もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
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短編外伝乱離骨灰
前書き
昔、一本だけSAOの小説書いた事あるのよ。
内容はSAO事件の間、何故プレイヤーの頭皮は皮膚病にならなかったのかって話。やー、我ながら酷い作品だったなぁ・・・
時系列:なのは16歳の時代
場所:第97管理外世界 地球 電脳世界・アインクラッド
現実世界には存在しない1と0の狭間の浮遊城、アインクラッド。
このVR世界に1万人のプレイヤーを巻き込むデスゲームが・・・・・別に起こっていない。いや、実を言うとそれに近い事件は何度か起きているのだが、色々あって最終的に犠牲無しで無事解決している。
どっかの転生者が起こしたバタフライ効果が茅場晶彦の考え方を微妙に変えてしまったため、歴史の前倒しや別のVRゲームとの相互作用など色々起きているのだ。だから別にデスゲームは起きていない。本気で死にかけた奴は沢山いるが。
そしてそんな世界の片隅で、2人のプレイヤーが他愛のない会話をしていた。一人は野武士のような格好をした男、クライン。もう一人は全身黒づくめの格好をした少年、キリト。二人はこのオンラインゲーム「ソードアート・オンライン」開始初期からの知り合いで、VR内で起きた様々な怪事件で力を借りた親友でもある。そしてそんな親友のクラインが、一つの疑問をキリトに投げかけた。
「・・・俺が黒好きな理由?」
「おう。聞こう聞こうと思いつつ、結局今まで聞き損ねてたからな」
クラインからの言葉に、そういえばその話はしたことが無かったなと思い出す。クラインともそこそこの付き合いになるが、思えばアスナにも話したことが無いかもしれない。このSAOの世界に入り浸り始めてから早数年、様々な事件があってたくさんの思い出が出来たが、それに立つ向かうきっかけになったのも元を辿ればこの黒のおかげなのかもしれない。
「ひょっとして答えたくない事だったか?それとも特別理由ないとかか?」
「いや、あるよ。隠す事でもないし・・・お前とはリアルでも知り合いだから言っても問題ないか」
僅かに気まずそうな顔をするクラインの言葉に首を横に振る。クラインが聞き損ねていたように、キリトもまた話し損ねていただけなのだ。
「昔・・・って言うほど前じゃないか。俺、小学校を卒業するまで今とは違う街の学校に通ってたんだ」
「フーン。するってぇと2,3年前くらいか」
「それ位だな。えっと・・・」
それは、キリト―――桐ヶ谷和人が家族についての真実を知ってしまった日に遡る。
その日以来、今まで家族だと思っていた父と母が、妹が、まるで別人のように思えてきた。仲が良かったはずの家族という関係がこんなにも脆いものだったとか、当時の和人にとってはショッキングだった。
当然と言えば当然かもしれない。まだ10歳だった和人には、自分の両親が既に死んでおり、自分が養子だったなどとそう受け入れられることではない。・・・が、しかし。
「なんと俺のクラスに俺そっくりな境遇の奴が一人いたんだなぁ・・・」
「・・・・・・何と言うか、凄まじい偶然だな、それ」
真っ黒な服が好きで、艶のある綺麗な黒髪が印象的な男の子だった。今も時々連絡を取り合っている程度には仲がいい、和人より一回り小さい子だった。しかも、似ていたのはそれだけではない。和人の家は剣道をやっていたのだが、彼も剣道をやっていたのだ。そして好きな色が黒というのも共通。流石に、少しばかり運命的なものを感じた。キリトは勇気を振り絞って彼に声をかけた。彼はかなりマイペースな性格だったため話がかみ合わない事もあったが、概ね友達と呼べる関係になることが出来た。
最も剣道の腕前は軽く人間の域を超えており、当時和人の通っていた道場で最強だったシグナムさんという先輩をもってして「勝てないかもしれない」と言わしめるほどだった。そこで思い出したのだが、1年前にシグナムさんと試合をして竹刀をへし折ってしまった少年の名前がその彼だった事に気付いた。あの日偶然道場に遅刻して、折れた日本の竹刀を見ながら静かに涙を流す父の背中を見た覚えがあった。
「竹刀って、折れるものなのか?」
「ぶっちゃけ折る方が難しいと思う。どんな試合だったのやら・・・」
「ところでシグナムさんって何人だよ?」
「いや、知らん。ただすげぇ美人ではあった」
「・・・女の人かよ!キリト、紹介しろぉ!!」
「落ち着けバカ!」
2学年ほど下でも違和感がないほど小さな彼はしかし、自分の境遇に不満や違和感は抱いていないようだった。自分は真実を知ったことでこんなにも揺らいでいるのに、何でこの小さな同級生は毎日平気そうな顔で家族と接していられるのだろう?
