Element Magic Trinity
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Rootsmemory of Elementerers編
Prelude of Trinity
―――――――――彼等は、知らない。
その3人が、どれだけのものを抱えているかを。
「あ!そういえばあのシリーズの最新刊買ってなかったっけ・・・あっ、こっちも!」
「うぅ~」
マグノリアの街の、とある本屋。
そこには嬉しそうに本を手に取るルーシィと、前が見えなくなるほどに本を抱えたルーがいた。
「ルーシィ、重いよう・・・」
「その言い方だとあたしが重いみたいじゃない」
「本重いよう・・・何でこんなに買うの~?」
「いいでしょ。この間の仕事で報酬丸々もらえて、余裕あるのよね~♪」
この間の仕事、というのはルーが勧めた『人気作家が魔導士の話を書きたいから魔法を生で見せてほしい』というものだ(『妖精達に日常あれ』!参照)。
報酬はそれなりに高く、家賃7万J分を引いても余裕があったので、ルーシィはルーを引き連れ本屋に来ている。
「う~・・・ルーシィが僕を誘ってくれたから嬉しくて来たら荷物持ちだなんて・・・」
「文句言わないの!」
ルーはそこまで力持ちじゃない。
最初のうちは何とかなったものの、抱える本が7冊、しかも全部それなりの分厚さがあるとなると、ルーは呻き声を上げ始める。
「あとこれも・・・あ、このシリーズ新しいの出てたんだ!じゃあこれもっ」
「たくさん買うけどさぁ・・・来月の家賃分、取っておかなくていいの?」
「ら、来月は来月で仕事行くからいいの!」
ルーの言葉にルーシィは言い訳するようにそう言い、再び本棚に目を向ける。
首を傾げる事で前を見るルーはその重さに溜息をついた。
(重い・・・ルーシィと2人っていうのは嬉しいけど、重い・・・)
プルプルと腕が震え始める。
かれこれ5分は本を抱え続けている為、腕が悲鳴を上げている。
こんな事なら暇そうだったライアーでも連れてくればよかった、とルーは密かに思いながら、近くにあった椅子に腰かけた。
「あ、この間の依頼主の本がある!何かの縁だし読んでみよっと!ルー、これもお願い!」
「まだ買うの?重いよー」
「だったら隣の椅子に本おけばいいじゃない。空いてるし、今お客さん少ないし」
ルーシィの言う通りだ。
今店の中にいる客の数は片手があれば十分に数えられる人数であり、ルーの座る席の隣は空いている。
律儀に抱えていた本を隣に移し、ルーは天を仰いだ。
その額には汗が滲み、エメラルドグリーンの前髪がへばり付いている。
それを手で払いながら、ルーはルーシィに目を向けた。
ルーシィは本棚を嬉しそうに見つめ、1冊1冊物色しては本棚に戻したり、こっちに持ってきたり。
(本かぁ・・・僕活字ダメなんだよね・・・)
どうすれば本をあんな嬉しそうな目で見れるのだろうと疑問に思いながら、ルーはふと目線を前に向ける。
そこには古そうな鏡があり、ルーの顔を映していた。
(・・・こんな鏡、うちにもあったなぁ・・・こういうの、母さんが好きだったっけ)
今は亡き、ルーの両親。
両親だけじゃない。
今ルーが故郷に帰っても、あるのは数えきれないほどの墓だけだ。
(父さんは本が好きだったっけ・・・確か父さんの部屋はこのお店みたいに本棚だらけで・・・)
目を閉じる。
それと同時に、ぶわっと昔の記憶が流れる。
日の光みたいに温かくて優しかった両親の記憶。
近所の人や祖父母、少し意地悪だった年上の男の子によく泣いていた女の子。
思い出せばすぐ傍にあるのに、手を伸ばしても届かない。
懐かしい記憶を次々にフラッシュバックして、ルーは1人の少女を思い出す。
(サヤ・・・)
光を受けてキラキラと輝く金髪。
茶色がかった、大きく睫毛の長い瞳。
思い出せば、自分はいつもあの子の側にいた気がする。
記憶の中の少女は軽やかな声で、可愛らしい笑みを浮かべながら、こう言うのだ。
『ずっと一緒にいようね、ルー!』
ずっと一緒。
その願いは、叶わなかった。
もうあの声を聞く事も、あの笑顔を見る事も出来ない。
(今となったらずっと一緒、なんて約束出来ないだろうな・・・)
