| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

OVA
~慟哭と隔絶の狂想曲~
  血塗れ交響曲

世界が破裂する音を聞いた事があるだろうか。

心意の力が全開にされたそれは、爆音や衝撃波の領域すら超えていた。人間に聞き取れる範囲を遥かに超えた、世界が放つ苦痛の悲鳴。悲鳴の余波の余波、その切れ端になって初めて爆風と化す。

悲鳴の切れ端は大の男達を塵のように吹き飛ばし、半径だけでも五メートルはあろう大木の幹を飴細工のように捻じ曲げる。

真っ向からぶつかる力と力が互いの存在を喰い合い、因果律に干渉していく。

「がぁああああああアアアアアァァァッッッ!!!」

「ごォああああああアアアアアァァァッッッ!!!」

短刀と旋棍(トンファー)

二つの異なる武器が、心意という力で接合される。

互いの過剰光の色は漆黒。負の意思を礎とした負の心意だ。

ッガガギャギャギャギギギザザザッッ!!

空中に火花の閃光を迸らせながら行われる《鬼》達の闘いは並行的に見えて、しかしその中に大きなうねりが存在する。

心意を扱うのに、天賦の才というものは不要とされる。

心の奥底への深々度集中。

力を発現させるにはその一言に尽きる。一般的に心意を習得するための一番の近道は瞑想と言われているのだ。そこに才能というものが入り込む隙はほとんどない。せいぜい集中力があるかないかくらいだ。

しかし、彼らの動きを見てもまだ同じ事が言えるだろうか。

この鋼鉄の城の中で《鬼》と化したモノ達の、力の片鱗を見ても。

「や、やべぇって………。リーダー完全にイッちゃってるよ」

「ど、どーする!?」

「ど、どーするったって……」

慌てふためくメンバー達を尻目に、ドバァッッ!!という轟音が連続して響き渡る。千切れ飛んだ大木が、さながら弾丸のように飛んでくる。

悲鳴が上がる。

振り返ると、そこには腰の辺りから上がごっそりと抉り取られた仲間の姿があった。心意の影響なのか、傷口からは本物の血のような液体が冗談みたいな勢いで噴出している。

ひぅ、とノドがおかしな動きをする。

指先が震え、鼓膜が正常な働きをしていなかった。周囲の怒声や轟音が、やけにくぐもって聞こえてくる。

「そ、そーだよ……。リーダーになんて、俺達ゃ足手まといなんだよ。だから………邪魔にならないように下がってようぜ?」

挙がったその提案は、全員の心を惑わし、そして折るには極上過ぎる甘さだった。

虫がいいとは思ってる。

情けないとも思ってる。

しかし、ついていけない。眼前で戦う《鬼》達と自分達の間に、単に数字の上では図れないレベルの壁を見、絶望する。

本当の強者は、それを見た凡才どもの心を、意図せずに叩き折っていく。

悪魔は戦う。

修羅は闘う。

鬼神は…………嗤う。

「クソったれ………」

忌々しげに呟く男の横を、何でもないかのように誰かが通り過ぎた。

「………………………………?」

あれ、ちょっと待て。

あんな奴、ウチのメンバーにいたか?

あんな、綺麗な青髪を持つ女なんて。










獣と鬼の戦いは、まともに見ることができる者がいたら九分九厘こう評しただろう。

完成されている、と。

二人の最凶の動きは、互いの攻撃的な一切の動作を的確に先読みし、完璧に押さえ込んでいた。そのために、両者の動きは一種のダンスを踊っているかのようだ。まぁ、実際の舞踏会で刃物やらトンファーやらを振り回す馬鹿はいないとは思うが。

空間に異常な歪曲を起こしながら、時間に異常な圧力を加えながら、二人の鬼は縦横無尽に《踊り狂う》。

火花が散り、金属質の悲鳴が響き渡る。

二人の動きは、言うなれば限界まで水が張られたカップのようなものだ。ちょっとでも動かそうものなら、両者の間に極限まで張り詰められているバランスは即座に崩壊するだろう。

