Transmigration Yuto
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準備期間のメモリー
強力な魔剣
僕が悪魔になってから、二年以上の月日が経った。
主である紅髪の少女をリアス、彼女と共にいた二人の少女を朱乃、小猫と呼び捨てにするようになった。呼び捨てなのは、さんやちゃんを付けるのは何となく余所余所しい感じがしたからだ。
リアスにお姉ちゃん、と呼んで欲しいと迫られた時は本当に焦った。便上して朱乃まで迫ってきたので逃げに徹してしまったけれど。
…………二人の差し金で顔を赤くした小猫からお兄ちゃんと呼ばれた時のことは忘れたい。
何かが弾け飛びかけた気がするし、ニヤニヤと僕達を見てくるリアスと朱乃にからかわれて再び迫られたからだ。
最終的にあの手この手で懐柔されてしまい、とある物を対価に一度だけリアスお姉ちゃん、朱乃お姉ちゃんと呼ぶことを強要されたのも苦い思い出だ。
…………二人とも幸せそうな表情だったが、僕にお姉ちゃんと呼ばれるのはそんなに良かったのだろうか?甚だ疑問だ。
まあリアスも朱乃は姉のように、小猫は妹のように思えたのは事実だ。今では姉弟、兄妹のような生活さえ送っている。
あれからしばらく経って、ギャスパー・ヴラディがグレモリー眷属に加入した。
色々あって封印指定されてしまったが、ギャスパーとは現状眷属内で二人だけの男と言うこともあり、扉越しにだが頻繁に会話をしている。顔を合わせることはほとんどないが、そのこともあってリアスはギャスパーを僕に任せてくれている。
そんな中、僕は前世の記憶を参考に一つ行動を始めた。
虫食い状態で大部分が失われてはいたが、その記憶は想像力を必要としている創造系神器の中でも希少であり、比較的に高い能力を持っている魔剣創造の所有者である僕にとってはとても都合のよいものであった。
恐らく、創造系以外の他の神器や想像力よりも理解力、知識と計算力が必要である魔術の使い手ではそれほど役に立たなかっただろう。
創造系神器と同様に想像力で扱うことができる魔力は前世の記憶の恩恵にあやかれるだろう。
前世の僕は、本来一般人だ。前世の想像力には驚かされることがある。
何せ、創造系神器にそのまま転用できる設定があるのだ。これを使えば、僕は強力な武器を手に入れることができる。
通常、戦闘型の創造系神器は属性付与かアンチなどの殺し系が主らしい。そっちの方が使いやすく、イメージするのに時間があまりかからないと言うことがあげられる。
特殊な効果を持たせると創造するのに時間が掛かったり、力の弱いものができてしまう。余程想像力が高く、柔軟な発想力がない限り特殊なものは作らないらしい。
創造系神器はイメージが強ければ強いほど高度なものを創り出す。
だから戦闘中に即席で作って戦う傾向が強い創造系神器の使い手はレーティングゲームで言うテクニックタイプかサポートタイプが多い。
なら、戦闘中に即席で作らなければいいのではないかと言うと、そう言うわけでもない。
そもそも創造系神器はオリジナルに存在する名のある魔剣や聖剣と比べて遥かに劣る、それこそ量産型と言っても過言ではない性能のものしか創れないのだ。例外は神滅具の一つとして数えられる魔獣創造唯一つ。
一本一本丁寧に創造したとしても、やはり二流や三流の域を出ることはない。むしろ、禁手にでも至らなければ三流未満のものしか創造できない者も多い。
僕は歴代の創造系神器の所有者の情報をできる限り集めた。しかし、どの所有者も似たような使い方ばかりで、応用と呼べるような使い方をした者は極わずかだった。
前世の記憶の中には、ある意味これ以上ない最上の応用法があった。僕は早速それを試してみている。
どんなものかと言うと、簡単に言えば大量に創造した無数の魔剣から力、エネルギーのようなものをそのために創った魔剣によって抽出し、一本の魔剣に注ぎ込むのだ。
そうすれば、延々と一本の魔剣に強大な力を持たせることができると言うわけである。
もちろん実際に試すとなればそう簡単な話ではない。
大量に魔剣を創造するところまではいい。少し精神的に疲れるが、少し時間を掛けてやれば千だろうが万だろうが用意できる。
問題なのは、二つだ。
一つはエネルギーを抽出する工程だ。魔剣の場合だと魔のオーラに当たる。魔剣の持つ力は悪魔の力、魔力とは違ったものであり、魔に属する力でありながら魔力とは分けられる。
