もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
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外伝 苗っち、幻想郷でいらんことする
前書き
昔に書いた短編を発掘。どうせ続きも書かないと思うので折角だから投稿しました。
「お酒は二十歳になってから」。
これは最早現代社会では知らない人のいないくらい有名なキャッチコピーであり、未成年者飲酒禁止法をその根拠とするものだ。この法律は大正11年の・・・って、そんなことはいったん置いておく。
とにかく、子供は酒を飲んではいけない。何故かと言うと、酒に含まれるアルコールが未成年の発達途上な肉体に数多くの悪影響を与えてしまうからである。主要先進国でもこのことは知られており、大体どの国もアルコールを摂取していい年齢は早くても十代後半、遅ければ二十代にかかるまでの若者にアルコールを含んだ飲料、つまり酒を与えてはいけないとしている。
成人でさえ急性アルコール中毒になって死亡することを考慮すれば、これが決して大げさな問題ではないことが分かるだろう。購入は勿論与えられたからと言ってそのまま飲むのも以ての外。強要された場合は絶対拒否すべきである。
ちなみに、飲酒を強要させて相手に健康障害が出たりした場合、飲ませた側は刑事責任に問われることもある。もっとも―――
「うぃー・・・アタシの酒が飲めねえってーのかい?苗さんよーう!」
「うえ、酒臭い!ちょっとやめてよ萃香ちゃん!」
ここ、幻想郷には国家が存在しないので飲酒を強要しても警察のお世話になることはない。というか司法らしいものが地獄にしかない。一応里には口伝の掟―――習慣法のようなものは存在するが、厳密に成文として存在する訳ではないので曰く”暗黙の了解”の類である。
なにより、さっきから私に酒を強要するこのちびっこはそもそも”人でなし”というか・・・”鬼”だから、人間の決まりでしょっ引けるわけもなかった。
「霊夢ー!へるぷみー!!」
「やーよ面倒くさい。それに幻想郷は酒飲み多いんだから、今の内に慣れといたら?」
「や、だから私お酒弱いんだってば!!」
「鬼の酒がのめねぇってかぁ~!?」
「それさっきも言ってたから~!!」
こちらを執拗に追い掛け回して酒を飲ませようとするロリ鬼から逃げる中学生の足音が、神社に響き渡った。
「今日も平和ねぇ」
「のほほんとしてないでこのアルクホリックをどうにかしてよ~!!」
「うへへへへ!!逃げられんぞぉ~!?」
「嫌ぁぁぁ~~~!助平親父臭いぃぃ~~~!!」
ここは幻想の郷が最東端。幻想を囲い、幻想を抱く博麗の結界を見守る社。
その名を、博麗神社と云う。
(わっかんないものねぇ・・・)
湯呑に注がれた緑茶をゆっくり啜りながら、神社の巫女である博麗霊夢はぼんやりと二人の友人の追いかけっこを眺めていた。
片や妖怪の中でもとりわけ大きな力を持ち、神の一種としても知られる妖怪、”鬼”。名を伊吹萃香。ここ何年かこの神社にやってきては何をするでもなく酒を飲む宴会好きの鬼である。
見た目は未成熟な女の子にしか見えないが、彼女の頭から生えた日本の大きな角がその種族をはっきり表していた。妖怪は年を取るという概念が薄いため、あんな幼女みたいな見た目でも霊夢の100倍以上は生きている筈である。
そしてそんな彼女に追いかけられている少女が鳳苗。ここ最近幻想郷にやってきた道士の少女である。年齢は自分と同じか、少し若いくらいだろうか。東洋人らしい黒髪をなびかせながら必死に逃げる様は、余程真面目か若しくは酒に悪い思い出があるのだろう。
実は、苗と萃香が出会ったのは今日が初めてである。
そもそも苗もこの神社に来たのは今日が初めてであり、友人とはいえ然程親しいと言える間柄でもない。そんな彼女と定期的にここを訪れる萃香が出会う事には然程不自然を感じなかった。そして酒を嫌がっている苗に萃香が面白半分で酒を強要することにもたして不自然は感じない。
