遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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嵐の前の静けさ編
ターン1 鉄砲水と伝説のHERO
前書き
今回は第一話ということもあり、純粋にストーリー抜きでデュエルのみのお試し回。
基本この話はこんな文体で進んでいきますので、この話だけ読んで無理そうだと思った方にはあまりお勧めできません。
ある晴れた日のこと、レッド寮にて。
「えーっと、ようこそいらっしゃいました………かな?いやでも一応こっちが年上なのにあんまり仕立てに出るのもなんだかなー」
『さっきから何をぶつぶつ言っとるんだお前は』
2年生になった僕ら………この僕遊野清明に十代や万丈目、翔といったいつものメンバー。これから来るであろう新入生に対する歓迎のあいさつを考えてあーでもないこーでもないと頭を悩ませていたら、若干呆れた感じの声に邪魔された。声の主は、去年僕が入学試験直前に交通事故でポックリ逝っちゃったときからの腐れ縁な幽霊、ユーノ。デュエルの腕は僕よりずっと確かだけど、どうにもこうにも口が悪い。性格も悪い。もう慣れたけど。
「っと、それはいまさら言ってもしょうがないか。ほらあれだよ、新入生向けの挨拶。どうせレッド寮なら来るとしても数人だろうけど、コミュニケーション超大事だし」
『あー、うん。そうか、まあ頑張れよ』
「あれ、なんかノリ悪いね。そろそろ成仏しそう?」
もちろんこれはただの冗談だけど。この図々しい存在感抜群な幽霊が成仏とか、もはやただのギャグの域だ。さ、続き続き。えーと、やあやあ遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそはデュエルアカデミアオシリスレッドの偉大なる先輩、遊野清明である………うん、ないな。初対面でこんな挨拶されたらさすがにドン引きものだ。
「ということで十代、デュエルしよう!」
「お、デュエルか?いいぜいいぜ、売られたデュエルは買うのが礼儀!」
『つまりどういうことだよ。いや、聞くだけ野暮なんだろうけど』
ということでも何もない。普段使わない脳みそを使ったせいでちょっと疲れてきたのかはたまた飽きてきたのか、なんとなくカードを使いたくなってきたのだ。十代なら了承してくれるだろうと思って尋ねたら、案の定二つ返事で乗って来たし。去年は三幻魔だの卒業デュエルだので精神的にくるものがあるデュエルばっかりだったから、こういう気楽なデュエルはちょっと久しぶりかも。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが指示したのは、僕の先行。うーん、今年度からデュエルモンスターズのルールが変わったせいで先行は最初のターンにドローできないんだよなあ。まあ、この5枚の手札で頑張ろう。沿う気持ちを切り替え、改めて手札を見る。
「僕のターン、オイスターマイスターを召喚!」
今年もお世話になるであろう、僕のデッキの切り込み役ともいえる牡蠣の戦士を召喚する。思えば、去年入学試験の時も先陣切って飛び出してったのはこのモンスターだっけか。
オイスターマイスター 攻1600
「さらにカードをセットして、これでターンエンド」
「俺のターン、ドロー!E・HERO プリズマーを召喚!」
E・HERO プリズマー 攻1700
十代が召喚したのは、下級のHEROにしては珍しく高い攻撃力を持った宝石のように光り輝く戦士。まいったな、これじゃあオイスターマイスターが戦闘で負ける。
「なんてねっ!トラップ発動、フィッシャーチャージ!魚族モンスターのオイスターマイスターをリリースしてプリズマーを破壊、さらにカードを1枚ドロー!」
オイスターマイスターが弾丸のように素早く走り抜け、プリズマーにタックルを仕掛ける。2体のモンスターは同時に倒れたが、僕の場は空にはならない。
オイスタートークン 守0
「オイスターマイスターがバトル以外で墓地に送られた時、トークンを1体特殊召喚っと」
「やるな!だけど、俺だってまだ負けないぜ!魔法カード、増援を発動。デッキからレベル4以下の戦士族、マジック・ストライカーをサーチ。そして手札のマジック・ストライカーは、墓地の魔法カード1枚を除外して特殊召喚できる!増援を除外して、特殊召喚だ!」
「むむ、あてが外れたな」
マジック・ストライカー 攻600
召喚権を使って出したモンスターを片付けてしめしめ、と思ったのもつかの間、慌てることなく次のモンスターを出してくる十代。確かあの小人の剣士には、直接攻撃効果があったはずだ。さあ、僕とオイスタートークン、どっちを攻撃してくる?
