SHIN プリキュア
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第二話 あんなの、ありえない
改まった様子で彼女は私にこう問いかけた。
「さて、どうだった?」
格闘を見せられたのち、私はまたワープでさっきの部屋に連れて行かれた。そしてお茶なんて出されちゃ飲むしかないから飲んで、お菓子なんて出されちゃ残すのも悪いから食べ、何やってんだ・・・ってくらいくつろいでしばらくすると、まるでオープンスクールの後に親が子にするような感じで質問された。しかしその質問は私の進路の話でもなく、将来の話でもなく、さっき行われた彼女と怪物のデスマッチに関してなのだろう。だがしかしだ。それを、どうだった?と聞かれても私は果てしなく困ってしまう。なぜなら比較の対象が自分の人生、いや私以外の大半の人の人生の中にも見当たらないような状況だったのだから。どうもこうもない。どうなってんだって話なのだ。そんなことを考えていた私の顔は困惑していたのだろう。彼女は微笑みながら私に言った。
「まぁ、分からないよね。オープンスクール見に行ったんじゃないんだからね。」
う、またもや心を読まれたか。いや、そんなつもりはないのだろう。そんなことまずできないのだろう。しかし実は彼女、さっきから私の心を読んでるとしか思えない行動ばかりする。まず驚くべきは私の大好きな種類のお茶が出てきたことだ。次いで私の大好きなお菓子が出てくる。そしてうめぇうめぇ思いながら飲んだり食べたりしていると彼女はテレビを点けた。まさかの録画だったが、その番組は私が昨夜見逃したドラマだった。正直怖かった。怖かったが彼女は特にそんな怖がってる私に何の興味もなく普通にテレビを観ていた。え、自分ちに人来てんのにテレビ観ちゃうん?マジで?自分マジで?とは思ったものの、先ほど言ったようにこの番組は私も観たくてしかたなかった番組だ。とりあえず二人して1時間がっつり無言で観てしまった。
何だよ、そんな展開ありかよ。ちょっとがっかりだぜ。録画を見終わりそんなことを心の中で思っていた。ふと彼女を見ると、彼女も同じようなことを思ったのか、眉間にシワをよせて頭の中で何かを整理している様子だった(因みにこの時毛玉1号と毛玉2号はこの部屋にはいなかった)。そして「ふぅ」と息を吐いたと思ったら、彼女はさっきの質問をしてきたのだ。
「さて、どうだった?」
困惑する私。
「まぁ、分からないよね。オープンスクール見に行ったんじゃないんだからね。」
更に困惑する私。そして彼女が次にこう言った。
「よし、それじゃ今日のところはもう解散しようか。」
えっ・・・、いいの?いや、私は全然いいんだけど。正直これから長々と説得が始まるのかと思っていた。その、何だっけ、プリキュア?の。だからこんな風にお茶とかお菓子とか出して私の気を引いてるんだろうななんて、そう思っていた。違うの?じゃあこれは何?おもてなし?ただのおもてなしなの?
「明日、またお話させて。とりあえず今日は顔合わせだけ。プリキュアになるのは急ぎじゃないから、今日は私たちの存在と、さっき倒した奴らの存在を知ったところで終わりにしとこう!いっぱい話されても混乱しちゃうもんね。」
「う、うん。」
そんな感じでいいのか。いやでも待てよ。待て待て待てよ。もしかしてもしかすると、これってさ、これってこれってさ、夢が覚めようとしてるんじゃない?いや確かにね、確かに私にはずっと意識があったよ。でも私二つパターン考えてたよね。そうそう、これが超非現実的な現実のパターンと、私が超危険な昏睡状態のパターン。これ、私意識回復してきてるんじゃない?必死に家族とか友達が私に声をかけてるんじゃない?あ、何かそんな気がしてきた。ほら、遠くから私の名前を呼ぶ声がするようなしないような!正直しないけどたぶん合ってる!がんばれ私!目覚めろ私!こんな意味わかんない夢なんて、早く覚めちゃえええ!!
「じゃあ地上に戻るね。」
―ピュン!
