると暗い空気になる運命にでもあるのだろうか? それはそれでかなりキツイ。ていうか、最悪だ。若干心が折れながらも誰も手を挙げないところを見ると打ち止めかな?と思った矢先。
「あの、はい」
キャロがどこか遠慮したように弱々しく手を挙げた。私は「どうぞ」って促して、キャロの質問を待つ。
「あの、カートリッジシステムの無いデバイスを持たないわたしは戦えないんでしょうか? ただみなさんの戦いを観ていることしか出来ないんでしょうか?」
キャロはそんな自分を不甲斐無く、無力だとか思ってるのかな。そんなことはない。戦う者にとって護るもの、観てくれているものが居るというだけで戦う勇気をもらえる。エリオならキャロという具合だ。でも、それで納得しないのが今のキャロなのかもしれない。
「キャロ、そんなことはないと私は思うよ。どうしても戦いたいって言うんなら、フリードかヴォルテールを召喚して。あの子たちなら、それなりにエリオを支援攻撃が出来ると思うから」
そう言うと、エリオとキャロが「あっ!」と何か大事なことを思い出したかのように声を上げた。そしてエリオが「もう1つ聞いておきたいがありました!」と立ち上がった。どういう質問なのかは判るから、先にその答えを口にする。
「どうしてフリードの攻撃がラギオンに通ったのか、だよね。答えは簡単。フリードが、というよりは、フリードの祖先が元は魔族だから」
この答えには全員が「え?」と抜けた声を出した。それもそうか。まさか身近に魔族の血を受け継ぐ存在が居たなんて想像することも無いから。特にキャロとエリオの2人が一番思考が追いついていないみたいだ。
「さっき説明したよね。魔族の種類には獣型の魔獣属があるって。フリードやヴォルテールのような竜はね、魔族・魔獣属・竜種って分類に入るんだ。ルーテシアの白天王、地雷王、ガリュー。あの子たちも元は魔族がこの表層世界に留まって棲みついた遠い祖先の末裔。だから少なからず神秘を有している。だからラギオンに攻撃が通った」
初めてこの世界でフリードのような竜種を見た時の私が受けた衝撃はすごかったなぁ。まさか竜種が現代の表層世界に棲みついて、しかも生態系に組み込まれているなんて、それはもう驚いた。
「そ、そうなんですか・・・?」
キャロは肩に乗っているフリードの頭を撫でる。エリオもまたフリードの背を撫でて、深く考え込み始めた。いきなりの話にそりゃ驚くわ。普通なら知ることの無い事実。それを知る機会を得たエリオとキャロは幸せなのか否か、それを決めるのは2人だ。
「でも、1つ忠告。フリードの攻撃じゃラギオンは倒せてもフォヴニスは倒せない。ヴォルテールでやっと決定打といったところね。まぁ私の神秘を宿したエリオの一撃なら、もっと簡単に決定打を与えられると思うけど。そこのところはエリオとキャロで決めてね」
ということで会議はこれにて終わりとなった。時間は気付けば夜の7時過ぎ。肉体じゃないから空腹は感じない。だけど何か食べたいなぁ。
「他の六課メンバーには明日紹介するな。と言ってもシャルちゃんは有名人やし、そんなことせんでもええと思うけどな」
というのは、はやての言。私ってばまだ人気者らしい。確かに本局に着いてからというもの視線をヒシヒシと感じてたけど。まぁ好かれているんだから悪い気はしない。うん、しない。んでもって今日はここで解散。“ヴォルフラム”ってはやての艦(船持ちって凄過ぎ)の居住区へ移動開始。
(さてと、今日と明日で調整を終えないとダメだね~っと)
それまでは、はやて達には悪いけど“テスタメント”との交戦を待ってもらうしかない。今後のことを考えながら、夕食・入浴を済まして、私はなのはの部屋に到着。そして、久々の人間らしい生活に感極まりながら、私はなのはと同じベッドで眠りについた。だというのに、なのはが少し距離を開けようとする。
「何で私から離れようとするかな?」
昔は一緒に寝たのに・・・。
「だって、シャルちゃんに襲われたりでもしたら・・・」
今日のはちょいとしたスキンシップなんだよ、なのは。だから・・・ここはもう少しからかってあげようか。ふふふふ。
「・・・ぐへへへへへ」
わざとらしく嫌な笑い声を出しながらなのはに迫る。するとなのはの右拳に魔力が、それは綺麗な桜色の魔力が、パァって輝いて。わぁ、綺麗♪
「えいっ」
「~~~っ!!」
ちょっとした冗談なのに、魔力パンチで殴るなんて酷いよ・・・(泣)
実際は軽く小突かれただけなんだけど、何の対応もしなかった私にはキツイ一撃。ベッドからドサリと落ちた。というより落とされた。
「シャルちゃんは床か椅子で寝てね」
「ええっ!? 久しぶりに逢った親友に何たる仕打ち!」
ベッドから落とされて床で痛みに悶えていると、なのはの口からそれは冷たいお言葉が。私に背を向けて縮こまるように眠るなのは。ちょっとした悪ふざけの代償は孤独の眠り、か。フッ。
「なのはぁ~(泣)」
結局私はなのはに泣きついて、温かく柔らかなベッドで眠ることが出来た。
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