天使舞う、この世界
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NO.7 破軍歌姫
前書き
前回の続きです。
種族の天使は→天使
能力の天使は→『天使』
で表示します。
アーシアから紫色の霊力が溢れ出す。
この力の質。間違いない。
「『天使』・・・・・・ッ!」
アーシアはゆっくりと立ち上がる。が、目に光はなく、意識は無さそうだ。
一応、反転はしていないみたいだな。死に際は幸福だったのか?それならいいのだがな。
「おい、お前!アーシアに何をしたんだよ!」
「何もしてないわ」
俺に聞きたいのはわかるが、俺が原因じゃ無さそうだし。
「(オーフィス、黒歌。あなたたちは手を出さないでね)」
「(ん。わかった)」
「(わかったにゃ)」
あ、黒歌起きてたんだ。
「『絶滅天使』」
『天使』を顕現させる。精霊の絶対なる矛。もっとも、誰かを傷つけるためじゃなく、守るために出したんだがな。
アーシアはその場で靴の踵を合わせるように、地面に二度爪先を打ち付けた。
「『破軍歌姫』」
アーシアが無機質な声を響かせる。
数字は9、色は紫、金属は銀、惑星は月(月も惑星と見なす)。神名はシャダイ・エル・カイ。守護天使はガブリエル。
それが、アーシアの『天使』。
アーシアの中にあった結晶は霊結晶だったのか?色と番号で判別できるらしい。
アーシアの掛け声と共に、地面から銀色の筒が競り上がってくる。その姿は、大きなパイプオルガンを連想させた。さらに、アーシアの目の前、ちょうど腰の高さに光の鍵盤が現れる。
「・・・・・・綺麗だ」
イッセーが呟く。確かに神秘的な光景だ。
アーシアは鍵盤に手を沿え、銀筒をマイクのように配置させる。
ここで『破軍歌姫』能力を簡単に説明しよう。
『破軍歌姫』は歌や音楽に霊力をのせてその歌や音楽にあった効果を与え、増幅したりする『天使』だ。
猛々しい音楽で聴いた者の力を増強させたり、癒される音楽には鎮静作用が出たりする。
ちょっと話を戻そう。アーシアは多分、今までの育ちかたからして、殆どの音楽を知らないだろう。しかし、一つだけ知っている、完璧に歌詞を覚えている歌がある。
それに思い至った俺は声をあげた。
「全員!耳を塞ぎなさい!」
直後だった。アーシアが歌い始めたのは。
「『破軍歌姫』、『聖歌』」
「『光楯』ッ!」
旋律が流れる。聴くだけで悪魔を死に追いやる聖歌。アーシアが唯一知っている歌。俺は霊力が込められている音を楯で防ぐ。
「ぐ・・・・・・あ・・・・・・ッ!」
「なんなのよ、一体!」
「こ・・・・・・れは・・・・・・」
「(レイナーレ!説明するにゃ!)」
悪魔の皆さんが苦しむ。黒歌弱冠ヒステリー。
ここで無事なのは俺とオーフィス、音楽を流しているアーシア本人だけだ。
俺は楯を何重にも重ね、霊力を完全に遮断する。
これで、やっと耳から手を離せた。
「はぁ、はぁ、あなた、これは一体なんなのよ!説明しなさい!」
「落ち着きなさいよ。まずは冷静になりなさい」
まずは全員に深呼吸をさせ落ち着かせる。
「落ち着いたわね。じゃあ、説明するわよ。これは聖歌よ。ただし、少し普通とは違うけど」
「聖歌だというのはわかったわ。ただ、違うって何が違うのよ」
俺はアーシアを指差す。
「あれが顕現しているのは『破軍歌姫』。形を成した奇跡よ。その影響で聖歌の効力が何十、何百、下手をすれば何千何万以上に増幅されているの。もろに聴いたら死んでるわよ?」
悪魔全員が身震いした。当然だ。普通の聖歌ですらダメージを受ける。それが計り知れないレベルまで増幅されているのだから。
「あなた方は今私が張っている壁より前に出ないことね。出たら、あの音楽を聴いたら死ぬわよ」
「じゃあ、どうしたらアーシア、あの子を助けられるんだよ!教えてくれ!」
イッセーが必死に聞いてくる。わかるよ。俺だって助けたいんだ。あれは多分、一種の暴走だ。
「正直、私もどうすればいいかわからないわ。あれは多分、一種の暴走よ。どうにかして止めないと」
「じゃあ、俺がアーシアのところまで行く!」
「あなた、話を聞いていたの?今は私の張っている壁のお陰で痛みも何もないけれど、一歩外に出れば全身に激痛が走るわ。あの子の元にたどり着く前に死ぬわよ」
俺の言葉を聞いたイッセーは黙る。
「だったら、あなたの壁であの子の元に送り届けてやってくれないか?」
今度は木場が喋る。
「そう、じゃあ、やってみるかしら?」
「おう!」
俺はイッセーを光の楯で覆う。物質化した俺の光は、俺が霊力を流さない限り効力を発揮しない。まあ、それでイッセーを覆い、さらにその上から霊力の籠った膜で覆う。光は悪魔にとっての毒だからな。工夫しないと。
「これで大丈夫だと思うわ。少しでも痛かったら言いなさい。かけ直すわ」
「ありがとう。それじゃあ、行ってくる!」
イッセーは俺の結界を抜け、アーシアの元に走る。
それを捉えたアーシアは、大きく息を吸った。
「ああああぁぁぁぁッッ!!」
アーシアが絶叫のような大声をあげる。その声は『破軍歌姫』を通り、衝撃波となってイッセーに襲い掛かった。
「がっ!」
「イッセー!」
イッセーは一気にこっちまで吹っ飛ばされてきた。イッセーに心配そうに駆け寄るリアス。
そういえば、あれもあったな。音による衝撃波。『破軍歌姫』は確かに戦闘向きの『天使』ではない。だが、全く戦えないわけじゃない。
「今のは音による衝撃波ね。下手に近づかない方がいいわね」
「・・・・・・かなりの衝撃」
白音もあの威力がわかったらしい。
「あらあら、どうしましょうかね?」
姫島朱乃が考えている。顔は余裕そうでも内心そうでは無いらしい。
「はぁ、いっそのこと、あの子を私が疲労させましょうか?暴走しているのだし、一回収めた方がいいかもしれないわよ?」
壊れた機械は、一回電源を切るって手もある。
「お願いします!アーシアを助けてください!」
イッセーが言う。会って少ししかたってないけど、一応俺たちは友達(だと思う)だからな。
さてと、行きますか!
