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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十二章
  瀬田の大橋へ急行

「ふむ。久遠、ちょっと痩せてるな。ちゃんと食べているのか?」

「た、食べてはいるが」

「そうか。だが今は戦だから粗食になってしまうが、早めに一葉と合流して風呂と食事を堪能しような」

「・・・・・うむ」

小さく頷いたために翼を収納してから離れた俺。

「・・・・やれやれ。お呼びにより参上、と報告しようと思ったら、何を睦み合っておるのだか。最も一真様の翼でよく見えなかったがな」

「な、み、壬月っ!?」

「翼で隠してたんだからいいだろ?これは前払いだ」

「仲良き事は構いわんがな」

と言ってから本陣を飛び出した。

「詩乃、鞠!」

本陣から折り返して馬を走らせると、前方に詩乃と鞠の姿が見えた。

「??本陣に呼ばれたのではないのですか?」

「スマン。先に行って状況を確認した後何だが、隊に戻ってもらって構わんか?」

「それは構いませんが・・・・何かあったのですか?」

「隊の方に戻ってから話すが、状況が大きく動きそうだ」

「あやー、また戻らなくちゃなの・・・・」

「悪いな、鞠」

「ううん、別に怒ってないの!」

言いながら、鞠は手綱を引いて馬首を巡らせた。詩乃と鞠、二人を連れて一真隊に戻る。

「あれ?お頭?早い戻りですね」

「詩乃ちゃん、鞠ちゃんお帰りー」

と言って二人はただいまと言った。俺は通信機でトレミーに確認を行った。麦穂がいるところに本当に松永弾正少弼がいるのか。

「お帰りなさい。・・・・で、一真様。一体何があったんです?」

「さっきの早馬何だが、どうやら松永弾正少弼が降伏を申し出てきたらしい」

「ええっ!?松永だ、だ、だ何とかさんって、敵の親玉じゃないですかー!」

「弾正少弼な。正確には敵の片割れで首魁の方。枝葉の方の三好三人衆は、依然京を占拠して敵対していると言う状況らしい」

「松永弾正少弼は稀代の策謀家と聞いております。大丈夫なのですの、ハニー?」

「そこら辺は大丈夫だ。早馬の身元は分かったから。虚報でもなければ謀略の可能性も低い」

「どういう理由で、戦いもせずに降伏するのか・・・・そこが気になりますね」

「織田家が怖くなった!とか」

「三好の人達にイジメられて、とかも有りなの!」

「戦うのが嫌になった、って可能性もありますよね」

「それはないと思うぞ」

「ハニーの仰る通りですわ。松永弾正少弼は、勝つためならば卑怯な手も使いますが、その根は武士として誇りがございます。怖くなったとか戦うのが嫌になったとか、イジメに屈した何て事、あるはずがございませんわ」

「武士の嘘は武略とも言うからな。卑怯なのは策略や謀略という、勝つための一手だな。それに卑怯な手何ていう言葉は、その手に引っかかった相手の、情けない負け惜しみだ。犬の遠吠えになるだろう」

「勝てばいいって事なの?」

「少し違うな。弾正少弼、己の信念に従う、という武士の誇りを持っているって事かな。梅」

「言ってる事は正論ですわね。ついでに言っておきますが、信念の目指すところが勝利なのか。はたまた潔さのなのか、生き残るという事なのか。それは人それぞれですから、しかと分かりませんけれど。その信念に従って精一杯生きる事こそ、武士の誇りという事ですわ」

「信念に従うか。今回の松永弾正少弼が持つ、信念に従った行動だと梅は言いたいんだな」

「真意は分かりません。ですが根底にそういったものがあると、私は睨んでおりますわ」

「ふむ。そういう事なら、実際に弾正少弼に会う必要があるな」

「御意。・・・・で、ハニー。一真隊の動きはどうなさいますの?」

「最悪の状況にならないように、久遠の護衛だけに力を割くつもりだ。久遠だけは守り抜く、それが俺達の仕事だ」

「了解です!きっとお譲りしてご覧に入れますよ!」

「頼りにしてるぞ、小波」

「お側に」

「悪いが、先行して麦穂達の周辺に、松永方、もしくは三好方の草や兵隊が潜んでないかを探ってくれるか?天の眼でも限度はあるからな」

「御意。・・・・居た場合は?」

「・・・・そちらで任せる」

「承知。では速やかに処理に向かいます」

と言って行ってしまった。天の眼=衛星カメラから見ても分かるが、このままでは小波に出番がないので行ってもらうことにした。きっと小波なら、適切に処理してくれるだろう。

