【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第七二幕 「貴方を振り向かせたくて・後編」
前書き
番外とそうでないものの区別がつかなくなってきた今日この頃。
基本的に番外は突発的に思いついたものですが、本編にそう言うのが無いかといわれるとぐうの音が出る。
前回のあらすじ:ベル君のデレ、略してベルデレ
砂塵の舞う濁った空が見下ろす、命の息吹が感じられない荒涼とした荒地に舞い上がる3つの砂埃の柱。それを引き起こす元凶は人類史上最強と謳われるマルチフォーマルスーツ「インフィニット・ストラトス」だ。全てを焼尽せしめんとするかのような直射日光の光が反射するその装甲の表面温度はゆうに摂氏100度を越えているだろうが、そんなものはISにとってはあってないようなもの。防御力や耐久性も最強と言われるこの兵器は表面をスキンバリアー、そして操縦者とISコアを含む中核部分を絶対防御によって常に守護している。これを脅かす環境など精々マグマの中くらいだろう。そのマグマも、将来的には活動できるようになるかもしれない。
そんなISが3機。開発された国も世代も武装も統一性が無くバラバラ。カラーリングも従来のそれとは違う寄せ集めにようなIS達は、しかし一糸乱れぬ編隊を組んで明確な意志のもと荒地を低空飛行し続けた。
やがて、その砂埃と全く同じものを大地に巻き上げる存在”達”が3機の真正面から迫ってきた。完全なエンカウントコース。恐らく彼らはその相手を最初から迎え撃つためにこの地に向かったのだろう。
完全武装のISが6機・・・アラスカ条約に批准した国一国辺りが所持できるコアの数が10個に満たないことを考えるとこれがどれだけ異常な光景か理解できるだろう。まして周囲に軍事施設の類が存在しない場所では一部の例外を除いて訓練を含む戦闘行為は禁じられる。そう、正当防衛と言う例外を除いて。なればこそ、この光景は本来あってはならない筈の光景なのだ。
相手が機体を停止させた。一零停止によって一糸乱れぬ陣形で虚空に停止した事から、相手が並々ならぬ技量を誇っていることは明らかだ。
そしてその相手も統一性のない姿を晒している―――
―――否。3機の中に明らかに”いてはいけない存在”がいた。
『白騎士』。
始まりのIS。ISをIS足らしめたインフィニット・ストラトスの雛型。
白騎士について判明いていることは非常に少ない。世界で初めて起動したISであること。白騎士事件で世界のパワーバランスを一変させたこと。数多の弾道ミサイルを剣一本ですべて退け、ISの最強たる所以をまざまざと見せつけたこと―――それだけだ。
白騎士の情報は誰にも明かされなかった。だからIS知識人の間ではいまだに議論が交わされている。白騎士が特別強かっただけであり、第1から第3までの世代のISはいまだにあの域に届いていないのではないか?という疑問である。
その戦いの答えが、たった今から出るかもしれない。
Make Up Mind!
F I G H T ! !
「・・・・・・決闘って『IS/VS』でかよっ!!」
そんなツッコミをしながら白騎士を駆る一夏剣一本で突撃をかました。ちなみに現在やっているのは本番前の慣らしであってまだ決闘ではない。このゲームのプレイ経験が少ない箒と中国出身二人のために設けている。
実はIS/VSは国によって調整にばらつきがあり、主にゲーム調整を最も実績のある日本に任せている国と独自の調整を行っている国の2種類が存在する。中国は後者であり、現在鈴とはるるはぎゃあぎゃあ醜い言い争いを繰り広げている。
「あ、ちょっとはるる!アンタ何『翔武』選んでんのよ!大会使用禁止機体じゃない!」
「甘い甘いわ凰鈴音!胡麻団子よりも甘い!『翔武』が禁止キャラなのは中国国内サービスのみ!日本版はあのチートくさい燃費と小足は修正されているのよ!!」
「ならアタシも使うもんねー!!」
「何真似してんのよこの泥棒猫!」
「真似じゃないわよ!持ちキャラよ!あと誰が泥棒よこの粘着女!たかがIS実習に入ったのがアタシより半年早かったくらいでえばるなっ!」
どうやら鈴もはるるの事を思い出したらしい。というのもその内容は鈴が言った言葉が全てを表しているのだが。未だに代表候補性になれなかったことを恨んでいると言えばそれなりの理由と言えなくもないが・・・実際には彼女以外にも候補は何人かいたというか、彼女はその中で割と下の方だったことを思い出しても口には出さない鈴の優しさは、さながらサンタを心待ちに眠っている子供の枕元にプレゼントを置く大人くらいの優しさだろう。
「それでLRと同時にBを押し込むと瞬時加速だ。硬直時間に気をつけろよ篠ノ之」
「むっ・・・ふっ・・・くっ・・・こうか!何か凄い勢いで小さい方のゲージが減っていくが・・・」
「それは超必だバカモノ!そのコマンド結構ややこしいのに、逆によく出せたな!?」
「えへへ・・・」
「褒めてないぞ」
「ちょ、のほほん今どこから撃ってきたの!?・・・うわっ、岩と岩の隙間をいっそキモイと言える速度で走り抜けてる!?ていうかキモイ!!」
「うふふへへへ~・・・かんちゃんと一緒に練習したんだぁ~・・・」
箒は素人に近いがラウラと鈴はかなりやりこんでいるようだ。対してこちらは3人とも経験者。勝機は十分にある。鈴の罰ゲームなど受けてなるものか。昔酢豚の試食と称して泣いて嫌がる俺の手足を縛って食わせようとしたあの鈴の事だ、何を要求されるかわかったもんじゃない。
そう自分を奮起させた一夏だったが、同時に「俺達何のために戦ってたんだっけ」と思ってしまうのだった。
= = =
『どうです、スィニョリーナ。ベルを起こすのは中々骨が折れるでしょう?』
「そーなんですよ。元々くせ毛だから朝は大変なことになってるし・・・髪の毛の方を梳いてあげながら起こさないと間に合わないくらいです」
『その手は私も使ったぞ。別にお前が特別なんじゃないんだからな!』
『アーンーグーロー・・・お前ちっとも反省してねーなオイ』
(ベル君、スィニョリーナってどういう意味?)
