戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十章
鞠の事情
「そうだ。俺だけじゃなくて、ここには仲間もいるからな。戦の事もあるから、今から紹介させるよ」
と言って宿に戻ろうとして振り返ると。
「ほえー?一真、誰か来たのー?」
眠そうな目をこすりながら、ポテポテと歩いてくる鞠。
「・・・・っ!あ、あなた様はっ!」
「あれ?葵ちゃんなの!わーい、葵ちゃん、久しぶりなのー!」
走り出したら、見事にコケた鞠。俺は鞠に近付いて、そっと抱き起す。
「う、う・・・・うえーん!お膝擦りむいたのーっ!」
「よしよし、泣かない泣かない。傷を見せて、ふむ。大した事ないが一応治しておくか」
俺は鞠の膝に向けて手をかざす。すると、緑色の輝きが降り注いだら、あっという間に治った。
「一真、ありがとうなの。もう痛くないの!」
「あ、あの、鞠様!お久しゅうございます」
「うん!葵ちゃん、久しぶりなの!」
「二人とも知り合い?」
「葵ちゃんとは幼馴染なのっ!へへー、昔は良く一緒に遊んでたの!」
そうなんだ、幼馴染とは思わなかったな。
「その節は・・・・ところで鞠様、どうしてこのような辺鄙な所に?お付きの者はどうされました?」
「それは、その・・・・色々あったの」
「もしや、駿府屋形に異変が?」
鞠は頷いた。葵は驚き声を出した。俺はなぜここに鞠がいるのか説明をした。
「鞠に聞いた話によるとね。どうやら今川領は今、武田信虎に乗っ取られたのさ」
「信虎・・・・武田晴信公に甲斐を追放され、先代・義元公が保護していた、あの信虎殿が?」
「気付いたらね、屋形の皆が信虎おばさんの仲間になっててね、鞠は泰能に連れられて逃げ出したの」
「それで辿り着いたのが、俺達がいる宿の前で空腹となって倒れてた訳」
「では、一真様が保護して下さったのですね・・・・良かった。本当にご無事で良かった」
「えへへ、ありがとなの!それでね、一真がね、鞠の事を助けてくれたからね、鞠も一真の事を助ける事にしたの」
それはどういう事ですか?と聞かれたけど手紙の内容を言う訳にはいかないと思った。事情を聞いて、今の状況に至ると言ったら、鞠は義元公の息女で今川の当主として駿府屋形に戻るべきでは?と聞かれたら。
「それがなー、駿府には戻るなと言うらしいから」
「どういう事です?」
「泰能殿の手紙に、そう書かれていたのですよ」
「これは竹中殿。先導役、ご苦労に存じます」
「お早いお着き、何よりでございます」
「それで泰能殿の手紙とは、どのような?」
詩乃の挨拶を軽く受け止めて、葵は言葉の先を促す。
「今川家の客将であった武田信虎殿が、どうして謀反に及んだのか・・・・その経緯の説明と、駿府屋形の事情など事細かに書かれておりました。そして今川家の終幕を告げると共に、現当主で在らされる氏真殿の身の安全の保障して欲しい・・・・と、我らが主である信長に宛てた認められておりました」
「ほお。信長公宛でございますか。しかしおかしい。今川にとって織田は、先代・義元公の事もあり仇敵のはず。証拠はございますか?竹中殿」
「もちろん。今は一真様がお持ちです」
「ふむ。ならば拝見させて頂きましょう」
「馬鹿者!これは久遠に宛てた手紙だ。そう他国に手紙を見せられると思うのか!この女狐がっ!」
と言って、ハリセンでぶん殴り叩いた。今度は殺気も付けてだが、気絶はしてなかった。即効謝罪してきたからまあいいか。
「とにかく!鞠は美濃に連れて行って、今後の処遇について久遠と相談するって事だ」
そしたら鞠は、今川の者だから仇は無いのかと聞いてみた。鞠のお母さんは負けたけど、それは兵家の常だから仕方がない。だから、久遠の事を恨んだり、怒ったりしてない。信虎の事も恨んでないそうだ、鞠が弱かっただけだからと。
「でも、いつか絶対、駿府に戻ってみせるの。だからそれまで久遠のところにお世話になるの」
「何と・・・・幼いながら、武家の棟梁として、素晴らしい心根をお持ちになられたのですね」
「えへへー♪」
「そういう訳だから、鞠は織田が預かるという事だ。それで良いな?」
「はい。しかしながら鞠様は我が旧主。松平家からも手厚い保護を、切に切にお願い申し上げます。鞠様の事をお頼み申し上げます、一真様」
「俺自身と神の名にかけて。という事で、さっさと行くか。小夜叉が何か言ってるし」
「そうだぜ!早く帰らないと殿に怒られる」
「ってな訳で、話はこれで終わり。さっさと美濃に行こうや」
「はい。では美濃へと参りましょう。ご先導、何とぞよろしくお願いします」
との事で、荷物を持って支度をした。俺は空間の中でバイクから馬にしてから、外に出た。そして、俺が先頭になって美濃へと出発した。何事もなく、夜には到着した。美濃に到着したら、森親子は面倒御免だと言ってさっさと屋敷に戻って行った。森一家らしいと思いながら、俺は葵達を引き連れて城の近くまで移動した。そこで待っていたのは饗応役を仰せつかったらしい、壬月達だった。
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