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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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LAST MAN


「エルザー、エルザー」

アルカはエルザの名を呼びながら歩いていた。
先ほどまでは飛んでいたのだが「これって魔力消費じゃねーか!無駄だ無駄!」と徒歩に変えたのだ。

「ったく・・・どこいやがんだアイツ」

チッと軽く舌打ちをし、アルカは足を進める。
すると、そこに見慣れた男を見つけた。

「!リチャード!?」

傷だらけで倒れる男。
六魔将軍(オラシオンセイス)のコードネーム『ホットアイ』、本名リチャードだ。
アルカは彼と行動を共にしていたため、リチャードには信頼を置いている。

「おい、しっかりしろ!おいっ!」
「・・・アル、カ・・・デスカ・・・」

慌てて駆け寄ったアルカが声を掛ける。
リチャードはゆっくりと目を開いた。
ホッと息を1つ吐き、アルカは笑みを浮かべる。

「よかった・・・意識はあるみてーだな。ミッドナイトか?」
「そう・・・デスネ。私は、勝てません・・・デシタ」
「そかっ・・・あ、そうだ。さっきの念話だけどよ、あれどういう事だ?」

思い出したようにアルカが口を開く。
すると、リチャードは不思議そうに小さく首を傾げた。

「念話?何の話デスカ?」
「へ?何のって・・・お前さっきオレ達に念話しただろ?王の間の真下にミッドナイトがいるって」
「いえ・・・私はアルカに声を掛けられるまで、気を失ってたデス」

リチャードの言葉に、アルカは目を見開く。
が、しばらくして微笑み、立ち上がった。

「そっか、ならいいんだ。お前はもうちょい休んでな」
「そう・・・させてもらう、デスヨ・・・」

アルカの言葉にリチャードは再び気を失う。
その瞬間、アルカの表情から笑みが消えた。
かといって真剣な訳ではなく、その整った顔を無が覆い尽くす。

『私は自分から落とし穴に引っかかるほど不用心じゃないんでね』

脳裏に響くのはティアの氷のように冷たい声。
今になってその意味を理解し、アルカは口角を上げる。
狂ったような、歪んだ笑みを。

「なぁるほどなァ・・・面白くなってきたじゃねェか、この都市(ニルヴァーナ)も」










こちらも人探し中だった。
ティアとヴィーテルシアはてくてくとニルヴァーナを歩いていく。

「いないな」
「そうね」
「・・・」
「・・・」

何度目かになる全く同じ会話。
2人とも口数が多い方ではないので、自然と沈黙が流れてしまう。
だがお互い沈黙が苦になる訳でもないので、特に問題はない。

「・・・なぁ、ティア」
「何」
「ずっと聞こうと思ってたんだが、いいか?」
「くだらない事じゃないなら答えてあげる」

歩みを止める事はせず、ただ淡々と足を進める。
すると、ヴィーテルシアがピタリと足を止めた。
突然止まった事に首を傾げながらも、ティアも足を止めて目線を映す。

「ヴィーテルシア?」
「ティア・・・お前は一体何者だ?」

無表情は崩れない。
が、突然の意味不明な質問に、ティアは溜息をついた。

「何が聞きたいのよ、アンタは。私は私よ」
「そうじゃない」

ティアの言葉を即座に否定し、ヴィーテルシアは見つめる。
紫の目と青い目が真っ直ぐにお互いを映す。

「俺はお前と短いながら行動と共にしてきた。そして狼姿である俺は鼻がいい・・・だから、隠さなくても気づいている」

沈黙が、重くなる。
先ほどまでは苦ではなかった沈黙が、一気に重くのしかかる。
ヴィーテルシアは躊躇いがちに瞳を揺らし、しばらくして意を決したように口を開いた。

「ティア、お前から―――――――」

その言葉の先を、ティアは聞いた。
が、彼女は何の反応も示さなかった。
何故ならば、自分の事は自分が1番よく解っているから。









「―――――――――――()()()()()()()()()()

















「おいで、エルザ。君の本気を見せてくれ」

エルザとミッドナイトは対峙していた。
着物のような服を身に纏い、薙刀を構えたエルザにミッドナイトは余裕の表情で呟く。

「・・・といっても、ボクに攻撃は当たらないケドね」

その言葉に、倒れるジェラールは考える。

(そうだ・・・奴の屈折(リフレクター)はいかなる攻撃も曲げてしまう)

ジェラールはそんな風に考えるが、エルザは考えてる間に動いていた。
ダッと地を蹴り、一瞬にしてミッドナイトの目の前に迫る。

「!」
(速い!)

