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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  番外編 「あの風のように」

 
前書き
ストーリー進行を優先しようとすると日常編は邪魔でしかないのだけれど、キャラの生活が無い物語なんて嘘だと思うから思いついたら次々書くのが私の正解。
それはそうと日間話別評価ランキングに載りました。たった3人の人間の評価でランキングに載るというのはある種異常事態ではなかろうか。 

 

アリーナの管制室からカメラ越しに三人の生徒の飛行訓練を眺めながら、千冬はふっと笑みを漏らす。二人のIS熟練者が一人の素人を指導しているのだが、これがなかなか面白い。一人は操作方法が出鱈目なのにきっちり空が飛べており、もう一人は飛行の一点のみでは教師以上の飛行テクニックを見せている。
教え方もオリジナリティに溢れ、見ていて飽きない連中だ。

『はい、ここで旋回の直前にマニュアル操作に移行してPIC全開!ターン終了と同時にスラスター噴射で反転だよ!』
『ちょっとユウ君ー!?それ実戦レベルのコンバットマニューバだから!!ゆこちーにそれは無理だから!!』
『え、えーっとオートからマニュアルに・・・はわわっ!?バランスがぁー!!』
『本気にしちゃ駄目だってゆこちぃぃーーー!!?』

・・・ふむ、結章の奴め基礎を飛ばして実戦慣れしすぎだな。一度佐藤の訓練を谷本と一緒に受けるべきだ。あのままでは集団飛行に支障を来しかねん。

『もうっ!全然飛行テク理解してないじゃん!ユウ君も今からゆこちーと一緒に飛行訓練受けなさい!私が指導するから!』
『ご、ごめん佐藤さん・・・』
『というか師匠は飛行テク理解しないまま私を瞬殺したんだね・・・はー、私って何なんだろホント。アリ?ダ二?むしろミジンコ?』
『ああっ!?癒子ちゃんが今すぐ自殺して貝にでも転生しそうな勢いで落ち込んでるー!?』
『大丈夫!大丈夫だから!練習すれば出来るようになるから!!今は迷い払って振り返らずに歩きだそうよ!!』

必死の表情での励ましに谷本は元気を取り戻したが、あいつは気付いていないようだな。励ました佐藤と自身にどれほどの差があるかを―――まぁ、すぐに自覚することになるだろうが。



 = = =



もう数か月前になるか。
この管制室で生徒を監視する教師はローテーションで入れ替わる仕組みになっており、その日はたまたま私の担当日だった。向上心と好奇心にあふれた生徒達がISを動かしたり、先輩からの指導を受けて拙いながらも射撃訓練を開始したり―――そんな中に、佐藤がいた。

ふわり、と音を立てずに訓練機のラファール・リヴァイヴを宙に浮かす。素人がやると無暗にスラスターを吹かしたり足に力が入りすぎて砂埃が舞うのだが、実に静かで丁寧な飛び上がりだった。素人にしてはなかなかのコントロールだ。

暫くはそのままISを右に左に、さしずめ水槽の金魚のように身をよじりながらふわふわと飛んでいた。
悪くない。素人は大抵コントロールがうまく効かずにスピードを出し過ぎて壁に衝突したり、焦りすぎてジグザグ飛行になった挙句平衡感覚を失って墜落する者もいる。佐藤は入試で一通りの動きが出来ていたが、だから直ぐに空を飛びまわれるとは限らない。その辺りの分別をつけて慎重を期すのは良い心がけだ。
それも、時々オート操作からマニュアル操作に切り替えて重心の動きを入念に確認しているようだ。マニュアルとオートでは機動の自由度が大きく違う事を体に教えているのだろう。

やがて、要領が掴めたのか佐藤は急上昇し、緩やかなターンを描いてアリーナの障壁を添うように旋回し始める。途中何度かバリアに接触したが、数分経つと全く接触せずに飛行できるようになっていた。時計回りから反時計回りへ往復するような動きは、方向転換やバランスのとり方を学んでいるようだった。射撃練習をしている連中は佐藤の存在に気付いていないが、飛行訓練をしている生徒は途中から佐藤の動きに気付いたようだ。
ISにとって円形軌道は初歩中の初歩。これを怠って空を飛ぶと、いつまでたってもターン系の技術で感覚が掴めない。そのことを知ってか知らずか、佐藤はその辺りの基礎からしっかりと入っている。

