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魔法少女リリカルなのは ~黒影の死神~

作者:白鳥才牙
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『第二十八話』~束の間の平穏~

 拓斗side

「戻りました」


 アースラに転移し、ブリッジに戻る。


「三人ともお疲れ様」

「私達、何もしてなかったよね」

「うん」


 苦笑いを浮かべるなのはとユーノ。


「あの状況じゃ仕方ないさ」

「クロノ君」

「それにしても…拓斗には驚かされてばかりだな」

「そうね、暴走状態のジュエルシードを、それも六つ一片に鎮圧するほどの魔法を使えるなんて……正直恐怖を感じたわ」

「そうか?あれでも威力は抑えたつもりなんだけどな」

「「え……?」」

「なのは達を巻き込む可能性があったし、そうだな………最大威力の2割もないな」

「に、二割も……」

「……全力を出したらどうなるんだ?」

「地球が消えるぞ」

「き、消える!?」

「あぁ、綺麗さっぱり」


 そう言うと、クロノが


「きみを敵に回さなくてほんっっっっとによかったよ」


 そう言って俺の両肩に手をのせて半ばあきれ顔で言っていた。


「そうだな。敵に回して暴走でもしてみろ。太陽系の八割は無くなるぞ」

「「……は?」」

「冗談だ」

「君の場合冗談に聞こえないんだが!?」

「やろうと思えばできる!」

「しなくていい!」

「まぁまぁ。月詠君もそんなことはしないわよね?」

「するわけないだろ、したら俺も酸素なくて死ぬ。それよりもあの雷は何だったんだ?」

「あぁ。そのことについてたが」


 そうクロノが言うと一つのモニターが現れ、そこにはプレシアの写真があった。


「彼女の名前はプレシア・テスタロッサ。僕達と同じミッドチルダ出身の魔導師だ。専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師ながら違法研究の失敗によって放逐された人物だ。登録データと先ほどの魔力波も一致している」

「クロノ君、プレシア・テスタロッサの追加データ持ってきたよ!」


 扉から出てきたのはエイミィだった。


「彼女は二六年前まで管理局の中央技術開発局の第三技局長でしたが、当時彼女が独自に開発していた、次元航行駆動路【ヒュードラ】使用の際違法な材料を使用し失敗。結果、中規模次元震を引き起こし、中央を追われ地方へ異動となりました。随分もめたいみたいですよ? 事故は結果に過ぎず実験材料には違法性はなかったと。辺境に異動後も数年間は研究に携わっていたみたいです。しばらくして行方不明になったと……」

「他の情報は? 家族構成、その研究内容とか」

「抹消されているみたいですね」


 は? 抹消だと?


「おかしいだろ」

「え?」

「どういうことだ?」


 周りの人間が一気に俺の方へと視線を向ける。


「エイミィ、その研究内容に使われた材料も抹消されたのか?」

「え? うん、そうみたい」

「それはおかしいだろ? 普通なら失敗は成功の母というように、失敗データは二度と事故をおこなさないためにも保存しておくのが基本。ましてや、違法な材料ならなおさらの筈だ」

「確かに、その通りだな」

「それに実験内容だけならまだ分かるさ。だけど、なぜ家族構成まで消す必要性がある。おかしいだろ明らかに」

「確かにそうね」


 これは徹底的に調べてみる必要性があるな。


「クロノ。お前、確か執務官だったよな」

「あぁ」

「悪いがプレシア・テスタロッサのその違法実験の内容や実験材料について調べてくれるか? あと、リンディも彼に権限を使わせて調べれるところまで調べて欲しいんだが……」

「そうね。確かに謎が多すぎるわ」

「それに、事の発端はもしかして……可能性はある」


 アイツが関わってなら……。それにアイツならやりかねん。いや、知っていればかなりの確率でやる筈だ。


「あれが、フェイトちゃんのお母さん」


 なのはがプレシアの画像を見ながら、そうつぶやいた。


「どうしたなのは?」

「え、うん……なんであんな事したのかなって……」


 あんな事ってさっきの紫電のことか。


「フェイトを守るためじゃないのか? ……憶測だけど」

「でも……あの雷、フェイトちゃんも狙っていたような気がするの」

「っ!? ……気付いてたのか」

「うん、それが少し気になって」

「……プレシアがフェイトを狙ったのは間違いないだろう。でも、それがプレシアの意思か、はたまた他者の介入かは分からないな」

「え? 月詠君。どういうこと?」

「確証がない事だからな、今は保留ということで頼む」

「分かりました。エイミィ、引き続き調査をお願い。どんな些細な事でも構わないわ」

「了解です艦長」


 出来れば、そうであってほしくないな。でも、そうなるとあの雷はプレシアの意思だったということになる。

 どちらに転んでも結果は最悪だな。










 アルフside

「フェイト…しっかりしておくれよぉ……」


 アタシは必死になって、ボロボロになったフェイトに回復魔法をかける。ある程度の傷は癒えたが完全とは言えなかった。

 拓斗達と別れた後、フェイトがあの女に聞きたい事があると言ったので会いに来たんだけど……


――パシンッ!!!