その素早さはティアといい勝負だろう。
一瞬の事にジェラールは目を見開く。
が、ミッドナイトの余裕の表情は崩れない。

「いくら素早く動けても、ボクの屈折(リフレクター)は破れないよ」

ミッドナイトはそう言うが、エルザはお構いなしに薙刀を振るう。
そして薙刀は当然のようにカクンとミッドナイトを避けた。

「ホラ」

だが、次の瞬間――――――

「!」

エルザは薙刀を持っていない左手で、ミッドナイトの胸に掌底を打ち込む。
ミッドナイトの表情が崩れ、ジェラールが目を見開く。
そしてそのまま、ミッドナイトはエルザの攻撃によって壁へと吹き飛ばされ、叩きつけられた。

「なに・・・」

先ほどまで一撃も当たらなかった攻撃が、何の問題もなく当たる。
呆気にとられるミッドナイトに向けて、エルザは左手の人差し指と中指を立てた。

「貴様の魔法には『2つの弱点』がある」

その言葉に、ジェラールはもちろんミッドナイトも目を見開いた。

(2つの弱点だと・・・?このわずかな時間の中で・・・)

この2人が対峙してからそれほどの時間は立っていないはず。
それなのに2つの弱点を見つけたというエルザに、ジェラールは驚愕を隠せない。

「1つ目は魔法や武具を曲げる事は出来ても、人間の体を曲げる事が出来ないという事だ。もし可能ならば私の()ではなく()を狙った方が早い」

確かに先ほどから、ミッドナイトはエルザの纏っていた鎧を歪ませる。
が、エルザの体は全く歪ませない。

「フン」

ミッドナイトは鼻で笑うと、エルザに手を翳す。
ミシミシと音を立て、エルザの服がエルザを締め付ける。

「そうだとしても、本気を出せば衣服で君を絞め殺せるんだよ」

が、エルザはそれを意にも介さない。

「2つ目はこれだ」

エルザが言った瞬間―――――

「!」

ミッドナイトの頭上に、何本もの剣が展開した。
そして、降り注ぐ。

「なっ!ぐはァっ!」
「私の鎧を捻じ曲げている間、貴様は剣を()()()()()()()
「!」
「なぜ剣の軌道を曲げてかわさなかったのか」

天輪の鎧を捻じ曲げられ締め付けられていたエルザが投げた剣を、ミッドナイトは身を軽く逸らす様にして避けた。
屈折(リフレクター)があるのなら、剣の軌道を捻じ曲げられたはずなのに。

「つまりは曲げられる空間は常に一か所という事だ。自分の周囲か敵の周囲のどちらか一か所だけ。私に魔法をかけてる間は自分の周囲に屈折(リフレクター)を展開出来ない」

大量の剣が地面に突き刺さる。

「ぬう・・・!」
(何という、洞察力・・・)

自分の魔法の弱点2つを見事にいい当てられたミッドナイトは唸り、ジェラールはエルザの洞察力に目を見開く。

「そしてこの“悠遠の衣”は伸縮自在の“鎧”。その魔法は効かん」

そう言うと同時に、エルザは腕を動かす。
伸縮自在の言葉通り、エルザの腕は何の問題もなく動く。

「ん?この鎧を含めると、弱点は3つだな」

そして、悠遠の衣は元の形を取り戻す。
ミッドナイトの魔法の弱点を知った今、エルザは有利に戦える状況にあった。

「くそォ・・・あと少しだったのに・・・」
「勝負はついた」

両膝をつき、悔しそうに呟くミッドナイトにエルザは言い放つ。
が、その言葉は敗北からの悔しさの言葉ではなかった。


「あと少し早く死んでたら、恐怖を見ずに済んだのにね」


その瞬間、音が響く。
ゴォーン、ゴォーン・・・と。
真夜中を告げる、鐘の音が。
それと同時に、ミッドナイトに異変が起こる。

「真夜中にボクの歪みは極限状態になるんだ」

響く鐘の音。
それに合わせるようにミッドナイトは変化していく。

「何だ!?」
「ああああああ!」

ジェラールが目を見開いて叫ぶ。
雄叫びを上げ、ミッドナイトは元の姿が解らなくなるほどに変化していく。
そして、現れた。



「ハハハハハハハハハッ!」



笑い声が響く。
その体は先ほどより一回りも二回りも大きく、エルフマンが全身接収(テイクオーバー)した時が1番近い大きさだろうという程に大きい。
全身が黒い皮膚に覆われ、黒髪と流れる白髪がなければ、ミッドナイトだとは解らなくなりそうだ。
表すなら悪魔、そこに立つのは真夜中の名を持つ異形だった。