「意識的にやっているならいい心がけだ。無意識にやっているなら・・・いや、止めておくか」

スタートラインの場所が違っても、努力で差を埋める事は出来る。例え佐藤が類稀なIS適性を持っていたとしても、そのアドバンテージは他の人間の努力で覆せるものなのだ。

そう考えて自分の考えを振り払おうとしたとき、佐藤が動いた。

緩やかに、しかし確実に周回の速度を速めていく佐藤のラファール。やがて外周のバリアを離れた佐藤は美しい渦巻を描くように少しずつ円周を狭めていき、中心近くでは体勢を地面から平行にした向きでの機動まで見せ、中心部で地面と垂直に戻しピタリと停止した。

「何と・・・!」

思わず感嘆の声が漏れる。訓練中の生徒達もざわついていたが、それも無理はない。
あれは螺旋収束旋回(サイクロンターン)と呼ばれる高等技術だ。精密機械のようにムラなく正確に円周を狭めて螺旋を描き、かつその間速度を落とさない。中心部に近づけば近づくほどにその難易度は増していき、中心部近くになると遠心力で平衡感覚を失いそうになるほど狭い旋回を強いられる。

素人がやって出来るほど生易しい技術ではない。あれは『機動部門』の技だ。

IS世界大会であるモンドグロッソには幾つかの部門が存在する。千冬が世界一を勝ち取った総合部門と格闘部門の他にもう三つ・・・射撃部門、競争部門、そして機動部門だ。出場者は他部門との兼用が可能だが、総合部門がリーダーという扱いになる。
機動部門とは言ってしまえばIS版フィギュアスケートとも言える競技で、操縦者がどれだけ高度な機動テクニックを見せられるかを競うものだ。・・・もう理解できただろう。

そう、佐藤が目の前で予行もなしに成功させたそれは、その機動部門で()せるレベルの技なのだ。見よう見まねで簡単に真似られない、普通は練習を積まなければあれほど美しく成功させることはできない技だ。


そして、それとほぼ同時に千冬はある事実に気付いた。
彼女が飛行訓練を開始してから約30分の間・・・佐藤はただの一度も地面に触れていない。ミスでの墜落は勿論、休憩のための一時着陸すら彼女は行っていない。一度急降下のような動きも見せていたが、地面すれすれでピタリと止まっていた。

―――人間は空を飛べない。だから人がISに乗って空を飛ぶと言う行為はかなりの集中力を消耗する。ましてマニュアル起動で目立ったミスなしとなれば専用機持ちクラスの実力が無いと不可能と言ってもいい。
それを、佐藤は未だ続けている・・・恐るべき集中力と言わざるを得なかった。

「いかんな。生徒を特別扱いするのは主義に反するが―――あいつは伸びるぞ」

佐藤は金持ちの娘でもなければIS企業の関係者でもない、正真正銘ぽっと出の生徒だ。このようにIS知識などに対するアドバンテージや金銭的、社会的優位を持たない生徒を学園関係者の間では一般と呼ぶ。一般の生徒は明らかにそれ以外の生徒と比べて環境、情報的に不利であり、どうしても大成しにくいと言われていた。
例えば専用機を持つ代表候補生はいつでも申請すれば訓練ができるが、一般生徒は訓練機の予約が取れる時しか訓練が出来ない。資産のある人間の子ならば、IS関係者に声をかけて借り物のISに乗ったり、ISの専門知識を持った人間に教えを乞うことも不可能ではない。そして企業の試作ISを預かっている人間は、現場でたたき上げられるために周囲が環境を整えている。
事実、国家代表のレベルで一般の出は未だ存在しない。一般から代表候補生になれば、それはもう一般ではないのだ。最初の段階で選ばれなかった時点で、世界に立つという夢は潰えたも同然なのだ。

