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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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八章 幕間劇
  エーリカとの御伽噺

「ええと、次は・・・・」

俺は武家屋敷が建ち並ぶ区画をぷらぷらと歩く。

「久遠も人使い荒いような気がするが、まあいいか」

久遠に使いを頼まれて、俺は織田家中の武将らに、金を配っていた。戦が続く昨今、家臣達の懐を案じ、久遠から下賜される・・・・所謂心付けという奴だ。まあ戦で金を使わせるから、元締めの方で援助してやるという事での心付けらしいが。

「まさか現金で配るとか、まるで昔のようだ」

昔と言ってもこの時代ではなく現代だけどね。随分前は、封筒に給料やボーナスを手渡ししていたそうだ。でも今は銀行口座があるから、わざわざ手渡しっていうのもなかったしな。普通の人は、大金は持ち歩けないので、渡したら久遠の屋敷に戻ると言うのが一般的らしい。俺は一括にして運んでいる、最も空間に入れてるから俺は手ぶらの状態だけど。

「スマホで見ると次はエーリカか。いるかな?」

武家屋敷が建ち並ぶ中でも、一際、センスのいい屋敷の門を潜る。渡り六分、景四分。そんな言葉で表現される、歩きやすさと景色の整った露地を歩き、屋敷の式台に向かっていると。

「あら、一真様ではありませんか」

どこからともなく、エーリカの声が聞こえた。ちなみにエーリカもなぜか様付。俺が神仏の類だからだとか。あとデウスにも会った事があるとかかな。

「うん?エーリカ・・・・って、どこに居る?」

「こちらです。ほら、あなたの左手に・・・・」

エーリカの声に促されるまま、左手に視線をやると、縁側に腰を降ろしていた。何か本か書物みたいなのを読んでいた。

「いた。で、何しているんだ?読書か」

「はい。あまりにも天気が良かったので、日向ぼっこをしながら読書でもと・・・・」

「そうか。確かにいい天気だな」

「こういうお天気を、麗らか、と表現するのでしょうね・・・・日の本の言葉の美しい事」

「確かに。色んな事を想像できる表現が多いからな、日の本の言葉というのは」

「ええ。母が日の本の人で良かったと、毎日、神に感謝しております」

「エーリカらしい事だな(そうか、前にデウスから聞いたが毎日感謝されていると聞いたがこういう事か。誰かまではいかないが、日の本でよかったと)」

と考えながら、俺はエーリカが腰を下ろす縁側へと近付く。

「今日はどのようなご用件で?」

「ああ。久遠のお使いさ。戦続きだから心付けだと」

言いながら空間から出されたエーリカの分のお金を取り出す。

「ああ、なるほど。・・・・ではありがたく」

「はい。どうぞ」

銭を包んだ風呂敷をエーリカに渡す。

「これは・・・・すごい量の銭ですね。こんなにも頂いて良いのでしょうか?」

「エーリカは特別だとよ。明智衆を増強しとけとの事だ」

「なるほど。お気遣い、かたじけなく」

受け取った風呂敷を押し頂くようにした後、エーリカは包みを傍に置く。俺は包みの近くにあった本に気付く。

「またたくさんの書物を読んでるんだな。・・・・難しい書物でも読んでるのか?」

「いいえ。これは全て、御伽噺や歌物語の書物です」

「御伽噺?」

「はい。竹取物語や源氏物語、歌物語としては伊勢物語など・・・・少し興を催しまして」

源氏物語・・・・・紫式部が認めた宮中恋愛物語。

「ほう。エーリカが御伽噺か。何か意外だな」

「そうでしょうか?」

「意外って言うのは失礼だけど、何というかそういうモノに興味を持つ事を感心したというか」

「物語を読むのは楽しいですよ」

「うん。まあ俺も好きだけどさ、読めないんだよ」

「ああ、確かにかなり崩して書かれておりますからね」

「俺にはミミズのようにしか見えないからな」

「まぁ・・・・うふふ・・・・」

俺の表現が気に入ったのかな?エーリカは慎ましげながらも楽しそうに笑う。

「で、今は何を読んでいるんだ?」

「今は竹取物語を。・・・・とても興味深いですよ」

「興味深いって。物語が楽しいとか面白いとかじゃなく?」

「面白い・・・・そうですね。物語が面白いというよりも、こう・・・・興味深い」

「興味深いから離れてないな。どういうところが興味深いんだ?」

「登場人物達の考え方が、とても興味深いんです。例えば竹取の君・・・・かぐや姫はなぜ竹の中にいたのでしょうか?」

「いたのか?」

「竹の中にいたかぐや姫は何を思い、過ごしてきたのか。なぜ、求婚者達に無理難題を出したのか・・・・」

「確かに興味深いな」

「はい。ですがその辺りの説明は、さらりと流され、かぐや姫は物語の筋書き通りに行動し、そして天へと帰って行くのです。何度読み返しても、かぐや姫の行動は全てが必然となっている。物語の筋に沿って」

「まあ物語だからな」

「このかぐや姫は一体、何がしたかったのでしょう?」

ふむ。そう言う事を聞いて来たか。確かに、かぐや姫は何のために竹の中にいて、最後は天へと帰って行くのだろうか。

「さあな。だが、それはかぐや姫にとっては望むかどうかは別だろうな。例えば物語の人物が、読者の期待通りに動かない事だってあるし、予想外な人物が現れるかもしれない。それはそれで面白い。竹取物語に出てくるかぐや姫は、純情な男達を弄ぶ百戦錬磨の恋の達人とか。全然違う話になるけどそれはそれで面白いだろうな」

「なるほど。確かに興味深くはありますね。正しい話に進むか別の話に進むか」

「まあたぶん望まないだろうさ。いつも通りにやらせろとな」

「ええ。物語の筋書きに沿い、設定された役割を演じるのが登場人物たちの役目でしょうからね。ですが・・・・一真様の考えはとても面白い。・・・・それが例え叶わないとしても」

「叶わないなら、自分で叶えればいい事よ。エーリカが望む竹取物語を自分で書いてみればいいのでは?」

「私が、ですか?」

「そう。エーリカが考えるかぐや姫を主人公として、エーリカ版竹取物語を作ってみたら楽しそうじゃない?」

「そうですね。確かに楽しそうですが・・・・今はやめておきましょう」

「そうか。一応理由は聞いていいか?」

「これから戦が続いていくでしょうし・・・・折角、考えた筋書きを忘れてしまうのも癪ですからね」

「だな。今はみんな忙しいしな」

「はい。それに私には使命がある。・・・・今は自分の喜びよりも、その使命を優先しようと思います」

「なら仕方がないな」

「仕方がないですね。・・・・さて。それでは私もそろそろ仕事に戻ろうと思います」

「了解。長居して悪かったな」

「いえ。あなたと話していると、とても楽しい時間でしたよ」

と言って俺は俺の仕事を再開するために、エーリカの屋敷を出た。さっきの事だが、物語は自分で変える事ができる。ここは外史である事をお忘れなくとね。それにエーリカの使命もあるが、俺だって使命があってこの世界に舞い降りたのだから。 
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