【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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闖入劇場
第七六幕 「俺達を 見下すことは 許さない」
敵性ISのバイザーアイが怪しく点滅し、次の瞬間凄まじい速度で跳躍した。背部に装着されたウィングスラスターが開き速度をさらに加速させる。非固定浮遊部位ではなくラファールと同じ固定型スラスターだ。まるで画面がぶれる様に不規則な機動変化をするそのアンノウンの腕から放たれた斬撃を間一髪で回避する。
(有人機?それとも前と同じ無人機か?・・・スキャンが一切利かない?ステルス・電子戦特化?他には・・・刃から甲高い振動音が聞こえる。高周波ブレードの類か。この前の無人機とは全然違う系列に見えるけど・・・)
高周波ブレードとは刃を超音波などで刃を高温化させることで凄まじい切れ味を生み出す刃だ。言うまでもなく打鉄のブレードよりも遙かによく斬れる代物で、まだ試作段階であると聞き及んでいた技術だ。
最初から攻め立てることはしない。相手の情報が極端に少なく、どちらかと言えば時間を稼がなければいけない状況であることも考えると不用意に突撃するのは愚策だ。幸い現在の風花はデータ採取用にシールドエネルギーのチャージリミッターを解除していたためエネルギーにはある程度余裕がある。
スラスターの激しい方向転換に合わせた複雑な三次元機動で斬りこんでくるアンノウンの情報を引き出そうとその場にとどまっていたユウだが、相手はなかなか戦法を変える様子を見せてくれない。
この訓練場に踏み入って来る際に大きな爆発を起こしていたことを考えれば、大火力の射撃武器を所持していると考えるのが自然だろう。もしかしたら照準が大雑把過ぎて対IS戦では利便性が低いのかもしれない。そしてユウは相手の飛行に言い知れぬ違和感を覚えていた。観た限りではおかしい所が無いように思える機動だが、不思議と何かが違うような気がするのだ。その何かが全く掴めない。
「こっちの手札をいくつか切るか・・・・・・・・・?」
万が一その“何か”の所為で足元を掬われてはマズイ。ならばこちらから揺さぶりをかけてでも情報を引き出しておいた方がいい。そう考えたユウはほぼ無意識にIS用ブレード「爪月」を量子化しようとし・・・・・・出来なかった。
ややあってユウは自分がかなり間抜けなミスを犯したことに気付いて愕然とした。
(あ・・・!量子変換していた武器は調整の関係で全部解除してたんだったーーー!!!)
確かに成尾主任がテスト開始前にちゃんと説明していた内容である。不味いと思っても時すでに遅く、一瞬呆けた隙―――それを見逃さないと言わんばかりにアンノウンが瞬時加速で突撃してくる。精一杯引かれた両肘が一気に伸ばされ、高周波の刃が眼前に迫った。一瞬焦ったユウだったが、直ぐに顔を引き締めた。
『――――』
「しまっ・・・・・・舐、めるなぁ!!」
“武器が無いなら拳を使えばいい”。元々風花とはそう言うISだと直ぐにそう思い直したユウはアンノウンの高周波ブレードによる突きの連撃を徒手で迎え撃った。突きが脇腹の装甲を掠めたことを気にも留めずもう片方の剣を手の甲で力いっぱい弾く。同時に腰だめに構えた右腕で殴り飛ばそうとするが、予想外のタイミングで下から襲った膝蹴りが右足に激突し重心が大きく崩れた。
「くぁ・・・っ!?」
びりびりと奔る振動にたたらを踏んだ瞬間、その場で体を捻ったアンノウンの強烈な回し蹴りが脇腹に直撃した。
がきゃぁぁぁぁんッ!!
不自然なまでに蹴られた部分に衝撃の集中した蹴りによって横っ飛びに吹き飛んだ風花は再びコンクリートに叩きつけられた。ぱらぱらと落ちるコンクリート片が風花のボディを転がり落ちていく。
「かはっ・・・!げほっ、ごほっ!」
衝撃に顔を歪めてせき込みながらもユウは信じられない、といった顔でアンノウンを睨みつけた。アンノウンはこちらの様子を確かめるように暫く立ち尽くした後、再び飛翔する。
「なんだ、さっきの攻撃・・・あの膝蹴りも、あの回し蹴りも、“あんな威力が出るはずがない”ぞ・・・!!」
ユウが膝蹴りに不意を突かれた理由。それは相手の体勢にあった。いくらISのパワーアシストが強力だからといっても格闘攻撃全てが有効打になるわけではない。無理な体勢で放ったパンチやキックはダメージを与えるどころか逆に自身のバランスを崩すことだってありうる。PICの慣性制御を以てしても、ISが人体を模した構造をしている以上はそれ相応の体勢を取った攻撃でなければ十分な威力は出せないのだ。
だからそれを加味したうえで、ユウはあの瞬間「蹴りなど放てる体勢ではない」と完全に蹴りを食らう可能性を排除していた。―――にも拘らず、あのISは不自然な体勢からユウのバランスを崩せる威力の攻撃を放った上に追撃まで仕掛けてきた。回し蹴りとて明らかにISを吹き飛ばす威力を出すには遠心力が不十分であった。なのに、アンノウンの攻撃には“伴うはずのない威力”が付いてきていた。
