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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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OVA
~慟哭と隔絶の狂想曲~
  仕組まれたコロシアイ

アインクラッド第二十層の外れの外れ、動物系狼型モンスターが多数湧出(ポップ)するために《狼ヶ丘》と呼ばれるようになった場所がある。丘という名からも分かる通り、そこは小高い丘になっており、他は鬱蒼とした森が広がる森林地帯なのにそこだけは樹一本さえも生えていないという薄気味が悪い場所だ。

過去には、何かのクエストフラグ地帯なのではないかと囁かれた時期もあるのだが、結局クエストに繋がるようなものは探し出せず、時とともに人々の頭から忘れ去られていた薄幸の土地であった。今では、そんな辺鄙な場所をわざわざ訪れる者もいない。

そんな《狼ヶ丘》だが、現在進行形で大勢の人影がいた。

身長も、髪型髪色なども多種様々。集団で固まっているにも関わらず、なぜか点々バラバラにいるように見えた。それもそのはず、ここが自らの存在を主張しすぎているのだ。

例えば、会社の社長達だけがいるかのように。

例えば、リーダーだけが居座っているように。

全員が全員、空気に溶け込む事を真っ向から拒否しているかのようだった。

集団で生きることを嫌い、個々で自由奔放に生きていくことを決心したモノ達。

幾重にも張り巡らされた、法という名の鎖から解き放たれて自由になりたいと思うモノ達。

社会でも、現実でも、幻想でも生きない。

この世界で生きていたい。

殺人ギルド【狂った幸運(ドラッグ・ラック)】は、そういうモノ達の集団だった。

しかし彼らは現在、深い混乱の最中に突き落とされていた。

本日午後十時の時点で、アインクラッドに住まうほぼ全ての情報やに向け、一通のメールが大々的に発布された。その内容は、かの超有名なPKK。《冥界の覇王》に真っ向から喧嘩を売るようなモノだった。

しかしこんなモノ、()()()()()()()()()()

青髪の女性を誘拐したとあるが、そんな女を見た事も聞いた事もない。

そもそも、彼らにとってしてみれば、《冥王》は確かに恐るべき存在なのではあるが、しかし即刻殺そうという決断を下せられるには、彼は人を殺しすぎている。《同業者》である彼から見ても異常に映るほどに、《冥王》という一人の存在に対する恐怖心は大きいのだ。

結果的に彼らの中で《冥王》に対して下された処置は、『無視』することだった。

どうせこんな事を続けていれば、ラフコフ辺りが適当に殺してくれる。それまでは派手な行動は極力謹んでいこう。

それが、このギルドの決定的な方針だったのだ。

しかし、その決定を根底から揺るがすような今回の事態。ギルドメンバーに同様が走るのも、無理なからむ事なのかもしれない。

誰かが裏切っているかもしれないという疑念は膨らみ、メンバー全員を包むピリピリした雰囲気はピークに達しようとしていた。

疑いと言う心は精神を蝕み、集団と言う固体を内側から崩壊させる。

誰もが互いを疑い、疑心暗鬼そのものに陥っていた。

「クソッ!クソッッ!どースんだよリーダー!このままじゃ俺達、《冥王》に殺されちまうぞ!」

「一刻も早くここから離れたほうがいいんじゃねぇか!?」

「え?ナニお前、チビってんの?」

「ちげぇって!お前、アイツを見たことねぇからンな口利けんだろぉがよ!アイツだけはマジでヤベぇんだって!」

「わざわざメールに載ってた場所に来たのが間違いだったんだ!なぁリーダー早いとこズラかろうぜ!命がいくつあっても足んねぇよ!」

「なぁリーダー」

「リーダー!」

「リーダーぁ!!」

「あ~あぁ~、うっせェぞ手前ェらァ!ちっとは黙りやがれクソども!!」

求める声に汚い言葉で応じたのは、集団の中心にいた男だった。

見た目の齢は、二十代後半あたりだろうか。引き締まったアゴに無精髭を生やし、鋭い眼光はどこか野獣のそれを連想させ、右目のすぐ下から斜めに大きな傷痕が刻まれていた。服装は、繁華街にいるチンピラのような格好の他のモノ達の中で明らかに浮いていた。