仮に、周囲で見ている【狂った幸運(ドラッグ・ラック)】のメンバー達の中の一人でもこの戦いの中に飛び込んできたら、即座にこの戦闘は終わりを告げるだろう。もっとも、その時に立っているのがどちらかは分からないが。

そんな、薄氷の上を歩くかのような剣戟の最中、《ソレ》は飛んできた。

どちらが先に気が付いたかは分からない。

だが、気が付いた時には自分の腕から短剣の柄が飛び出していた。

「……………………え?」

トレースしようとした回避行動が遅れた。

攻撃しようとしていた軌道が大幅にズレた。

それらは同時に、相手にも言えることであろう。キッチリ受けようとしていた攻撃の軌道がズレ、防御されると確信していた一撃がすり抜ける。

結果的に、互いの得物がクリティカルヒットし、《凶獣》ノアは鮮血を撒き散らし、《冥王》レンは衝撃の余波を空間に撒き散らす。

よろめくノアに対し、綺麗に水月(みぞおち)に入った一撃はメゴキィ!という音とともに小柄な身体をボロ屑のように吹き飛ばした。二度、三度、と丈の短い草の上を勢いよくバウンドし、ようやく止まる。

「ご…………ォッ!!」

ノドが変な風に収縮する。

ごぷっ、という音とともに吐き気が込み上げて来て、熱い塊が口から出た。それはバシャッ!という音とともに地面に醜く広がり、目も覚めるような真っ赤な水溜りを作った。

口許から血の線を引きながら、紅衣の少年は立ち上がる。三半規管を揺さぶられて平衡感覚がおかしくなっているにも関わらず。指先が震え、右目の焦点が痙攣しているように上手く定まらないにも関わらず。

立ち上がる。

「…………………………何でだ」

言葉を紡ぐと腹部から激痛が走ったが、少年は無視した。

ただ真っ直ぐ、前を見る。

闘っている時に死角となっていた場所。《凶獣》の後方で己を見る、一人の女性を。

「何でだよ…………リータねーちゃん……」

「………………」

唇の間から漏れる掠れた言葉に、しかし蒼い髪を持った、矢車草の名前を持つ女性は何も応えない。ふらつく足元のせいで左右に揺れる少年を、長めの前髪の奥から見下ろしているだけだ。

ゾクリ、と背筋に冷たいものが走る。

血で血を洗うほどの、文字通りの地獄の中を生き抜いてきた紅衣の少年を凍りつかせるほどのナニカが、目の前の女性から発せられている。

その名は、感情。

殺意ではない。

悪意ではない。

害意でもない。

ただ単純に、リータの全身から放出されているナニカの感情の塊だけで、少年は尻込みしていた。

その圧力のせいか、遠くにいるドラグラのメンバー達はこちらを見ているだけで動こうとしない。リーダーである《凶獣》は、回復POTを飲みながらこちらを余裕げに見ている。その口許は真横に裂け、ニヤニヤと嗤っている。完全に面白がっている眼だ。

