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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第五十八話 ぼったくり野郎に制裁を!

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領港町サマルスにて。
バート交通公社の客船を襲った海賊の生き残りは帝国水軍によって捕縛された。
彼らはこの町で取り調べの末、アルケイディア帝国の法に則って裁判にかけられると帝国水軍がその場で公表した。
その後、軍船に囲まれながら海原を進み、現在はサマルスにいる。
そして港に降りる際に、バート交通公社の社員から慰謝料を渡された。

「あ、貴方がたは海賊討伐の際に協力してくださった人達ですね。船長よりこれを渡すよう申し付けられてます」

セアとバルフレアとフランの3人は慰謝料とは別にギルの入った袋を社員から渡された。

「あの海賊ってどうなるんだ?」

ヴァンが帝国軍によって連行されている海賊達を見ながらつぶやく。

「よくてナルビナ送りだな」

バルフレアがどうでもいいように呟く。
それを聞いてヴァンはやや顔を青くした。
王宮に忍び込んで帝国軍に捕まった際にナルビナの地下牢にヴァンは放り込まれたことがあるのだ。
その時のことを思い出しているのだろう。

「それでこれからどうする?」

バッシュが皆集まっているのを確認して言った。

「このまま地方都市や村に寄りながらナルビナに向かうべきだわ」
「オレもだな」

アーシェの提案にバルフレアも賛成の意を示す。

「俺としては一度ラバナスタに寄るべきだと思うが……」

セアは控えめに提案する。

「なぜですか?」
「ラバナスタからナルビナに向かう商隊は多い。それに紛れていけば安全に国境まで近づける」
「……」
「それに食料やらなんやら買い込んでおくべきだ。地方都市ならともかく村だとそんなに買い込めないと思うからな」
「……そうですね。一度ラバナスタに戻りましょう」

アーシェはセアの提案を受け入れ、バルフレアも渋々頷いた。

「それなら西のギーザ草原から北上した方が早いわね」
「そうか、なら急ぐぞ。今日中にギーザ草原にある遊牧民の集落には着きたいからな」

話が纏まり、周りを見回した時に一人足りないことに気がついた。

「おい、馬鹿弟子は何処に行った?」
「ヴァンならちょっと小便しに行ってくるって言ってどこかに行きましたけど」

パンネロの返答にセアは少し呆れた表情をして顔を手で押さえた。



アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。
港町サマルスと出て2日でセア達は王都に戻ってきた。

「アーシェ達のガリフ行きに付き合って、まだ1ヶ月位しかたってないはずだけど、随分懐かしく感じるな」
「色々あったからね」

パンネロの言葉を聞いてヴァンは腕を組んで今回の旅のことを思い返す。
ガルフの里で本音をラーサーと再会したり、アーシェにぶちまけたり、神都行きがきまったり。
エルトの里がフランの故郷が判明したし、亜人達がごちゃまぜで暮すラバナスタは珍しい場所だと初めて知ったし。
神都だとロザリアのお偉いさんが出てくるし、アルケイディアの皇帝が暗殺されたなんて爆弾発言されるし、他にも覇王の遺産があったことがわかったし。
そしてミリアム遺跡だとなんかベリアスに似た……マンティコラだっけ?とかがいたし。
そうして【覇王の剣】を手に入れて遺跡を出たら神都から火が上がってるし。
戻ったら戻ったでジャッジマスターの一人倒しちゃったし、セアが自分の過去を暴露して珍しく激怒してる姿をみたり。
うん。本当に今まで一番色々なことが起こった1ヶ月だったと何度もヴァンは頷いた。

「おい、ミゲロさんに挨拶しにいっとけよ。10日間程度で戻れる筈なのに1ヶ月以上留守にしてたから多分心配してるだろうからな」
「わかった。セアはどうするんだ?」
「俺は……そうだな。とりあえず砂海亭でトマジを取っちめる」

セアは明らかに暗すぎる声を出してヴァンとパンネロに言うと市街地の方に走り去っていった。
その言葉を聞いてヴァンはセアがトマジにぼったくられたとか言ってたことが脳裏を掠めた。

(そういや、破産寸前まで高級の蛇酒を飲まされたとかどうとか……トマジ、生き残れるかなぁ)

ヴァンはトマジのことを心配しつつ、空を仰いだ。

「オレらは砂海亭に酒を飲みに行くつもりだったんだが……これだと先に必要なものを買いに行った方がいいな」
「そうするべきだとおもうわ」

バルフレアはセアが走り去った方向を見ながら呟き、フランはそれに同意した。



砂海亭の扉を開けたセアはカウンターの方に視線を走らせる。
そしてセアのことに気がついたトマジが目に入った。
トマジは店員を押しのけて逃走を図るが店の奥に入るよりセアの右手がトマジの肩を掴むほうが早かった。

