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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その4

 
前書き
卒業試験中の一幕です。
サスケ視点です。
サスケと接触したのが影分身だったので、サスケ視点で書きました。
 

 
中忍であるはずのミズキを尾行しているというのに、大した手ごたえもなく、サスケはこの状況に飽きを感じ始めていた。

自分の力を試してみたいという気持ちに、ナルトの提案はピッタリな物だった。
だからこそ引き受けたというのに、これでは張り合いがなさ過ぎてつまらない。

しかも、ナルトはナルトでミズキに何か試したようだ。
おそらく、先日サスケが盛られたしびれ薬の改良版だろう。
医療忍者を目指しているだけあって、ナルトは薬や毒を扱う戦法を好んでとる。
気が付くと無力化されてしまっていた事も一度や二度ではない。
あれも本来ならサスケに使用されるはずだった物なのだろう。
全く持って厄介な相手だとサスケは思う。

そもそも、ナルトは体術が苦手という訳ではないのだ。
それなのに、敢えてそういった手段を好んで選んでいる。
本人曰く、戦うのは好きじゃないとのことだが、常に毒やしびれ薬を持ち歩き、手持ちの苦無や手裏剣すべてに、自分で調合した毒を塗り付けている奴のどこが好戦的ではないというのか。

ナルトはもう少し自分というものを知った方が良いとサスケは思う。
もっとも、そのおかげでサスケは比較的毒やしびれ薬に対する耐性が付いてきている。
ナルトと修行を兼ねた無制限の組手をする時、ナルトは必ず自分で調合したそれらを必ず使用してくる。
そして、身体の動きが鈍ったところで確実に止めを差しに来るのだ。
正々堂々と手合せしても、ナルトはサスケと互角に渡り合えるというのに、臆病とも思える慎重すぎる攻撃法にほんの少し苛立ちを感じなくもない。

だが、ナルトの事情を考えれば、それもまあありかもしれないとサスケは黙認している。
あのナルトの事だから、後々の事まで考え抜いてあの戦闘スタイルにする事を選んだのだろう。
その点からしてみれば、ナルトの選択はあながち間違いではない。

だが、しかし。

目の前の相手はただでさえ手応えのない相手だったのが、ナルトが盛った薬のおかげで更に手応えのない相手になってしまった。
これでは力試しの相手とするのも馬鹿らしい。

こんな事ならば、一人、新術の修行をしていた方がよほど有意義だったかもしれない。

そもそもなぜサスケはナルトの言に乗ってしまったのか。
三年前、ナルトと取っ組み合いの喧嘩をしてから、どうもナルトの調子に引き摺られてしまう事が多くなってきたような気がする。
それがどうにも気に入らない。

その反感が、今の退屈極まりない時間に対する苛立ちに繋がっている。

一体ナルトがなんだというのだ。
サスケには関係がないはずだ。
だが、確かにナルトの言う通り、一人で修業するよりも、同じLVの相手と二人で修業した方が捗る事はサスケも認めている。
その点でナルトは随分と役に立ってくれている。
それは認めざるを得ない。

あの緻密なチャクラコントロール技術は正直見習うべきところがある。
弛まぬ努力を惜しまず、高みを目指す姿勢は好ましい。
体術においてもサスケに何ら引けを取らない。
ただそれが少し悔しくもある。

なんだかんだとうっとうしく纏わりついてくることもなく、ごく自然にサスケの隣に居り、サスケがまあまあ納得できる話を振ってくる。
自分の母が随分と可愛がっていたのも、なるほどと頷けるようになってきた。
とはいえ、いつの間にか二人でつるむのが当然のようになってしまっている現状は、サスケとしては不本意な物だ。

サスケは誰とも馴れ合うつもりはない。
これからも、今までも、ナルトとも馴れ合ってきたつもりはないのだ。
だが、それが実際ナルトを前にすると少し狂う。
それがとても居心地が悪い。

そんな事を考えていた時だった。

「サ・ス・ケ!」

突然至近距離で当のナルトに耳元で囁かれ、サスケは思わず大声をあげて飛び退ってしまうところだった。

「あはははは! 大成功!!」

にこにこと嬉しそうに笑うナルトに、サスケは一瞬でかっとなった。

「お前っ! 一体何のつもりだ!? お前が持ちかけてきた話だろう! なんでこんな所にきてんだ!!」

驚いて高鳴る心臓がまだ収まらず、激しく鼓動しているのを感じながら、サスケはミズキに気付かれない声量でナルトに詰め寄った。

「良い話があるってばね! 聞いて聞いて!」

そんなサスケの怒りには全く反応せず、嬉々として自分の話をし始めたナルトに、サスケは若干苛立ちを感じた。
だが、ほんの少し、明るく楽しげな笑顔を浮かべるナルトに目が奪われないではない。
常に穏やかな笑顔を浮かべているナルトだが、心の底から嬉しそうな笑顔や楽しそうな顔というのは実はとても貴重だ。

この三年間、ずっと一緒に行動する事になっているサスケでも、まだ数えるほどしかみていない。
それが今サスケの前で披露されていた。
今の所、サスケ一人にしか向けられたことのない笑顔に、サスケの心の優越感が擽られる。
ほんの少しだけ、怒りが和らぐ。

「何だよ。つまらない話なら怒るぜ」
「あのねあのね、僕、術が使えるようになったってばね!」

どうやら取引とやらはうまくいったらしい。
あまりにもうきうきとしている子供っぽい姿に、思わずサスケは笑みが浮かんできた。
興奮したときに出てくる変な語尾のくせが丸出しだ。

