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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep21テスタメントの真実 ~Incarnation of desire~

第35管理世界オーレリアから帰還した幹部たちが“エヘモニアの天柱”のエントランスホールでたむろしていた。そんな中で怒声がホールを蹂躙する。その声の主はカルド隊の3人だ。彼らの怒声が向けられているのはサフィーロ――ルシリオンと、ノーチェブエナ――リインフォースだ。

「どういうことだサフィーロ! なぜ、ノーチェブエナを粛清しない!」

「ノーチェブエナのあの一撃に巻き込まれた俺たちは撃墜しかけたのだぞ!」

「それなのにノーチェブエナに対してお咎め無し、というのは納得できない!!」

リインフォースを背後に控えさせているルシリオンは溜息を吐いて、彼女を罰しない理由を怒鳴り散らす3人に告げる。

「デアボリック・エミッション。お前たちもどういうモノかは知っていたはずだ。回避できずに巻き込まれたのはお前たちの失態だ。ゆえに彼女を粛清するに値しない」

「まさか俺たちをも巻き込むなどと誰も思わないだろうが!」

ルシリオンの言葉にさらに激昂するカルド・デレチョ。最早掴み掛からんとする彼に、ルシリオンは呆れた風に肩を透かし、話を続ける。

「それはお前たちの気の持ちようだ。時にはそれくらいの攻撃を必要とするだろう。それがオーレリアでの一件だった、ということだ。とはいえ、特務六課の魔導師を墜とすことが出来ず、味方だけを墜としたそれは褒められたものではないがな」

「そ、そうだ! あれ程の一撃を放っておきながら、ノーチェブエナは六課の魔導師を誰ひとりとして撃墜していない! こればかりは許せるものじゃない! サフィーロ! ノーチェブエナに粛清を!」

リインフォースに集中する幹部たちの視線。彼女は先程から一切の動きもせず佇み、言い逃れもしようとせずにその視線を受け入れている。

「最初の決定通り、ノーチェブエナに粛清はせず厳重注意とする」

ルシリオンはそんなリインフォースの全てを受け入れるという姿勢を見、ここに戻ってくる前に告げた彼女への罰を再び言い渡した。この場に居る幹部たちが一斉にルシリオンに振り向き、当事者であるリインフォースですら顔を上げて彼を見上げた。もちろんそれに納得することが出来ないカルド隊。

「グラナード! お前も被害を被っただろう! 何か言ってやれ!」

「は? オレ? まぁ・・・なんだ。まぁいいんじゃね? それで。こうして無事なわけだしさ」

急に話を振られたグラナードだったが、面倒な上過ぎたこととしてぶっきらぼうに答えた。グラナードの返答に、フードの中に隠れたカルド隊3人の顔が唖然となる。そんな時、エントランスにカツカツと足音が響いた。

「一体こんなところで何をしているのですか?」

「マスター!」 「ボス・・・!」 「マスター・ハーデ」

突如その姿を現したハーデに向け、幹部たちがそれぞれの呼び方で彼女を呼んだ。

「どうしたのですか、何か問題でも・・・?」

ハーデの顔を覆い隠すフードの中から鈴のような美しい声が漏れる。その声に冷静にならざるを得ないカルド隊は「いいえ」と答え、最上階へ続く直通転送装置に入っていった。

「いいえいいえ。何もありませんよボス。お帰りなさい」

グラナードが仰々しく頭を下げた後、ハーデの行く手から退いた。

「御帰りなさいませ、マスター」

ルシリオンが恭しく頭を下げ、ハーデの右斜め後方へと移動する。

「はい。サフィーロ。ただいま帰りました。オーレリアでの一件の報告を後でお願いします」

この場に居る幹部たちを見回したハーデ。それに幹部たちは「了解」と応じ、転送装置へ入っていくハーデに続いていく。

【・・・サフィーロ、なぜ私を庇うようなことをした。あれではお前がカルド隊から憎まれるかもしれない】

リインフォースが先を歩くルシリオンの腕を掴んで止めて、彼へとそう尋ねる。

【庇う? これは当然の結論だと私は思っている。君の攻撃によって、被害を被ったのはこちらだけ。これは確かに問題だ。しかし回避しきれなかった彼らにも問題がある】

ルシリオンは逆位置に立つリインフォースを流し目で見ながらそう返し、さらに続けていく。

【デアボリック・エミッションの効果、それを私たちは知っていた。六課の魔導師も至近に居たにも関わらず回避できている。ならばカルド隊とグラナードにも可能なはずだ。六課との戦闘でダメージを負ってしまっていたようだが、それでも油断していなければ回避できた、と私は判断している】

