少年と女神の物語
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第三十八話
さて、帰ってきたはいいが・・・マリーの足は、大丈夫なのか?
「マリー、そのあし・・・」
「ああ・・・さすがに、従属神でも神様を相手にするのは難しかったです」
「バカだろ、オマエ・・・ちょっと見せてみろ」
「う~ん・・・それより」
そう言いながら、マリーは俺の頬に手を当てて、キスをしてきた。
・・・何この状況。
「そういえば、してなかったなぁ、って」
「そんな理由でキスすんなよ・・・」
「・・・イヤ、だった?」
「そうじゃねえけど・・・」
そんな心配そうな顔で聞いてくるなよ・・・
そして、そんな状況でようやく立夏が合流して来た。
「ゴメン、ソウ兄・・・ソウ兄を連れ戻せないか頑張ってたんだけど、何にもできなかった・・・」
「きにすんなよ。それより、シヴァの破壊の権能について何か分かってないか?」
「あ・・・それなら、天啓が下りてるよ!」
「んじゃ、頭の中覗かせてもらうぞ」
ダグザの権能を使い、シヴァの破壊の権能についての情報を得る。
これで・・・プロメテウスの権能は、使えるな。
「遅かったな、神殺し」
「ああ、悪かったな。だけど、もうあんたを殺さない理由はなくなった」
そう言いながら、腕のない体をシヴァに向ける。
「ほう・・・権能を取り戻すため、か?」
「いや・・・俺の家族を、傷つけた借りを返してもらおうかと」
「そうか。それほどまでに、家族が大切か、神殺し!」
そう言いながらナインディンに乗って突っ込んでくるシヴァを、俺は落ち着いた感情で待ち・・・裸足になった足で槍をつかみ、
「神槍絶刃!」
シヴァを、思いっきり弾き飛ばす。
「ぬ・・・ナインディンよ!」
「BMOOOOOO!!」
そして、残されたナインディンがシヴァの命を受けてこちらに向けて突進してくる。
が・・・初戦は従属神。まつろわぬ神には劣る存在だ。
軽く跳んでナインディンの頭を踏みつけ、そのまま蹴り飛ばす。
「BMO、」
「毒持ち、殺せ、ゲイ・ボルグ!」
横倒しになって起き上がろうとしたところにゲイ・ボルグを投げつけ、その毒で止めを刺す。
正式な所有者になって、ゲイ・ボルグでできるようになったことの一つだ。
「ほう・・・先ほどはつかわなかった武具だな。それもまた、権能の一つか?」
「さて、どうだろうな?まあ、これであんたの足は消えた」
そう言いながらロンギヌスを召喚し、右足でつかんで構える。
俺の槍術は我流。足だけで使うやり方も、もちろんある。
「よかろう!腕のない不利、埋められるものなら埋めて見せよ!」
その瞬間に、俺は槍をつかんでいない方の足で踏み切り、ロンギヌスを打ちつける。
それはトリシューラに防がれたが、そのまま槍をつかみ力を緩め、体を捻って倒れてきたところを逆の足でつかみ、腕の一本を切り落とす。
「グ・・・良い動きだ、神殺し!」
「そいつはどうも。つっても、このやり方はあんまり得意じゃないんだけどな」
基本、俺の戦い方は二本の槍を使うことが前提だ。
だから、一本しか使わないこのやり方はそこまで得意じゃない。
・・・いっそ、もっと増やすか。
そう考え、槍を一気に百振りほど召喚してばら撒く。
「む・・・これは、」
「おらよ!」
シヴァがその光景に唖然としている間に、俺は近くにあった槍をけりだす。
それが砕かれるのを見ながら、次は別の槍を蹴り飛ばし、今度はそれが傷つけるのを見届ける。
今回召喚しまくった槍は、ただの槍も大量に含まれているが、三分の一ほどは蚩尤の権能で作っておいたもの。
神を傷つけるくらいはできる。
「ほう・・・ただの槍だけではないようだな」
「当然だろ。あんた相手に、ただの槍だけで対抗するかよ!」
そこからはさすがに警戒され、槍は全てトリシューラやその他に持っている武器で破壊されていき、途中で跳んできた矢に脇腹を貫かれる。
