SecretBeast(シークレットビースト)
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本編 第一部
三章 「戦火の暗殺者」
第十九話「影の薄い少女」
四時間目の世界史の授業で先生は、世界の紛争や迫害や差別について語っていた。織花遥という生徒は、ものすごく影の薄い生徒だ。中学の時、いじめによって遥かは、自分の存在を認識されることさえ、恐れるようになり、しだいに自分の存在を消すように気配を薄めるようになった。歩き方から呼吸の運び、全てに対して人に気付かれないように。意識してやったことじゃない。だがそれは、高校生になったある日、ついに自分が誰の目にもとまることがなくなっているまでになっていることに気づいた。それは、彼女を少しほっとさせたが同時に寂しくもさせた。クラスではいじめはなかった。不思議と、このクラスの人はいじめというものを嫌い、いじめをする人間に怒ることができるような人が結構いた。遥は、こんな人たちなら私も受け入れてくれるかと思ってしまった。彼女はそれでもやはり話しかけることもできかった。周りの人がだれひとり気づいてくれないまま、夏がすぎて、今日の登校日が来た。やはり、誰の目にもとまりません。彼女もうつむいたまま、その空虚な時間をいつものように過ごしていた。
この学校の授業はどれも面白くて大変だけど自分なりに頑張ってどの授業でもいい点数をとっていた。彼女は授業中は授業に没頭し、そして休み時間は人気のない図書室で本を読んですごすのが日課だった。図書室にも数人は人がいるのだが、だれも彼女に気づかない。世界史の授業がおわり、登校日の全ての授業が終って遥はあたりを見回した。このクラスは明るくてどこにも辛い思いをしているような生徒は織花の目にも見えない。そんなときだった。ふと、織花のいる席は、窓のちかくですぐ校庭がみえる。そして今日はやけに霧が濃いなとぼんやりとかんがえていたのだ。だけど遥はいつもとなにかが違うのに気づいた。それは自分も同じように存在を認識されることのないまったく空気のような存在だから気づけた違いだった。なにかこの霧からはものすごい悪意を感じる。そう、中学の時自分を襲ったいじめの時の空気とまったく似ているのです。そして背中を、悪寒がぞわっと襲いました。なにかあの霧は危険だ……。織花は、一人、授業の終わった教室から出て行った。そして外に出てみたのだ。それが引き金になっていたのを遥はすぐに感じ取れた。
「な、なに、これ?ど、くろ?」
目の前には、霧が凝固して人間の骸骨が霧の中に浮かんでいました。そしてそのくぼんだ眼のある辺りに赤い光がしずかにともったのだ。すると階段の方から大勢の足跡がきこえてきた。遥はあまりに恐ろしくて足が震えてうごけなくなった。
「いけない!みんな、下校する人や部活の人が……、このままじゃ!みんな!来ちゃダメだよー!」
ワイワイワイワイ。遥のか細い声は群集の騒音にいとも簡単にかき消されてしまう。
ああ、どうしたら……。遥は、頭がパニックになるとうつむく癖がある。目線が校庭のグラウンドを捉える。するとそこにはなにか白いラインが眼に入った。
それを追っていくと霧の濃いなか、このグラウンド全体に魔方陣のようなもの校庭でよく使われる白い石灰で描かれているのに気がついた。
「これって……?」
遥は、そのとき悟った。これって私がよく読んでいるファンタジーの魔法使いが書く魔方陣じゃない?形も書かれている文字も全然違うけど。もしかしたら、このラインは、目の前の霧の化け物を呼び出している魔方陣じゃないか。なら、この魔方陣を少しでも削り取れば。遥は、足で魔方陣に一部を消してみた。するとグゴゴゴゴと苦しみ始める化け物の姿があった。やっぱり。この魔方陣を消してしまえばこの化け物はここにいられなくなって消えちゃうんだ。
「まさか、魔方陣にきづくとは、そこな娘。もう一度でも魔方陣のラインに触れてみろ。こいつの具象定着には、人間の生贄が必要なのだ。まさか、いち早く、外の異変に気づいて、魔方陣の存在まで感づかれるとは。私も、ぬかったものよ」
「あなた。なんなんですか?これはあなたが?すぐに今やろうとしていることを止めてください!はやくしないと学校のみんなが!」
「だから、その学校のみんなを襲うのが私の役目なのだよ。我は、大いなる器の少女を殺すためにきたのだ。法王庁が動き始めている。われらの崇拝せし神がもうまもなく降臨するというのに。あの少女の眠る、聖獣は、我が神の敵!敵は滅さねばならぬ、灰は灰に、塵は塵に!」
そいつは、黒いローブを着て、顔全体をローブのフードで覆っているので顔が分からない。そいつは、腰の剣を抜き放つとに向けた。向けられた剣が一瞬キラリと光って遥は、身動きが出来なくなった。
「ここは、私の術の力が強くなるようにあらかじめ、準備しておいた地なのだ。我が剣は、この場に充満する、こいつの魔力を受けて人間一人くらい金縛りにするのは容易い。悪いがおまえは人質になってもらう。あの者も生徒が人質となっては、思うようにいくまいて」
遥の体は蛇ににらまれたように身動き一つとれなくなってそのまま、宙に浮き上がった。
「な、どうなってるの!?」
「はは、良いことを思いついた。この娘を霊媒に使って、さらに強い結界を張ってやろう」
遥は校庭のちょうど真上までつるし上げられあまりの高さ、足がすくんでしまっていた。そして剣の先から発せられる何かに自分がのっとられていくのを感じた。その気配は学校全体をすっぽり覆うと織花はじぶんにものすごい何かの力がかかっているのを感じる。まるで、空気がとたんに重くなって自分、圧迫しているようだ。息がつまるような苦しさに襲われ、どうすることもできない。
「さあ、どうするバハムートの娘よ」
校庭に出てきた生徒たちは、骸骨の霧に、気づかずにどんどん霧の中へ入っていく。そして静寂がしずかに、闘争ののろしを示した。
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