【そうか・・・。ありがとう、感謝する】

小さく頭を下げて礼を述べたリインフォース。

【礼を言われる程のことはしていないのだが・・・。受け取っておこう】

ルシリオンは素っ気なくリインフォースの感謝の言葉を受け取った。

・―・―・―・―・―・

「あぁ~んもぉ~! や~ら~れ~た~! 何なのよぉあれ~! く~や~し~いぃ~!」

暴走して会議室を破壊しないようの処置として、トレーニングルームに強制転移されたシャルロッテとレヴィ。その2人のバトル後、再び会議室へと向かう廊下を歩くシャルロッテが悔しげに声を荒げていた。当然局員たちの視線が一気にシャルロッテへと集中する。

「えっとシャルちゃん。悔しいのは判るけど、もう少し声のボリュームを下げて、お願い」

そんなシャルロッテを宥めるのがなのはだが、しかしどこか彼女は嬉しそうな表情をしている。

「何だよシャルロッテ。レヴィに後れ取ってんじゃねぇかよ」

ヴィータが頭の後ろで腕を組みながら面白いものを見たと笑っている。

「むぅ~。昔は転移→砲撃→転移→砲撃の繰り返しだったのに、何さっきのアレ。どんだけ体育会系に進化? 拳法使い? 動きも先読みも凄いの一言だよ。しかも一人前に美少女になってるし、性格も変わり過ぎだしさぁ・・・笑える方向に(笑)」

エリオとキャロに挟まれ歩いている成長したレヴィを見ながら、シャルロッテは先程の戦いを思い返していた。調整を終えていないことで身体が鈍い。それを抜きにしてもレヴィは強かったと思う、と。捌くのがやっとな拳打・蹴打の連撃。それと同時に放たれる砲撃。2発のクリーンヒットを貰ったことがシャルロッテの心を揺さぶった。

「でも、ま♪ あの子、あんなに可愛い笑顔が出来るようになったんだね・・・。ルシルも喜ぶだろうねぇ~」

しかし幸せそうに笑みを浮かべてエリオたちと話すレヴィを見て、シャルロッテは嬉しそうに笑みを浮かべると、フェイトが「うん・・・そうだね」と寂しそうに頷いた。

「それでなシャルちゃん。会議室に戻ったら・・・」

はやてが後ろからシャルロッテに耳打ちする。“テスタメント”に関する情報を今すぐにでも聞きたいはやては神妙な面持ちだ。

「あはは・・・ごめん、はやて。さっきの続きだね」

重要な話へと行く前にシャルロッテの暴走が起こり、先延ばしになっていた。さすがに責任を感じているのか苦笑いしながら謝った。

「「シャル!!」」

廊下を移動するシグナムとザフィーラを除く六課メンバーの背後から、シャルロッテの愛称が呼ばれたことで、一斉に背後へと振り返る六課メンバー。

「おお! クロノとユーノ! 久しぶり!」

そこに居たのはクロノとユーノだった。なのはとフェイトとはやてもそれぞれ彼らの名を呼び、クロノとユーノも軽く挨拶を交わす。

「なになに? 男2人が女の子1人捕まえてどうするの?」

シャルロッテはニコニコと意地悪そうな笑みを浮かべながら、クロノとユーノの元にスキップで近付いていく。そんなシャルロッテに対し「女の子って歳かよ」とヴィータはツッコミを入れていた。