まあ、今更そんな傷は気にもならないけど。
「よし、この槍でラスト!」
最後の一本になってしまった槍を蹴り飛ばし、それで出来た隙を狙う予定だったのだが・・・
「行け、トリシューラよ!」
「な・・・マジかよ!?」
シヴァがトリシューラを投げてきたことで、その予定が狂う。
むしろ俺が驚いて隙を作ってしまい、ただでさえ抉られている右上半身を思いっきり抉られる。
もうこれ、ホラー極まりないよな・・・
「権能がなく、辛そうだな神殺しよ!」
「・・・はぁ?名に言ってんだ、よ!」
シヴァがそう自身満々に言うのを見て、これが最後の隙だろうと考えて一気に突っ込む。
そして、足を振り上げ・・・切り札の言霊を、唱える。
「我は今ここに、全ての条件を満たした。技の知を知り、業の源に触れ、その技をこの身で受けた。故に、今ここにこの力を振るわん!」
そして、後は蹴りながら言霊を唱える。
「己が身を傷つけしものに、破壊の恩恵をもたらせ!」
シヴァからコピーした破壊の権能を使って、シヴァの中にある破壊の権能を、破壊する。
「ぬ・・・キサマ、何故破壊の権能を!」
「残念ながら、まだ切り札の権能は残ってんだよ!これで、テメエの破壊の権能は消えた!」
少しばかり動きが大雑把になったシヴァの攻撃を避けながら距離を置き、プロメテウスの権能を使うついでにばら撒いた種に、権能を使う。
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」
植物の種は芽を出し、勢いよく成長していく。
そうして出来上がったのは、一つの魔方陣だ。
「そのような権能で、なにができる!」
「この権能は、この状況で使うには十分なんだよ!それに、あんたこそ忘れたのか?」
呪力を練り上げる時間を稼ぐために、俺は少しばかり無駄話に付き合う。
「俺たちカンピオーネは、権能のない只人でありながら、まつろわぬ神を殺したんだ。権能がなくても、テメエらを殺すことは出来るんだよ!」
だから、今回は初心に帰ることにしよう。
あの時には余裕がなくてしっかりと使うことが出来なかったが、今なら、そのための余裕も、呪力の量もある。
「我は王権の剥奪、王の断罪を勧告する!」
俺の言霊に反応し、植物でできた魔法陣が輝きだす。
「我が忌む敵を拘束する十字よ!我が敵を捕らえ、救いの死を差し伸べる十字よ!今ここに現れ、わが敵を捕らえよ!」
エリカが使う元老院最終勧告に似た経緯でできたこの呪術は、神にも効くように出来ている。
とはいってもそこまでの効果を発揮するわけではないのだが、前回と違い今回はカンピオーネである俺が使うのだ。
破壊の力を失ったシヴァを捕らえることくらいは、やってくれるだろう。
ついでに、前みたく砕けた槍の破片も拘束するのを手伝ってるし。
「む・・・この、」
「もうそろそろ諦めろよ、シヴァ!」
俺はそう言いながら少し走って跳び、シヴァの斜め上までたどり着く。
「ぬ・・・おのれ、神殺しめ!」
が、シヴァも流石はまつろわぬ神。
右腕の拘束を破壊し、そのまま拘束していた金属を飛ばしてきて俺の右足、左足を砕く。
槍を使わせない気かもしれないが・・・残念。まだ、槍は使えるよ。
左腕の力を抜き、口元に現れたブリューナクを、思いっきり咥える。
その際に歯が何本か欠けたが・・・それくらい、後で治る。
「ふがへ(穿て)、」
そのまま言霊を唱えつつ顔を振ってブリューナクを少し上に投げ、頭を後ろに引き、
「ブリューナク!!」
思いっきり石突きに頭突きをして、ブリューナクでシヴァの頭を貫く。
そのまま俺もシヴァのいたほうに落ちていき・・・十字架の感触を感じつつ、気を失った。
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