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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第五十二話

 いま、俺は家のリビングで聞いた情報を紙にまとめていた。

 まず、いつごろからどんな霊視の情報が出てきたのか。
 出始めは、俺が出雲大社で大暴れした二日後くらい。当分の間霊視されたのは大名行列のみ。
 そのまま委員会が霊視、という情報から武将を中心に調べて正体を探っていたところ、次々と霊視のバリエーションが増えてきた。
 それ自体は喜んでいたことだし、いくつか武将の目星もついていたが・・・霊視の情報が出てきすぎて、該当するものがいなくなった。
 現在、必死になって何かしらの形で一致しないか、最後の方まで残っていた武将を徹底的に洗い、完全に該当するものを捜している。

 霊視の情報として出てきたのは大名行列のほかに『葉と(かね)』『酒』『獣の群れ』『医者』『多額の金』『平家』『源家』『虎』『自害』『獣の群れ』『学業』『就職』『良縁』『安産』『名声』『交通安全』『商売繁盛』『回春』etcetc・・・

「こんなもん分かるかぁ!」

 俺は手に持っていたシャーペンを投げ出して、大声を上げた。

「そもそも、俺は家族みたいにそこまで深く神様のことを知らないし・・・ってか、知っててもこれはいないんじゃないか・・・?」

 試しに知に富む偉大なるもの(ルアド・ロエサ)で日本中の知識を軽く覗いてみるが・・・まあ、予想通りに該当するものはなし。

「何騒いでるのよ、兄貴」
「ああ、氷柱か・・・それに、ナーシャも。どうしたんだ?」
「フン。一緒に宿題をやろうといってくるので仕方なく付き合うところだ」
「ああ、そういうことか」

 ナーシャは、かなり素直じゃない。
 今回の場合は、一緒に宿題をやろうといってくれたので、喜び勇んで降りてきた、って感じだろうな。

「で?何が分からないの?宿題?教えてあげようか?」
「さすがに、年下の妹に教わる気はねえよ。・・・ってか、それなら権能で探すし」
「・・・兄貴、自分の持ってるものがどれだけのものか分かってる?」
「分かってるが、普段の生活で使えるなら利用しない手はないだろ」

 俺の台詞に、二人は呆れたような顔をしていた。
 むぅ・・・いいじゃん、便利だし。
 こいつと、豊穣王(フェータイルキング)医薬の酒(メディシカル・アルコール)は、日常生活でも役に立つ権能なんだよ。うん。

「で?結局何が分からないんだい?」
「ああ、これだよ・・・」

 俺は今投げ出した紙を拾って、二人に渡す。

「・・・何、この統一性の見当たらないの?」
「・・・・・・?」

 氷柱もナーシャも、何も分からないようだ。

「あー・・・最近霊視されてる情報をまとめてみた」
「・・・つまり、これが何かの神を現してる、ってこと?」
「ふむ、日本にはこんな、万能に近い神がいるのか・・・」
「いないわよ」

 まだあまり日本の神について知らないナーシャの言葉を、氷柱がはっきりと否定する。
 そのままナーシャは自分から戦力外であることを悟り、他の机で紅茶を飲み始めた。

「はぁ・・・本当に、これが?」
「委員会の人たちが俺にウソをついてる、とかじゃなければこれが事実なんだろうな」
「なら、事実でしょうね」

 氷柱はそう言いながら紙を取り、目を瞑って霊視をえることが出来ないか試してみる。
 結果・・・

「・・・はぁ、見えたわよ、兄貴」
「お、流石は氷柱だ」

 うちでも二番目の霊視の性能を誇る氷柱、その霊視なら、結構な情報が得られるんじゃあ・・・

「とりあえず、この紙に書いてあるほとんどが見えたわよ。その中でも大名行列が一番重要だと思う」

 勘だけどね、と氷柱は締めくくった。
 霊視能力者の勘は、馬鹿にならない。勘がそう言っているのなら、ほぼ間違いない。

「じゃあ、さ。そんな情報が当てはまる武将、いる?」
「そうね・・・例えば、多額の金、ってことから織田信長と連想してみるわよ」

 確か・・・どっかの金山から金を持ってきてたよな。
 確かに、多額の金は一致する。
 それに、大前提の神であるか否かについては、建勲神社に奉られてるから問題ない。

「で、一番重要だと思われる大名行列は、明智光秀のアイデアで始まったとされてるから、織田信長や明智光秀と大名行列とはかなり深いつながりがあるわ」
「なるほどなるほど」
「・・・知らないの?」
「そこまでは、な。学校のテストで点が取れる程度にしか勉強してない」
「はぁ、呆れた。この世界で生きてるんだから、相手の神が誰なのかを特定できるように知識くらいは蓄えておきなさいよ」
「いいんだよ。俺は、分からなくても戦うだけなんだから」