「うるさいなぁ、ヴィータ婆ちゃん。永遠の21歳をなめんなよ」

そんなことを言うシャルロッテ。もちろんヴィータも「婆ちゃんってなんだ!?」勢いよく振り返る。

「まぁそんなことより、どうしたの2人して?」

「聞けよ!」

スバル達に「まぁまぁ」と窘められるも怒鳴り続けるヴィータ。

「だったらシグナムとシャマルはどうなんだよ!? あたしより外見では歳いってるシグナムとシャマルは婆さん以上ってか!?」

ヴィータは咆え、とばっちりを受けたシャマルは「えぇぇぇ!? ひどぉ~い!」と泣き崩れた。そんな外野を余所に、シャルロッテはクロノとユーノと会話を続ける。

「どうしたの?じゃないよ、シャル。どうして君までこの世界に!?」

「どうしてって・・・それを今からはやて達に話すんだけど・・・」

ユーノの問いに、はやてに振り向きつつ答えるシャルロッテ。

「良ければ僕たちも参加したいのだが。『はやてからの報告で、管理局内部に裏切り者が居る可能性があるのは知っている。だから僕とリンディ総括官のところで情報を規制することにした』・・いいだろうか?」

クロノの念話が六課メンバーとシャルロッテとレヴィに届く。“特務六課”の部隊長であるはやてが「こちらからお願いします」と頭を下げた。

・―・―・―・―・―・

「そんじゃ、何でも聞いて」

会議室へと戻り、シャルロッテは立ったまま六課メンバーとクロノとユーノを見回した。そして最後にフェイトに視線を移し、そのまま視線を固定。なのは達も「??」とシャルロッテに続いてフェイトへと視線を移す。

「え? なに? 私が何?」

フェイトが集まる視線に耐えられずに動揺しだす。シャルロッテが「フェイトは聞きたいことあるんじゃない?」とニヤニヤしながらそう尋ねる。そこでフェイトとなのは達はシャルロッテの言葉と視線の意味を察した。

「じゃあテスタメントのこと、シャルの知ってる範囲で教えて」

「真っ先にルシルのことを聞いてくると思ったけど・・・。そう、大人だねフェイト」

「ルシルのこともすぐに知りたい。だけど、それは私個人の想い、私情だから後にする」

「そっか。ホント、ルシルってばフェイトに愛されてるね~。んじゃ、はやて。テスタメントに関する情報、手にしているものは全て教えて」

はやては「了解や」とモニターを展開。今までの“テスタメント”の映像音声などを映し出していく。シャルロッテは椅子に腰かけ、モニターを一心に見入る。はやては、ここ最近の管理世界で問題になっている“レジスタンス”からの説明をした。

「レジスタンス、かぁ。5年で結構危うくなってきたね、この世界も」

説明を聞き終えたシャルロッテがボソッと呟く。そして本題たる“テスタメント”の情報。まずはエルジアまでの映像を食い入るように見つめる。

「始まりは11月13日のミッドチルダ。首都クラナガンを襲撃した散弾砲撃・・・。これはルシル君の仕業やと判明しとる。そしてグラナードと名乗るテスタメント幹部との初邂逅」

「同日、カルナログ首都を襲撃したマルフィール隊・・・。この時もルシル君の散弾砲が落ちてきた」

「同じく13日。本局を襲ったサフィーロことルシル君と、ノーツェブエナことリインフォース」

シャルロッテが「そう言えばリインフォース居たよね、オーレリアに」と顎に手を当てながら呟いた。はやてたち八神家は何故リインフォースが居るのかを知りたい衝動に駆られたが、先程のフェイトの同様に私情ということで後に回す。

「翌日14日。再びミッドに現れたテスタメント幹部・カルド隊とルシル君とリインフォースさん。南部海上で、はやてちゃんとリインがルシル君とリインフォースさんと交戦するけど・・・」

