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SecretBeast(シークレットビースト)

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本編 第一部
三章 「戦火の暗殺者」
  第二十話「呪いと剣と魔法と」

 三人が外に出ると。目の前に現れたのは、霧が目で見えるくらいに集まって人間の骸骨の形に浮き上がっていてそれの、両目に赤々と燃える火がともっている光景だった。その霧の向こう、うっすらだが人がいっぱい倒れているのが見える。
「くそ、遅かったか」
「あまり、喋らないで、豊村さん。魔術師は、言葉を操るのに長けている。喋ってはダメ」
 そこには、細川さんが重々しい本を手になにかの呪詛のようなものを朗々と詠唱しているところだった。
「大丈夫、向こうに見える人影はみんな、死んではいない、わたしはあなたたちみたいに勘がつよいわけではないけど、魔力の流れを見ることはできるし、だれがどんなことを何の目的でしてるのか、だいたいは、検討はついてる。豊村さん、相手は死霊使い。あれは、ベトナムの熱帯雨林で何万人もの、兵士を殺した亡霊。森の怨霊よ、どうやって日本のこの学校の校庭に出現させたかわからないけど、相当の呪術使いよ。一人、うちのクラスの子が霊媒に使われてるせいであれは、ものすごい力を手に入れてる、上を見て」
三人は校庭の中心の空中あたりに誰かが吊るされてるのが分かる。体育館と校舎から数本のワイヤがくもの糸ように絡み合って、誰かをつるし上げているのが分かる。
「遅かったではないか、バハムートの娘!」
体育館の屋根の上に人影が見える。
「おまえか!許さない!わたしのクラスメート、こんな目に合わせて」
「それは、こいつを倒してからいうのだな、我が呪術にて作られし“死の象徴”その名をシュムナという。こいつの霧は触れるものを全て溶かす、今その威力を見せてやろう」
 骸骨が揺らぎだし、なにかの波が三人の頭を鈍くする。感覚が上下左右にめちゃくちゃに揺らされて立っている事もできない。
 そして骸骨は、紫色の霧を吐き出して、それが人間の形になる。それが数え切れないほど造り出され、その手には機関銃が握られている。霧の兵隊は、いっせいに銃をかまえた。
「いったい、何人の死霊を操っているの?でもそうはさせない。豊村さん、ここは、こいつは私が引き受けるから先へ、あなたはあの呪術師を捕まえてあなたはあなたの敵の名を知って」
「細川さん!?」
 銃弾がいっせいに放たれる。しかし細川さんが手をかざすと銃弾は、当たらない。むしろ銃弾の方が避けていく。後ろの水のみ場がその銃弾で焼けただれて、コンクリートがどろどろの溶岩になってしまった。
 しかしそんなことを全然気にしてないという風で細川さんはこの校庭を中心において、声と言葉の力で黄金色に光り出す魔法円を造り出した。そしてそれは空間に一つ球体を作る。
「石灰の線で描いた魔法円、バカなことをしたわね。そんなものは、雨が降っただけでも濁ってしまうというのに」
 その球体が霧の骸骨を捉えて封じ込める。あの骸骨が、苦しみ、頭をふるわせるだけでこちらも意識を削り取られるようにガンガンと頭に響いてくる。
「ふう、だけどこの化け物、ちょっと厄介。豊村さん、霊媒になってる生徒がこの化け物に恐ろしい力を与えている。私がこいつを押さえ込んでいるから生徒を助け出して」
「細川さんっ、加勢する、やああああ!」
 友恵が、真剣を抜き放ち、飛び上がって、化け物にするどい一閃を浴びせる。するとまるで骸骨のなかに充満していた紫色のガスが爆発したように骸骨の反面を吹き飛ばす。友恵は上手く着地して、刀を返して化け物の様子を見る。 
その時、スプリンクラーが作動した。噴水のように巻き上げられた水が地面を濡らす。
「な、なんだ?地面から水?」魔術師があわてているようだ。
「まあ、スプリンクラーを知らないの?クスクス。貧しい国の出身なのね。さっきちょっとここにくるまえにあらかじめ手を打っといたの。あなた、呪術師としては一流だけど少し仕事が雑ね。ちょっと力のあるものが窓からみれば、大体、どんな呪いを張ってるか一目瞭然でしてよ?ねえ、田舎者さん?豊村さんの相手をするのには少しマナーがなっていなくてよ。友恵ちゃん、大丈夫、もうこんな奴わたしの敵ではないから」
いつものような、けなげなところのない、冷笑を浮かべる細川さんは、いよいよ、その呪文の声を上げて唱え始める。音の抑揚が校庭に木霊し、空に雷雲を呼び込んで、ものすごい嵐を引き起こす。稲妻が、立て続けに落ち、化け物に当たって霧は湯気を上げて掻き消えてゆく。
細川さんは、体から魔力を放出して青い光に包まれ、その影は大きく伸びて校舎を覆いつくすようだ。目は爛々と金色に輝きはじめ、呪文を唱える口からは火さえもがもれている。どんどん細川さんの声は力をあらわにしていく。
そして、霧は空中でいくつかの水滴になって、空にまるで逆向きの降る天邪鬼な雨となって空に舞い上がっていった。
すると、ふとした瞬間には、細川さんも校庭もまるで何事もなかったようにいつもの晴れた夏に戻っていた。それどころか生徒たちも何事もなかったように部活動をしている。    
生徒たちの元気に部活をする声で校庭はいっぱいになった。
細川さんの、威容は影も形もなくなっていつものはかなげな文学少女にもどっていた。ガクッと膝を落として力なくうなだれた。どうやら霧の化け物は死んだようだ。
 
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