だが、佐藤は一般でありながらそうではないかもしれない。
単にIS適性が高いだけであんな軌道を成功させるなど無理だ。

あいつは代表候補生になるという話を蹴った。民間のスカウトも蹴っていると聞き及んだ。あいつはどうやらずっと一般で通す気らしい。特別な待遇などいらないらしい。―――特別な待遇が無くとも人は強くなれる、とでも言うかのように。

「面白い・・・お前は面白いな、佐藤」

自分の生徒から、一般の出でモンドグロッソに出場出来る才能を秘めた生徒がいる。
その事実に、言葉にならない高揚感を抑えきれない千冬がそこにいた。



当の本人はただ単純に空を飛べるようになったことをはしゃいで遊んでいたに過ぎない。螺旋収束旋回(サイクロンターン)とて「蚊取り線香とび」などというふざけたイメージで実行しただけだ。
ただ、「空を飛ぶのが楽しい」という単純明快な思考回路が生み出すイメージ力は、皮肉にもこれ以上なくISの機動に反映されていたようだ。



 = = =



『イメージは時計の振り子。競輪やスケートのカーブでもいいけど、内角に少しずつ体を倒す・・・そうそう、そんな感じ!』
『うわー、なんかすっごい綺麗に曲がった気分になる!』
『でしょ?これの幅を少しずつ狭める様に・・・って、うええ!?な、何事!?』

指導をしていた佐藤がふと自分の周囲を見ると、アリーナ内で飛行練習をしていた数名が周囲を包囲していた。皆佐藤の言葉を聞き漏らすまいとハイパーセンサーと集音機能でデータを保存している。

『続けてください佐藤さん』
『お気になさらず、佐藤御大』
『1年2組の伍和と申します。あの、自分の訓練の参考にしたくて・・・駄目ですか?』
『伍和ちゃん以外図々しいね!?まぁいいけど、お願いだから動画流出とかやめてよ!?この前試合映像を編集した私のMADとか動画サイトに投稿されてすっごい恥ずかったんだからね!!?』

ちなみにその動画は権利者申し立てで削除してもらったそうだが、消した後も次々に亜種や再投稿が相次いだ所為で「フェニックス佐藤さん」と呼ばれているらしい。既に10万人規模のファンサイトが設立され、次の試合映像を今か今かと待ち望みにしているとか。

『顔赤くしてる佐藤さん可愛い』
『必死で削除しようとしてる佐藤さん可愛い』
『ベル君の世話をせっせと焼いてる佐藤さん可愛い』
『びっくりした拍子に変な声あげちゃう佐藤さん可愛い』
『いじめかっ!!佐藤さんが恥ずかしさの余り悶え苦しんでるから!練習進まなくなっちゃうからやめよう!ね?』

そういえば佐藤の元には不思議と嫉妬の感情が集まらないな、と千冬は思った。
ひょっとしたら、ベルーナの世話を焼くポジションが無ければあれほど周囲から尊敬の念は集めなかったかもしれない。羨望ではなく嫉妬の視線を浴びたかもしれない。そう考えると、佐藤は目に見えない所でベルーナに助けられているのかもしれない。

「しかしそうなると、あいつはデッケンの世話を焼けば焼くほど人気が上がっていくわけか。目立ちたがりでは無い筈なのに、難儀な奴だ」

羞恥から立ち直って飛行訓練を再開する平凡な顔立ちの少女を見ながら、千冬は柄にもなくクスクス笑った。もしもあいつが世界に飛び立ち脚光を浴びる日が来たら、その時はこう言って自慢しよう。

「私の自慢の教え子です」、と。
 
 

 
後書き
モンドグロッソについて
よく分からないので本文の内容で行きます。総合部門での優勝者こそ最強というノリで。

それはそうと、アクセス解析を見てみるとこの小説は二百余名くらいの定期読者さんがいるようです。作者の個人的な事情のためにそれだけの人達を待たせてしまったと思うとちょっと申し訳ない。更新頑張ります。 
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