ファーコート。

虎の皮をそのまま剥いで加工しました、という感じのそれを、男は肩に羽織っていた。一見粗野でだらしなく見えるが、それが逆に総体として違和感なく男という存在を仕上げていた。

殺人(レッド)ギルド【狂った幸運(ドラッグ・ラック)】リーダー、《凶獣》ノア。

それが男の名だった。

「手前ェらがうるせぇから仕方なく《冥王》から手を引いてみりゃァこのザマだ。どっちみちヤツとは遠からずぶつかってた事だろォし、ちょうどいい頃合じゃねェか」

「でもリーダー!」

それでも何かを言おうとしたメンバーを、《凶獣》はギロリと睨み付ける。

次の瞬間、男の口が()()()()()()

「がッ……………バァッッ!!?」

のた打ち回るメンバーを放っておき、男はつまらなそうに頬杖をついてその場にいるプレイヤー全員を見回した。

「それに、逃げる時間もないらしいしなァ」

は?という顔で固まったメンバーは、ある感覚を得た。

それは圧迫感。

地下鉄のホームで列車が近付いて来た際にやってくるような、空気の塊にも似た感覚。ただ単純に『巨大なモノ』が近付いてくることで巻き起こる、余波のようなナニカ。

「「「「「……………………………………」」」」」

ギチギチ、と。

錆び付いた機械のような、油が切れたロボットのような動きで、殺人者のプレイヤー達は己の背後を振り返る。

振り返りたくないと叫ぶ心があった。

見たくないと泣きわめく精神がいた。

しかし彼らは振り返る。

ナニカに引きずられるように。

ナニカに導かれるように。

振り返る。

そこには――――










瞳を真紅の色に染め上げた《冥王》は、狼ヶ丘に《入室》した。

だだっ広い丘の中央には、路地裏にたむろしているチンピラのような連中が五十人規模いた。とくに音を立てずに歩いていたのにも関わらず、全員の眼光がこちらを向いていた。さすがはラフコフと並び立つと名高いドラグラと言った所か。

―――リータねーちゃんは………どこだ?

軽く見渡すが、どこにもそれらしき人影は見えない。

だいたい、あの笑い上戸でお喋りな女が自分を見て黙っている可能性のほうが低いような気がする。

ということは、推測できる可能性は良い方と悪い方の二つが出てくる。

良い方は、単純にリータがこの場にいないという可能性。どこか別の、奴らのアジトにでも軟禁されているということだ。そうする理由は、信じられない事だが彼女を殺さずに開放したいと彼らが望んでいるということが可能性として考えられる。

悪い方の可能性は――――正直言ってこちらのほうがありえる話だ。

単純に、もう殺しているという可能性。

そもそも彼ら、【狂った幸運(ドラッグ・ラック)】は殺人者の集団である。そこに正当性や正義、善心などといったフザけたものを見出す事はできない。殺人を犯してこその殺人ギルドだ。

目の前に持ってきた獲物をみすみす逃がすとは容易に考えがたい。解体して骨までしゃぶったと言われても違和感はないかもしれない。まぁ、SAOでの人体を構成しているのはポリゴンだけなのだが。

それでも少年は丘の中を見渡した。たった一筋の希望にすがって。

しかし、見えるのはムサい男どものカラフリーな頭だけだ。その中にあの、綺麗なブルーの長髪は見出せない。

きょろきょろしているレンの視界の隅で、集団の中からゆらりと立ち上がる影があった。

すらりとした男だった。虎の生皮をそのまま加工したようなファーコートをぞんざいに羽織り、アゴには無精ひげ、肩ほどまで伸びている髪はボサボサという、チンピラというよりはどっかの失業者みたな格好だった。

しかしレンは見る。

男の眼を見る。

その眼光は、献ぜられている二つ名に恥じない眼光を宿し、全身から醸し出すオーラはピリピリとした痛みを持って少年の全身に襲い掛かる。

「凶獣………ノア」

軋る歯の間から漏れた言葉は、自分でも驚くほどに殺気立っていた。

遥か彼方に立つ男の口許が、ニィと横に裂けたように広がる。浮かぶのは、単純な愉悦の笑み。この状況が面白くて堪らないという、狂気の嗤い。

「よォ、お互い災難だったなァ。誰が仕組んだかは知らねェが、ったく。回りくどい事をするぜ」

「………………………?」

何だ、何の話だ?