「行くぜ、バトル!マジック・ストライカーで、オイスタートークンに攻撃!ダイレクト・ストライク!」
マジック・ストライカー 攻600→オイスタートークン 守0(破壊)
「むー、やっぱりモンスターを減らしに来たか」
まあ、ここまでは十分想定内。まだまだ、勝負は全然これからだね。
「メイン2でカードをセットして、ターンエンドだ」
清明 LP4000 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし
十代 LP4000 手札:3
モンスター:マジック・ストライカー 攻600
魔法・罠:1(伏せ)
「僕のターン、ドロー。フィールド魔法、ウォーターワールドを発動!」
いくつもの水柱が地面から湧きあがり、みるみるうちにあたりの風景がソリッドビジョンのそれになっていく。さあ、ここからはこっちの攻撃だ!
「そしてブリザード・ファルコンを通常召喚して効果発動、このカードの攻撃力がアップしているときに1度だけ1500ダメージを相手に与える!」
「なんだと?うわっ!」
ブリザード・ファルコン 攻1500→2000 守1500→1100
十代 LP4000→2500
「先制攻撃はいただきね。そのまま攻撃!」
青い鷹が素早く宙を舞い、かぎ爪で小人の戦士を摘み上げて地面にたたき落とす。なかなか痛そうなその絵面に、さすがにちょっと罪悪感がわく。
ブリザード・ファルコン 攻2000→マジック・ストライカー 攻600(破壊)
「だけどマジック・ストライカーは、バトルによる自分への戦闘ダメージを0にする。俺はダメージを受けないぜ」
あ。忘れてた。
『……あほ』
「わ、わかってたもんね!これでターンエンド!」
「俺のターン!来たぜ来たぜ、融合を発動!手札のフェザーマンとバーストレディを融合して、来い!マイフェイバリットカード、E・HERO フレイム・ウィングマン!」
緑と赤のコントラストがよく似合う、十代がずっと使い続けているHERO。いつかは使ってくるのは予想してたけど、このタイミングで来るか……。
E・HERO フレイム・ウィングマン 攻2100
「フレイム・ウィングマンでブリザード・ファルコンに攻撃!フレイム・シュート!」
E・HERO フレイム・ウィングマン 攻2100→ブリザード・ファルコン 攻2000(破壊)
清明 LP4000→3900
戦闘ダメージ自体は、たいしたことないかすり傷みたいなものだ。だけど、あのモンスターが怖いのはそこじゃない。その効果だ。案の定、すでに奴は龍の頭部のような形をしたその腕をこちらに向けて、炎を打ち出す準備をしている。
「フレイム・ウィングマンがバトルでモンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力ぶんのダメージを与えるからな。ブリザード・ファルコンのもとの攻撃力は1500、よってその分のダメージだ!」
清明 LP3900→2400
「くっ……」
「おっと、まだ終わるには早いぜ?速攻魔法、融合解除を発動!」
「へ?」
十代が掲げた速攻魔法。そして僕の場にモンスターはいない。まずい、すごくまずい。だってあのカードの効果は!
「融合モンスター1体をエクストラに戻して、その素材を特殊召喚だ!戻って来い、フェザーマンにバーストレディ!」
E・HERO フェザーマン 攻1000
E・HERO バーストレディ 攻1200
「そしてバトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターは、さらなる追撃ができる………2体のモンスターで同時攻撃だ!フェザー・ブレイク!バースト・ファイヤー!」
E・HERO フェザーマン 攻1000→清明(直接攻撃)
清明 LP 2400→1400
E・HERO バーストレディ 攻1200→清明(直接攻撃)
清明 LP1400→200
「あ、危なかった………」
あの2体の素の攻撃力が低くて助かった。一般的なアタッカークラスのパワーがあったら即死だった。とはいえ僕のライフはあっという間に残り200、全然気が抜ける状況じゃあない。
『だけどやっぱり融合は手札消費が荒いな。あーっという間に手札0か』
「うん、悪いことばっかりでもないのかな?ただ十代のあの伏せカード、あれ気になるんだよなあ………」
気にしてたってどうしようもないのは僕もよくわかってるんだけどね。うーん、どうしたものか。ま、とりあえずドローしてから考えますか。
