Element Magic Trinity
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君の言葉こそ
「記憶と一緒に魔法の使い方まで忘れちゃったのかな、ジェラール君」
「うぅ・・・」
傷だらけで倒れ伏すジェラールに、ミッドナイトは表情1つ変えずに言い放つ。
呻きながらもジェラールは体を起こそうとするが、全身を走る痛みを前にそれは不可能だった。
(あのジェラールが、こうもあっさり・・・)
ジェラールは思念体だが聖十の称号を持つほどの実力がある。
彼と戦ったナツやティアもエーテリオンを喰い吸収しなければ敗北は確実だった。
そのジェラールが、ミッドナイト相手に掠り傷1つ付けられていない。
「くぅ・・・」
「ふぅん、まだ生きてるの?」
(いや・・・自らにかけた自律崩壊魔法陣で予想以上に魔力を消耗している)
呻くジェラールにミッドナイトは口角を上げて目を向ける。
エルザは鋭い目つきでミッドナイトを睨みつけた。
「ボクはね・・・君のもっと怯えた顔が見たいんだ」
倒れるジェラールに対し、ミッドナイトは呟く。
すると―――――――
「!」
振り返ったミッドナイトの目の前に、エルザがいた。
エルザは手に持った剣を構え、ミッドナイトに振るい―――――
「!?」
「もうメインディッシュの時間かい?エルザ・スカーレット」
カクン、と剣閃が曲がった。
まるでミッドナイトを避けるように、何か見えない壁があるかのように曲がる。
エルザは目を見開いた。
(剣閃が曲がった!?)
「エルザ離れろ!そいつはマズイ!」
「くっ!」
ジェラールが叫ぶが、エルザはそれを無視する。
左手にも剣を握り、再びミッドナイトに向かって振るった。
が、それもカクンっと曲がってしまう。
(また!?)
「フン」
ミッドナイトは鼻でエルザを笑うと、軽い仕草で手を翳す。
そこからドッと衝撃が発せられ、エルザは吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながらも、剣2本をクロスしエルザは防御の構えを取る。
「!」
すると、メキメキと音が響く。
エルザの纏っていた鎧が、歪むように変形し始めたのだ。
「何・・・!?」
両腕をクロスした状態で、鎧はエルザを拘束し始める。
その両手から剣が落ちた。
「ぐああ!」
「エルザ・・・」
ミシミシと嫌な音を立て、拘束の力は強くなっていく。
ジェラールが呟き、ミッドナイトの口角が上がる。
痛みの中、エルザは目を開き―――――
「はァ!」
鎧を消し去った。
纏っていた鎧を別空間へと戻し、別の鎧に換装する。
それを見たミッドナイトは薄く目を見開き、その表情が淡く驚愕に染まった。
「なるほど、そういう魔法か」
鋭い目でミッドナイトを睨むエルザは、天輪の鎧へと換装する。
「そう・・・ボクの屈折は全ての物を捻じ曲げて歪ませる。魔法をはね返す事も出来るし、光の屈折を利用して幻だって作れるんだ」
「なんという魔法だ・・・」
苦しげにジェラールが呟く。
が、エルザは構わず突き進む。
「行くぞ」
「聞こえてなかったのかい?ボクに魔法は当たらないんだよ」
ミッドナイトの魔法を知りつつも正面から向かってくるエルザに、ミッドナイトは呆れたように口角を上げた。
「どうしよう・・・酷いケガ」
「死ぬんじゃねえぞ、オッサン!」
「うう・・・罠だったんだ」
「くっ・・・もう、無理・・・」
王の間の真下の部屋。
そこではナツ達が、自分達を守って1人で大爆発を受けたジュラを介抱していた。
が、ジュラは目を覚まさず、回復に当たっていたルーは魔力切れでフラリと倒れ込む。
「お、おいルー!大丈夫か!?」
「何とか~・・・」
グレイの声に起き上がりながら答えるルー。
すると―――――
「やれやれ」
『!』
声が響いてきた。
「ブレインめ・・・最後の力を振り絞って、たった1人しか仕留められんとは」
「誰だ!?」
突然聞こえてきた声は、自分達の知るものではない。
となれば自然と声の主は敵だと特定出来る為、全員で辺りを見回す。
「あそこ!」
「!?」
ハッピーが指す。
その先には、確かに『敵』がいた。
「情けない・・・六魔の恥さらしめ」
「え?」
「ほえ?」
声の主を見たルーシィとルーは思わず素っ頓狂な声を上げる。