苗は仙術を使う仙人の見習い、道士だ。そして仙人は禁欲主義が基本。欲の対象に含まれる酒を避けるのはある種当然とも言えた。
だが彼女が分からないのは、別の事である。
こんな話をするのは変かもしれないが、私の勘はよく当たる。それは博麗の巫女に選ばれた者なら誰しもそうなるのではなく、私だけが特別らしい。幻想郷を管理するあの胡散臭いスキマ妖怪曰く、既に私のそれは予知能力に近いレベルのものらしい。そして、私はそんな事を言われるまでもなくいつも勘に従って生きてきた。
物事の判断は勘が基本。戦いにおいても勘で咄嗟に回避した攻撃は数多にある。私の大親友であり、この世に生を受けた頃から助言をしてくれるこの第六感様は、言われてみれば確かに勘の一言で片づけるには実績がありすぎる。
で、その勘が苗と初めて会った時にこう告げたのだ。
―――この子は幻想郷を滅ぼす。
余りにも突拍子もないそれは、皮肉にも一度も自分を裏切ったことのない勘が告げたものだった。私はこの時、自分の命を賭してでもこの子を止めなければいけないのだと覚悟を決めた。彼女は恐らく幻想郷に終わりを告げに来たんだ、と確信した。
が、しかし―――
「しかし、まわりこまれてしまった!!」
「うわーんずるいよその霧になる能力~!それ使うの禁止!」
「でもそれって根本的な解決にはなりませんよね?」
「ミストさんになるのも禁止!」
「何だって!?こんな理不尽、地底では考えられない・・・!」
「っていうか萃香ちゃんそのネタどこで手に入れたの!?」
「んー・・・かぐや姫の”ぱそこん”とか言う奴で」
「まさかのネット環境ありぃぃぃーーー!?」
―――蓋を開けてみればあんなのである。当然ながら全く以て危機は感じないし、むしろ普通の人間と何も変わらないようにも思えた。だが、同時に彼女が危険な存在ではないかと問われると、私の勘は否定しきれていない。
無害と危険、相反する二重判断、矛盾した存在。それが苗だった。
私は人生で初めて、判断を下せなかった。
(ま、結果として正解かしら。萃香相手にあの調子じゃ、幻想郷滅亡なんて夢のまた夢・・・)
霊夢の目線の先には未だ萃香に追い掛け回されて涙目になっている苗の姿があった。自分とそう歳の変わらないであろう少女の情けない姿に、そのような悪意が隠れているとも思えない。それもまた、霊夢の勘が告げている事実だった。
が、その瞬間。とうとう我慢の限界にきたらしい苗が反撃に出た。
「もう、いい加減に・・・せいやぁぁぁーーーーーーーッ!!!」
両足を大股開きで腰を落とし姿勢をがっちり固定。左手を正面から迫り来る萃香の方へ翳し、右手を後方へ、限界まで振り絞る。格闘技には詳しくないが、体のばねを利かせた本気の一撃に見えなくもない。まぁ鬼相手に力勝負を挑む時点で勝敗は・・・
ッ ず ど ん っ ! !
瞬間、凄まじい衝撃波が霊夢の身体を座った体勢のまま吹き飛ばした。
霊夢は肉眼では確認しきれていなかったが、その衝撃で神社の縁側に大きな亀裂が入り、石畳の一部がめくれ帰り、障子が一枚残らずビリビリに破け散った。ちゃぶ台の上の煎餅ももらい物の掛け軸も、瓦や畳さえも宙を舞い、その衝撃波で博麗神社本殿の生活スペースは甚大な被害を被っていた。そして座布団ごと神社の外にギリギリで着地した霊夢の目に映ったのは・・・
「ぎぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ~~~~・・・・・・」
やられ役のザコ妖怪が吐きそうな間抜けな悲鳴を上げながら幻想の空を切り裂く、見覚えのある二本角の鬼だった。
その鬼は重力を無視するようにほぼ一直線で空を駆け―――
「あっ」
―――妖怪の山の中腹より少し上あたりに見事激突。なんと、そのまま”山ごと砕いた”。山の上部が衝撃で吹き飛び上空へ打ち上げられる。
衝撃で打ち上がった・・・というか飛ばされた山はそのまま雲の上をやすやすと突き抜け、何かに激突。その衝撃で―――
「あ・・・」
どやら天界のどこかに命中したらしく、神社どころか人里を丸ごと押し潰せそうなサイズの”要石”が上空より落下を開始。落下予測場所は・・・あれは、多分紅魔館らへんか?