「何で平気なのか、聞いたよ。なんて言ったと思う?」
「想像もつかねぇな・・・何でだって?」
「”拾われる前の事は何も覚えてないから、本物の親と違いが分からない”ってよ」
「おいおい・・・まぁ心理ではあるな。知らないんじゃ戸惑い様もないってことか」
「うん。俺とちょっと事情は違ったけど、後頭部にガツンと鉄槌ぶつけられた気分だった」
目が覚めた気分だった。自分は果たして何を気にしていたのだ、と天啓を受けた気さえした。そうだ、本当の両親さえ知らないのに自分は何を気にしているんだ。ずっと自分を家族として育ててきたのは他ならない”今の両親”だろう。溝は出来たんじゃない、真実を知った時に自分で作ってしまっていたんだ。
そのことに気付いた和人は、自分が家族にとてもひどい事をした気がして家へ走った。一刻も早く、今更そんなことを考えてしまったことを謝りたかった。そして―――幼かった少年は、信号無視のトラックが自分に突っ込んできている事に気付かなかった。
気付いた時にはトラックは目の前で、これは死ぬなと悟った。
「でも死ななかった。怪我一つしなかったよ」
「誰かが助けてくれたのか?」
「うん。その頃、町で都市伝説があってさ」
曰く、それはピンチの人を救うために現れる。
曰く、それは顔を隠すように漆黒の兜を付けている。
曰く、それは美しい装飾の大きな西洋剣を武器にしている。
曰く、それは決して相手の血を流さないことを信条としている。
曰く、それを人々は正義の味方―――「漆黒ナイト」と呼ぶ。
「吸い込まれそうなくらいに黒い甲冑だった。とにかく俺、そのしっこくに助けられたんだ。正直噂の事は信じて無かったから、すげぇビビった。でも格好良かった」
「・・・・・・」
「あっ、クラインお前信じてないな!?マジで格好良かったんだぞ!?身長2メートルくらいあったし!!」
「あぁ・・・うん。まぁ、アレだ。何があっても俺達は友達だろ?気にすんなよ!」
「その言い方すげぇムカつく・・・ッ!!」
ずっと見とれてたけど、後からやってきた少年に呼ばれてはっとした時には、既にしっこくは居なくなっていた。お礼を言う暇も無かった。でも、それを言うと少年は大丈夫だと言った。
漆黒ナイトは自分の騎士道を通すために和人を助けたのだ。お礼を言われたくて助けたわけじゃない。感謝は気持ちだけで十分伝わる、って。
「騎士道ってスゲェ。素直にそう思ったよ。俺もああなりたいな、ともね」
「ガキの頃はみんなそうだろ。特撮ヒーローやアニメの主人公やらに憧れて育っていく。俺だってそうしてこのゲームでカタナ使いやってんだ」
でも、少年は和人よりも早くから騎士を目指していた。剣の腕前は知ってたから、自分よりよっぽど強い騎士になるだろうと子供だった和人は思ったのだ。きっと騎士を目指しても自分は少年には勝てないだろう、と。騎士は最強というイメージがあった。だから最強ではない自分は騎士になれないと本気で考えた。
「そしたらさ、アイツこう言ったんだ」
『なら、騎士じゃなくて勇者になりませんか?勇者は沢山仲間がいるから、最強じゃなくても最高の剣士になれると思います』
理屈は全く分からなかったが、最強じゃなくて最高、というフレーズが和人の心を掴んだ。漆黒の鎧に身を包んだ騎士にはなれずとも、漆黒の衣をまとった勇者ならば自分も目指すことが出来る。
「その為にあいつから剣を習った。実は俺の二刀流も元はあいつに教えてもらったものなんだ」
「マジかよッ!?」
「最近会ってないんだよな、あいつ・・・元気かな」
と、そんな他愛もない話をしていたキリトの索敵スキルが一人のプレイヤーの姿を捉えた。
小柄な体躯に黒い鎧と2本の剣を抱えた少女が歩いてきていた。
「うう・・・僕男の子なのに、何でナンパされるんだろう。やっぱり課金してアバター作り変えないとコレ続くのかな?」
・・・訂正。どうやらあれでも男らしい。かなり女顔にアバターだし、鎧のプレートが若干女性ように見えなくもない形状をしているから女の子と間違えたのだろう。
しかし、とキリトは思う。言葉では説明できないが、何となく彼の雰囲気が”似ている”ような・・・?
