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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百六十七話 同盟混乱

 
前書き
もの凄くお待たせしました。スランプ気味でございます。

 

 
宇宙暦794年 帝国暦485年7月3日

自治領主オフィスに帝国が新たな捕虜交換を行うと連絡が入ったのは、レムシャイド伯がリヒテンラーデ侯より話を聞いた時から些かしか経っていない頃で有った。

■フェザーン自治領 自治領主オフィス  アドリアン・ルビンスキー

「そうか、帝国は同盟との捕虜交換を提案する訳か」
ボルテックからの報告を聞きながら俺は此がどの様な事態を起こすかを考えていた。
「はい、自治領主閣下、あの者からの報告ですと、今回の捕虜交換は拉致し農奴と成った市民の多くを帰還させるとの事と」

「ふむ、同盟側の政治屋共は支持率UPで大喜びだろう」
「はい、一も二もなく話に乗ってくるかと」

だろうな、しかし此処で現政権が延命しては、折角サンフォードの議長就任にリーチがかかっている事が遠のくか、何としても現政権を引きずり下ろすには、和睦を壊し軍を敗北させねばならないが、余り敗北させると、帝国と同盟とのバランスが崩れかねない。

程よい敗北が良いのだからこそイゼルローン要塞攻防戦がバランス的にも良い塩梅なのだが。

「支持率UPで有れば、現政権の延命になる」
「はい、試算ですが、捕虜交換が行われれば前回の捕虜交換と比べても民間人の救出という点で前回以上に支持率が上がるかと」

そうなると益々失敗させねばならぬな。
「うむ、数日中にもレムシャイド伯から同盟側に提案が有るはずだ、それを弁務官事務所からハイネセンには伝えないようにさせよ」

「宜しいのですか?」
「うむ、此処でアンダーソン政権には退場して貰うとしよう、捕虜交換はイゼルローン要塞攻防戦後に我がフェザーンを仲介として成立させればよい」

「そう旨く行きますでしょうか?」
ボルテック、旨く行くのではなく、我々が旨く行かすのだ、それだから貴様は補佐官止まりなのだよ。

「暫く話が行かなければ年末にも同盟はイゼルローンへ攻めかかる予定になっている。それに同盟軍は最近は敗戦続きだ。先だっても第6次イゼルローン要塞攻略戦の為に1年以上に渡り建設していたヴァンフリートの後方支援基地を失っている、失態続きで焦るロボスがどう動くか」

「なるほど」
ふっそう言う事だ、あの出世欲の権化と言えるロボスと夢想家のフォーク、ホーランドなどが居るのだ、ほぼ間違い無くイゼルローン攻略を強行するだろう。それにイゼルローン要塞攻防戦はどうせ敗北するであろう。此で国防副委員長トリューニヒトの委員長就任が本決まりになる所であるからこそ、同盟には今一度敗北して貰わねば成らぬからな。

「サンフォードが議長に就任すれば、フェザーンの繁栄にまた一歩近づく訳だ」
「はい、それでは直ちに準備を開始します」
「うむ」

さて、誰が勝ち残るかな。帝国か、同盟か、地球か……それとも、俺か……



宇宙暦794年帝国暦485年7月4日

■フェザーン自治領 自由惑星同盟高等弁務官事務所

「うむ、此は……」
帝国から来た捕虜交換の書簡を見たベルモント弁務官は息を呑んだ。自分の判断ではどうにも出来ないほどの用件であった上に、能力が全く足りていなかったからである。

何故なら高等弁務官は表向きは対フェザーン外交の、裏の顔は対帝国スパイ網の責任者であり。同盟からすれば優秀な人物こそが望まれるポジションだが、昨今はその質も低下し。政権交代時の論功行賞として用いられるしまつ、名士としての箔付けのために送り込まれることが多くなっている状態で有り、ベルモント補佐官もその例に沿ったボンクラであった。

「弁務官、如何しました?」
直ぐさま、気が効く女性秘書が声をかける。
「うむ、実は」

美人で才媛であり女王様な秘書に思わず愚痴をこぼす。
「アンナ、帝国から捕虜交換の書簡が来たのだがどうしたら良いかな?」
普段からアンナを含めて多数の女性と関係のあるベルモントは既にまともな判断も出来ない様な依存振りとなっていた。

ベルモントから書簡を受け取ると早速読み始めるアンナ、その姿は弁務官の机に斜め座りして足を組んだ状態である。読み終わるとアンナはベルモントに向き直り話しはじめる。

「ふーん、なるほど捕虜交換ね、此を行えば支持率UPは間違い無いわね」
眼鏡を指で上げながらアンナは答える。
「だな、そうなれば、私の功績として栄誉が貰えるな」

喜ぶベルモントを見ながら、アンナは普段では見せない悲しそうな顔をする。
「アンナ、どうしたんだい?」
アンナの変化に驚いたベルモントが聞く。

アンナは憂いを持った表情で溜息を吐きながら呟く。
「貴方が、功績を立てたなら、貴方は中央へと召還されるわ、そうなれば私達離ればなれね」

ベルモントはアンナの言葉に否定の言葉を吐く。
「そんな事はないぞ、例えハイネセンに戻るとしても、お前を連れて行く」
アンナの気弱そうな姿に普段と違う興奮を覚えたベルモントは必死に大丈夫だと言う。

「いえ、駄目なのよ、私はフェザーン人ですから、就労ビザの関係でそう簡単には貴方の元へはいけないわ、それに貴方にはハイネセンに奥様とお子様が……」
ベルモントはアンナの言葉に一瞬目が泳ぐが、何とか誤魔化そうとする。

