たすけ
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第二章
第二章
「あんた、もうそれを持って行かれたら」
「五月蝿い!」
止める奥さんをぶん殴ってそのうえで博打に行くこともしょっちゅうだった。しかも家の金を強引に毟り取っていってだ。
それで勝てば酒に女で負ければ喧嘩だ。おかげで三神さんの家はボロボロでお子さん達も非常に困ってしまっていたらしい。
来る日も来る日もそんな調子で。それが何時までも続くかに思われた。
「ところがね」
「ところが?」
「これが報いだったんだろうね」
寂しい笑みを浮かべて僕に言ってきた。
「身体を壊してしまったよ」
「御身体をですか」
「そうだよ。実はね」
三神さんはここで御自身の腹を右手で押さえられたのであった。
「僕の胃は半分ないんだよ」
「半分ですか」
「腎臓も一個しかないんだよ」
こうも言われた。
「一個しかね」
「胃と腎臓がですか」
「十二指腸も少しないし。肺だって」
「肺もですか」
「癌だったんだ」
こう述べるのだった。
「癌でね。それで」
「それでですか」
「最初に見つかったのは胃だったんだよ」
こう僕に言われた。
「少し気分が悪くなって寝ていたら」
「寝ていたら?」
「どうされたんですか?」
三神さんに尋ねた。
「不思議なことなんだけれどね」
「ええ」
こう断ってからまた僕に話してくれた。その時のことを。
三神さんは寝ておられた。その枕元にある人が座っていたのだという。
「誰だ?あんたは」
「御前に話がある」
厳しい顔をした男だったという。背中には炎を背負っていたらしい。そして右手には剣、左には縄があったという。随分と恐ろしい格好なのが僕にもわかった。
「俺にか」
「そうだ。御前は死ぬ」
こう三神さんに言ったのだった。
「このままではな」
「死ぬ?俺が」
三神さんはその言葉に布団から起き上がられた。そのうえでその男に対して問うた。
「俺が死ぬってどういうことなんだ」
「今御前は病魔に蝕まれている」
また三神さんに語った。
「身体中は」
「?馬鹿を言え」
三神さんは最初その話を信じなかった。男と向かい合ってからその言葉を否定した。
「俺が死ぬ?そんなわけないだろう」
「何故そう言えるのだ?」
「俺は今まで病気一つしたことはない」
三神さんは頑健な身体をしておられた。だからこれまで多くの喧嘩や騒動も潜り抜けてきたのである。それだけ健康には自信があったのだ。
「それでどうして病気になるんだ」
「御前自身のせいだ」
「俺自身のせい?」
「御前は今まで悪事を重ね過ぎた」
このことを三神さんに言ったのだという。
「そのせいでだ」
「俺が悪事を?」
「酒に博打に喧嘩に女だ」
そのことが並べ立てられた。
「全てな。御前自身のせいだ」
「因果応報だっていうのか」
「そうだ」
そういうことであったというのだ。
「全ては御前のな」
「俺が。死ぬのか」
「助かりたいか?」
「当たり前だ」
この時三神さんは自分のことしか考えていなかったという。流石に死にたくはなかったのでどうやって助かるのかそのことを考えているのという。
「どうにかしてな。助かりたい」
「その為には心を入れ替えることだ」
男はここで三神さんに言ったという。
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