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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第六十六章 強くあるために《2》

 
前書き
 再び現れた竜神。
 今、神の力を見せ付ける時!  

 
 巨大な神の力を感じる奏鳴。
 今にも力が外へと放たれてしまいそうな、押さえ切れない力。
 暴走ではない。あまりにも巨大な力に身体が受け入れないのだ。
 目の前の麒麟は動く。
 爆散した天魔の腕で仕留められなかった。だからその身をもって仕留めに来た。
 地響きを鳴らし、巨体を動かして、残りの距離を縮める。
 そこまではよかった。――しかし。
「やるぞ」
 奏鳴は竜神刀である政宗を天に突き立て、政宗の刀身が光りを放つなか、振り下ろし空気を断った。
 同時に砕け散った奏鳴に生えていた竜神の角が再構築を始め、新たなる角を生やす。
 前の結晶のように透き通ったものではない。確かな色を持った竜神の角。
 よく見ればその角は、今現れている竜神と角の配色が似ていた。
 いや、似ているのではない。同じなのだ。
 元々神の血が流れている神人族に関わらず、宿り主となったものは宿した神の特徴が身体に現れる場合がある。
 セーランが憂いの葬爪を発動する時、右腕に現れた腕がそうだ。セーランには右腕は無く、傀神も同じく右腕。具体的には右前足だが。それが無い。
 初めから無かったわけではない。とある事情で傀神には右腕が無いのだ。
 傀神は右腕が無いことが特徴的だ。だが特徴的なものがはなっから無い場合、それは形になり現れることはない。が、“初めから無かった”わけではない。
 結果として現れた右腕。
 奏鳴のこめかみ近くから生えた角は、竜神の特徴的部位だ。宿り主になったことで今まで不安定ゆえに透き通っていた角は、今や確かな形と色を帯びている。
 その角はまさに力の象徴。
 空気を断った政宗から放たれたのは竜神の力。奏鳴が竜神の力を外へと放出したのだ。
 力は行く先は竜神だ。現実空間に現れたために弱体化してしまった竜神に、再び力を注ぐ。
 迫る麒麟。恐れを知らぬ進撃だったが、竜神の前では愚かな行為であった。
「このくらいで充分な筈だ」
 力を吸収する竜神。
 明らかに竜神の周りだけ、異様な雰囲気に包まれた。
 威圧。
 鮮血の眼光を光らし、一回の咆哮。
 咆哮は風を呼び、竜神の周囲を荒れ狂うかの如く吹く。
 蒼天下に現れた嵐。
 嵐は一度その場で一回転を行った後、爆発的な速度で麒麟と衝突した。



 破裂した嵐。
 周囲を暴風で吹き飛ばし、同じく麒麟さえも吹き飛ばそうとした。だが麒麟は暴風に耐え、四足を名一杯使い地上に貼り付いている。
 冷たい風が吹き荒れる。
 麒麟の喉を捕らえた竜神。
 食い千切るために力を入れ、軋む音が今にも聴こえてきそうだ。
 力を強める度に苦しむように暴れる麒麟。
 遠くから見ていた央信は、
「竜神の力を竜神に還すことで強くしたということか。やはり神の血を多く持つというだけでも脅威だが、正式な宿り主ともなると格が違うな」
 だが、そうであっても。
「この力に、私は頼る他無い」
 もう一段階、央信は天魔の力を強めた。
 身体に走る模様が更に増えるのもお構い無しに、麒麟に天魔の力を注いだ。
 黒き麒麟は更なる天魔の侵食によって、もはや完全なる暴走状態へと入った。
 乱れ狂うなかで、反撃をするために現れた天魔の腕。前のように二本ではなく、倍の四本だ。
 現れるやすぐ、竜神に殴打を食らわす。
 喉に噛み付いた竜神を払うべく殴打を繰り返すが、麒麟の喉に噛み付く竜神はびくともしない。かえって喉に刺さる牙が深く、力を入れられ刺さる。
「何故だ、何故天魔の力を注いでも変わらない」
 噛み付かれ、押されている麒麟を見て央信は言う。
 天魔は堕ちた神々の集合体。
 ゆえに神一柱以上の力を持っている。なのに現状は天魔の力を注いだ流魔攻撃である麒麟が、竜神によって負かされ掛けている。
 気に食わない。
「やらなければ負けは決定的。身体が何処まで保つか分からないが、織田瓜の名に恥じぬ最後を遂げるために!」
 央信に身体に模様が走る。
 麒麟と同じだ。黒く、模様が央信を包んでいくようだ。
 異様。まさに異様だ。