「リインフォースのことで動揺してもうてな。墜とされてしもた」

「面目ないです」

はやてとリインフォースⅡが気まずそうに微苦笑を浮かべる。

「そして北部の廃棄都市区画で、カルドとカルド・イスキエルド、カルド・デレチョのカルド隊と交戦」

「しかし私とヴィータ、カローラは為すすべなく撃墜された」

「・・・みたいね。この場合は仕方ないよシグナム。相手が良くない。それでセレスは大丈夫だったの?」

「あ、さっき会いましたよ、カローラ一佐と。少し休暇を取るそうです」

エリオが答える。シャルロッテは「無事ならいいや」と安堵の息を吐いた。

「その他の管理世界にもアグアマリナ、アマティスタが出現。しかも2人の正体は、スバルの母親クイント准尉と、ティアナの兄ティーダ一尉なんや」

スバルとティアナが俯く。

「テスタメントの幹部たちは、かつて管理局に勤めていて、そして殉職した局員みたいなんだ」

「実際、カルド隊の3人とグラナードは、オーレリアで認めとるしな」

なのはとはやての言葉と同時に映し出される幹部たちの生前のプロフィール。シャルロッテは「死者・・・亡霊・・・スヴァルト式かウトガルド式よね」とブツブツと考え事をしている。

「これが私たち特務六課設立までの経緯や。妙な技や武器、再誕神話に出てくる帆船スキーズブラズニル。シャルちゃん、ここまでで何かあるか・・・?」

「まぁ、大体のことは理解したよ。なるほどね、敵の正体はそれなりに判った」

はやての問いにシャルロッテがそう答え、この場に居る全員の雰囲気が緊張感に染まる。シャルロッテは「ふぅ」と一息ついてから、ゆっくりと口を開いた。

「まず、敵に魔術師が居るのは確定。それもかなり厄介な最高位、王族クラスの魔術師がね。あと、どこの魔術師なのかも大体判明。サフィーロ、ノーツェブエナ、カルド、マルフィール、アグアマリナ、アマティスタ・・・。これは“連合統一言語”だね」

「連合統一言語・・・?」

ユーノが興味深そうに身を乗り出してシャルロッテに聞き返す。

「うん。大戦時に使われていた主要言語のひとつ。極凍世界ヨツンヘイムに属する連合世界、特に主要四世界においては共通の言語で、ヨツンヘイム語と言われてた」

シャルロッテもモニターを展開し、幹部たちの名前を並べて表示していく。

「幹部たちの名前の意味は、サフィーロはサファイア。カルドは薊。グラナードはガーネット。ノーチェブエナは聖夜。マルフィールはアイボリー。アグアマリナはアクアマリン。アマティスタはアメジスト。宝石や花の名前が付けられているわけだ」

シャルロッテの口から語られた情報に、やっぱりと言った風な表情をするなのは達。

「で、そいつらを纏めるのが、主要連合世界の内のどれかの力を継いでいる魔術師。ヨツンヘイムか、ヴァナヘイムか、ウトガルドか、スリュムヘイム。どの道一筋縄にはいかない強敵なのは間違いない」

シャルロッテは大きくやれやれと肩を竦めた。するとレヴィが「わたし、魔術師に遭った」と手を挙げた。

「ホント? レヴィ、どんな魔法陣を使っていたか判る?」

「うん。正四角形の中に雪の結晶みたいのがあった。その正四角形の四方の角からひし形の模様が伸びて、それを覆う3重の六角形・・・」

レヴィがその魔法陣の形をなぞるように指を宙で動かす。シャルロッテは魔法陣の特徴を聞いて「あちゃぁ・・・」と右手で顔を覆った。そして「そいつ、凍結の魔術を使ったよね」とレヴィに確認を取り、レヴィは「うん」と即答した。

「ヨツンヘイム式の魔法陣だ。敵はニヴルヘイムと同じ氷雪系のエキスパート、ヨツンヘイムの魔術師。これは手強いなぁ・・・。どれだけ腕があるのかは判らないけど、苦戦しそう。・・・ねぇ、その魔法陣を使ってる映像とかってある?」

「あ、うん。待って・・・。その魔法陣を使うのは3人居るの。1人はルシル君。そしてレヴィが会った魔術師。そしてトパーシオって別の幹部」

なのはがそう答え、コンソールを操作する。映し出されたのは、エルジア紛争でなのはとフェイトを苦戦させたトパーシオ。そしてレヴィとヴィヴィオの元に現れたハーデだ。トパーシオが次々と放つ猛威を振るう氷雪系魔術に、なのはとフェイト以外の全員が絶句する。ハーデの広域凍結は、想像以上のモノだったことで開いた口が閉じないような状況だ。