「おい、トマジ。俺が来た途端引っ込もうとは一体どういう了見だ?」
「それは……その……」

トマジは顔が冷や汗だらけになっている。

「あのさ、とりあえず飲もうぜ。奢ってやるからさ」

セアの言葉に流石に他の店員が反応を示す。

「おい、まだトマジは仕事中――」

セアはポケットからバート交通公社から渡された慰謝料が入った袋を店員に突き出す。

「それは全て君へのチップだ。大目に見てくれ」
「は、はい!」
「ところでトマジ君の仕事時間は終わってるのかな?」
「はい、たった今終わった筈です」

店員の宣言にトマジが口を挟む。

「まだ数時間程働かなきゃいけない筈なんですけど……」
「安心して休め!店長には話を通しといてやる」
「え?ちょ、給料に影響が出ると思うんですが――」
「安心しろ!お前が今日一日仕事する儲けより、この人から貰ったチップの方が高いからな!」

トマジの必死の足掻きを店員は悉く一蹴する。

「では、2名様ご案内!!!」

店員はそう言うとセアとトマジを2階の席に案内した。

「よし、飲もうか。何を飲む?スーパーデンジャラスジュースでも飲むか?」
「いやいやいや!それあれだからね!?飲みきったら1000ギルあげますっていう企画あるくらいの凄まじくアレな液体だからね!!?」

トマジが店の壁に張ってある企画のポスターを指差しながら必死に叫ぶ。

「悪いただの冗談だ。シェリー酒でいいか?」
「ああ、じゃ、それで」

セアは店員にシェリー酒を注文すると真顔になってトマジと向き合う。

「それで数ヶ月前の蛇酒のことについてなんだが……」
「すいません!出来心だったんです!許してくだッ……さい」

そう言いながらトマジが物凄い勢いで立ち上がるとこれまた凄い勢いで頭を下げる。
……勢い余って木製の机に頭が激突し、セアは噴出しそうになるのを必死に我慢する。

「……いや、出来心で無一文になった俺からすればまったく笑えないが、まぁいいや」
「いいのか?」
「ああ、おかげで色々気になることができたからな」
「気になることって……?」

トマジが不思議そうな顔をして尋ねる。
するとセアは悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。

「そうだな。たとえばお前がロザリアの諜報部に所属してるって話とか?」

トマジは出てきたばかりの酒を口に含んでいたため、酒を噴出した。
噴出した液体はあっというスピードでお盆でガードしたセアには届かなかった。

「ああ、もったいない。20ギル弁償しろ」
「金の話はひとまずおいといてだな!なんで知ってるんだ!?」
「アルシドから聞いた」
「……アルシドって諜報部のトップのアルシド?」
「その絶倫野郎以外にどのアルシドがいるっていうんだ?」

トマジは青い顔をして「なんで諜報部のトップと知り合いなの」とか「アルシドに彼女を奪われたって泣いていた上司の話は本当だったのか」とブツブツ呟いていた。
その呟きを聞いてセアが「あの馬鹿はどこまで下半身が元気なんだ?」と顔を青くしていた。

「……それでだ。お前いつロザリアの諜報部に入ったんだ?」

今度アルシドに会ったらとりあえずアルシドの下半身目掛けて{サンダガ}をぶっ放そうと思いながらセアはトマジに問う。

「敗戦直後さ。稼ぎ頭だった父が戦争で死んでからなにかと金が必要になってな。そんな時にロザリアの工作員と接点をもってな」
「抵抗はなかったのか?」
「アルケイディアに一泡吹かせたいと思ってたからな。それに今までどおり砂海亭で働きながらでいいって聞いたからな」
「なるほど」
「一応、このことはヴァン達には黙っててくれよ。色々面倒なことがおきそうだから」
「そうか、ならお前がロザリアの諜報員だと街中に触れ回ればこの前のぼったくりに対するいい復讐になるな」
「勘弁してください!!!」

そんなトマジの魂の叫びにセアは曖昧な笑みを浮かべながら酒を煽った。
因みにトマジがセアに対して買収攻勢をかけてようやく自分が諜報員であることを秘密にして貰えた様だ。 
 

 
後書き
トマジ「うぐぐ……(泣」
店員A「おい、トマジの奴どうしたんだ?」
店員B「詳しくは知らないがなぜか今月の給料が吹っ飛んだらしいぞ」 
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