「な!」
「もうどうなっても知らないよ」

驚愕するジェラール。
ミッドナイトは笑みを浮かべる。

「うるァ!」

雄叫びを上げると共に、ミッドナイトは膨大な魔力を溜めこんだ腕をエルザに向かって振るう。
眩い光と膨大な魔力が辺りを覆い尽くす。

「あう!」
「ぐあっ!」

何とか直撃は免れたエルザと攻撃の余波で吹き飛ばされたジェラールは地面を転がる。
そのジェラールに、しゅるっと何かが伸びていく。

「!」

それは、ミッドナイトの爪だった。
職種のように伸びた、先が刃物のように鋭い爪が、ジェラールの胸を貫く。

「ジェラール!」

それを見たエルザが叫ぶが―――――

「ぐはっ!」

ミッドナイトの左手の爪が、エルザの胸を貫いた。
爪に突き刺さった状態で、2人の足は地面を離れる。

「おっと・・・簡単には死なないでよ。ここからが楽しいんだ」
「あああ・・・がはっ!」

ズズズ・・・と音を立て、ミッドナイトはエルザの傷を広げていく。
痛みと恐怖でエルザの目が見開かれ、血が舞う。

「エルザーーーーーーー!」
「うああああああああ!」
「ハハハハハハッ!」

耳を塞ぎたくなるような残酷な音。
ジェラールの絶叫。
エルザの悲鳴。
ミッドナイトの、心底楽しそうな笑い声。
様々な音が響き渡った、その時―――――――――







血が、舞った。









エルザのでも、ジェラールのでもない。









―――――――ミッドナイトの、である。








「は?」
「!?」

エルザの薙刀が、ミッドナイトを斬った。
突然斬られた事に呆気にとられるミッドナイト。
ジェラールは何が起こったのか解らず、呆然とする。

(な・・・何が起きたんだ!?オレは確か体を貫かれて・・・エルザ・・・)

貫かれたはずの胸には貫かれた跡さえない。
先ほどまでと変わらず、ジェラールは倒れ伏している。
ミッドナイトは震える声で呟いた。

「ボ・・・ボクの幻覚が効かない・・・のか・・・」
(幻覚!?あれが!?)

ジェラールは目を見開いて驚愕する。
ミッドナイトが変貌し、そこから始まった残酷な光景は全て、ミッドナイトの幻覚だったのだ。
驚くミッドナイトに、エルザは告げる。

「残念だが、目から受ける魔法は私には効かない」

エルザは左目を閉じ、右目を開いていた。
奴隷時代に潰された為、エルザの右目はポーリュシカに作られた義眼である。
その為、目から受ける魔法は右目だけで見れば通用しないのだ。両目で見ると半分は効果を受けるが。

「そ・・・そんな・・・ボクは最強なん・・・だ・・・父上をも超える最強の・・・六魔・・・誰にも負けない、最強の・・・魔導士」

震える手を、空に伸ばす。
その手は何にも届かない。

「人の苦しみを笑えるようでは、その高みへはまだまだ遠いな」

エルザはミッドナイトに背を向け、口を開く。

(うう・・・ボクの祈り・・・ただ眠りたかっただけなんだ・・・静かな所で・・・)

ミッドナイトはドッと倒れる。
自分の祈りを思い出しながら。

(これが・・・エルザ・・・)

エルザの実力。
それを目の当たりにしたジェラールは、目を見開いて驚愕する。

「誰にも負けたくなければ、まずは己の弱さを知る事だ」

そう言い、エルザは横顔だけを向ける。
そして、言い放った。

「そして常に、優しくあれ」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
エルザの『誰にも負けたくなければ、まずは己の弱さを知る事だ。そして常に、優しくあれ』が大好きです!
カッケェェェェェ!って感じで。

感想・批評、お待ちしてます。 
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