「なにをやっているの。フェイト。私はジュエルシードを集めるよう言ったはずよ」


 容赦なくフェイトに鞭を振るう。


「ごめ…んな……さい」

「それに、あれだけの好機を持って、ただボーっとしているだけなんて。それにあそこにいた二人は敵なのよ! 何のんきにしていたの!?」

「ご、めんな……さ…い」


 フェイトの声が小さくなるが、それでも容赦なく鞭の音が場を包む。


「なにが違うの! あの娘とあの少年、月詠拓斗は敵なのよ。それとも、私を裏切るつもり?」

「ち、違うよ! 私は!」


 もういいよフェイト! なんでそんなにも、そんな女を!


「黙りなさい!」


――パシンッ


「うぐっ……」

「プレシアぁあああああ!」


 もう我慢できない! よくも、よくもフェイトを!!


「来ないでアルフ!!」

「ふぇ、フェイト?」

「私が悪いの。母さんの言う通り、あの二人とは敵同士なのに、あんな風に話していた私が……」


 悲しげにそう言うフェイト。


「フェイト、なのはが……拓斗が……本当に敵だと思っているのかい!?」

「………」

「フェイトの為に、ジュエルシードを渡してくれたなのはが! 命を救ってくれた拓斗が! 敵だって言うのかい!?」

「私は……」


――パシン!


「うあ!!」

「これ以上話す事は無いわ、あなたには罰を受けてもらうわよ」


 再び鞭を振るうプレシア。


「止めろぉぉぉぉぉ!!!」


 一発殴ってやらなければ気が済まない。そう思い跳びかかったが


「な!? しまった!!」


 バインドで拘束されてしまった。その間もフェイトは痛めつけられていた。


「躾がなっていないわね、フェイト、使い魔の責任は主がとるのよ」


――パシン!!


「う、うぅ……」


 項垂れるフェイト、どうやら気絶してしまったようだった。


「ふん……」


 あの女は傷ついたフェイトを放置してそのまま地下の研究施設へと向かって行った。アタシはなんとかバインドを解除して急いでフェイトの下へ走った。


「ゴメンね、フェイト。アタシ下手糞だから、拓斗みたいに癒してあげる事ができないよ……」


 流れる涙を拭いつつ謝るが、フェイトは応えなかった。その体を抱きしめると共に、怒りが込み上げて来た。


『聞いてよアルフ! 母さんがね……褒めてくれたんだ♪』


 前にフェイトが嬉しそうに話してくれたのを思い出す。あんなに慕っている娘をあんな目に遭わせるなんて。


「あの女……よくも!!」


 絶対に許さない。フェイトにしてきた事の十倍、いや、百倍の苦痛を味あわせてやりたい。

 フェイトの体を優しく横たえた後、アタシは飛び出した。目指すは当然あの女がいる地下室。積年の恨み、今こそ晴らしてやる!!


「プレシアァァァァァァ!!!!」


 扉をぶち破り、その勢いのままムカつく面に向かって殴りかかった。


――ギィィィン!!


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 展開された障壁が拳を止めた。構わず力を込め、それを破る。


「アンタは母親で、あの子はアンタの娘だろ!! あんなに頑張ってるのに…あんなに一生懸命なのに……なんであんな酷いことが出来るんだよ!!!」


 力の限り声をあげる。が、プレシアは無言であたしを見下すだけだった。


「娘に対して、なんで鞭打ちなんて酷い事出来んのさ!? ジュエルシードなんて危険なもん集めさせて、一体何するつもりだい!!!」


「……言いたい事はそれだけかしら?」

「なっ!? ぐふっ!!」


 腹に手を添えられたかと思えば吹き飛ばされていた。それが魔力弾による攻撃だと気付いたのは壁に叩きつけられた後だった。


「はあっ…はあっ……」


 気を抜けば意識を失いそうな中、プレシアへの怒りで意識を繋ぎとめる。


「…なんだい……なんなんだい。いつも、いつも、フェイトを心配して、ときには怒っていやったり、時には笑ってあげたり、時には心配してやったり、よっぽど……よっぽど拓斗の方がアンタなんかより家族だよ! それなのにあんたは!!」