「誰だろ、あの子。この辺じゃ見ない顔だな?」
「・・・・・・まさか、な。いやいや、まさかそんなことは・・・」
数分後、件の少年と目の前の少年が同一人物であるという衝撃の事実が開かされた。
プレイヤー名、Midori。名前の由来は、若緑。
= = =
時系列:なのは14歳の時代
場所:第6管理世界 アルザス地方
パパとママは言ってました。私は特別な子だって。私のキャロって名前は、竜の子さまという特別な人が付けてくれたんだって。そして、昔話では竜の子さまは龍神さまのおつかいで、迷える人々を静かなる園に導いてくれるそうです。
その話を竜の子さまにしたら、難しい顔をされてました。
導いてほしいのなら導くけれど、そこが皆にとって一番いい場所かはわからないんだそうです。そして、皆がそうしたいのならここに残ることも、まだ見ぬ世界へ旅に出る事も止めないと言っていました。
龍神さまは人を越えた力と英知を持ち、喧嘩ばかりしない良い人の心を園へと導いてくれると教わったのに。そして、龍神さまと人の間を取り持つのが竜の子さまだって教わったのに、違うのですか?と私は竜の子さまに問いました。
「キャロちゃん、覚えててほしい。人はね?本当は龍神さまがいなくても生きていけるんだ」
「りゅーじんさまがいなくても?」
「うん。龍神さまはね、自分で自分の生き方を選べない弱い人たちを助けるのが仕事なんだ。でも、強い人なら自分のやりたいことは自分で決められるから、龍神さまが助けなくても困らない。龍神さまも安心してその人を送り出せる」
「・・・じゃあ、竜の子さまも弱い人なの?」
「おっと、そう来たか。うーん・・・俺は好きで竜の子をやってるんだ。龍神様に言われたからしてるんじゃなくて、してあげたいと思ったからしてるんだ」
「じゃあ、やらなくてもいいのにしてるんですか?」
「うん。龍の子とならずに星に帰っちゃう事も出来たけど、この里の皆に知らんぷりは可哀想で出来なかったからね」
難しくて全部はよく分かりませんでした。でも、竜の子さまが優しいってことだけは、何となく分かりました。いつか私も竜の子さまみたいになりたいと、憧れました。竜の子さまは時々しかこの里に来てくれないけれど、いつも見守っているって長老さんも言ってました。
だから、今日も私ははなよめしゅぎょーを頑張ってます。
でも、はなよめって何なんだろう?お父さんとお母さんが「キャロは竜の子さまの花嫁になる」って言ってたけど、未だによく意味が分かりません。強くなったら教えてくれるかな?
―――竜の子の伝承は口伝での言い伝えの為、本来の意味が曲解していたり、存在しなかった言い伝えが増えたりする。その言い伝えの中に、「一族は竜の子との橋渡しとして、一族で最も強い力を持った心清らかな女子を嫁がせる」というものがあることを、シャインとキャロはまだ知らない。
= = =
時系列:なのは12歳の時代
場所:司書の世界
「おい司書」
「はいはいわかってますとも。彼女の事でしょ?」
「・・・今日は随分ご機嫌斜めだな」
「斜め上45度くらいだよ」
普段と違いぶーたれた顔をしている司書に面喰いつつも俺はその場所に久しぶりに足を踏み込んだ。前に比べると5,1インチのワイドテレビと複数のゲーム機が増えた以外は大きな変化が無い。というか本を組み合わせて疑似的なテレビ台を形成している。作ったのは俺だが。
なぜ俺が司書の空間に入れるかって?それはね、月子ちゃん暴走事件の解決報酬としてここに入れるようになったからなんだよ。優しくお願いしたら許可してくれたんだ。別にこっちの世界にライターとガソリン持ち込んでいろいろあぶろうとしたわけじゃないよ?