清明 LP200 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし
場:ウォーターワールド
十代 LP2500 手札:0
モンスター:E・HERO フェザーマン 攻1000
E・HERO バーストレディ 攻1200
魔法・罠:1(伏せ)
「僕のターン!モンスターをセット、さらにカードを伏せてターンエンド」
どうしようもない。たった200しかライフが残ってない以上下手な真似もできないし、ここはいったん引いて様子を見ようっと。
「なら俺のターンだ!ドロー、R-ライトジャスティスを発動するぜ。このカードの発動時に自分フィールドにいるE・HEROの数だけ魔法・罠を破壊するこのカードは、俺の場にフェザーマンとバーストレディがいることでお前のウォーターワールドと伏せカードを破壊だ!」
十代の頭上に『R』の文字がでっかく輝くと僕のカード2枚が破壊されて風景も元のレッド寮前に戻ってしまい、あらら、と小さくつぶやく。
「バーストレディ、その伏せモンスターに攻撃!バーストファイヤー!」
バーストレディが掌の上に小さな火炎弾を作り出し、伏せモンスターめがけて放り投げると着弾地点で小規模な爆発が巻き起こる。だが、その炎の中からゆらり、と立ち上がるシルクハットに燕尾服の影が一つ。
ふふふ、勝負を焦ったね十代。
E・HERO バーストレディ 攻1200→??? 守1800
十代 LP2500→1900
「ペンギン・ナイトメアの効果を使うよっと。このカードはリバースした時に相手の場のカードを1枚、バウンスできる!手札に帰れ、バーストレディ!」
「うわっ!?なら、メイン2でフェザーマンを守備表示に変更、さらにバーストレディをもう1回通常召喚。ターンエンドだ」
E・HERO フェザーマン 攻1000→守1000
E・HERO バーストレディ 攻1200
流れがこっちに傾いてきた(たぶん)ことを悟った十代がエンド宣言した瞬間、ぱあん、ぱあんと数発の銃声が響き渡る。ペンギン・ナイトメアの後ろに潜んでいた男が、手にした銀色のライフルでフェザーマンを撃ち落としたのだ。
「さっき十代がライトジャスティスで破壊したモンスター、白銀のスナイパーの効果を発動。魔法・罠ゾーンにセットされたこのカードが相手によって破壊されたターンのエンドフェイズにこのカードを墓地から特殊召喚して、相手のカードを1枚破壊する!」
白銀のスナイパー 攻1500
清明 LP200 手札:2
モンスター:ペンギン・ナイトメア 守1800
白銀のスナイパー 攻1500
魔法・罠:なし
十代 LP1900 手札:0
モンスター:E・HERO バーストレディ 攻1200
魔法・罠:1(伏せ)
「そして僕のターン。ペンギンを攻撃表示にしてフィールド魔法、忘却の都 レミューリアを発動!このカードはウォーターワールドよりも攻撃力の上がり幅こそ小さいけど、攻守まんべんなく強化できる。さらにペンギン・ナイトメアが表側表示の時、自分フィールドの表側水属性モンスターの攻撃力は200ポイントずつアップ!ま、このスナイパーさんは地属性だからどっちも関係ないけどね」
ペンギン・ナイトメア 攻900→1100→1300 守1800→2000
「バトル!えーとユーノ、攻撃するときは攻撃力の低い方からがセオリーだったっけ?」
『んなもん俺に相談するなっての。ただ、それはゴーズ警戒する時の対処法だぜ』
ちょっと不安になったので聞いてみる。確かそう習ったような気がするんだ。習ったといっても授業は寝てることが多いから、稲石さんのテスト前に受ける赤点回避用の個人授業か三沢に宿題を聞きに行った時のことだろう。
「バトル、ペンギン・ナイトメアでバーストレディに攻撃!」
「んー、惜しいけどしょうがないな。トラップ発動、異次元トンネル-ミラーゲート-!」
急に目の前の空間がぐにゃり、とねじれ曲がると、なぜか僕の目の前にバーストレディが立っていて十代の側に立っているペンギン・ナイトメアが攻撃してきて……あれ?故障?
「ちょっと中断しよっか、十代。デュエルディスクなんて複雑なもの直せるかどうかわかんないけど」
「いやそうじゃないぜ!?これがミラーゲートの効果で、このターンのエンドフェイズまで攻撃を受けた俺のHEROと攻撃してきたお前のモンスターのコントロールを入れ替えるんだよ」
「っ!?」
あっぶな!セオリー通り……では別にないみたいだけど、とにかくこっちから先に攻撃してよかった!今のでスナイパーさんの攻撃から入ってたら戦闘ダメージで敗北確定じゃん!
