たすけ

第三章

「心をな」
「心を？」
「そうだ」
　男はまた三神さんに告げた。
「心を入れ替えろ。そうすれば御前は助かる」
「心を！？馬鹿を言え」
　三神さんは男のその言葉を鼻で笑ったのだった。
「そんなことできるものか」
「できないというのか」
「当たり前だろう？俺は誰の為でもない。俺の為に生きてるんだ」
「御前の為にか」
「そうさ」
　悪びれずに男に対して述べた。
「人間ってそういうものだろう？他の誰でもない」
「自分の為に生きているっていうのか」
「そうさ。違うのか？」
「どうやら御前はそれを知る必要があるな」
　男は三神さんの話を聞いて考える顔で述べたのだという。
「そうか。わかった」
「わかったんなら消えるんだな」
「御前に一つ試練を与えよう」
　男は三神さんに言ってきた。
「一つな」
「何だ？試練って」
「すぐにわかる」
　そこでは答えようとしなかったのだという。
「すぐにな」
「すぐに？」
「そうだ。すぐにだ」
「また訳のわからないことを言うな」
「訳のわからないことをか」
「そうじゃないのか？」
「違う。だがそれもすぐにわかる」
　男は厳然と彼に述べたのだった。
「すぐにな」
「ふん。何が何かわからないがな」
「我が御前に言うことはここまでだ」
　後はもう言おうとはしなかった。
「それだけだ」
「さっさと消えるんだな」
「だが。また一つだけ言っておく」
　男は三神さんの言葉通り消えようとしたところで最後に言ってきたのだという。
「助かりたければ心を入れ替えよ。試練を用意しておいた」
　ここまで言って姿を消すのだった。三神さんが気付いたその時には目が覚めたところだったという。起きてみれば寝汗をびっしょりとかいていたという。
「それは夢だったのでしょうか」
「そうだろうね。夢だったんだよ」
　三神さんは僕にこのことを語ってから微笑んで述べられた。
「間違いなくね」
「そうですか」
「そしてね」
　ここでまた僕に言われた。
「この話はこれで終わりじゃなかったんだよ」
「はじまりだったんですね」
「それはわかるんだね」
「はい」
　それはこの話の流れでわかった。三神さんの問いに静かに頷いた。
「それはわかります」
「それからだったんだよ」
　三神さんは穏やかな笑みと共に述べられた。
「はじまったのは」
「その話は」
「うん。それはね」
「そうですか。やはり」
「本当にね。いきなりだったよ」
　またここで御自身のお腹を押さえられる。
「普通に風邪だとばかり思っていたのに」
「そこでだったのですね」
「痛くとも何ともなかったよ」
　また僕に対して仰ってくれた。
「全くね」
「しかしそれでもですか」
「まずは病院に行ったんだよ」
　三神さんが次に取られた行動はそれだったという。とりあえずその人との話は信じておられなかったらしい。
「病院にね」
「それで結果は」
「癌だったんだよ」
「癌ですか」
「そう。いきなり言われたよ」
　そこで達観した顔になられたのを僕は忘れない。
「もう駄目だってね」
「手遅れだったと言われたんですね」
「うん。もってあと半年」
「半年・・・・・・」
　また随分と急な話である。僕だったらそう言われたらどうなってしまうだろう。そうしたことも考え内心怖いものを感じながらさらに三神さんの話を聞いた。