「ヨツンヘイム術式の中でも高位だね、これらは。王族の血筋が残っていたか、それともまた別。ちょっとみんなに聞きたいんだけど、ここ最近で何か変ったことない? 妙な事件があった、とか。妙なロストロギアが発見された、とか」

「ロストロギアか何なのかは判らないけど、3年前に妙な世界が次元の海に突如現れたよ。そこから解読できない蔵書が見つかったんだけど・・・」

ユーノが手を挙げ、シャルロッテに報告。シャルロッテは「その本、見せてくれる?」と言い、ユーノは「少し待ってて」と無限書庫へと駆けだした。ユーノが戻ってくるまでの間、シャルロッテはいろんな事件などを聞いていた。そしてはやてがある事件を口にする。トレジャーハンター・シャレード強盗殺人事件。シャルロッテは話に出てきた“赤い本”というものに興味を示した。

「どういうデザインか判る?」

「何人かから目撃証言は取ってあるよ。縁取りは金、その金から装飾が伸びて、背表紙に何かの模様に作っとる。で、表紙には青銀みたいなもので紋章が象られたレリーフが施されてたみたいや」

“赤い本”のイメージ画がモニターに映し出される。シャルロッテは「うそ・・・これって・・・!」と驚愕に目を見開いた。その様子に、この“赤い本”が “テスタメント事件”の最重要ファクターであると誰もが理解した。

「ディオサの魔道書・・・!」

シャルロッテの呟きに、リインが「ディオサの魔道書、ですか?」と聞く。

女神(ディオサ)の魔道書。確かにこれがあれば大抵の魔術は扱えるかも。コレは一種の魔術式が記された事典のようなものね。連合の魔術式はもちろん、中には同盟の魔術も載ってるらしいって話を生前聞いたことがある」

「そんなものをどうしてシャレードは持っとったんやろ?」

「問題はもうそこには無いよ、はやて。この現代に在ってはいけない物。絶対に消滅させなければならない遺物。過去を生きた私がしないといけない後片付け」

シャルロッテはデスクに置かれていた両拳を強く握りしめ、そう固く決意した。そこに戻ってきたユーノ。肩で大きく息をしている彼は何冊か抱えていた。

「これがその世界、今はオムニシエンスと名付けられた世界の書庫で見つかった蔵書だよ」

1冊を渡され、シャルロッテはパラパラとページを捲っていく。そして次の1冊も手にとってページを捲っていく。全てを速読した後、シャルロッテは「どれもヨツンヘイム語だ」と口にした。

「そのオムニシエンスって世界。さらに詳しく調査する必要があると思う。ひょっとしたら、テスタメントが連れてる魔族に関係する世界かもしれない」

「魔族・・・。そう言えばオーレリアでも言っていたけど・・・」

「私とルシルの記憶の中に出てきたでしょ。自我を持つ砂漠。魔石と呼ばれる鉱石の集合体。人の肉体を持ちながら頭部が魔石。犬(正確には狼)耳と尻尾を生やした女とか。アイツらみんな魔族。この人間の住む表層世界とは別位相に存在する裏層世界の住人。業火の眷属ゼルファーダ、黒鎧の毒精フォヴニス、無限の永遠ラギオン。こいつらは魔族の中でもひと際異質な、幻想一属と呼ばれる種の魔族なの」

話についていけずに当惑する六課メンバー達。シャルロッテは「まぁいきなり長々しく言われても無理だよね」と苦笑した。それからゆっくりと“魔族”の説明に入っていく。

人型の魔人属。獣型の魔獣属。そのどちらにも入らない、肉体が無く無機質なモノでありながら生きている幻想一属。“魔界”の構造。上層、中層、下層、最下層の四層で構成された世界。下へ行くたびに“魔族”の実力が高くなっていく。
フォヴニスとゼルファーダとラギオンは、最も弱い上層に棲む幻想一属だとシャルロッテは説明する。

