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フェアリーテイルの終わり方

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九章 湖畔のコントラスト
  14幕

 
前書き
 知る 前 ならば 

 
 一つ救いがあった。妻が理解を示してくれたことだった。
 剣を握り血だまりに立つ彼を見ても、妻は壊れることなく、だが彼に抱き縋り、泣いた。

 ――そして、予定調和はある日、大きく崩れた。


 “……ふたり、め……?”
 “そう! 今日病院に行ってきたわ。二人目の子よ。私と、あなたの!”
 “……っラル!!”
 “きゃあ! もう、喜びすぎよ、ルドガーったらぁ”


 彼の知らない未来。愛する人との新しい未来。嬉しくないはずがなかった。


 “えぅ、おねーたになぅの?”


 まだ舌も回らない一人娘にもその素晴らしいニュースを伝えた。


 “そうだよ。エルに弟か妹が出来るんだ。エルはお姉ちゃんだ”
 “とーと! ぃもーと! きゃーっ”


 娘も喜んでくれた。彼は妻と娘と共に、指折り数えて二人目の我が子に会える日を待ち望んだ。

 …………

 ……

 …

 ルドガーはすでに満身創痍だった。ルドガーだけではない。ミラもローエンも。湖に投げ出されたジュードとフェイは未だ浮かんで来ない。

 ヴィクトルは――10年後の自分はあまりに強すぎる。

「ヤダヤダヤダ! エル、こんなのヤダよぅ! お願い、やめて、パパ! ルドガー!!」

 辛うじて閉じずにいる意識に入り込む、エルの悲鳴。

(泣かないでくれよ。泣かせたいわけじゃない。悲しませたいわけじゃない。俺が今日までやってきたのは、君のささやかな願い事を叶えるためで。君の喜ぶ顔が見たいからで。俺は、君が)

 影が差した。見上げるまでもなくヴィクトルだろう。シルエットからするに、骸殻の槍を振り上げて、ルドガーに引導を渡そうとしている。
 避けなければ、逃げなければと思うのに、手足が動いてくれない。

 ギイィィィ…ン!!

 槍がぶつかる音がした。だがルドガーの体はどこも無事だ。新しく傷はできていない。

 訳が分からず顔を上げると、ヴィクトルの槍とルドガーの間に、青いジグザグ模様の壁があり、それがヴィクトルの槍を防いでいた。

 不利と悟ってかヴィクトルが下がって距離を取った。

 ルドガーとヴィクトルの間に立った二人を見て、ルドガーは思わず涙が出そうになった。

「ジュード、フェイ……っ」

 無事でよかった。この局面で守ってくれたことが嬉しかった。それらを伝える余裕があれば伝えるのに。

 防壁にジュードが快気孔を重ねる――エイドオール。防壁の内側に治癒のマナが広がった。全快まではいかなかったが、あの男にしゃにむに挑める程度の活力は戻った。

「動かないで。キズ、全部治してないから」
「ありがとな、フェイ。でも俺、あいつが許せない。お前やエルをモノ扱いしてるあの男が」
「ちがう」

 語尾に被せてバリアーが解術され、ジュードが前へ出てヴィクトルの対角線上に立つ。まさかジュード一人で戦わせるとでも言うのか。

 仰いだフェイの表情は――息を呑むほど、哀しかった。 
 

 
後書き
 産まれる前、ラルと引き換えにすると知る前は、確かに望まれた子だったのです。それを知るのは彼自身だけで、次女には欠片も伝わりませんが。
 決まってしまった覚悟の行方は――? 
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