その魔のオーラを抽出する工程なのだが、これを行うための魔剣を作り出すのが高難易度だった。
やってやれないことはない。むしろ、可能と言い切れる。
だが、一本の魔剣から魔のオーラを抽出できる量、魔のオーラを抽出するのに掛かる時間、魔のオーラを抽出できる回数、といざ始めてみれば問題点が次々と現れる。
抽出する魔剣には強度も必要だし、抽出した魔のオーラを一本の魔剣に注ぎ込むために保管しておく場所も用意する必要がある。
魔のオーラはそこそこ危険なエネルギーだから暴発、暴走の危険性もある。火薬のようなものだ。しかし放置していたら害しかない。
魔のオーラを抽出する速度は速ければ速いほどいいのかと言えば、そうでもない。速過ぎると暴走の危険がある。制御を考えるのならばゆっくりと抽出した方が安全だ。
そしてもう一つが、魔のオーラを注ぎ込む先の魔剣だ。
まず、許容量以上の魔のオーラを注ぎ込めば魔剣は崩壊し、器を失った魔のオーラは霧散する。
魔のオーラを注ぎ込む速度と魔のオーラを注ぎ込む量も考えなければならない。
注ぎこむためだけの魔剣を創り、受け入れ先の魔剣は許容量を大きく創り、それを制御できるようにしなければならない。
考えること、一度にやらなければならないようなことはたくさんある。
はっきり言えば、これは数人の熟練した職人が何日もかけて一本作り出すような工程だ。それを実質一人でやって研究を重ねている辺り、僕は存外規格外である。
朱乃が頻繁に手伝いに来てくれるようになったのはとてもありがたい。彼女が錬金術や封印術の類の資料を持ち込み、それらを使う、または教えてくれることによって大分開発は進んでいる。
きっと僕一人では行き詰ることもあっただろう。
直接開発に携わるわけではないが、リアスと小猫も頻繁に手伝ってくれている。ギャスパーと意見交換することもあった。
時たま、僕は剣士よりも研究者の方が向いているんじゃないかとさえ思えてくるが、師匠は僕に才能があると言ってくれているので一応両方の才能があると言う風に考えている。
これは最近の話だけれど、師匠に連れられて、師匠と同じルシファー眷属、僧侶のマグレガー・メイザース氏に魔術を教わった。
彼のことは先生と呼ばせてもらっている。
先生曰く、僕には魔術の才能もあるらしい。
剣の才能、魔術の才能、そして研究の才能。正直言って、僕にここまで才能があったのは驚きだ。
まあ嬉しいことではあるのだけれど、首を傾げることがある。
僕はこの上、神器を禁手に至らせているのだ。レーティングゲームと悪魔の駒に関する詳しい知識を得た今、転生には駒価値が関わっているのは知っている。
騎士が一つで転生できるとは思えない。となると、騎士が二つか、変異の駒と言うことになる。
変異の駒はレアな現象だと聞く。
そのことを考え、ギャスパーに変異の駒の僧侶を使ったと言う話を思い出したので、それとなくリアスに訊いてみれば、変異の駒だと言われた。
何でも、変異の駒を二つ発現させると言うのは極めて珍しいことらしい。珍しいが、事例がないわけではないそうだ。
話が反れてしまった。僕は現在、魔剣の製造を行っているわけだ。
明確な成果を出せるのはもうしばらくかかるだろうけれど、一度成功すれば続けて強力な魔剣を製造できるようになるだろう。
数回試せば、更なる応用もできるはずだ。
半年以内には応用まで辿り着けると目せている。
いずれは回復や強化などの特殊な効果を付けてみたいと考えている。こう言うことを考えて実行するのが楽しくて楽しくて仕方がない辺り、僕は研究者気質だと常々思う。
ちなみに、先生から開発に協力しようか、と言われたが迷わず断った。試行錯誤するのが楽しいと感じているのは事実だし、何より自分の手で完成させたかったからだ。
この方法で創造した最高傑作の魔剣を持って、僕はエクスカリバーを斬ろう。
この幸せな、楽しい毎日の中でも、僕は復讐のことは一度たりとも忘れたことはない。
毎日の剣の修行を欠かしたことは一度もない。神器の力を高め、数十秒しか持たせることができなかった禁手も今では大分使いこなせるようになってきた。実際維持だけなら五日間は発動させ続けられる。
高校入学まであと一年もない。できれば後二年以内に神話や伝説に登場するような武器と同レベルの魔剣を創造したいものだ。
せめて、始まりの日が来る前に………………。
――――あれ?始まりの日って、なんのことだろう?
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