 本気で呆れられると思ったが、氷柱の反応はそんな感じではなかった。

「で、次に自害だけど・・・これはさすがに分かるわよね?」
「ああ。本能寺の変、だろ?」

 これはさすがに、俺でも知ってる。
 光秀が信長裏切って、自殺に追い込んだ事件だ。
 その後、ほんの数日で秀吉によって光秀の天下は終わりを告げる。

「なんか、兄貴がすっごくテキトーな形で考えてる気がする・・・」
「気のせいだろ」

 何故分かった・・・すごいな、氷柱。

「あの事件については、日本で神として奉られてる武将を紐解くさい、結構役立つ事件なのよ?色んな人が討ち取られてたり自殺してたりするし。なにより、あれが自殺ではなく暗殺である、って解釈だって出来るし」
「へぇ、そうなんだ・・・」
「やっぱり知らなかったか・・・」
「いいんだよ、権能あるから」

 なんでもこれで片付けれる気がする。

「で、獣の群れ、っていうのも大名行列をさしてる、って解釈だって出来るし。そうじゃなくても、戦争の際の馬を指す解釈も出来る」
「たしかに、人だって動物だもんな」

 獣、から野生の動物をイメージしてたけど、別にそれに限ったことじゃないんだよな。

「かなり力づくではあるけど、別にありえないことじゃないでしょ?」
「だな。霊視なんて、そんなもんなことも多いみたいだし」

 で、次は・・・

「医者、は?」
「あれくらい偉い人なら、医者にも気を使ったでしょうね。暗殺されないように」
「段々無理矢理になってきてないか?」
「神なんてそんなもんよ」

 そうかなぁ・・・そうだったなぁ・・・うん。

「交通安全は、信長の父、信秀が開基したところに、信長ゆかりの身代わり不動明王があるわ。あれ、交通安全のお守りもあったはずよ」
「それ、確かに交通安全を祈願しに来る人が多いみたいだしな」
「安産なら、桶狭間の戦いの前に祈願した熱田神宮、あそこ安産祈願をお願いする人が多いはずだし」

 あそことのつながりなら、まあ・・・深い、よな。

「名声なら、あの人自身が取ったし、実際今でも伝えられてるくらいだし」

 そのもの、だな。

「信長関連のことをしようとすると失敗するから、うまくいくよう・・・商売繁盛を祈願する見たいだし」
「そろそろ無理矢理過ぎないか?」
「ええ、無理矢理すぎるわよ。でも、いけた以上は可能性はあるでしょ?」
「・・・あるんだよなぁ・・・」
「といっても、そろそろ疲れたから否定材料出すけど」

 あ、やっぱりあるんだ。

「葉の金。これについては、まずこれの解釈から考えないと」
「そのまんまじゃダメなのか?」
「一体、どれだけ過去の話なのよ。少なくとも信長の時代じゃないわ」

 あっさり否定できたな・・・

「と、無理矢理でよければある程度までは当てはまる神様を出せるのよ」
「みたいだな」

 たった今、信長で結構当てはまったわけだし。
 他にも、徳川埋蔵金とかで徳川家康とかでもいい感じにいけそうだし。
 ちゃんと、神様として奉られてるし。徳川家は結構色んなところでいけるよな。
 それでも、『葉の金』がでかい壁になりそうだけど。

「そう言うわけだから、大名行列に注目するのはいいけど他のワード、特に『葉の金』も意識した方がいいわよ」
「なるほどな。ありがとう、氷柱」
「気にしなくていいわよ・・・って、何で私は兄貴にこんなことの説明してるのよ!」

 最後は少し怒りながら、氷柱はナーシャの元に行った。
 にしても、これは・・・

「予想以上に、難しい問題だぞ・・・」

 それも、元からかなりの難易度として設定してた最悪のパターン。
 
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