「・・・あ」
紅魔館辺りから誰かが要石迎撃に飛び出した。遠すぎて見えないが、虹色の光を放っているのであの居眠り門番の美鈴だろうか?特大サイズの虹色に光るエネルギーを要石にぶつける。石はなんとか館から進路を変え―――
「あ!」
衝突させたエネルギーが強すぎたせいか要石が砕け、最も大きな破片が吹っ飛んだ。美鈴の頑張りすぎだ。吹き飛んだ要石は人里から数里手前に落下し移動を停止。危うく人里壊滅の危機である―――が。
「あっ・・・?」
何と驚くべき事に、その一撃で地割れが発生。どうやらあの付近に旧地獄と繋がる地下の見えない亀裂が存在したようだ。そのまま地割れに飲まれた要石の一部は沈み―――
「あっ!」
地下水・・・というか温泉が間欠泉のように吹き出し、あの膨大な質量の要石を持ち上げる。しかしこれは不味い、あの様子では人里に落ちてしまう。そうヒヤッとした霊夢だったが―――
「・・・あ」
その直後、人里が消えた。いや、正確には人里の守護者である慧音の力で干渉できなくなっているのだろう。降り注ぐ大量の温水と要石は誰も犠牲にすることは無かった―――のだが。
「あー・・・」
石が持ち上がり、どこかへとブン投げられた。再び人里を出現させるのに邪魔だから、恐らく妙蓮寺の白蓮あたりが投げ飛ばしたのだろう。投げられた石は魔法の森中腹辺りに落下し、今度こそ停止した。が、まだ事態は終わらない。
「あっ!?」
上空に打ち上げられた妖怪の山が落下してきて、丁度砕けた所に綺麗に収まったのだ。ずしぃぃぃぃぃん・・・という地響きと共に山の天狗たちが一斉に飛び立ちパニックになっている。―――そして、これが恐らく最後のアクション。
「・・・あっ」
山の頂上から凄まじいサイズの竜巻が発生している。恐らく山の総大将、天魔が萃香のあれを攻撃と認定し、報復として飛んできた神社方面に竜巻を飛ばそうとしているのだ。恐ろしいまでの指向性を持った竜巻は一直線に満身創痍の博麗神社へと向かう。
ただの竜巻ではない、あの天狗の長と名高い天魔の発生させたそれだ。見た目は竜巻のようでも、その実込められたエネルギーは台風にも匹敵する。異変解決のプロである霊夢も、流石に自力で竜巻をどうこうできるほどの力は持ち合わせていない。
これは終わったかな、と思った霊夢は静かに温くなったお茶をすする。その顔に浮かぶのは混乱や憤怒を通り越した先にある、悟り。こう、時々何をやっても駄目な時と言うのは存在するし、今回もその類だから抵抗しても無駄かなと勘が告げていた。
(神社の修理費と私の治療費でいくら飛ぶかな・・・)
鬼より怪力な人間って何よ。まさかこんなにもバイオレンスな方法で直接壊すとは思わないし、明らかに風が吹けば桶屋が儲かる的な連鎖反応が起きている。誰も儲かってないけど。
本当に死人とか出てるんじゃないだろうか。
で、今になって思う。
―――幻想郷を滅ぼすって、そういう意味?
しかし、この子はつくづく読めない存在だった。
「下がってて霊夢!・・・疾符『打風輪』、最大出力で逆、回、転ーーーんッ!!」
それは、生命エネルギーを直接変換して風と成す、”奇跡の風”とも呼べる超高純度生体エネルギー。その純度は妖力や霊力をも大きく超える、命の道を究めた仙道でしかなし得ないであろう力。苗が輪状の武器らしいものを媒介に発生させたその風は、そういうものだった。
二つの風が激突し、天魔の竜巻が見る見るうちに形を失い散っていき―――結局、苗は竜巻を全て防ぎ切った。それも、後ろにいる霊夢の髪の毛一つ揺らすことが無いほど完全に。
やがて、向こうからこれ以上の攻撃が無いことを確認した黒髪の少女は、眩しいくらいの笑顔でこちらを振り向いた。
「怪我はない?霊夢」
「・・・うん」
咄嗟の事に、それしか返事が返せなかった霊夢だった。
「ぅまお」
私は無視?とでも言う様に、いつの間にか近くで寝ていた猫のぽんずが一声鳴いた。
翌日、”文々。新聞”に書かれた「博麗の巫女、賽銭求めて幻想郷に宣戦布告!?」という記事を目にするまで、霊夢の勘は狂ったままだったとか。
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