ずっと、永遠に一緒にいる事なんて出来ないから。
ルーはそれを、嫌という程思い知った。
10年前の、あの日に。
「ルー!」
「!」
突然声を掛けられ、ルーは驚いて目を見開いた。
そこには金髪に茶色がかった瞳の少女。
ルーは思わず呟いた。
「サヤ・・・?」
「え?」
知らない名前で呼ばれたルーシィは首を傾げる。
そこでルーはハッとしたように小さく震えた。
そして、いつもの様にニコニコと笑う。
「あ、ルーシィ。どうしたの?本決まった?」
「え?あ、うん。でも今、サヤって・・・」
「気のせいだよ。さ、お会計しちゃおう!」
「うん・・・」
満面の笑みで笑いかけるルーに違和感を覚えながらも、ルーシィはレジへと向かっていく。
再び抱えた本の重さに一瞬よろめきながらも、ルーはレジへ向かう。
古びた鏡の前で立ち止まり、自分の顔を見つめる。
男というより女に見える童顔はいつもと変わっていない。
(違う・・・ルーシィはサヤじゃない。僕がルーシィを好きなのは、サヤに似てるからじゃない)
自分に言い聞かせるように頷き、ルーはレジへと本を置いた。
「あーーーーっ!」
叫び声が響いた。
わなわなと震えるアルカの視線の先には、目覚まし時計。
―――――もっと正確に言えば、ぐるぐると休む事無く長針と短針が回っている目覚まし時計だ。
つまり、壊れている。
「や、やっちまった・・・ルーがいねェ時に目覚ましが鳴るとか最悪すぎんだろ・・・」
何故アルカがここまで頭を抱えるか。
それは、彼の体質にある。
調理器具以外の機械に触れると、一瞬で機械が壊れてしまうという変わった体質だ。
目覚まし時計も例外ではなく、ただ目覚ましを止めようとしただけでこの有り様。
普段はルーに止めてもらっており、今日もルーシィと出かける前にルーがセットしておいてくれて、目覚ましが鳴り響く頃にはルーも帰ってきているだろうと思っていたのだが、甘かったようだ。
「また買い換えねーと・・・今月何度目だよオイ」
うっかり目覚ましを止めてしまうという事はよくあり、寝ぼけていたりするとよく起こる。
今日も寝ぼけてうっかり止めてしまった。
昼寝に目覚ましは必要ないといえば必要ないのだが、今日は愛する恋人ミラとのデートの日である為、ルーに頼んでセットしてもらったのだ・・・が。
「デートの最初に目覚まし買うってのもなァ・・・だけどこれがねぇとルーが起きられねぇし」
2人の部屋は別だ。
が、部屋の扉を少し開けておく事でルーの部屋にも目覚ましの音が響き、それでルーが起きる。
そしてルーが目覚ましを止め、アルカがまだ起きていなかったらアルカを起こす。
だったら最初からルーの部屋に目覚ましを置けばいいのだが、そこまで頭が回らないようだ。
「とりあえずジャケット・・・寝癖はこのまんまでいっか」
黒いジャケットを着こなし、少し跳ねる赤い髪は放置する。
右手に壊れた目覚まし時計を持ち、アルカは廊下を歩いていく。
「ルー、いるかー・・・って、いたら目覚まし止めてるよな」
一応声を掛けるが、リビングにルーの姿はない。
電気の付いていないリビングの照明を付け、黒いソファにどかっと腰掛ける。
「・・・あれから、今日で14年か」
呟いても、返事は返ってこない。
アルカはそう言うが、カレンダーには何の印もない。
チク、タク、と壁掛け時計の秒針だけが音を立てる。
「・・・」
アルカは無言でテーブルに魔水晶を置いた。
手を翳すと魔法陣が展開し、そこに2人の人が映る。
1人は男、1人は女。
その姿をアルカが見つめ―――
「やめたやめた、っと」
ヒラヒラと手を動かした。
ふっ、と煙のように男女が消える。
その漆黒の瞳が細まり、誰に言う訳でもなくアルカは呟く。
「戦いたくねぇ、か」
ゆっくりと、変わる。
ゆらりとアルカの纏うオーラが、変わっていく。
愁いから、闘志へと。
「テメェの目的が何だが知らねぇが・・・牙剥くってんなら、こっちだって牙剥いてやるよ」
「・・・」
彼女はボーっとしていた。
ティーカップは空、本は開かず、ただボーっとしている。
「オイ、ティアの様子、また変じゃねーか?」
「ああ・・・ずっとあの調子だ。家に帰っても、な」
エルフマンの言葉にヴィーテルシアが答える。