「詩乃と鞠は俺の側に。ひよ、ころ、梅の三人は部隊配置の相談しといて」

と言ったら返事をしたので、早速行動開始だ。各員に指示をしてから、俺達は行軍で混雑する街道の脇を駆け抜ける。後方にいた俺達は先行する久遠に、追いつこうとして走った。走る事数十分。先行する久遠達に合流した一真隊は一糸乱れぬ動きで、周辺警護のための配置についた。ひよところの指揮も、中々いい動きだ。が、梅の指揮する行動の方がよかった。さすが近江の麒麟児かな。久遠が連れている仲間は壬月、エーリカ、葵と歌夜。それに馬廻りを入れて総勢五百に一真隊を加えて七百。その七百の集団が、瀬田に向かって駆け足で進軍しているのだが、あと数里で到着、という場所で一度休息を取る事になった。休憩している一真隊の仲間達に声をかけていると、視線の先に葵と歌夜がいたので俺は二人に話しかけた。

「あれ?綾那と女狐じゃなくて悠季は連れてかないのか?」

「あの二人は松平衆の引率を頼んでいますから」

「そうか。歌夜とは久しぶりだったな。元気にしてたか?」

「うふふ、はい。ご無沙汰しております一真様」

ペコリと頭を下げた歌夜が、上目遣いで俺を見る。

「しかし、私如きに易々とお声掛け下さるなんて。相変わらず何だなと思います」

「相変わらずというのが気になるが、気にしないでしておこう。歌夜は葵の護衛か?」

「はい。我ら松平家は立ち会い、という立場になります。しかし相手はあの松永弾正少弼。・・・・何があるか分かりませんので」

「その判断は正しいけど、小波をそちらに返そうか?」

「いえ大丈夫です。葵様は私一人で充分、お譲りする事は出来ますから!」

「ええ。歌夜に任せておりますれば、小波は一真様がお使い下さいませ」

「ありがとう。ちょうど小波は一真隊に居てもらわないと困るからな(衛星カメラやトレミーで詳しく情報経由できるがこの場合はこう言わないとな)」

「まぁ・・・・ふふっ」

冗談のように言ってみたら、葵は微笑みで返したけど。

「一真様」

「壬月か。柴田衆の配置は完了か?」

「うむ。滞りなくな。・・・・三若率いる母衣衆も配置についた。譲りは万全だが・・・・」

「軍勢は軍勢にしか対応できねーからな。一真、久遠様の譲りは一真が頼りなんだ。頼むぞ」

「誰に物言っているんだ?人一人守れなくて何が神仏の類なんだか」

ここにいる全員が久遠の事を大切に思っている。なら、その願いを叶えるのが神の役割だ。

「で、一真様の隊の配置はどうなっておる?」

「一真隊は、小波が草刈り。俺と鞠で久遠の護衛。詩乃は軍師。ひよ、ころ、梅の三人が隊の指揮を担う・・・・ってな感じだ」

「ふむ。・・・・詩乃。もしもの場合は詩乃の軍略に頼る事になる。しかと頼む」

「承知致しました。状況把握に努め、事ある時は素早く対応致しましょう」

「うむ。・・・・では殿」

「・・・・(コクッ)」

「休憩は終わりだ!進軍するぞ!全員駆け足ー!」

壬月の下知を受け、馬廻りは騎馬に鞭を入れ、足軽達は駆け足で動き始める。街道を砂煙を上げながら走る織田の軍勢。その流れに、身を任せながら空を見上げた。俺らの真上にはトレミーがいるし、鬼が出るのか蛇が出るのかドウターが出るのか?二条館にいるはずの一葉達の事も気に掛かるが、俺達は麦穂が待っている瀬田の大橋に向かった。やがて時間が経過して俺達が瀬田に到着したのは夜になってからだった。 
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