「限定『神威霊装・一番《エヘイエー》』」
俺の服の所々が光を編み込んだかのような白いレースに変わる。うん。精神的ダメージは軽度だ。
力を制御してやっとできるようになった限定霊装。これだけでも出力がかなり上がる。
俺は張ってある壁はそのままに、アーシアの元に駆け出した。
アーシアは先程イッセーにやったのと同じように、大きく息を吸い込んだ。
そしてーー
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
正確に認識できないほど高い声が響く。教会が少しずつではあるが、壊れていっている。
「悪いけど、負けるつもりはないわよ。『絶滅天使』・・・ッ!」
自身の『天使』に霊力を込める。限定霊装でも、『天使』しか顕現できていないアーシアの『破軍歌姫』を防ぐことは楽にできる。こちとら何年もこの力使ってるんだよ!ひよっこめ!
「ーーーーーーーー・・・・・・」
アーシアの声が薄れていく。当然だ。あんな大音量を体力があまり無いアーシアが続けることは無理だ。どれだけ『天使』が強かろうと、使うのは宿している者だ。
「少しーー眠ってなさい。『砲冠』」
俺は、『破軍歌姫』の銀筒を吹き飛ばした。
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巨大なパイプオルガン、『破軍歌姫』が崩れる。その瞬間、アーシアは意図が切れたようにその場に崩れ落ちる。
ぐったりとしているが、生きているみたいだ。神器を抜かれたのにな。奇跡なのかもな。
「(終わったかにゃ?)」
「(こっちはね。まだ別のことがありそうだけれど)」
『破軍歌姫』を止めることはできた。さて、今度の相手は魔王の妹かな。
「アーシア!」
アーシアに駆け寄るイッセー。よかったな。生きてるぞ。
「・・・・・・うぅ」
「アーシア!」
アーシアが目を開ける。その光景を信じられないようなものを見るかのように見ている木場、白音、朱乃、リアス。
「神器が抜かれたのに、死んでいない・・・・・・?」
恐らく、『天使』の影響だろう。
「さて、私は帰るわ」
「待ちなさい。あなたには色々と説明してもらうわよ」
「そんなことより、その子の心配をしたらどうかしら?命が助かったとはいえ、死にかけにはかわりないわよ」
そう言うと、はっとしたような表情になりイッセーとアーシアの元に駆け寄るリアス。俺は、そうしているうちに帰る。
「(さて、帰るわよ。私の見たいものは見れたわ)」
「(『天使』ってやつのことかにゃ?)」
「(ええ、おかげで推測は事実になった)」
アーシアの霊結晶を見たとき、そんな予感はしてたんだ。あの結晶が見える存在は天使を宿す可能性がある。神器が邪魔になるらしいけど。
ふと後ろを見ると、アーシアの中に『僧侶』の駒が入っていっていた。フム、『天使』の宿していても悪魔にはなれるのか。もしかして反転する可能性があるからか?それとも、悪魔化と同時に反転するのか?もう少し調べる必要がありそうだ。
俺たちは帰宅したのだった。
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さて、これから始めるのは所謂後日談というやつだ。
あのあと、黒歌に頼んで野良猫ネットワークでアーシアを見守ってもらっていた。
悪魔になっていたが、お祈りや十字架を切っても痛みが発生せず、『天使』も反転せず『破軍歌姫』のままだった。
アーシアの『破軍歌姫』は今のところ、『聖歌』と癒しの歌、『治療』が使えるらしい。まあ、アーシアらしいと言えばアーシアらしい。
そして今現在、俺たちは繁華街の食べ放題に来ている。オーフィスに頼まれたからね。
俺と黒歌は約一人前食べたら終わったが、オーフィスは少なくとも五人前はいってる。全メニューを食べるつもりか?
アーシアはあの場で死にかけだったため、『悪魔の駒《イーヴィル・ピース》』で転生した。残念だけど、俺のは助ける術がなかったから。
今はイッセーと同じ学校に通っている。
「(はむはむもきゅもきゅ)」
なんでオーフィスが食べるときの擬音って可愛いの?サンドイッチを両手で持って小動物のようにもきゅもきゅ食べるオーフィス。殺人級の可愛さです。
「で、これからどうするつもり?」
「暫くはアーシアを見守りつつ『霊結晶』を観察するわ。この町に滞在するわよ」
ちょうど色々な力を引き寄せるドラゴンもいるしな。
「一応、今まで通り修業は続けるわよ。黒歌の目標は、時間の操作ね」
「ハードル高くない!?」
「大丈夫よ。空間と時間は密接な関係にあるから、片方ができればもう片方もできるわよ。多分」
「最後に多分ってつけるのがレイナーレらしいわ」
「確実にできるというわけではないからね」
黒歌、頑張ってくれ。できると思うからさ。
さて、束の間の平和を満喫しますか。
後書き
これにて旧校舎のディアボロス終了です。
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