 様子も、雰囲気も、思考さえも。
 分かる。少なからず天魔の力の影響だということを。
 天桜覇王会指揮官補佐・清継はそれを敏感に感じ取り、誰より先に、
「央信様! およしください!」
 止めに入った。
 戦闘艦の甲板上に立つ央信の元に、焦りの色を見せる清継が来た。後から繁真が追い付き、央信に駆け寄ろうとした清継の身体を止める。
 片腕を掴まれた清継は、自身を止めた繁真を見る。
「待て」
「何するんですか!」
「それはこっちの台詞だ」
「先輩も感じている筈です。これ以上天魔に頼れば央信様は!」
「分かっている」
「ならなんで」
 反抗意識から掴まれた腕を繁真の手から離そうとするが、がっちりと掴まれた清継の腕は離れなかった。
 ぐっと握られている腕をそのままに、冷静に繁真は答えを返した。
「遅かれ早かれ天魔を宿した瞬間、既に央信には未来は無い。後は残りの命を少しでも長く保つことが生き続ける術だ。されど央信は残りの命を削ってでもやらなければと、そう判断したのだ」
 自分達の長が自ら判断した。
 だからそれを邪魔するべきではないと、繁真は判断したのだ。例え命を賭けてでも。
 長が決めたことならば。
 四の五の言ってすぐ解ってくれる程、今の央信に時間が無いことぐらい理解出来る。
「ならば拙者達は今一度見守る他無いのだ」
 理解し、それを受け入れてしまったからこそ悔しそうに顔を落とす清継。
 言われなくとも解っていた。解ってはいたが、嫌だった。
 清継にとって央信は、初めて憧れたを抱いた存在だった。美しく優しく、未熟であるが強くあろうと努力を惜しまない。
 そんな央信に憧れていた。清継自身のこれまでの生涯ゆえに憧れた。
 力を持っていても意味が無い。如何に力を奮い、使いこなせなければ。
「……私をあまり見くびるなよ、清継」
 背後に立つ清継に対し、苦しみのなかで央信は声を掛けた。
 後輩の面倒は先輩が見るものだから。先輩は勇姿を後輩に見せるものだから。
「簡単には天魔にこの身体をくれてやるつもりはない。守るべき者達が私を……いや、織田瓜の名を頼ってくれるまでずっとな!」
 織田瓜・央信。
 彼女はただの人族だ。
 他の種族に比べたらなんの長所も無い、ましてや宿り主でも予言者でも無い。
 無能の人族の一人に過ぎない。ゆえに力を求めた。
 弱いままでは何も守れはしない。自分さえも、仲間さえも。
 央信にとって力無く、何も守れない現実に対して泣くことは最大の恥だと思っている。
 泣いていても何も変わらない。ならば少しでも力を付けるための努力に時間を使う。
 口ではない。実力によって自身の存在を大きくさせる。だが、結局は央信の弱さが天魔を求めた。
 天魔は宿せば強大な力を得る。代わりに身体が犠牲になるが。
 それでも央信は求めた。
 後悔はしていない。
 天魔を宿したことによって黄森は他地域、他国から恐れられるようになった。もしかしたら神以上の力のある天魔を相手にするとなれば、容易く戦争になり、容赦無い天魔の破壊によって国が滅ぶからだ。
 強力な抑止力となる天魔は、リスクに見合った利用価値がある。
 後はどれだけ自分が天魔に抗えるかの、一対一の真剣勝負。
 ならば抗ってみせよう。
「そのためならば腕の一本、二本くれてやる。とうに覚悟は出来ている!」
 言葉の圧が清継の胸を打つ。
 強く、鼓動を刻む心臓へと伝わる央信の意志。
 清継はそれを受け止め、まだ納得いかない部分もあるものの、自分が納得したくないだけなのだと思った。
 覇王会の長であり、地域を治める一族の者だからこその判断だ。
 身分を捨て、黄森に来た清継が口出し出来ることではなかった。
「……解りました」
 返事を聞き、
「繁真、頼んだぞ」
「了解した」
 この場から離れるようにと、素直に口では言わずに繁真に伝える。
 頷き、繁真は理解したが動こうとはしない清継を抱え、去る際の言葉は無いまま戦闘艦を後にした。
 空気を切る音が切なく聴こえ、背後に二人の気配が遠ざかっていくのを感じる央信。
「少し格好付け過ぎたか。ふ、後輩にああ言ってしまったのだ。やらなければな」
 天魔に蝕まれるなかで、央信は天魔のことではなう仲間のことを思っていた。
 守るべき者達。
 自分自身には力は無い。だから天魔に身体を売り、力を得た。
 今はこの力が自分自身の力。