「まあ・・・ミッドナイトがいる限り我等に敗北はないが、貴様等くらいは私が片付けておこうか」
そう、いたのは『敵』なのだ。
――――――正確には、『敵』であるブレインが持っていた『杖』の『クロドア』である。
「杖が・・・しゃべったーーーーーーーっ!」
ムンクの叫びのような感じでハッピーは大いに驚く。
「あれはブレインが持ってた杖だ」
「どうなってんのよー!?」
クロドアの登場+杖が喋るという事に戸惑いと驚愕を隠せないルーシィ達。
が、そんな空気お構いなしなのが2人。
「!?」
がしっと、クロドアを掴み―――――
「オラオラオラオラオラオラ!」
「えいやーとーとりゃぁぁー!」
「ぐぽぽぽぽぽっ!」
『!』
ボコボコボコボコと音を立てながら、ナツがクロドアを地面に何度も叩きつける。
ルーは気の抜けた声と共に落ちてた枝でクロドアのドクロの部分(たぶん顔)を叩き続けていく。
まさかの行動にルーシィ達は目が飛び出んばかりの勢いで目を見開いた。
「このでけェ街止めろ!棒切れ!」
「止めないとティアに脅してもらうよ!」
「ちょっと!何者かも解らないのよ」
2人の行動を見たルーシィが御尤もにツッコむが、それがナツとルーに通用するはずもなく。
「私は7人目の六魔将軍。貴様等を片付ける為眠りから覚め・・・・」
「「と~め~ろォ~よ~!」」
「ぐぽぽぽぽ!」
クロドアが名乗っている最中にも拘らず、ナツとルーは偶然かわざとか再度攻撃を仕掛けていく。
そしてそれを見ているルーシィ、グレイ、ハッピーにも疑問が。
「六魔将軍なのに7人目?」
「てか・・・杖が喋ってる事は、もう置いといていいのか?」
「ツッコむポイントが難しいね」
「六魔」と書くのに「7人目」が存在する事、杖が喋る事などなどツッコみどころが多すぎてどこからツッコんでいいか解らない。
「ぬぇいっ!」
「!」
「あ」
クロドアは何とかナツとルーの地味でありながら確実にダメージを与える連続攻撃から逃れる。
「凶暴な小僧共め・・・」
やはり痛かったのか、軽く目を細めるクロドア。
そして、爆発で開いた穴から外を見つめる。
「そろそろ奴等のギルドが見えてくる。早めにゴミを始末しとかんとな」
「それって、化猫の宿!?」
「その通り、まずはそこを潰さん事には始まらん」
クロドアの口角が、不気味に上がった・・・気がした。
そもそも杖に「口角」が存在するのかさえ解らないが。
「舞え!剣達よ!」
1度に多くの武器を操れる天輪の鎧に換装したエルザは、ミッドナイトに手を向ける。
すると、背後から無数の剣がミッドナイトへと襲い掛かった。
「数打てば当たると思った?」
その剣全てはミッドナイトの屈折を前にはね返される。
軌道が曲がった剣は全て、エルザへと向かっていった。
「!」
「言ったろ?はね返す事も出来るって」
「エルザ!」
こちらへと向かってきた剣に一瞬エルザは目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。
そして持っていた剣2本を使い、向かってくる剣全てを叩き落とした。
「フフ」
「くっ!」
隙をついたミッドナイトがエルザに手を翳す。
すると、先ほどと同じように天輪の鎧が歪み、エルザを締め付ける。
バキバキと音を立て、天輪の鎧の翼が砕けた。
「ぐはっ!」
「もっと・・・もっと苦しそうな顔をしてくれよ」
「あぁあああ!」
「その顔が最高なんだ」
全身を襲う痛みに苦しみの声を上げ表情を歪めるエルザ。
そんな彼女の表情を見て、ミッドナイトは嬉しそうに舌なめずりをする。
「つあっ!」
痛みの中、何とか動かせる左腕に握った剣をミッドナイトに向かって投げつける。
「さすがだね」
ビュン、と空を切り裂く音と共に向かってきた剣。
ミッドナイトはいとも簡単にその剣をかわした。
「スパイラルペイン!」
「ぐあぁあぁぁあっ!あぁああぁあ!」
ミッドナイトはエルザの周囲の空気を螺旋状に捻じ曲げ、小さな竜巻を巻き起こす。
それを喰らったエルザは叫び―――――ドサッと、力なく倒れ伏した。
「そんな・・・」
倒れ動かないエルザを見て、ジェラールは愕然と呟く。
「もう終わり?」
「強い・・・」
ミッドナイトは不気味に口角を上げ、呟く。
が、エルザは動かないし答えない。
ジェラールは起き上がろうとしながら小さく口を開いた。
