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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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アリシゼーション編
  episode1 隠された真実

 
前書き
 本当に長らくお待たせいたしました。
 自分の思い描いたアリシゼーション編を書こうと思います。原作様がまだ完結なされていない以上最後まで書ききることはできませんが、書きうる限りの自分の物語を書いていきますね。楽しんでいただければ幸いです。 

 



 「なんで結局俺んちになってんだよ……」

 深々と溜め息をつく。なんというか、なにかコトが起こるたびに俺は溜め息から思考が始まっているような気がする。それがあまりよくない傾向だと、一応自覚はしている。溜め息の数だけ幸せが逃げていくというのがあながち間違っていないということを、俺は経験論から重々学んでいた。

 「……仕方ない。……シドの家が、一番広い」
 「まあ一人暮らしにしてはホントに広いよね? さすが社会人、一大学生じゃあ手がでないよ」
 「どう考えても最適解です。ここ以外では効率は30パーセント減ですね」

 答えが、三連続で女性陣の口から帰ってきた。

 真っ先にばっさりと切り捨てたのが、レミ。かのデスゲーム『ソードアート・オンライン』においては「アバターの外見が現実の外見と同一」などという理不尽な仕様が実装されていたため、彼女の外見はこちらの世界でも仮想世界と同じ、小柄な体に眠たげな半目だ。もっともこちらではさすがにアルヴヘイムとは違って、身にまとっているのは魔導士風のローブではない。

 ……ではない、のだが。

 「にしてもレミ……ヒトんちに遊びに行くのに、ジャージってどうよ」
 「……動きやすく、機能的……そのまま寝ても皺にならない……」
 「……ヒトんちに許可なく居座るんじゃねえよ」

 彼女は、花の女子大生の現実を見せつけ幻想を打ち砕く服装……運動ジャージであった。

 ヒトの家……もう少し正確に言うなら、ネットで知り合って実際に数回しか会ったことのない男の家……に友人たちと遊びに行く服装として、それはどうよ。なぜかアンバランスに小洒落た帽子だけはかぶっていたが、本当に近所に酒のつまみでも買いに行ってるようにしか見えんぞ。

 「まあレミはおしゃれの必要がないくらいカワイイからね?」
 「……わざわざ否定はせんが、限度ってあるだろ。ツカサの気合をちったぁわけてやれ」
 「いやいや、オレもこれが普段着だよ?」

 そんなレミに助けを出したのは、ツカサ。

 彼女はそのスレンダーな体をTシャツとジーンズに包み、薄手の長袖シャツをひっかけている。そのボーイッシュな服装は、彼女の長身と相まってとてもよく似合っていた。複雑な事情を抱える彼女だが、服装へのこだわりはどのくらいなのか……俺もそこまでつっこんだ話をしたことはない。

 ……まあ、「現実で会う」なんてこと言い出さなきゃ問題にもならなかったろうが、な。

 「ふむ。ラッシーも女性をそのような目線で見るのですね。一応生物的な欲求を持ち合わせているようで私も安心しました。いえ、安心と同時に心配もしますが」
 「茶化してもなんもでねーぞ、ミオン」
 「そうでしょうね。ラッシーがそんな気の利いたことができるとは一パーセントも思いません」

 そんな俺の思考をごまかすように茶化すのは、ミオン。

 彼女は仲間内では唯一といっていい、仮想世界のアバターとで外見が大きく変わる人間だ。仮想世界ではいかにも司令官然とした切れ者の女アバターを操る彼女だが、現実ではとにかく地味だ。眼鏡もあっちのやり手の細レンズとは違って縁の太い目立たないもので、服装も白のブラウスと紺色のロングスカート。

 (……こんな娘がねえ……)

 まさかこんなごく普通の女子大生が現存する銃火器の大半を特徴まで含めて諳んじれる上に通信兵の真似事までできるミリオタだとは、誰も思うまい。俺だって実際その現場を見てなければ信じないだろうし、見た今でも信じ難い。

 ……とまあ、今現在俺の部屋には俺を含め四人の大人数が集まり、さらには俺以外は全員が女性という状況という、世間一般からすれば眉を顰められるような状況だ……が、まあ別にそれはなにもやましい理由やいかがわしい理由があるわけではない。

 今日が。

 「お待たせいたしました。ただいま戻りました」
 「お、お邪魔しますねっ!」
 「オイラも、お邪魔しますッス」
 「ああ、靴は適当にいいそうだ。拙僧のは外によけてもかまわん」

 俺たち全員では初となる、「オフ会」の開催日であるためだった。





 始まりは、ファー……友人の一言だった。

 ―――今度、東京に行く用事があるんスよ!

 彼は関東圏の外にある実家住まいだ。SAO時代に仕事は家の手伝いだと言っていたが、詳しく聞けば畑仕事の手伝い……つまりは親の跡継ぎ様なのだそうだ。別にそこに特に思うところはないが、問題はそんな彼が東京に用事……まあ、遊びに来るということになったことだった。

 当然、皆で集まらないかという話になる。

 俺は残念ながら半……というか八割がた暇人ゲーマー(実際は仕事の一環なのだ。そう、仕事なのだ)と同じ生活リズムのため、強制参加。レミ、そしてGGO組の面々……ツカサ、ミオン、グリドースは世の中で最も自由な人種(と俺は認識している)の一種、大学生。ブロッサムさんは言わずもがな俺が参加するのなら当然ついてくる。果ては忙しいはずのモモカまでなんとか都合をつける始末。