「アレで最弱の魔族なんですか!?」

「最弱って言うのは少し違うけどね。まぁ弱い方なのは間違いないよ。大戦時では雑兵も良いとこの戦力だった。戦力になったのは下層と最下層の魔族だけ」

「そんな・・・」

「マジかよ・・・アレで弱いってのか・・・」

エリオにそう答えるシャルロッテ。実際に戦って負けたからこそ信じたくない事実。シグナムとヴィータとアギトも同じ思いだった。ゼルファーダやフォヴニスやラギオンは、シャルロッテたち過去の魔術師たちにとっては視界にすら入らない雑魚。その雑魚に撃墜された自分たち。それがあまりにもショックだった。

「でもなのはとフェイトを苦戦させた悲哀の天使メノリア。アレは確か中層の魔人。数いる魔人の実力はピンキリだけど、メノリアは魔人の中では中位に食い込める実力者だったはず。正直戦って生き残ることが出来たなのは達は奇跡だよ。本当に良かった・・・」

シャルロッテがなのはとフェイトを見ながらそう言った。

「・・・続き行くね。えっと、魔族を召喚するにはいくつか必要なモノがあるんだ」

シャルロッテは指を立てていく。

「1つは魔界と魔族の存在を知る知識。1つは魔族召喚術式。1つは魔力。そして最も重要なのが、魔界と繋がる唯一の世界、ギンヌンガガブ。魔族を召喚するには、ギンヌンガガブという世界が必須なんだけど。もしかしたら、そのオムニシエンスという世界がそうかもしれない。信じたくないけど」

「・・・判った。オムニシエンスの事に関しては僕に任せてくれ。すぐにチームを編成してオムニシエンスを再調査させる」

「僕も行くよ」

クロノとユーノが立ち上がり、会議室を後にしようとする。シャルロッテは、クロノとユーノの背中に「お願いね。でも無茶も無理もしないように」と告げた。クロノは振り向かず手を挙げ振るい「任せておけ」と答えた。そしてユーノは「帰ってきたらもっと話を聞かせてくれると嬉しいな」とシャルロッテに微笑みかけた。
人は会議室を後にし、それぞれ“オムニシエンス”の調査に必要な準備を始めた。

「・・・・テスタメントの強さの正体は魔族ってことでええんやな」

「そうね。でもいくら何でも魔族と融合するなんて正気の沙汰じゃない。武装形態(あんなこと)を続けていたら絶対に心が壊れる・・・!」

シャルロッテが「信じらんない」と溜息を吐く。

「フライハイト。魔族を武装するなんて出来ることなのか?」

「普通は不可能。でも幹部たちには肉体が無い、殉職した局員って言うのは間違ってないかもね。実体があるように見えるけど、実際は亡霊なんだもんアイツら。だから理論上は可能になる。だけどさっき言った通り正気の沙汰じゃないし、続けたら壊れる。間違いなく、ね」

「そうなのか? しかし亡霊・・・か」

シグナムが、そしてヴィータやシャマルにザフィーラ達が深く考え込み始めた。かつて自分たちが殺めた局員。復讐の炎にその身を委ねた過去の亡霊。“幻想一属”と融合するという危険なことをしてでも復讐したという強烈な憎悪に、シグナムたち守護騎士は本当に参ってしまった。

「シャルちゃん。亡霊ということは蘇ったわけじゃないんだよね?」

「そうだよなのは。人は蘇らない。それは全ての世界に定められた絶対の掟。たぶん幹部たちは、ディオサの魔道書を持つヤツによって、この実数世界に残っていた強い想いを実体化、固定された幻想。彼らは一種の残留思念かな。強過ぎる未練を残していることで虚数世界、あの世に旅立てない幽霊だね、早い話」

シャルロッテはリインが淹れてきてくれたお茶を受け取って「ありがとう」と微笑んで礼を言い、ゆっくりと飲みながらそう説明した。魔術によって、強い未練を“存在(ヒトガタ)”として固定されている幻想、それが“テスタメント”の幹部たちだと。

シャルロッテの言う“実数世界(げんじつ)”に留まり、“虚数世界(あのよ)”に逝けないまま彷徨っている強い想い。確固とした肉体を持たないゆえに“魔族・幻想一属”とも武装(ゆうごう)出来る。しかしそれは諸刃の剣。使用し続ければ壊れる。自我の損失、そして暴走、その果ての・・・。