ペンギン・ナイトメア 攻1300→E・HERO バーストレディ 攻1200(破壊)
清明 LP200→100
さて、とりあえずライフが100だけ残った今どうするべきか。一応スナイパーさんに攻撃させればナイトメアを倒してわずかながらのダメージが通せるけど………。
「ここで攻撃してもちょこっとしかダメージも通せないのに、僕に自分のモンスターを攻撃しろっての?冗談じゃないよ、それにミラーゲートの効果はエンドフェイズまでしか続かないんだ。スナイパーさんを守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンエンド。戻っておいで、ナイトメア」
エンドフェイズを迎えると同時にはっと気が付いたように辺りを見回し、とてとてと慌てて僕のフィールドまでペンギン歩きで帰ってくるナイトメア。顔は凶悪そうだけど、こういうとことはちょっとかわいいと思う。
白銀のスナイパー 攻1500→守1200
「俺のターンだな。ドロー!自分の手札が1枚だけの時、バブルマンは手札から特殊召喚できる!さらにこのカードを特殊召喚した時自分がほかのカードをコントロールしていなければ、デッキからカードを2枚ドローできる」
「うげ、またこのタイミングでバブルマン!?」
E・HERO バブルマン 攻800
やっぱ、なんだ。十代の引きは化け物だ。そんな思いで、十代がカードを引くのをじっと眺める。
「通常魔法、アームズ・ホールを発動。このターンの通常召喚を封じる代わりにデッキトップを墓地に送り、デッキか墓地から装備魔法1枚を手札に加えることができる!デッキからバブル・ショットを手札に加えて、このカードをそのままバブルマンに装備!これでバブルマンの攻撃力は800ポイントアップするぜ」
E・HERO バブルマン 攻800→1600
「バトルだ!バブルマン、ペンギン・ナイトメアに攻撃!バブル・ショット!」
バブルマンが両手で抱えたでっかい銃から、泡の塊が打ち出される。あんな攻撃受けたら僕の負けじゃないか。まだ負けたくないし、もっと粘らせてもらうよ!
「トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃を無効にして、さらに僕の場に水族のナイトメアがいることで十代、そっちに800の効果ダメージだよ!」
水の壁が泡の一撃をはじき、そのまま十代にぶつかる。ふー、なんとか防げた。
十代 LP1900→1100
「さすがにやるな。カードをセットして、ターンエンドだ」
清明 LP100 手札:1
モンスター:ペンギン・ナイトメア 攻1300
白銀のスナイパー 攻1500
魔法・罠:なし
場:忘却の都 レミューリア
十代 LP1100 手札:0
モンスター:E・HERO バブルマン(ショット) 攻1600
魔法・罠:バブル・ショット(バブルマン)
1(伏せ)
「僕のターン!よし、いいところに来てくれたよ!ナイトメアをリリースして、ジョーズマンをアドバンス召喚!」
ペンギンの姿が消え、全身に鋭い牙のついた口を持つ勇ましい鮫の獣人が仁王立ちする。腹についたひときわ大きい口をがちがちとかみ合わせるその姿は、とても頼もしいものに見えた。
ジョーズマン 攻2600→2800 守1600→1800
「ジョーズマン、頼んだよ!バブルマンに攻撃!」
「バブル・ショットの効果を発動!装備モンスターが戦闘破壊されるときに身代わりになってこのカードを破壊し、プレイヤーへのダメージも0にする!」
ジョーズマン 攻2800→E・HERO バブルマン 攻1600
E・HERO バブルマン 攻1600→800
勢いよく振られた右腕が、バブルマンの体を吹き飛ばす。だが、バブルマンはそのままくるっと空中で1回転して着地を決めるだけで、破壊はされなかった。
まあ、僕だってそこまでは計算済みだ。これでバブルマンは攻撃表示で棒立ち状態、今ならスナイパーさんで狙い撃てる!