(女の人の敬称)
母国イタリアの友達であるという3人は中々に個性的だ。主にアングロさん。黙っていればいいとこのクールなお嬢様、って印象だったが口を開くや否やあの有様。親バカならぬ友バカとでもいうのだろうか。それについては議論の余地がありそうだが今はそれはいい。
話を聞けば聞くほどに、この3人が心の底からベル君を心配しているのが伝わってくる。その真剣さと言うか必死さがちょっと面白い。でも、確かにベル君が「最高の友達」と称すだけの事はあると思う。
ベル君の伯父さんは通信の最初に顔を出して2,3分ベル君と話をした後私にも一言「ありがとう」と声をかけて引っ込んでしまった。あまり口数の多い人ではないのだろう。それでも話をしている間のベル君は嬉しそうに目を細めていた。余程おじさんを信頼しているんだろう、その姿はとても微笑ましかった。
にしても「ありがとう」か・・・何だか面と向かって(モニター越しではあるが)そう言われるとむず痒い。考えてみれば他人に褒められる事などあまりなかったから慣れていないのかもしれない。
今までだって手を抜いてベル君と接してきたわけではないが、なんとなく気が引き締まる気分だ。ベル君が自分で行動できるようになるまではしっかり世話をしてあげよう。可愛いし。どっちかと言うと友達と言うより保護者の気分だけど。時々口から欲望が垂れかけるけど。
『全くしょうがない人ですね・・・しかしスィニョリーナ・・・いえ、ミノリ・サトー。貴方が優しい人間で良かった。いずれ直接会って言葉を交わしたいものです』
アラス君は優しい。あれだけ騒いだりしているアングロさんを嫌な顔一つせずに宥めている姿を見るとそれがハッキリ分かった。あの柔らかい金髪と甘いマスクはさぞ多くの女の子を陥落させてきたであろう。
『ミノリ・サトー!アラスが認めたからっていい気にならない事ね・・・ベル坊の隣は貴方が思っているほど軽い席ではなくてよ!』
アングロさんは表情があまり変わらないように努めているようだがベル君関連では私情を抑えきれていないのが面白い。今まで主立ってベル君の世話をしていたらしいが、余程ベル君の事を可愛がっていたのであろうことは想像に難くない。
『あ、そーだ!今度の夏休みにでもこっちから会いに行こうぜ?どーせそのうち行こうとは思ってたんだよなぁ!』
コーラ君は特別優しくも思慮深くもないように見えるが、この二人と一緒にいると不思議とバランスが取れているような気がしてくる。彼のアクティブさは他人を引っ張るというより、むしろ彼のとった言動に他人が惹かれる一種のカリスマのようなものに感じる。ベル君が彼の事を苦手としていないのも、それが原因なのかもしれない。
そしてその3人が3人とも、ベル君に見守るような温かい視線を送っている。あの身も心もボロボロだったベル君がそれでもやっていけたのは、きっと3人と彼の伯父さんの尽力があったからなんだろう。本当に本当に・・・
「いい友達を持ったね、ベル君。羨ましい位にいい友達だよ」
「・・・ミノリは、友達じゃないの?」
「ふへ?」
言葉の意味が分からず思考が停止した。えっとベル君と3人は友達で私とベル君は・・・あれ?そういえば友達だっけ?何だかベル君は友達っていうより息子って感じのせいで忘れかけてた。
「僕とミノリが友達なら、アラスたちとミノリも友達」
「そうなの?」
取り敢えず画面の向こうに確認を取ってみたが、返って来た返事はやっぱりベル君支援だった。
『そうですね』
『私はまだ認めてないぞ!』
『ベルが認めてるのに?ベルの決定が不服なのか?』
『うぐっ・・・!あ、あくまで仮だからなっ!!』
『そうそう、友達の友達は友達と同じです』
「何となく論理が飛躍したような気もするけど・・・ちょっとした国際交流だね?」
「・・・今更すぎる。ここ、IS学園だし」
的確なツッコミにおかしさがこみ上げ、声をあげて笑った。つられてアラスとコーラも笑った。それを見てベル君も口元が緩み、それを見たアングロもまた口元が緩んだ。
海を隔てていても、人の笑顔は伝染るものらしい。
後書き
あのね。正直言ってギャグは苦手分野なんですよ。でもギャグなしだと書く側も読む側も息抜きするタイミングが無いから入れない訳にはいかないんです。
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