「まだ死なないでよ、エルザ。化猫の宿に着くまでは遊ばせてほしいな」
「化猫の宿?」
「僕達の最初の目的地さ」
「なぜ・・・そこを狙う・・・」
ジェラールが問う。
ミッドナイトは薄い笑みを浮かべ、口を開いた。
「その昔、戦争を止める為にニルヴァーナをつくった一族がいた。ニルビット族。しかし彼らの想像以上にニルヴァーナは危険な魔法だった。だから自分達のつくった魔法を自らの手で封印した。悪用されるのを怖れ、彼らは何十年も何百年も封印を見守り続けた」
そこまで言い、ミッドナイトは一旦口を閉じ、再び開いた。
「そのニルビット族の末裔のみで形成されたギルドこそが、化猫の宿さ」
その説明は、ナツ達の方でもクロドアからされていた。
その場にいた全員が目を見開いて驚愕する。
「奴等は再びニルヴァーナを封じる力を持っている。だから滅ぼさねばならん」
「この素晴らしい力を再び眠らすなんて惜しいだろ?この力があれば、世界を混沌へと誘えるのに」
ミッドナイトの言葉が進む。
それと同時に、ジェラールの表情も怒りに染まっていく。
「そしてこれは見せしめでもある。中立を好んだニルビット族に戦争をさせる。ニルヴァーナの力で奴等の心を闇に染め、殺し合いをさせてやるんだ!ゾクゾクするだろう!?」
「下劣な・・・」
大笑いしながら言い放つミッドナイトに、ジェラールは怒りの表情で呟く。
すると、ミッドナイトの笑いがピタリと止んだ。
「正しい事を言うフリはやめなよ、ジェラール」
その言葉に、ジェラールは言葉を失った。
ジェラールには記憶がない。だから自分が悪党か善人かさえも解らない。
が、エルザは『お前には罪がある』と言った。
『乱心したお前は死者を冒涜し、仲間を傷つけ、評議員さえも破壊し・・・シモンを殺した』と。
それだけ言われれば、自分が悪党か善人かなんて一発で解る。
「君こそが闇の塊なんだよ、汚くて禍々しい邪悪な男だ」
「ち・・・違う・・・」
「違わないよ。君は子供達を強制的に働かせ、仲間を殺し・・・エルザまでも殺そうとしていた」
次々に聞かされる、自分の事でありながら覚えていない事。
それの全ては悪の塊で、罪。
「君が不幸にした人間はどれだけいると思う?君に怯え、恐怖し・・・涙を流した人間はどれだけいると思う?」
ジェラールの目が見開かれ、表情には影が帯びる。
この地で目覚める前・・・自分が何をして来たか、その全てが悪であり罪だと、目の前のミッドナイトは語っているのだ。
「こっちに来なよ、ジェラール。君なら新たな六魔に相応しい」
漆黒の闇の中から、ミッドナイトの手が差し伸べられる。
ジェラールは突きつけられた己の罪に困惑しながらも、その手から目を逸らした。
その後ろで――――――
「私は・・・」
ゆっくりと、エルザが立ち上がる。
そして、力強く、凛と言い放つ。
「ジェラールの中の光を知っている」
淡いピンクのような紫のような着物を思わせる服を身に纏い、エルザは立ち上がる。
その右手に薙刀を持って。
(エルザ・・・)
その姿は闇の中に差し込んできた光のようで。
ジェラールは目を見開きながら、エルザに言われた一言を思い出す。
『生きて、この先の未来を確かめろ』
その言葉は、ジェラールから迷いを消す。
口元には薄い笑みが浮かんでいた。
(君の言葉こそ、オレに勇気をくれる光だよ・・・)
その姿を見たミッドナイトの口角が上がる。
「へえ・・・まだ立てるのか。噂通りだね、エルザ」
振り返ったミッドナイトは、目を見開いた。
驚愕ではなく、狂ったように。
「壊しがいがある」
それに対し、エルザは強い意志の篭った言葉を言い放つ。
「貴様等のくだらん目的は私が止めてやる。必ずな!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今日もフェアリーテイルベスト!を見ながらの更新。
いやぁ・・・やっぱ凄いね、4人の滅竜魔導士の戦いは。まだ始まったばっかりだけど。
にしても、ティア達どうしようかな、大魔闘演武編。
ユキノとティアが戦ったら面白そうだけど、剣咬の虎との戦いは最後まで取っておくべきだろうし・・・うーん。
感想・批評、お待ちしてます。
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