大往生
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第四章
第四章
「確かに変わった縁じゃ」
「けれど。いい縁ですね」
女房はこう言ってきた。
「最後までって」
「そうじゃな」
女房の言葉に朋英は笑顔になった。
「最後までなんてな」
「結婚してからずっと」
ダイアモンド婚を遥かに過ぎてまだなのだった。
「だからですね」
「そうじゃ。最後までな」
「はい」
「そしてじゃ」
彼はさらに言ってきた。
「こうしてな」
「ええ」
「周りには皆いてくれる」
その子供達に孫達、曾孫達まで周りに集まってきていた。そうして朋英の、二人の最期を看取っているのだった。
「よいことじゃ」
「そうですね」
「ひい爺ちゃんとひい婆ちゃん死ぬの?」
曾孫娘の一人が泣きそうな顔になっていた。
「ひょっとして。もうこれで」
「泣くことはないぞ」
朋英はその曾孫娘に対して言うのだった。
「別にな」
「泣くことはないって」
「どうして?」
「わしはもう充分に生きた」
まずはこう言った。
「充分にな。それに」
「それに?」
「今こうして皆に囲まれて安心して死ぬことができる。それでどうして悲しいのじゃよ」
「けれど。ひい爺ちゃんもひい婆ちゃんも死ぬし」
「もう。二度と会えないし」
「会える会える」
その言葉にもにこにこと返す朋英だった。
「そんなの何時でも会えるぞ」
「何時でも?」
「そう、何時でもじゃ」
今度はこう言うのだった。
「何時でも会えるぞ。わしにはな」
「どうして?死ぬのに?」
「何でなの?」
「わしは御前達の心の中で生きるじゃろ」
穏やかな笑顔での言葉であった。
「心の中でな。記憶となってな」
「記憶となって」
「そうじゃ」
こう言うのである。
「ずっとな。生きておるからな」
「だから会えるというのね」
「そういうことじゃ」
彼が言うのはそういうことだった。
「ずっとな。じゃからな」
「生きているっていうの?」
「俺達の中で」
「左様。じゃから安心するのじゃ」
「生きているんだよ」
女房も言ってきた。周りにいる子供達や孫達、曾孫達に対して。
「だからね。安心して」
「ここにおってくれ」
「ここでいていいの?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんの場所に?」
「ここに」
「是非いてくれ」
彼はまた言った。
「ここにな」
「そう。それじゃあ」
「ここにいて」
「ずっと看取るからね」
「これでやっとわかった」
今度は不意にこう言う朋英だった。
「やっとな」
「やっとって?」
「何が?」
「ずっと考えておったのじゃ」
そしてさらに言葉を続けてきた。
「ずっとな」
「ずっとって?」
「何が?」
「死に方じゃ」
このことを言ってきたのだった。
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