「先に断っておくと、彼女は僕の管轄じゃない。彼女の言う司書は僕じゃないよ」
「はぁ?」
「だから、彼女を人外にしたのは僕じゃない。多分、前任者の仕業かな」
「前任者って・・・ちょっと待てよ。それおかしくねぇか?」
彼女の年齢は太陽暦換算で約15歳。本人の体感では意識が覚醒してからまだ6,7年しか経っていないそうだ。そして我が友人にして転生者の平賀才人は現在18歳。転生者として意識が覚醒したのが10歳くらいだと言っていた。時系列的に考えれば彼女が転生者としてフラスコの中に入ったのは才人より後になるじゃないか。才人を転生者にしたのがこいつなのに前任者とはいったいどういう事なんだ。入れ替わり激しいのか?
そんな俺の疑問に、司書は「それは前提からして間違ってるね」と呟いた。
「ここの時間とフラスコ内の時間はイコールではないよ。劇物を入れる時代も観測する時代もこちらで任意に選べる。だから前任者と後任者の投入した劇物がブッキングすることだって当然としてありうるのさ。やってる側の感覚としては、お気に入りのページまで話を飛ばしたり戻したりしてそこにキャラを転がす。後の調合性はフラスコが勝手にするさ」
「ふむん・・・しかし前任者と後任者って、ここ入れ替わりあるんだな」
「まぁね。ちなみに僕もいずれはここを出てどこかに行くことになる・・・君が生きているうちにはないと思うけど」
ちなみに後任者は天野雪輝というらしく、今はどっかで研修中だそうだ。どっかで聞いた名前だが気にしないことにした。
「はぁ・・・本当はね?人の魂を人外の肉体に入れるなんて危なすぎてしちゃいけないんだよね。精神とのバランスが取れなくて崩壊するのが殆ど。彼女は高度な知的生命体だったから理性を保ってたみたいだけど・・・」
「例えばサルの中に人間の魂を入れても、人間と同程度の知能にはならないって所か?」
「乱暴な例えだけど大体はそゆコト。魂の情報と不一致がありすぎると調合性が取れないのよ。まったく・・・あのクソ女め、書類くらい残しておけよ」
目頭を押さえて心底忌々しそうにぼやく司書。此処まで感情的になっているのを見るのも初めてだ。司書の書類を盗み見てみると、前任者の名前はEASYという女だったらしい。正直、いい感情は持ち合わせない。何かしら不祥事を起こして余所に飛ばされたようだが、用語が多すぎて今一解らなかった。ともかくその女の所為でアヤノは随分苦しんだらしいことは分かった。
しかしクソ女と来たか。余程司書は前任者が嫌いなようだ。まぁ不祥事を起こして飛ばされたというくらいだから碌でもないのには違いないだろう。司書の不祥事なぞ想像もつかないし誰が飛ばしたのかも知らんが。
「・・・・・・まぁそういう事だよ。むしろ彼女がいたってことは僕の把握してない転生者がまだいるって事だろう。色々調べなくちゃならんから今日は御引き取り願えるかな?」
「ン・・・分かった。忙しい所悪いな」
「それと」
何だ?と思って後ろを振り向くと、真剣な司書の顔があった。
「僕は基本的にフラスコ内に干渉できないから無責任な言い方になるけど・・・アヤノちゃんのことは君に頼むよ」
頼みに、シャインはひらひらと手だけを振ってフラスコの中に戻っていった。態々いうまでも無かったか、と笑みがこみ上げる。
シャインは自分の受け持った劇物の中でも最も強固な精神を持っている。それは自分という存在を割り切っているということだ。彼は目の前で困っている人は助けるが、紛争地帯で苦しんでいる人たちは接点でもない限り決して助けない。自分なら助けられると分かっていても何もしないという選択ができる、ある種で人間的じゃない精神力を持っているのだ。
故に手の届かない場所にいる人間にはどこまでも非情で無関心。でも―――関わってしまえば見て見ぬふりはしない。そういう意味では彼はフラスコ内に干渉する者としては最適と言える。欲が無く、程よいドライな感受性を持ち、しかし人であることを捨てはしない。何より彼は無限力のためか「あるべき世界」をよく理解している。