 屈することはない。扱い、抗い続ければいいのだ。そうすれば限りある命も、少しは長く保つ。
 限りある命だ。大切に使わなければと思うが、現実は甘くないようだ。
「委伊達・奏鳴。如何にお前が竜神を従えようとも負ける気など一切無いぞ」
 言うと、央信の周辺の空気が一変。黒く、もやが掛かったように汚れ、瘴気に似た異質な空気が流れる。
 風に乗って運ばれ、何処か向かうかのように消えていく。
 同時。喉を喰われていた麒麟が発光する。どす黒い液を飛ばし、内部から破裂したのだ。後から来る爆音と共に竜神を吹き飛ばすが、空中で姿勢を正す竜神は無傷に近い。
 なんの真似かと皆が思う時。
 麒麟はまとっていた、黒く染まった肌を脱ぎ捨て新たな肌を露わにする。
 黒い光沢のある肌に走る無数の黄色の線。
 不気味な紫の瞳は竜神を見詰め、口から瘴気を吐き出している。
 近くにいただけで気が参りそうな。とても強い、負の瘴気だ。
「力を使い過ぎたために天魔との繋がりが強くなる。よって扱う力の質が上がる。仮説は正しかったな」
 天魔と言えど、流魔によって構成されているものの一つだ。
 繋がりが強くなった分、流魔が作用し、麒麟の形状に変化をもたらした。
 代償として央信自身の命が短くなったことは、天桜の覇王会の誰もが理解した。それは当の央信も同じだ。
 だが、これでいいのだ。
「この世は強い者が勝つ。善も悪も平等に」
 すうっと息を吸い、呼吸を整える。
 戦いが終わるまではこの身体を保たせる。でなければ、隙を疲れて負けるのは解っていた。
 今の自分には宿り主相手に戦える程の生命力は、少なからず残ってはいない。
「終わりにしよう。終止符を打つ時だ」
 そう言うと、静かに衣を剥がした麒麟が歩き出す。
 ゆっくりとした足取りだが、着実に、竜神の方へと向かって。
 地響きと共に瘴気が舞う。
 遠くからそれを見ていた奏鳴とセーランは身構え、短い会話を交わした。互いを信じ、認め合った者同士の会話だ。



 強大な竜神の力を使い、荒く呼吸を行う奏鳴の肩にそっとセーランは手を置いた。
 平気かと、心配している。だから奏鳴は返事を返した。
「初めて神の力を使ったから身体が余計に疲れただけだ、心配無い」
「あんまり無茶するな。通常だってやたらめったら神の力を使うとやばいんだ。まだ竜神の力を使いこなせていないのにこれ以上は」
 続けようとしたセーランの言葉を、奏鳴が首を横に振って止めた。
 奏鳴は振り返り、息が整わないまま。
「お願いだ、やらせてくれ」
「出来るならそうしてやりたいが」
「これは私のわがままだ。意地でもやりたい。そうしなければならない……そうじゃないと駄目なんだ」
 必至の頼みだった。それ程この戦いに意味があるということなのだろう。
 事態を招いたのは奏鳴自身にある。ゆえに決着は、自身の手で付けなければ気が済まない。
 辰ノ大花を治める一族の者が、辰ノ大花をその手で守らないとどうする。なんのための一族だ。
 奏鳴の心中はそれで一杯だった。
 自分は一人の人であると同じに、唯一辰ノ大花を治める家系に産まれた者だ。
 守ってみせる。
 与えられた分の借りは返す。
 だから今、この時をもって返すことにする。辰ノ大花を、不安な未来から守ることで。
 目と目で見つめ合う二人。
 真っ直ぐと奏鳴の瞳はセーランを見詰めていた。
「分かった」
 とセーランは一言。
「お前なら出来るもんな。よし、後もう一押しだ」
「ああ、やってみせるさ」
 心配な点はあるものの、今更言っても奏鳴は聞く耳を立てない。理解したセーランは仕方無く奏鳴を送った。
 心配し過ぎだと、奏鳴はセーランに笑みを見せてから前へ行く。
 吹き飛ばされた竜神は宙で姿勢を立て直し、奏鳴の横へと移動する。唸りを上げて、合図が出る時を今か今かと待ちわびる。
 麒麟もある程度進んだところで足を止め、合図が出るのを彼方も待っていた。
 互いのタイミングを見計らう、無言の時が訪れた。
 神と堕ち神。
 どちらが強いのか。それは分からない。
 ただ、どちらが勝とうとも。勝った側の方が意志が強いのは神であっても変わらない。
 強い意志は力を呼び起こす。
 絶体絶命な場面であっても必ず、意志は力となり逆境を覆す。
 それがこの世界での強者だ。
 弱い意志は負け続け、強き意志は勝ち続ける。
 攻める機会を伺う双方。
 正面の敵にのみ集中し、他の物事に対しての注意はさっぱり無い。