「それにしても幻想一属を選択するなんて、魔術師はルシルのファミリーネームの意味を知っているというわけか・・・」

シャルロッテの独り言に、キャロが「どういうことですか?」と尋ねた。

「ん? キャロ達はルシルがどんなファミリーネームだったか憶えてる?」

「えっと、フォン・フライハイト・・・ですか?」

「ん~~、それより前。私の家に養子となる前のやつなんだけど、スバル達は知らなかったっけ?」

スバルがそう答えたのを聞いて、シャルロッテとルシリオンがこの次元世界に現れた頃から付き合いがあったなのは達が「フォン・シュゼルヴァロード」と答えた。シャルロッテは「その通り!」と右の人差し指を立てつつ説明に入る。

「フォン・シュゼルヴァロード。これはルシルが最下層魔界の、ある一国を治める魔人から貰ったモノなんだ。フォン・シュゼルヴァロードは、魔族の幻想一属を統べることが出来る特別なファミリーネームなんだよ」

「それってすごいことなんですか?」

“魔界”や“魔族”の種類など全く知らなかった上に理解できない。当然のことだが、ゆえにその特別さがよく理解できていない六課メンバー。

「結構ね。しかもファミリーネームを貰ったと同時に求婚もされたようだし。ルシルが人間に戻ったら、あの双子は結婚するつもり満々みたい。もしルシルがあの双子の求婚に乗って手を出したらロリコンも良いところだけどね」

シャルロッテの口から飛び出た求婚や結婚という単語に唖然とする六課メンバー。特にフェイトはその中でも呆然としていた。いち早く復帰したなのはが「でも待って。平行世界云々というのはどうしたの?」と尋ねる。

「魔界に、ここ次元世界における平行世界なんて概念は通じないよ。魔界は単一だからね。どの次元世界のどの時代なんて全然関係なく繋がっている」

そう説明してからシャルロッテは「解らなくても別にいいから、深く考えないで良いよ」と付け足した。

「さてと。それじゃあフェイト、お待たせ。ルシルのことを話そうか」

テーブルに頬杖をついてニヤニヤしながら、シャルロッテはフェイトにそう告げた。フェイトは「う、うん。お願い」と少し頬を紅潮させて小さく頭を下げる。

「くっそぉ~! ルシルの奴、フェイトにこんだけ想われて・・・幸せ者め!!」

そんなフェイトを見たシャルロッテはバンバンとテーブルを両手で叩く。

「でもま、フェイトも結構な幸せ者なんだよ」

シャルロッテが急に真剣な面持ちでそう言ったので、フェイト達は息を飲んでその続きを待つ。

「ルシルもね、あれからずっとフェイトを想っていたんだよ。ここ3千年、ルシルはいろんな契約を受けて、いろんな世界で戦ってきた。その中で、ルシルのことを好きになる娘も当然出てくる。だけど、ルシルは残らなかった。何故だか判る?」

「えっと・・・」

「ルシルは、もう逢うことの出来ないフェイトを忘れられなかったから。ルシルはいつもフェイトを想ってた。ある契約で一緒になって、私と結婚したときもそう。話すことはこの世界での思い出。まぁ私もこの世界での10年は最高だったからそういう話は好きだったけどね」

シャルロッテから語られるさらなる驚愕話。シャルロッテとルシリオンが結婚していたことに、六課メンバーはまた呆然となった。そして今度はヴィータがいち早く復帰。

「お前、セインテストと結婚したのかよ!?」

「まあね。って、言っておいてなんだけど、そこは今関係ないんだよねヴィータ。コホン、それは置いといて・・・。え~っと、何が言いたいのかというと、ルシルは今でもフェイトを想ってる。だからフェイト。ルシルはあなたが救ってあげて、今度こそ」