英雄では駄目だ。
悪役でもいけない。
凡役にはなりきれない。
囚われのヒロインになるほど弱くはなく、正義と欲望をはき違える狂人でもない。いわばそう、物語の調合性を保つお助けキャラ。それがシャイン・テスタロッサだ。
「抑制され過ぎても、刺激が強すぎてもいけない。シャインみたいなのが一人いると、フラスコの中が安定するね。新しい転生者を投入してもバランスが崩れないほどに・・・っと」
整理していた書類の中から目当ての資料を発見する。随分深い所に埋まっていたが、これが司書の見たかったものだ。簡易書類だがそれは劇物を内部に入れる際に自動発行される、劇物に関しての情報が記された書類なのだ。本来ならばまとめて前任者が司書に手渡すべきものだったのだが、恐らく態とこんな所に埋めたのだろう。せいぜい飛ばされた先の癖所で勝手に争っていればいい、と吐き捨てながらそれを手に取った司書はそれの一枚目をめくり―――
「あ・・・あ・・・あんのクソ女ぁぁぁーーーーッ!なんて、なんてものを入れてくれたんだ・・・ッ!」
有らん限りの怒りを込めて前任者を罵った。書類を握り潰し、怒りに震える腕をデスクに叩きつける。これは、この力はまずい。シャインでも抑えきれるか分からない。下手をすればフラスコそのものが砕け散って修復不能になる、そういうものだった。
通常ならばそんな能力を劇物に与えてはいけない。そういう意味ではシャインの能力もかなり危険なのだが、これはそれ以上だ。
だから司書はフラスコを割るような劇薬は投与してはいけないというのに。
能力の欄には一言、こう書いてあった。
「Chaos」と。
それの意味するものは―――混沌。
天地人の無い世界、原初への回帰。
今現在シャインたちが存在する次元の、ひいては観察すべきフラスコの―――
「・・・っていう力なんだけど、僕もガイアセイバーズに入っていいかな?」
その人の良さそうな少年は、ガイアセイバーズの隊員スカウト活動の途中に突然声を掛けてきた。恐らく10代前半だろうか?自分よりも2,3歳年上に見えた長めの銀髪と浅黒い肌の色が印象的で、どこか浮世から離れた印象のある男だった。シャインは顔を合わせるなり、この男も自分と同じ転生者であることを悟った。向こうもそのような気配を感じたらしく、話せばすぐに互いの事情を察することが出来た。
「・・・やっぱり、駄目かな?こんな危ない能力持ってるんじゃ、一緒にいて安心できないと思われても仕方ないし・・・」
少年は少し寂しげに眉尻を下げる。予想していた、とでも言うような反応だ。
しかしこれで聞いているのが自分じゃなかったらその能力を「冗談だろう」と一笑に付したろうとも思う。逆を言えば、笑わなかったからこそ彼はこちらが内容を理解したうえで、拒絶するだろうと思っているのだ。が・・・こんな貴重な人材をみすみす逃すほどシャインは暇な男ではない。
というか、この機を逃してなるものか。絶対にこちら引き込ませてもらう。
「なに、危なっかしさで言えば俺のチートも似た様なもんだよ。間違っても本気は出せないからな・・・アンタの不安も分からないではない」
「そうかな?嘘でもそう言ってくれると嬉しいよ」
「みんな多かれ少なかれ自分の力を怖がってるんだ、”俺達”は。だから種族が違おうとこうして互いに言葉を交わしていられる。嘘の無い会話ができる」
「・・・・・・シャイン、君は僕より幼いのに確りしてるんだね。僕も、もっとちゃんとしないとな」
どんな人生を送って来たのかまでは分からない。だが、彼には家や帰る場所は無いらしい。だから、ガイアセイバーズに身を置かせてほしいという事だった。能力も応用を利かせばガイアセイバーズで戦うに足るものだ。それに・・・本部はテスタロッサ家と直通なので、あそこで暮らせば寂しくはないだろう。