 どちらも勝つがための集中。
 沈黙の二人が動き出したのは、機会を伺ってから数秒後。あまりにも早く出た合図は双方、同じタイミングだった。
「「行け――――っ!!」」



 竜神は宙を行き、空気を裂いた。対する麒麟は地を踏み、地鳴りを起こす。
 衝突が起きたのは間も無くで、圧が掛かったように空気が爆発した。
 押しているのは竜神だ。だが、麒麟も負けているわけではない。
 力を貯めている。まさにそれだった。
 麒麟は竜神を押し返し、巨大な二本の腕を生み出す。
 二本の腕は拳を握り、竜神を連続で殴打し始めた。
 前のように弱くはない。一発ごとの間は長いものの、打ち付けた際に発せられる音から威力が高いことが分かる。
 怯む竜神を追い詰めるかのように来る拳。
 実質、三体一の状態だ。
 やられ続ける竜神ではない。辰特有の蛇に似たその巨大な身体を使い、尻尾で強烈な一撃を麒麟に浴びせた。
 顔面に一撃を受けた麒麟は咆哮し、央信の声と重なった。
「素直に殺られろおおお――!」
 腹の底から出した言葉は、遠くにいる奏鳴に確かに届いた。
 空気を圧し、言葉を飛ばしてきた。
 天魔によって生まれた一本の腕が、竜神ではなく直接奏鳴を襲う。
 セーランは動かない。行動する前に奏鳴が言葉を先に出したからだ。
「嫌だっ!」
 短い、子どものような否定。
「やっと、やっと苦しみから解放されたんだ。ここから私は新たに始まっていく。進んでいける!」
 長く苦しんだ日々。解き放たれたのだ、苦しみから。
 奏鳴はもう立ち止まらない。進んでいくと、そう決めた。
 悲しむことではなく、これからは幸福を得ることで償うと。
「だからお別れだ。亡き家族から、黄森からも――!」
「キサマアアアアアア!!」
 冷たく、奏鳴の元に迫る腕が割れた。
 腕の後方から竜神がその前足で、まるで空気を掴むように軽く粉砕したのだ。
 それに央信は驚きを隠せなかった。
 天魔によって出来た腕をいとも簡単に壊したということは、例え天魔を相手にしたとしても同じことが出来るということだ。
 つまり、今の竜神にとって天魔とは空気と同格の軽い存在でしかない。
「悪いが私は生きねばならない。生きて世界を周り、今の世界を知るために」
「幾らなんでも勝手過ぎるぞ!」
「ならば私を一方的に殺すのも勝手過ぎというものだ。どれ程の力を持っていようと、身勝手に物事を進めていいわけがない」
「調子に乗るなよ、この人殺しが」
「なんとでも言ってくれ。それで気が収まるのならな」
 劣勢に追い込まれる央信。
 天魔がこうもあっさりとやられる理由。央信本人も理解しているが、原因が自分にあるということを認めたくなかった。
 自分が弱いから、比例して天魔も弱くなる。
 それは宿り主とて同じだ。
 しかし、央信が相手にしている宿り主は神人族。神の血を受け継ぐ者だ。
 人族である央信以上に神との繋がりは強く、必然と央信よりも強くなる。
 奏鳴が竜神の正式な宿り主となった時点で既に、どちらに軍配が上がるかは決まっていた。
 決着を付けるぞ。
 この戦いに終止符を付けるため、静かに奏鳴は動いた。
 呼吸を整え、忙しく脈打つ心臓と身体の緊張を解す。
 央信の最後の抗いは、たった一回の、奏鳴が竜神に指示を出した時と同時に終わった。 
 

 
後書き
 竜神によって麒麟をぶっ倒す。
 麒麟もなかなかしぶとくて、央信ちゃんが天魔の力を使うから遂に狂ってしまいました。
 対する竜神も、奏鳴ちゃんがパワーアップし繋がりを強くし、彼女の流魔を分け与えることで現実空間でも実力を出せているよう。
 圧倒的な力を持つ双方。
 しかし、決着は付いてしまう付いてしまった!
 最後の一文がもう言っちゃってますもんね。
 これでまさかの麒麟勝っちゃうとか、色々とフラグをブレイクしていますな。
 両方とも女性であり、あれ? 男性キャラ必要無いんじゃね? 女性キャラでも充分強いんじゃね? なんて、執筆中に思ってしまっていたり……。
 女性が主役のストーリーも面白そうですよね。
 野郎ばかりが主役なんて見飽きるわボケい!
 「神葬世界×ゴスペル・デイ」の主役であるセーラン君、男性なんですけど皆さんは気にしない方向で。
 ではまた。 
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