不審げに眉をひそめる紅衣の少年に、カッカッカと笑いかけて男は口を開く。

「何でもねェよ。さァ、殺り合おうぜェ。それが俺達の、この茶番劇の脇役(キャラ)の役割なんだからよォ…………!」

ゆらり、とコートの下から突き出た両手は何かを持っていた。

材質は、得体の知れない真っ黒な木材。おおよそ四五センチメートルほどの長さの棒の片方の端近くに、握りになるように垂直に短い棒が付けられている。

旋棍(トンファー)………」

「おォ?知ってンのか?」

ニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを浮かべながらも、《凶獣》と呼ばれる男は意外そうな表情を浮かべた。

それに頷きかけながら、レンは乾いた唇を湿らせてから言葉を紡いだ。

「確か、棍スキルの上位派生スキルだったよね。射程(リーチ)が短いのとダメージが微妙っていうことで、使ってる人なんて見た事ないけどね」

「かっかっか、まァそーだわなァ。だけどよォ、コイツだって長所ぐれェはあるんだぜ?例えば――――」

ヴン、と。

突如としてノアの身体が、レンの視覚域内から霞むように掻き消えた。

「―――――――――ッッ!!?」

咄嗟に刃に伸ばした腕から、メギィ!!というおよそ人体から発せられる事はそうそうないであろう音が響いた。

吹き飛ばされた小柄な身体は、丘をぐるりと囲んでいる大木の巨大な幹にブチ当たった。仮想の肺の中にあった空気が、全て大気の中に引きずり出される。

「例えば、極端な軽量を起因とするイレギュラーな動き、とかなァ」

ニィ、と嗤う獣に、しかしレンは一言も返すことができなかった。

咳き込みながら、揺れに揺れた内臓の位置を確かめる。横隔膜が変な風に震えたのか、嗚咽のようなしゃっくりが喉元から漏れ出でた。

「……んなコトできるのは、おじさんくらいでしょ」

「お前ェはできると思うぜェ?冗談抜きで。さっきの一撃ァお前ェの首を抉り取ろうとしたんだけどよ、まさか短剣抜くのが間に合わないからって、腕で防御するとは思わなかった」

実際はただ単に短刀を抜く途中の動作が、偶然トンファーの攻撃線上に重なっただけなのだが、まぁわざわざ否定するのもバカらしい。

()ッ………!」

立ち上がろうとして地面に手を付くと、その腕から鈍い痛みが伝わってきた。だが、幸いにも『骨折』のバッドステータスには至ってないようだ。

「しかも、折れてすらないとか。プライド傷付けられたぜ、俺ァよォ」

かっはっは、と嗤うノア。

「それに、ガッカリもした。思ってたより《堕ちて》ねェんだなァ、お前ェ」

チリッ

心の奥底の、一番傷付いてはいけない場所が疼いた。

「僕が………、堕ちて……ないだと?」

しわがれた声が出た。

視界が赤く染まっていく。脳裏に思い浮かべるのは、あの小さな子猫。

「あァ?じゃァお前ェ、それで堕ちきってたつもりかよ?かか、かっはっはッ!笑わせるなよクソガキがァ!ンなことでこの世界の闇に対抗できンのかねェ!?」

一部意味不明な言葉を吐いていたが、その言葉がレンの頭を沸騰させるのに充分な威力を持っていた。

ギリ、と砕かんばかりに奥歯が噛み締められた。

「僕は…………堕ち切ってンだよオオォォォッッッッッ!!!!」

咆哮とともに、血みどろのコロシアイが幕を開ける。

一から十まで仕組まれた、血塗れの聖戦が。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「まぁたレッドが増えたのか(諦観」
なべさん「どんだけ増えんだよっていう質問はやめてください自覚はあります」
レン「分かってんなら対処しろよ」
なべさん「それでも私はレッドを増やす」
レン「懐かしい映画のタイトルを持ってくるんじゃない」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
――To be continued―― 
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