「全然オッケーだよ?これからよろしくな。シア・サティーシュ」
「シアって呼んでよ。僕の方こそ宜しく、シャイン」
(・・・にしてもこいつの能力にはブッたまげたな。応龍皇でも流石にそれは出来ないからな)
内心シャインは早い段階でこいつと会えて良かったと心底ほっとした。
彼の能力が余りにも規格外だったからだ。彼と戦って生き残ることは出来ても、勝つことは不可能だろう。何故なら彼が相手ではシャインの考える勝利目標を達成できないから。
何故ならその力は―――
―――物質・精神世界そのものの、消滅。
この日より、「シャインが彼の機嫌を損ねたらフラスコが壊れるかも」という恐怖と戦うために胃薬を用意した司書の孤独な戦いが開始される。
実際の所、シアはこれでもかというくらい人がいいのでそこまで心配することはなかったのだが、後に遊びに来たシャインがそんな彼の様子を見て首を傾げる事になる。
ガイアセイバーズ隊員№3 『シア・サティーシュ』
分身苗に続いて3番目に入隊した孤児の少年。身体能力が非常に高く、気功の様な術も使える。また、実は彼の肉体は現実世界とは違う次元に存在するため一部の物理法則を任意で無視することが出来る。
実数領域(物質世界)と虚数領域(精神世界)から成る領域すべてを消滅させる能力を持つ。滅ぼすのではなく存在そのものを無かったことにする概念的な能力だが、詳しい説明は難しい。聖職者と疑うほどにやさしい心の持ち主だが、意外と傷つきやすい性格。シャインには万が一自分の能力が暴走した時に止めてくれるかもしれないという期待を抱いている。
後書き
2015 9/11 ゼノサーガの設定を見直してカン違いなど修正
設定はゼノサーガより。名前の由来はギリシャ語で「不滅の傍観者」。
何の因果かケイオス君の力を手に入れてしまった少年。ケイオス君に似てはいるが、似ているだけでやはり違う人物です。髪もケイオス君より長く、後ろの方で三つ編みにしてます。ロストエルサレム時代の状態なのでアニマの器が分離してない。ゼノサーガ本編ではもっと複合的に絡み合ってるけどそれを喋ると唯のゼノサーガ解説小説になるのでカット。
実際にはシアの力を制御する対存在『アニムス』とそれを更に手助けする巫女がいないと危なすぎて使えない力なのだが、自力制御は上位領域たる司書の都合である程度効くらしい。で、アニムス及びストッパーの代役アンド下位領域保護機能としてシャインを見出したようだ。
前世は34歳の「いいよいいよ」が口癖のサラリーマン。上司に無理やり酒宴につき合わされ、急性アルコール中毒で死亡した。妻子もいた。自分の危険な力について相当悩んでいたらしく、何度か自殺も試みたらしい。
多分霊を成仏させたりすることも出来る。というか、下手したら生きとし生けるもの全てに終わりをもたらせるかも。
おまけ これがガイアセイバーズだ!!
総司令官 シャイン・テスタロッサ
魔の総司令官 プレシア・テスタロッサ
裏の総司令官 リニス・テスタロッサ
真の総司令官 フェイト・テスタロッサ
影の総司令官 アルフ・テスタロッサ
超総司令官 フェリシア・テスタロッサ
技術部最高顧問 アヤノ・テスタロッサ
極東支部総司令官 ナエ・オオトリ(分身)
「何と言うか、個性的な名簿だね。というかこれ殆ど君の家族で構成されてるし・・・」
「好きな役職選べるけど、シアは何にする?自分で作れるぞ」
「え?えっと・・・それじゃあ僕は本部の常駐員で」
「わかった、こうだな!」
本部警備主任顧問 シア・サティーシュ (New!)
(えー・・・自宅警備員の最高位みたいな称号貰っちゃったな・・・)
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