あんな笑み、ねーちゃんだったら浮かべなかったのに…………。

ぼんやりと思う思考は、もはやあまりの事態に正常な働きを放棄しようとしていた。

十数時間くらい前に、目の前で快活に嗤っていた女性と、今現在目の前にいる女性とがまるっきり重ならない。まるで、タチの悪い双子主演の映画でも見ているようだった。

しかし、意識の底の底ではもう分かっている。

この劇の、茶番劇の真相が。

「……………ねーちゃん……だったのか。情報屋に、自分が誘拐されたっていう事を流したのも、アイツ等がたむろってるこの場所を指定したのも………」

「そうよ、ぜーんぶお姉さんのし・わ・ざ」

「なんで…………」

冗談みたいにガクガクと震える膝を両手で押さえる。

そんなレンを、やけに能面のようなのっぺりとした、表情のない顔でリータは口を開く。漏れ出したのは簡潔な言葉の羅列だった。

「六日前、私の恋人が殺されたのよ。それだけ言ったら、お姉さんの考えは読めるでしょ?」

「ふく………しゅう……」

ゴホッ、ゲホッ、と咳き込むと、血の欠片が押さえた手のひらに紅い斑点を付ける。

「つまらない理由でしょ?でもね、お姉さんには大切な人だったのよ。殺人者(あんなひと)でも………」

自嘲気味な笑みが、女性の口許に広がった。

それが誰に対してかは、いうまでもないが。

リータはそこで、己の背後を振り返り、佇む殺人者達に声を掛けた。

「あんた達も、巻き込んでごめんね。後で私を殺してもいい。だけど、今だけは見逃してくれない?」

「ハッ!別に殺しゃあしねェよ。そっちの方が面白そうだ」

「………………ありがと」

相も変わらず表情を消した顔で頷き、再度蒼い髪を持つ女性は身体の向きを変える。

紅衣の少年に、向き直る。

シュッ、キンッ。

音が響き、それまで空だったリータの手に短剣が握られていた。レンの持っている片刃の短刀とは違い、両刃の、西洋の剣だ。神話とかに出てきそうな奴である。実践用というよりは、装飾用といっても差し支えがないかもしれない。

「そんな剣で……僕を殺せるの?」

「心配しないで。手入れはしたし、今のアナタだったらコレでも充分だとお姉さんは思うけど?」

「…………………」

吐き気がした。

殺意でも、悪意でも、害意でもない。

感情の塊をぶつけられて、吐き気がした。

「震えてるじゃないか」

「…………え?」

「ねーちゃんの身体、震えてるじゃないか」

でも、だからこそ、言った。

目の前の仇を殺そうか。

目の前の友を助けるか。

二つの意思に振り回され、疲れきってしまった女性に。

疲れきって、憑かれきった女性に。

「か、関係ないでしょ。それより、言うことくらいあるんじゃないの?『助けて』とか、い、『命だけは』とか………」

「ないよ」

思わずという風に震えたその言葉の羅列に、レンは思考する暇もなく即答した。

普通の音程で言ったはずなのに、ヒクッと引き攣ったようにリータの肩が揺れた。

「なん、で………?」

「悪人にも友達があるし、殺人者にも家族はいる。殺すんだったら、その人達に殺される覚悟くらいは持ってるよ」

「………………………」

カタカタ、カタカタ、と。

震える切っ先の短剣を持つ女性は、震える身体を押し留めて、震える唇をこじ開けるようにして言葉を紡いだ。

「何でよぉ………」

ツゥ、と透明な煌きが頬を伝う。

それをレンは、黙って見る。ぴったりと口を閉ざしながら、見る。

「何で、言わないのよぉ……」

嗚咽が、夜の丘の中に響き渡る。それは虫のさざめきに溶け込み、交響曲のように奏で始める。夜の闇が切り裂かれていく。

トスッ、と。

短剣が震える手の中から零れ落ち、草地の上に突き刺さった。

「言いなさいよ、『助けて』って。『殺さないで』って。そしたら――――」

「つっまんねェなァ」

四肢を地に付けて泣くリータの言葉を遮ったのは、野太い不協和音。

顔を付き合わせる少年と女性の脇で、一人の男が立ち上がった。

ニィ、と引き裂けるように嗤い。

ニィ、と焼け爛れたように嗤う。

《凶獣》が嗤っていた。 
 

 
後書き
なべさん「めりーくりすまーす!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「めりくり!」
なべさん「なんか……この挨拶すると毎度毎度思うんだよね」
レン「ほう、何を?」
なべさん「あぁ……今年も一人なんだなぁって」
レン「…………うん、まぁ。……ドンマイ」
なべさん「4949」
レン「……はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
――To be continued―― 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