「これ、渡しておくね。これがあればいつでも私たちと連絡がとれるから。あ、因みに今地上の時刻は15時だよ。学校から帰ってた時間とほぼ同じだろうから、親御さんも特に心配はしてないと思う。それじゃあ、またね。今日はありがとう!」
―ピュン!
・・・突然右手に渡されたおもちゃのような謎の携帯電話は、午後三時の風を受ける私の頬と一緒に、いきなり現実を実感させた。そして同時に私は我に返った。
「・・・いや、まだ。」
私は足早に家へ向かった。心臓がバクバクしてる。これは早歩きをして息が上がってるからか?いや違う、これは緊張状態だからだ。何でって、さっきまで何となく過ごしていた夢のような時間が、実は現実だったって、凄くシンプルに証明されてしまったから。絶対ありえないと思っていたから割と軽く考えていたというのに、何だこの超現実的な世界は。超非現実的な携帯電話は。待ってくれ、私は今何を考えたらいいのだ。いや何も考えられない。なんにも考えられない!!今私の顔は絶対強張ってる。青ざめてる。体は汗だく鼓動はバクバク。周りから見たら確実に「お譲ちゃん大丈夫かい!?」状態必至だ。家に帰ろう、とりあえず家に帰ろう。そしたら何かわかる。そしたらとりあえず落ち着く。落ち着いて、家族を見て、そんでもう一度冷静に考えよう。私が今どんな状況にあるのかを。
「ただいま!!!」
「おかえり。あらどうしたのキコ、何かヤバイわよ。」
「だ、大丈夫だよお母さん。私特段ヤバくないよ。」
「そう?ならいいけど。」
いつも通りのお母さんだ。階段を上がると妹がいた。
「おかえりお姉ちゃんどうしたの?何か、え、お姉ちゃんどうしたの?」
「ただいま。どうもしてないよ。お姉ちゃん別にどうもしてないよ。」
「そう?ならいいけど・・・。」
―バタン
いつも通りの妹だ。そしていつも通りの家。私の部屋。私のベッド、布団。自分の体を確かめる。私の服、スカート、顔体腕足。
「異常なし・・・。」
なし、なし、なし・・・。そう言い聞かせ、ずっと目を背けていた右手を見ることにする。確かに変な携帯電話を渡された記憶と、現にそれを握っている感触はある。でももしかしたら、もしかしたら違うかもしれない。実はやっぱり全部夢で、寝てた時に偶然ひろった石をまだ大事に持ってるのかもしれない。あまりにも壮大な夢のせいでそれが現実と混同することはよくあることだ。あれは夢だったか現実だったのか。今は確かに変な奴らとの何時間の記憶がある。でもそれも実は夢なのかもしれない。上手い具合に夢から覚めた私は何だか走り出してしまって、そう、寝ぼけてたのだ。そうだ、きっとそうだ。根拠はある。だって、ありえないだろう。あんなこと。あんなやつら。ありえない。よし、見るぞ、見るぞ右手・・・。きっと石だ。いや、ゴミかもしれない。いや、汗かもしれない。余りに手に汗握ってそれが結晶化した塩の塊みたいな汗かもしれない。とてつもなく気持ち悪いけどそっちのほうがありえる。見るぞ、見るぞ、見るぞ・・・
「う・・・」
何となくそんな気はしていた。やっぱり握ってたのは、おもちゃのような携帯だ。
「マジ、なのか・・・。」
私はそのおもちゃみたいな携帯電話を机の上に置いた。とりあえず、今日は寝よう。宿題して夕飯食べてテレビ見て風呂入って布団入って寝よう。そんでまだ机の上にその携帯電話があったら、その時はもうちゃんとその非現実的な現実と向き合おう。だから今日はもう、さっきまでの数時間が何だったのか、現実的に考えよう。あの娘が催眠術師で、私を眠らせてたパターンとか、私が実は極度の妄想癖だったパターンとか。可能性として考えるならよっぽど高いパターンはまだ沢山ある。
「あんなの・・・、ありえないって。」
そうだ、ありえない。ありえないって。
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