「大丈夫だ、妻とは別れるし、就労ビザぐらい幾らでも、それが駄目なら旅行ビザで入国してそのまま亡命すれば良いだけだよ」

ウルウルとした目をしてアンナは問いかける。
「本当に奥様と別れてくださるの?」

「ああ、直ぐにでも弁護士に離婚調停を頼むさ」
ベルモントは電話を早速しようとするが、それをアンナが止める。
「駄目、やっはり駄目だわ、私には両親と幼い姉妹が……みんなを置いてはいけないわ」

ヨイヨイと泣き始めるアンナにベルモントは困ってしまう。
「アンナ、どうすれば良いんだ?」
「貴方が、フェザーンから帰国しなければ……」

「そうか、そうだな、それしか無いか、しかしどうすれば良いのだ?」
思案するベルモントにアンナが答える。
「捕虜交換の話をしなければ、貴方の功績が無いのだから、このままフェザーンですごせるわ」

「おお、そうだな、そうしよう」
実に馬鹿な状態で女に引っかかったベルモントである。

この後、ベルモント高等弁務官とアンナ・チャップマン秘書が情報を秘匿し他の職員には帝国からの捕虜交換の情報を伝えなかったために、同盟最高評議会は全く事実を知らずにおり、同盟政府が知ったのはレムシャイド伯の会見によるニュースを立体TVで知ったほどであり、軍はスコット提督からの緊急電という体たらくであった。

しかし、他の職員が不審に思わなかったかと言えば、同盟側の弁務官事務所職員にフェザーンの紐付きが多数いた為である。無論アンナもその一人であった。ルビンスキーは彼女と首席補佐官が使い情報の伝達を止めたのである。

ルビンスキーは情報の断絶にほくそ笑んだのであるが、実際の所アンナは帝国側が送り込んだ人物で、ルビンスキーは見事にだまされた訳である。帝国は既に帝国暦478年よりフェザーンや同盟へ人材の潜入や入れ替わりを行っており、アンナもその一人で有った。それを知らずにルビンスキー側がハニートラップとして同盟側に送り込んだのである。つまり中を空ければレムシャイド伯まで味方に騙されるという逆ドッキリ状態で有った。

こうして、ルビンスキーがほくそ笑んでいる中で実際に高笑いしていたのは、テレーゼだったのである。
「さて、誰が勝ち残るかしら、帝国か、同盟か、地球か……ルビンスキーか……いいえそれは私よ!」
こう独り言を呟いたとかなんとか。



宇宙暦794年帝国暦485年7月17日 午前10時10分

■自由惑星同盟首都星ハイネセン 最高評議会

最高評議会では、第6次イゼルローン要塞攻略戦に関する議題が上がっていた。
喧々諤々の話し合いの最中、秘書官が慌てて駆け込んできた。
「議長、大変な事が起こっています」

“会議中だぞ”の声にもかかわらず議長の下へ駆け寄る秘書官。
普段はそんなに慌てない秘書官の慌て振りに不審を抱いたアンダーソン議長が内容を聞く。
「どうしたのかね?」

「議長、たった今、フェザーンより同盟政府が捕虜交換を拒否したという表明が出されました!」
言っている意味が今ひとつ判らない議長が質問する。
「捕虜交換とは何時の話だね?」

「たった今です。帝国側が7月4日宛でフェザーンのベルモント高等弁務官に“貴族荘園より解放してきた拉致農奴に関して故郷へ帰還させる事、それに伴う形で捕虜の交換も行う事を通告したそうです」
秘書官の話に、最高評議会の各委員長から“そんな話は聞いていないぞ”“議長、知っていたのですか?”などの声が上がるが、アンダーソン自身始めて聞く事であり、驚き狼狽するしかない。

「いや、私も一切その様な話を聞いたことが無い」

素なような最中、違う秘書官が飛び込んできた。
「議長、帝国側は“解放する農奴は200万人、交換する捕虜は100万人の合計300万人”と発表しました」

“300万人”という声が誰ともなしに上がる。

バーナード副議長が秘書官に“詳しい情報を集めるように”と命じると、議会は捕虜交換に関する、事実確認の為、各々が意見を述べはじめ、騒がしくなっていったが、再度現れた別の秘書官の報告に議会内は凍り付いた。

「議長、大変です。“前回のヴァンフリート星域会戦に於いて帝国軍が勝利したのはスパイ活動の成果だと向こう側は邪推したとの事だ。そしてスパイ組織の中心人物として、帝国からの亡命者たるローゼンリッター連隊に疑いをかけ、彼の連隊の関係者は元より、帝国からの亡命者を収監及び取り調べを行っている”と帝国側から発表されました。その為、現在同盟各地から確認や抗議の電話やメールなどが殺到しはじめています!」

秘書官の言葉に、愕然とする議会の出席者。
「何故その事が……」
「馬鹿な、軍の防諜はどうなっているんだ!」
「だから言ったんだ、一蓮托生で取り調べるなと」
「あの時は仕方なかった、君だって賛成したじゃないか」

等々、責任の擦りあいが始まった。

近年ではまれに見る良識派として、次期議長は確実と言われたバーナード副議長が皆を落ち着かせる。
「落ち着きたまえ、今は言いあっている場合では無いだろう、第1にするのは、事実関係の確認と、フェザーンの高等弁務官事務所への照会と、我々の意志の統一だ」

発表自体全て事実であったが為に、ネット拡散により、バーナード副議長の努力も無駄になり、同盟が捕虜問題で混乱状態に陥る事になった。
 
 

 
後書き
出来る限り早めに更新できるように致します。 
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