 そうだ、拓斗はいつだってフェイトを助けてくれた。守ってくれた。こんな場所でわけのわからない研究をしているこの女と違って。


「所詮あの子の使い魔、余分な感情が多過ぎる。あの子、使い魔作るの下手ね」

「……なんだと」


 それはアタシにとってこれ以上無い侮辱だった。使い魔にとって主を馬鹿にされる、これを超える侮辱など存在するのだろうか。


「あの子は…フェイトは!! アンタに笑って欲しくて、優しいアンタに戻って欲しくて頑張ってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」


 せめて、せめて一撃入れなければ死んでも死にきれない! そう思いプレシアに近づく。


「…これ以上遊んでいる暇は無いわ……消えなさい」


 プレシアがあたしに止めを刺そうとデバイスを振ろうとした瞬間……


「うっ……ゴホッ!」


 突然咳込み、デバイスを落とした。


「血?」


 見れば、プレシアの手のひらに血が付いていた。吐血したのかい?


「はあっ…はあっ……アルフ……」


 アタシの名を呼ぶプレシア。その声は先ほどまでと違い、優しい声だった。


「あ…アルフ……は、はやく…ここから、逃げ…な、さい……私が…私でいる内に……」


 なんだい……何を言っているんだいこの女は?


「あ、の少年に…月詠拓斗に……伝え…て………私は……どう…なって……も……いい。あの…子……フェ…イトだけでも……助けてあ…げて」

「な、何を「アァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」な、なんだいアレは!?」


 アタシは目を疑った。あの女の背中から黒い、黒色の影の化け物が姿を現した。


「行きなさい! アルフ!」


 なんだか知らないが、せっかくのチャンスを逃すほどアタシは馬鹿じゃない。アタシは転移魔法を発動させた。


 な、なんだったんだい、最後のは。アイツなら、拓斗なら何かわかるかもしれない!

 転移の光に包まれている中、そう思いつつアタシは意識が途切れた。










 ???side

「はあっ…はあっ……」

【クソッ……セッカクアノツカイマガシヌハズダッタノニ。カンジンナトコロデイシキヲトリモドシタノカ】

「ゴフッ……」


 さらに血を吐き出すプレシア。元々事故の所為で体を病に蝕まれていたのに、無茶な研究が祟った所為で、もはや通常の処置では助かることは万に一つもないだろう。


【……トイッテモ、アノジコヲヒキオコシタノハワタシダガナ】


 あの時のプレシアの娘を失った絶望と悲しみの表情は今思い出してもゾクゾクする。


【クカカッ、ムスメノカタキニアヤツラレテイルトシッタラコノオンナハドウイウカオヲスルダロウカ。マッタク、オヤコトモドモタノシマセテクレルナ】


 以前この地に訪れた黒髪の少年。
 アイツは自分の力を一時抑え込んだ。
 自分にとって奴の存在は危険すぎる。


【プレシア……クチルニハマダハヤイゾ、キサマニハマダウゴイテモラワナキャイケナイノダカラナ】

「………」


 あの少年を亡き者とする為に……な。










 フェイトside

「フェイト、起きなさい……フェイト」

「はい、母さん」


 どれぐらい時間がたったんだろう。母さんが呼ぶ声が聞こえ、起きる。そこには私が母さんのために集めたジュエルシードと母さんがいた。


「あなたが手に入れてきたジュエルシード9つ。でも、これじゃまだ足りないの。最低でもあと5つ、出来ればそれ以上欲しいの。急いで手に入れてきて母さんのために」

「はい」


 そう言って私は起きて、すぐにでも母さんのためにジュエルシードを集めようとした。でも、母さんから予想外の言葉が来た。


「それより、あなたのそばにいた少年のことを聞かせて。フェイト」

「拓斗のことを?」


 なんでいきなり拓斗の名前が出てくるんだろう?


「あなたが以前話していたのを思い出してね。それに、さっきフェイトを助けてくれたのも彼でしょう? 娘を救ってくれた母親としてはぜひともお礼が言いたいのよ」

「ここに来てもらえばいいんですか?」

「ええ、頼めるかしら」

「でも…拓斗は管理局に……」


 管理局から私達を逃がしてくれてからさっきまで会えなかった事から、恐らく拓斗は管理局に協力している。私の敵ではないと言ってくれたけど、ついて来てくれるとは思えない。


「大丈夫よ。その子、とても良い子なんでしょ? きっと時空管理局に騙されているだけよ。ちゃんと説得すれば、フェイトの言うことを聞いてくれるわ」

「え? 騙されている?」

「そうよフェイト。彼はかなりの魔力を保持しているみたいね。きっと管理局から無理難題を押し付けられているわ。そのまま放置しておくと彼が死んじゃうかも」

「そ、そんな!?」


 拓斗がそんな目に遭うなんて耐えられない。元はと言えば私の所為なのに……!