なるほど。
ナルトの浮かれようはそのせいか。

術が上手く発動しない事に、悔し涙を浮かべて唇を噛み締めていたナルトの顔を思い出す。
自然とサスケの顔に穏やかな笑みが浮かんでいた。

「そうかよ。そしてそれをオレに知らせるためだけにわざわざここに来たってわけか?このウスラトンカチ」
「違うってばね!それだけじゃないってばね!」
「じゃあ何だってんだ?くだらない事なら断るぞ。早く言え」

精一杯突き放した態度を取ってやると、不満そうにナルトは顔を歪める。

穏やかな笑顔のポーカーフェイスを気取っているが、ナルトは実は表情豊かだ。
ころころと変わる表情も、今の所ごく僅かな人間の前でしかあらわされていない。
そんな姿に柄にもなく微笑ましい思いを感じる事もある。

「サスケはいつもそればっかりだよね! まあ、いいけどさ。絶対サスケも興味あるって!」

気を取り直したようにうきうきと話しかけてくるナルトに、サスケはほんの少し興味を引かれた。

「だからなんだよ」
「封印の書だってばね!」
「はあ?」

ナルトの口から飛び出てきた単語に、サスケは首を捻った。
封印の書は、木の葉に伝わる禁術の類を全て集めて封印されている巻物だ。
火影と里の許しがなければ目にする事も出来ない。
それが一体どうしたというのだろうか。

「あいつの狙いはそれだったってばね! そしたらおじいちゃんが、今のうちに私たちが見てもいいって言ってくれたの! 私も一つ術を覚えたの! 私、分身だってばね!」

そう言ってにっこりと笑うナルトに、サスケは本気で驚いた。

「何だと!?」

封印の書に書かれた術を使った事もさることながら、中を見る事を許されたというのも信じがたい。
だが、分身だと名乗ったナルトは、サスケの驚愕を余所に話を続けていく。

「サスケも早く見ようよ! 私呼びに来たの! こっちだよ!」

分身だと言ったくせに、白くて小さい手でサスケの腕を取り、サスケを引っ張る。
興奮を隠しきれない様子のナルトに、サスケは納得した。
確かにサスケも、封印の書とそこに書かれた術の数々には興味がある。
だが。

「あ、おい! 待てよ! あいつの事は良いのかよ!?」
「大丈夫。ちゃんともう一人の分身で監視をつけてるもん。でも、封印の書を見れるのはあいつを捕まえるまでなの。あいつが捕まっちゃったら、封印の書は見れなくなっちゃうんだ。だから急いで!」

嬉々として自分の手を引くナルトの姿と、ナルトの誘いに心が揺れない訳ではない。

だが、すでにナルトが封印の書の術を会得したという所が気に食わなかった。
そして、それをサスケと共有しようとしている所もまた気に入らなかった。

ナルトには施しを与えているつもりもなく、ただ単純にサスケと興味のある事を共有したいという気持ちだけしかないのだろうが、今のサスケにはナルトの行動の何もかもがとてつもなく癪に障った。

「うるさい! 離せ!」

思わずナルトの腕を振り払って睨みつける。
青い瞳をきょとんと丸くしてサスケを見つめてくるナルトに、サスケはかっと頬に血が上るのを感じた。
心臓が激しく高鳴るのを感じる。
そんな自分にサスケは動揺した。
目の前の相手は自分の良く知るナルトだというのに。

「サスケ?」

心配そうな不安げな眼差しに訳もなく心がかき乱される。

「何でもない、来るな!」
「どうしたの? 封印の書の術だよ?」

ナルトの言葉に、サスケも心が惹かれる。
だが、とてつもない反発感を感じてサスケは怒鳴りつけていた。

「誰がお前と同じ術で強くなるかよ! オレを誰だと思ってる! オレはうちはだ。オレはオレのやり方で強くなる! オレに構うな!!」

咄嗟に出てきた言葉に、サスケは一瞬しまったと思った。
よくよく考えなくても封印の書だ。
強さを求めるサスケの助けになるものがどれだけあるのか分からない。
それをみすみす棒に振ってしまった。
くだらない事に惑わされて。

後悔がサスケの胸に浮かび上がって来た時、ナルトが目を輝かせた。

「流石サスケだってばね! 決めた! だったら僕もこれ以上封印の書は見ない! 僕も僕のやり方で強くなる!」

きらきらと瞳を輝かせてナルトはそう宣言した。

「は?」
「僕、正直、サスケを見直した。そうだよね、サスケはうちはの瞳術使いなんだもんね。流石だ! 恰好いい! でも負けないからな! じゃあ、あとでね」

びし、と指を突きつけてサスケにそう言ったナルトは、本当に分身だったらしく影も形も残さず消えた。
思わずサスケはその場にしゃがみ込んで膝をついた。

「なんなんだ、あいつは…」

年々子供に戻っていっているような行動が増えてきた相手に、ほんの少し脱力感を覚えていた。
しかもはしゃぎ過ぎていて、途中から口調が変わっている事に全く気付いていなかった。
自分に気を許しているせいだというのは良く分かる。
そのことに少しくすぐったい物を感じないわけではないのだが。

「あいつ、真面目に隠す気あるのか?」

何故隠しているのかは分からないが、九尾についてのあれこれだろうとサスケはあたりをつけている。
それに、ナルトと出会ったころ、母親に言われていた事があったのだ。
言われた当時は、何故サスケがそんな事を言われねばならなかったのか、全く意味が分からず、ナルトに対して反感しか覚えなかったのだが。
年を経るごとに、かつて母親がサスケに言いつけた護ってあげなさいとの言葉が大きくなってきていたサスケだった。 
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