フェイトの真正面まで来てそう告げた。フェイトは「うん!」と強く頷いた。

「そんじゃ、何故ルシルと私が再びこの世界に来たのかを説明するね。まずはルシル。ルシルが不完全な界律の守護神テスタメントってことは憶えてる?」

シャルロッテの問いに各々頷いて応える六課メンバー。

「ん。で、不完全だからこその問題というのがあるんだけど。その内に1つによって、ルシルは今この世界に来ている。それが、界律による契約召喚じゃなくて、人間による対人契約召喚」

「対人契約召喚?」と首を傾げる面々。

「うん。世界の意志じゃなくて人の意志によって、不完全な界律の守護神(テスタメント)を召喚するというものなんだ」

「そんなことが出来るの!?」

「知識と召喚儀式と魔力と媒介、そして強烈な運があれば、絶対とはいかずともね。普通は世界の意志の執行者である界律の守護神を狙って召喚するのは不可能。だけど、たまに奇跡的な確率で召喚することが出来る。だから運がいるの。で、その偶々成功して召喚されたのがルシル。召喚者はとことんツイてるね」

シャルロッテは広域凍結を発動させたハーデの映るモニターを見る。フェイトが「シャル、その媒介って何?」と尋ねる。シャルロッテは少し迷ってから告げた。

「・・・指環。フェイト、あなたが最後の日にルシルに贈った指環。アレが、ルシルの召喚を成功させた最大のファクター」

「それってつまり、ルシルの指環はこの世界に残って、それが敵の魔術師の手に渡っていた、ということ?」

「そう。指環がこの世界に残っていたからこそ、ルシルは偶然にも再びこの世界に来られた。その結末が記憶操作された上に操られているということなんだけど・・・。でも魔術師は知っていたわけじゃないと思う。たまたま儀式をしたらルシルが召喚された。その原因が指環にあることにもきっと知らないはず。本当に運のあるヤツだよ」

「そう、なんだ。そこだけでも感謝しないといけないのかな・・・」

「というわけで、今回のルシルは、敵の魔術師によって奇跡的に召喚された存在。それが、ルシルがこの世界に居る理由。記憶操作がされている理由は、たぶん裏切り封じ。親しくて、しかも恋仲だったフェイトと逢えば、間違いなく裏切られると判断したんだろうね」

「ということは、敵の魔術師はルシル君とフェイトちゃんが親しいのを知っている・・・?」

なのはのその言葉に、他のメンバー達の顔色が変わる。そのことを知っているのは管理局員だけなのだから。はやてが「ということは、テスタメントの魔術師(トップ)が管理局内部に居る、ということになるんか?」と青褪める。

「そう断言するのはどうかと思うけど、可能性はあるかな」

シャルロッテは管理局内部に“テスタメント”と直に関係を持つ局員が居ることには同意する。

「その辺りはクロノやリンディさん達の情報規制に任せよう。それで、私がここに居る理由なんだけど、結構簡単なこと。ルシルに召喚された。それが、私がこの次元世界に来ることのできた理由」

「ルシルに召喚された・・・?」

「うん。この世界に居るルシルから召喚要請を受けたんだ。たぶんルシルが正気に戻っていた数十秒の間だね。操られている間のルシルは、神意の玉座に居る本体(ルシル)との繋がりを持たないらしくって」

「そうなんだ・・・」

「正気に戻ったことで繋がった短時間、この世界のルシルが自分とあなた達の危機を察知して、本体(ルシル)を通して私に救援要請を出した。だから私もこの世界に来られた。ま、正式な契約召喚じゃないから弱体化してるけどね」

シャルロッテが語った数々の真実。
六課メンバーは、思っていた以上に“テスタメント”という組織が現代離れしていたことに当惑するしかなかった。そんな六課メンバーの様子を見て「ここで一度休憩を取ろうか」とシャルロッテが提案。部隊長のはやてが代表して「そやな。少し休憩しようか」と六課メンバーを見回した。
 
 

 
後書き
はい、今回はテスタメントの真実でした。まぁ全てを明かしたわけではないですけど、大体がこんなものです。
ANSUR時代の魔族・魔界設定を、このエピソードでフル使用。フォン・シュゼルヴァロードや幻想一属等々。あぁ、どんどんリリカルなのはの世界観から遠ざかって(ホント今さら)・・・・すいません。
 
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