 結果、全員集合……八人という大人数となる。

 どこで集まるか、という話になるが、まずモモカ……元と言えるほど昔ではない子役アイドルがいる以上、あまり目立つ場所に集まるのも微妙だ。となると、誰かの自宅。そして結論。「女子大生の一人暮らしなんて、見るもんじゃないよ?」のツカサの名言により、会場は俺の家に決定したのであった。





 「……にしてもねえ……」
 「なにかおっしゃいましたか?」
 「いえ、別に」

 横に……そう、ベッドに座る俺の横に、当たり前のように控えた牡丹さんが言う。なんとか人前で「ご主人様」と呼ぶことだけは俺の必死の抵抗によって禁止したものの、この状況では。皆の目にどう映っているかを想像するだけで恐ろしい。

 「ブロッサムさんも座れば? 一応それなりに広い部屋じゃん?」
 「いえ、私はこのままで。飲み物のお替りをお持ちしてまいります」
 「あ、ああ、ありがと」

 そんな彼女にフランクに話しかけたのはツカサだったが、返答に若干ひいていた。致し方あるまい。何かを察したのか、聡明な彼女はそれ以上深くは追及してこなかった。彼女の振る舞いは明らかに「恋人の友人に対する彼女の対応」という言い訳でごまかせないレベルだということは皆分かっていただろうが、モモカがいた手前誰も掘り返しはしなかった。ちなみに俺は既にこの段階でもう深く考えることをやめていた。

 助け舟を出してくれたのは、ファー。

 「そ、それにしてもシドさんの部屋って片付いてるんスね! オイラなんてすぐ部屋がゴミ屋敷ッスから、うらやましいッスよ!」
 「……まあ、割と寝るだけに近いしな、この部屋」
 「ファー君、これが普通だなんて思っちゃいけないよ? そんなことだとカノジョできて部屋に遊びに行ったときに幻滅しちゃうからね?」
 「ツカサの部屋は汚すぎです」
 「ミオンの部屋だってごっちゃごちゃじゃん? スペースないくせにオレたちの入賞のモデルガンとか大事に飾っちゃってさ」
 「ふむ、まあ気持ちはわからないではない。それにしてもこの家は殺風景だな。生活用品しかない」
 「ぬいぐるみとか置かないんですか? ALOのモンスターデフォルメとかカワイイのいろいろありますよ、シドさん! 私もいくつかもってますもん!」
 「……いや、それはさすがにな」
 「……こんな大男の部屋に、ぬいぐるみ……」

 ……即座に全員が乗ってくるあたり、この集まりも随分馴染んだものだ。

 それにしてもファー、絶妙に地雷の横を突いてきやがる。俺の部屋が片付いているのは、言うまでもなく牡丹さんが家事全般をこなすからだ。牡丹さんはそういった自身の仕事をことさらにひけらかすような人間ではないので、特に口を挟まないでくれているのが救いだ。

 それ以前の……まだ牡丹さんに会う、前は。

 (きれいな部屋、ね……)

 一人部屋を持っていた頃……つまりはSAOの中にいた頃の俺の部屋は、それなりにごちゃごちゃとしていた。適当な資料やらアイテムやらをそこらに放り出していたというのもあったし、こまめに装備をストレージやロッカーにしまうほどまめな人間でもなかったというのもある。

 ただ、それ以上に。

 ―――ねえっ、これかわいくないっ!?
 ―――レミたんが作ってくれたんだよっ!
 ―――ほらほらっ、前の冒険のスクリーンショットっ! 傑作だよっ!

 片っ端から散らかしまくる輩が、頻繁に俺の部屋に出入りしていたから。

 彼女は俺の都合なんかお構いなしにずかずかと部屋に押し入り、自分の好みのものを遠慮なく放り込んでいった。結果俺にはとても似合わないようなファンシーでラブリー(……自分で言ってて情けなくなる表現だ)なグッズが少なくなく並び、趣味ではない記念写真が本棚の上に陳列されるようになっていたわけだ。

 (…………)

 もちろん、ファーやレミに悪気はないのだろう。
 こんな他愛もないことにそんな裏の意味を持たせてもあるまい。

 俺だって四六時中昔を思い出しているわけじゃない。
 ふとした拍子に、ほんの少しだけ記憶に映るだけなのだ。

 まあ。

 (……仕方ない、か)

 それはおそらく一生俺に付きまとうのだろう。
 何をしても、何を考えても、彼女のことが頭をよぎる。

 「どうされましたか?」
 「……いえ、別に。こらてめーら、ヒトんちに入り浸る算段たてんじゃねえ! レミ、ツカサ、すかさず持ち込むものリストに書き出してんじゃねえ!」

 だがそれは、誰だってそうなのだろう。別れた相手のことをことあるごとに思い出す輩だっているのだろうし、テレビを見るたびに昔を振り返る大人だっているだろう。俺は少しばかしそれが重症だってだけの話だ。

 俺はこうして、日々を過ごしていく。
 消えないしこりはあっても、それでも、前を向いて、笑って。

 そうなっていくのだと、信じていた。





 そんな日々は、終わりを告げる。俺は再びあの異世界へ……かつてもう二度と行くことは無いだろうと本当の意味で闘う世界へと足を踏み入れることになる。失ってしまった人を、もう一度失う前に。失ってしまった人を、助けるために。あの日、届かなかった手を、もう一度伸ばすために。

 その激動の日々は、一言の電話から始まった。

 ―――病院にいらしてください。牡丹が入院なさいましたので。

 
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