「母さん! どうしよう!?」

「安心してフェイト。その子もフェイトのことを大切に思ってくれてるみたいだから、貴方がしっかり説明すれば時空管理局と手を切る筈よ。その後に此処に連れてくればいいんだから」

「私を大切に?」


 そうなのかな? もしそうだとしたら……嬉しいな。


「出来るわね、フェイト? 彼を必ず此処に連れてくるのよ。その前に、彼について聞かせて欲しいんだけど」

「はい!!」


 私は拓斗について知っている事を全て話した。

 主な武器は私と同じ鎌でジュエルシードを一撃で鎮圧できる威力がある事。

 武術だけでなく、強力な魔法も使える事。

 ミッドでもベルカでもない不思議な力を使う事。

 どんなに傷ついても一瞬で治せる回復魔法も使え、何度も治してもらった事。

 初めて会った時に命を助けてもらった事、話を聞いてもらった事、頭をなでてくれた事。

 母さんに拓斗の事を知ってもらうのが嬉しくて、私は時間の経つのも忘れてたくさん話した……











 拓斗side

「さて、久しぶりにリニスと会うな。後いろいろ相談しないと」


 あの後、リンディから相手方が動かないからと新しい情報が入るまでゆっくりしていていいと言われた。その後帰宅許可をもらい一度家に戻ることにした。


[(でも、なのはちゃん、家族に会えるんだ。嬉しいだろうな)]

「そうだな。久しぶりの再会だしな」

[(家族ってのはいいもんだしな)]


 帰宅時にリンディが高町家に説明するという提案があった。まぁ、あの高町家の全員を納得させるのは俺でも疲れる。特に士朗と恭也さん。

 帰宅後、リニスと今まであったことを話し、今後アースラと協力するのでリニスにも協力してくれないかとお願いをしてリニス自身も自分の身内のことなので協力することになった。






 次の日、久しぶりに登校して、久しぶりにアリサとすずかに会った。


「あ、拓斗君」

「久しぶりね、ここ数日何やってたのよ?」

「ん……まぁ、色々な」

「何よそれ」

「すずかちゃん! アリサちゃん! 久しぶり!!」

「うん、久しぶりだねなのはちゃん」

「アンタも何やってたのよ?」

「う~ん……秘密?」

「ちょっと、アンタもなの!?」

「あ、あはは……」

「……やっぱり、あの三人は一緒にいるのが一番だな」


 久しぶりに会えて笑顔を浮かべる三人を見ながら俺は席についた。





 昼休み。久しぶりの四人での昼食にアリサが、

「ねぇ、今日うちに遊びに来ない?」


 と、アリサの家へご招待されました。


「(拓斗君、どうすればいいの?)」

「(別にいいだろう。いざとなれば俺だけ呼びだしに応じればいいだけだしな、どうせなのはも久しぶりに遊びたいんだろ)」

「(えへへへ。分かっちゃった? じゃあお言葉に甘えて)うん、行く!」

「よかった。すずか、アンタももちろん来るでしょ?」

「うん。もちろん」

「そういえば、拓斗はまだ家に来たこと無かったわよね?」

「そう言えばそうだな」

「じゃあ決定ね」

「なにが?」

「来ること」

「どこに?」

「うちに」

「勝手に決めるな」

「いいじゃない。決定事項よ」

「…俺の意思は?」

「な、なによ……すずかやなのはの家には行ったのに、私の家は嫌なの?」


 シュンと落ち込むアリサ。


「そ、そんなわけないだろ。ありがとな、誘ってくれて」

「そ、そう……ま、まぁ当然よね! 私が誘ったんだから!!」


 と思ったら、嬉しそうに笑うアリサ。
 まぁ、喜んでるなら行ってもいいか。



「ふふっ…」

「な、なによすずか?」

「アリサちゃん、とっても嬉しそう」

「なぁ!?」

「久しぶりだからたくさんお話したいもんね。もちろん私も拓斗君とお話したいけど」

「うう……」


 アリサの顔は真っ赤になる。


「そ、それよりこれ見てよ」


 携帯電話を取り出し、見せてくるアリサ。
 ……誤魔化したな?