「というわけで頼みますよ、スナイパーさん!」
「確かにその攻撃を止めるカードは、今の俺は持ってない。だけど、HEROはただ負けるなんてことはしないぜ!トラップ発動、エレメンタル・チャージ!俺はこのカードの効果により自分の場のE・HERO1体につき1000ライフを回復する!」
白銀のスナイパー 攻1500→E・HERO バブルマン 攻800(破壊)
十代 LP1100→2100→1400
「くっ、むしろ回復された!ええい、カードをセット、僕はこれでターンエンドっ!」
これで、十代にはもう手札も場のカードもない。だけど、こういう時に限ってあいつはとんでもないカードを引いてくれる。それが、十代の十代たるゆえんなんだから。
「俺のターン、ドロー!魔法発動、ホープ・オブ・フィフス!このカードは墓地のE・HERO5体をデッキに戻してカードを2枚引くことのできるカードだけど、この発動時に自分の手札にも場にもほかのカードがない場合、ドロー枚数は3枚になる!俺は墓地のプリズマー、フェザーマン、バーストレディ、バブルマン、スパークマンをデッキに戻して3枚ドロー!」
「スパークマン?そんなカードいつの間に………」
『いや、アームズ・ホールの時に送ったデッキトップのカードだな』
「そういうことさ!」
まずいまずいまずい、あの十代に3枚もカードを引かせなんてしたら、何をやってくるかわかったもんじゃない。だけど、妨害のカードなんて僕の場にはない。結局、指をくわえてみてることしかやることはないのだ。
「さあ、行くぜ清明!融合を発動、手札のワイルドマンとエッジマンを融合!来い、E・HERO ワイルドジャギーマン!」
ワイルドジャギーマン。黄金の鎧をまとうワイルドマンの進化した姿………そういえば聞こえはいいが、その鎧が実に中途半端な部分しかカバーしていないためどっちかというとサイボーグワイルドマンとか工場長のオッサンとか散々な言われようをされるある意味イラスト的な意味でもっとも不遇なHEROだ。
だが、その効果は攻撃力も相まってかなり強い。やれやれ、このセットカードがポセイドン・ウェーブだったら………いや、現実を見よう。このカードは、何かの役に立つかと思ってセットした速攻魔法、サイクロンだ。それ以外の何物でもない。
E・HERO ワイルドジャギーマン 攻2600
「ワイルドジャギーマンは、1ターンに相手モンスター全てに攻撃ができる!だから、もしその伏せカードで攻撃を無効にしても意味ないぜ!白銀のスナイパーに攻撃、インフィニティ・エッジ・スライサー!」
…………これがサイクロンなのは黙っとこうかな。なんかちょっと悔しいし。
E・HERO ワイルドジャギーマン 攻2600→白銀のスナイパー 攻1500(破壊)
清明 LP100→0
「かーっ、負けたかぁ……」
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」
いつも通り、びしっと満面の笑みでこちらに向かってポーズをとる十代を見ながら墓地のカードを引っ張り出してデッキに戻す。あとはシャッフルして、と。よし、これでバッチリだ。
「うん、まあ、僕も楽しかったよ。結局勝てなかったけどね」
「そりゃあなんてったって、俺は未来のデュエルキングになる男だからな。そう簡単に負けるわけにはいかないぜ」
『なーに他人事みたいに黄昏てんだ。お前もまるっきり変わってねーよ』
「おお、俺もそう思うぜ。お前もなるんだろ?デュエルキングにさ」
うーん、そうか、僕も変わってはいないのかな。これはどこかで聞いた話だけど、人は大抵、成長する中で大切なものを捨てちまうらしい。
なら、変わってないってことは裏を返せばその大切なものを捨ててないってことなんだろう。まあ、それなら別に悪いことじゃないのかなって思う。
と、その時、ヒューっとレッド寮に爽やかな風が吹いた。ああ、今日も気持ちのいい天気だ。それじゃあ、また原稿を考える作業に戻ろうかな。
「へ、何言ってんだ?今年のレッド寮に新入生は来ないって掲示板に張ってあったぞ?」
「えっ」
『あーあ、ばらしちまったか』
ギギギギギ、と音が出そうになるほどゆっくりと、ユーノのいる方を振り向く。こーっそりと忍び足でどこかに逃げようとする彼の後ろ姿が見えた。
「なんで教えてくんないのさー!」
『んなもん確認しないお前が悪いわ!』
ユーノを追いかけて、どたばたと走り回る。それを、十代が笑いながら見ていた。去年がおかしかっただけで、これが本来の日常なんだろう。それはそれで、ちょっと残念な気もする。命どころか魂まで賭けた闇のデュエルなんてもうこりごりなのは当然なのに、なんでそう思ったりするんだろうか。あるいはそれも、うちの神様のせいなのかもしれない。
『なんでもかんでも私に押し付けないように』
あ、筒抜けだったらしい。たいしたもんだ、僕の神様………地縛神 Chacu Challhuaは。
後書き
いかがでしたでしょうか。拙作に興味を持っていただけたなら、それが何よりも幸いです。
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