そして、何度か追撃のチャンスがあったにも拘らず、あのアンノウンはこちらの様子を見てから行動を再開させた。前の無人機はこちらの攻撃動作に反応して最適な動きを導き出していた――つまり受動的だった。が、目の前のこいつはこちらの様子を見て行動を決めている――つまり能動的な行動を行っている。こいつは恐らく有人機だ。
「だとしたら・・・手を抜かれているっていう、そういう訳かよ・・・!上等ぉッ!!」
腰を落とし、両掌をゆっくり握り締める。ぎちぎちと掌から特殊繊維が擦れ合って軋むような音を漏らしながら、ユウは構えを取った。
舐められているという唯それだけの事。それがどうしようもなく腹立たしい。本気を出すまでもない、同じ土俵に立つまでもないと暗に告げるかのようなその態度が癪に障る。何よりも自分と自分の愛機が格下に見られているという耐え難い屈辱が、ユウの闘争本能に火をつける。
「武器が無いから何だ!不意打ちがどうした!“投桃報李”が無い?隠し技?大いに結構!!」
元より、それが勝負と言うものだ。卑怯も卑怯でないも、王道も邪道もないのだ。そこには勝つという揺るぎない意志と、そのために“何でもやってやる”という覚悟があればいい。だが―――
「それでも僕“たち”を相手に手を抜くんなら・・・その慢心、殴り飛ばすッ!!」
《―――――》
その程度の我を通せずして何が残間結章だ、何が兄を超えるだ。
「・・・そうだろ?百華」
その自身に満ち溢れた呼びかけに呼応するかのように、風花のコアが人知れず脈打つように光を放った。
= = =
「な、何だ!?何が起きた!!」
「下のフロアか!?すげえ音だったぞ・・・爆発事故かよ!?」
「何だ!?監視システムがダウン!?そんな馬鹿な!何故ダメージチェックが動かない!?」
ブランクになるモニター、次々に降りる防護シャッターと出入り口を塞ぐ非常遮断ハッチ。遅れて鳴り響いたサイレンに、現場の混乱は最高潮に達した。
その緊急事態にいち早く対処していたのは、皮肉にもまだ聖人にも満たない少女だった。スタッフが困惑する中、懐から迷わずIS通信用端末を取り出したつららは様子の見えなくなったユウに通信を繋いでいた
「ユウさん!聞こえますか!?ユウさん!くっ・・・応答してください、ユウさん!聞こえていますか!?」
IS学園性の特殊通信機だ。対ECMを想定しており非常に強い電波を発信する機材だが、それでも繋がってはいないようだ。現場の人間にとっては娘ほどの年齢の少女が、狼狽えずに今自分の出来ることを懸命に行っている。その事実はスタッフたちに自身の狼狽えを恥じる心と、情けない姿を見せられないという心の整理を付けさせた。いち早く現場の最高責任を持つ成尾が矢継ぎ早に指示を出す。鶴の一声に自分の役割を思い出したスタッフたちは次々に状況を報告する。
「モニター復旧急げ!回線を無線から有線に、本部への状況確認及び政府へのエマージェンシーコール急げ!シャッターとハッチは開くか!?」
「は、はい!これより主導での回線切り替えを行います!」
「本部との連絡取れません!何らかの電子攻撃および物理的な配線の破壊が行われているものかと・・・」
「・・・主任!シャッターとハッチはこれ無理っす!コンパネそのものが落ちちまいやがった!」
「通信妨害に加えてパネルが落ちたってことは自己の類じゃないね・・・風花、いや結章君を狙って?」
考えたくもないが、これは襲撃事件の類だろう。
続くつららの報告とメインモニターの復旧がその予想を裏付けた。そこには風花に攻撃を加える謎のISの姿が映し出されたのだ。風花は衝撃で壁に激突し、操縦者のユウの表情が歪む。
「ユウさん!?」
つららが悲鳴染みた声をあげる。隣に佇む成尾さんもその表情は険しい。
「まずいですね・・・今の風花・・・いえ、百華は武装を一切積んでいません!せめてテスト後ならば第3世代武装の“武陵桃源”が使えたものを・・・こうなればアレを使うしかないですね・・・!」
「“あれ”!?何ですか“あれ”って!?つらら、気になります!!」
「“アレ”ですか・・・?」
ふと成尾が顔を上げる。その表情は、堪えてはいるが口元が少しだけ笑っていた。まるで子供の仕掛けた悪戯を今まさに実行する時が来たようなある種不謹慎な笑みを浮かべながら、彼は技術者が一度は言ってみたいであろう台詞ナンバーワンに輝くであろう“アレ”を不謹慎ながら嬉しそうに告げた。
「―――『こんな事もあろうかと』・・・と言うほど大それたものじゃないんだけどね?それを使って結章君を救うのを、手伝ってくれませんか?つららさん」
「・・・えっ、私?」
かくして、最上重工社員の学生頼みでささやかなる反撃が始まった。
後書き
重要なお知らせです。
失礼ながらこれから長期間、更新を自粛させていただきます。理由につきましては、執筆に使う時間を別の事に回さなければいけなくなったからです。所謂就活です。むしろ今まで執筆・更新を続けて来られていたことがおかしいくらいです。もういよいよ悠長なことが言ってられない状況です。
もしかしたら今年中に帰ってくることが出来なくなるかもしれません。読者の皆さんにはご迷惑をおかけしますが、次に帰ってきたときに皆に「おめでとう」の一言を貰える程度の結果を得るためにも、行ってまいります。
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