「昨日犬を拾ったのよ。凄く大きくてオレンジの毛色で、額に宝石みたいなのが埋まってる犬。なんか怪我してたから獣医に診せて治療させたんだけど……」


 画面に写っている犬を見て俺は驚いた。なぜならば、写っていたのは間違いなく……


「(拓斗君、これって……)」

「(ああ、間違いない…アルフだ)」

「拓斗?」

「どうしたの?」

「…いや、なんでもないよ。知り合いの飼い犬に似ていてつい……」


 そう言って俺は携帯電話をアリサに返した。


「心当たりあるの!?」

「あぁ。お前の家に行くまでには思い出しておくよ」


 放課後、早速アリサの家に向かった。執事である鮫島さんに通されて大きな門を潜る。すずかの家も大きかったが、アリサの家も負けてないな。


「こっちよ、ついて来て」


 アリサについて歩いていると、やがて一つの檻の前までやって来た。
 そこには、傷つき、包帯だらけのアルフの姿があった。


「どう、拓斗? 知り合いの犬に似てるって言ってたけど……」


 アリサの言葉にアルフが反応し、立ち上がろうとしたが、力無く倒れる。


「(た、拓斗……)」

「(無理しなくていい)」


 念話で話しかけて来たので、大人しくさせる。


「ああ、ビンゴみたいだな。飼い主はわかってるから大丈夫だよ」

「そっか、よかった~」


 俺の言葉に安堵するアリサ。


「俺はもう少し様子を見てるから、アリサ達は遊んでていいぞ」

「え? でも……」

「…行こう、アリサちゃん、すずかちゃん」

「ちょ、ちょっとなのは?」

「なのはちゃん?」

(悪いな、なのは)

(ううん、アルフさんの事お願いね)


 三人が行ったのを確認して。


「リニス。出てきてくれ」


 茂みから一匹の猫が出てきて、アルフの前に座る。


「(アルフ!? 大丈夫ですか!?)」

「(り、リニスかい? あぁ、このぐらい…ぐっ)」

「(馬鹿。無茶をするな。今、治癒魔法をかける)癒しの巫女の魂よ 今一時 その力を我に宿し 傷つきし者を救い給え『治癒』」 


 そういって詠唱を始めるとアルフの下に魔法陣が展開され傷口が収まっていく。


「(すごい…痛みどころか魔力も回復してる……)」

「(それより何があったんだ?)」

「(拓斗、フェイトを、フェイトを助けてやってくれ! お願いだ!)」


 アルフは泣きながらも、しっかりと自分の目の前で起きたことを放した。

 フェイトがプレシアからの虐待を受けていたこと。そして我慢の限界が来てプレシアを殴ろうとしたら彼女の後ろから黒い異形が出てきたこと。


「(…そうか)」

「(殺されるかと思ったら急に逃げろなんて…もうわけがわからないよ……)」


 泣きそうな声を漏らすアルフ。その痛々しい様子に思わず抱きしめた。


「(た、拓斗!?)」

「(…辛かったよな。もう大丈夫だ、必ずフェイトは助けてみせる)」

「(拓斗……)」

「(だから安心して今は休んでくれ)」

「(あ…あぁ……)」

「(我慢するな。今、お前は…好きなだけ泣いていいんだ)」

「(う、うわああぁああぁああああああああああ!)」


 ダムが決壊したかのようにアルフは泣き始めた。

 ……首洗って待ってな【邪】の者。テメェは絶対に許さねぇ。俺が全て狩り尽くしてやる。

 俺の心が、魂が怒りの焔を燃やし始めた瞬間だった。 
 

 
後書き
~あとがき雑談会~

作「というわけで、拓斗が【邪】の者に怒る回でした」

拓「今回も少し長かったな」

作「これくらいが標準になるように頑張るよ!」

拓「そういえば、【邪】の者ってなんで【邪の者】って表記しないんだ?」

作「それは【邪】にもいろいろいるからね。【邪】の者っていうのが全体の総称」

拓「なるほどな」

作「というより【邪】に関しては拓斗の方が詳しいはずだけど?」

拓「お前がそう設定したんだろ」

作「メタ発言禁止! もう次回行くよ!!」

拓「早すぎるだろ、ったく……





  アリサ家での一件の翌日の早朝

  海鳴のとある公園で二人の少女が思いをぶつけあう

  次回 魔法少女リリカルなのは ~黒影の死神~『決戦』」





作「それじゃ、次回に」

作・拓「「トリガー・オン!!」」





 おい離せ! 痛い、痛いって!! 耳引っ張るな!!

 うるさい! メタ発言した罰だよ!!  
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