その声は、気のせいか落ち込んでいるように聞こえた。
「姉さん・・・何かあったのか?」
「・・・別に」
「そうか・・・それなら、いいんだ」
口ではそう言いながら、クロスはいいだなんて思っていなかった。
双子の勘が働く。
姉に何かがあったのは考えなくても解る。
そして・・・何があっても、決して誰にも打ち明けないのが自分の双子の姉である事も、解っている。
だけど、それでも。
(少しは姉さんの力になりたい・・・)
それをティアに言えば「ただ考え事してただけよ」とはぐらかされるのは目に見えている。
だから敢えて何も聞かず、何も出来ない自分が悔しくて仕方ない。
ぎゅっと拳を握りしめ、唇を噛みしめる。
(だけど、俺では力になれない・・・姉さんを不幸にしてるのは、紛れもなく俺なのだから・・・)
「・・・ミラ、紅茶ありがと」
「うん。今日はもう帰るの?」
「ええ、仕事をする気にもなれないしね」
「そう・・・あ、そうだ」
ティーカップをミラに手渡したティアはショルダーバックを肩から掛ける。
これからアルカとデートなのだろう。ミラも帰る準備をしていた。
すると、ミラが何かを思い出したように背を向ける。
「はい」
「?」
差し出された手には、封筒。
美しい模様の描かれた封筒には「ティア=T=カトレーン様」の文字。
住所は書かれておらず、不思議に思いながらもティアはそれを受け取る。
「今日ティアが来る前に、スーツを着た男の人が持ってきたの」
「ふーん・・・」
「ん?手紙か?」
「ナツ」
封筒を見つめていたティアの背後からナツがひょいっと覗き込む。
「・・・てか、離れてくれる?」
「は?・・・うおっ!」
そして知らずのうちに、ナツはティアに抱き着いていた。
とある事件が解決した時からナツに染み付いてしまった癖である(『チェンジリング』参照)。
「えーっと・・・」
誰から来たものかを見ようと、封筒を裏っ返す。
そこに綺麗な字で書かれている名前を、ナツは首を傾げながら読んだ。
「シャロン・・・?」
誰だ?
ナツはティアにそう訊ねようとして――――目を見開いた。
「・・・」
ティアは無言だった。
それはいつもと変わらない。
―――――――だが。
その青い目は見開かれ。
その頬を一筋の冷や汗が流れ。
その体が小刻みに震える。
「ティア?」
「!」
ナツが声を掛ける。
ティアはびくっと震え、すぐに封筒をバックにしまい込んだ。
数秒の間顔色の悪かったティアだが、すぐにその表情はいつもの無表情に戻る。
「帰る」
「なぁ、シャロンって誰だよ?」
「誰でもいいでしょ」
訪ねるナツを雑にあしらい、ティアはギルドを出ていく。
「・・・?」
「どうした、ドラグニル」
「いあ・・・ティアの様子がおかしくてよ」
「様子が?」
クロスに声を掛けられ、ナツが答える。
姉の後ろ姿を見送りながら、ナツに再度訊ねた。
「何かあったのか?」
「何かってほどでもねぇけど、シャロンって奴から手紙が・・・」
「シャロン!?」
クロスが反応した。
その表情は驚愕に染まっており、クロスは誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。
「・・・お祖母様?」
―――――――――彼等は、知らない。
3人の抱えるものが、3人にどれだけの影響を及ぼしているかを。
この3人が―――――――
その表情の仮面の下に、何を隠しているかを。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
章タイトルは「元素を操る者達の過去の記憶」・・・と解釈してほしいです。
妖精の双羽さんに頂いたアイデアに少しオリジナリティを加えました。
妖精の双羽さん、ありがとうございました!
プロローグっぽいの・・・のつもり。
何かルーは満足のいく出来だけど、あとの2人は何かイマイチ・・・。
過去についてあっぴろげに言えるのがルーだけだからかなぁ・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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