ドリトル先生と京都の狐
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第四幕その六
「羅生門の上が部屋になっていたらしいけれど」
「そこになんだ」
「そう、その部屋は人がいられる様な場所になっていたらしいけれど」
だが、だ。その部屋はというのだ。
「梯子も階段もなくて入ることが出来なくてね」
「それでその部屋は妖怪変化の場所になっていたんだね」
「そんな話もあるんだ」
「羅生門ではそこに死体が捨てられていたけれどね」
先生はまたこの作品の名前を出しました。
「そうしたお話もあるんだね」
「そうなんだ、羅生門にも色々な話があるんだ」
「鬼も出たのかな、ここは」
トミーもここで言ってきました。
「ひょっとして」
「あっ、そのこと知ってるんだ」
「うん、日本に来る前に日本についての本を読んでいたらね」
「そうしたお話も読んだんだ」
「その本には具体的にどんな門か書いていなかったけれど」
何となくです、トミーは羅生門のことを聞いていて察したのです。
「ここなんだね」
「そうなんだ、実はね」
「成程、鬼も出たんだね」
「茨木童子っていう鬼がね」
それが出て来た鬼だというのです、羅生門に。
「それで腕を切られて取り返すんだ」
「そうしたお話なんだ」
「そうなんだ、あと鬼の指は三本とも言われているよ」
人間の指は五本です、けれど鬼の指は三本だというのです。
そのことを聞いてです、先生もトミーも動物達もそれはどうしてかと首を傾げさせてそれで先生に尋ねるのでした。
「それはまたどうしてなの?」
「鬼の指が三本しかないのは」
「日本の鬼の指って」
「どうしてなのかな」
「うん、何でも人間には三つの悪い心と二つのいい心が一緒にあってね」
王子はその学んできたことを先生達にお話します。
「三つの悪い心を二つのいい心で抑えているけれど」
「鬼には二つのいい心がないからなんだ」
「だから指が三本しかないんだ」
「そう言われているんだ」
そうだというのです。
「俗にね」
「それで鬼の指は三本」
「そうなんだね」
「まあね、実際のところはね」
どうかとです、王子は鬼の指についてこう言うのでした。
「悪い鬼でも指が五本あったりするし鬼自体もいい鬼がいたりするんだよ」
「へえ、鬼だから悪いんじゃないんだ」
「悪魔みたいな存在なのに」
「悪魔ともまた違ってね」
王子は鬼のお話自体もします、鬼といえば日本では悪い存在の代名詞みたいなものですがそれがどうかというのです。
「邪悪かっていうと決してそうでもないんだ」
「ふうん、そうなんだ」
「全面的に悪い奴じゃないんだ」
「うん、そうなんだ」
こう皆にお話するのでした。
「童話とかでもやられ役だしね」
「何か悪魔よりもユーモラス?」
「そんなのかな」
「そうだね、何処か愛嬌があるね」
王子も日本の鬼のそうした一面は否定しません。
「悪くて怖い相手だけれど」
「鬼はそうなんだ」
「悪いだけじゃないんだ」
「イギリスの怖い妖精よりはずっと怖くないと思うよ」
妖精といっても様々です、その中にはとても怖い妖精もいます。それこそ悪いことをする子供に悪いことをしていると来るぞ、と言う様なものが。
「まだね」
「ナックルビーみたいじゃないんだ」
「レッドキャップとか」
「いるからね、ケルピーとかね」
「そういうのが」
「ああ、そんなのよりずっと大人しいよ」
そうした妖精達よりもです、鬼はそうだというのです。
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