魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅰ
†††Sideルシリオン†††
「――ということで、ペッカートゥムの話によると、ここミッドチルダだけ界律干渉の紋様を刻んでないってことだけど・・・」
「そうか。このミッドに刻んでいないのはテルミナスの目的からだな。・・・おそらく、私とシャル以外の守護神を召喚させないためだろう」
六課との戦いという悪夢が過ぎ、私は今レヴィと話をしていた。そのレヴィの隣にはルーテシアがいて、レヴィにもたれかかって眠っている。
「? どうして、ルシリオンとシャルロッテ以外が召喚されなくなるの?」
「ん? ああ。1つの界律が一度に召喚出来る守護神は三柱のみ。それ以上召喚するなら、他の界律との複数契約が必要なんだ。テルミナスの目的からして、必要なのは私とシャルだけなんだろう。だから、他の守護神が召喚されないための界律干渉ということだ、おそらく」
テルミナスに操られていたフェイトたち六課隊員は、操られていた反動で深い眠りについている。ある程度、私の干渉能力で彼女たちを回復させたが、所詮は身体的なものに過ぎない。そしてシャルは、海上隔離施設の修復、医療センターに避難させていた姉妹たちをそこに戻し、干渉能力で治療した。姉妹たちはそのまま眠りに就かせ、ギンガは六課に移して今は空き部屋に寝かせている。
そんなシャルは帰ってきてすぐに自室に籠もった。何かひとりで考えたいことでもあるんだろう。で、今起きているのは現状私とレヴィのみ。ちなみに私は、暴走直前まで行ったものの、20分程度で完全に回復した。干渉能力による回復力の高さが売りの私だ。だから早い・・・。自分ひとりだけが・・・。
「・・・すまないな、レヴィ。私とテルミナスの戦いに巻き込んでしまって」
私を再び亡失のアーミッティムスに堕すためだけにテルミナスは仕掛けてきた。何故テルミナスがそこまで私に固執するのか解らない。アーミッティムスとなっていた間、分身体の記録は残っていないからな。何故なら分身体が“絶対殲滅対象アポリュオン”に堕ちた瞬間、“神意の玉座”に在る本体との繋がりは途絶えてしまい、別の存在となっていたからだ。
「違う。それを言うならわたしもそう。わたしだって、元はペッカートゥムだったから。だからわたしも同じ謝る方。もちろんルーテシア達に対して」
そう言って、レヴィは自分の寄りかかっているルーテシアを優しく、壊れモノを扱うように撫でた。それは、実の妹にするような優しい優しい扱い。レヴィが元々は人間だと言うことは既に聞いている。そもそも、“ペッカートゥム”となる概念存在は全て元人間だという。生前、死ぬ間際に犯した罪、若しくは強く抱いた想いが、その者の罪となるらしい。レヴィは嫉妬。普通の家庭を持つ他人に嫉妬し、許されざる嫉妬レヴィヤタンになったとのことだ。
「そうか。そうだな・・・。私たちは、彼女たちに謝ることばかりだ」
ずっと黙ってきた。ずっと嘘をついてきた。ずっと彼女たちを、私たちは騙してきたんだ。
「それとルシリオン。お礼をまだ言ってなかった。ありがとう。ルシリオンがくれた生定の宝玉。アレのおかげで、わたしは今こうしてルーテシアを守ることが出来て、一緒にいられる」
ルーテシアを起こさないためだろう。レヴィは小さく頷くようなものだったが、きちんと頭を下げて礼をした。
「ああ。・・・気にするな」
「ここに居たのか、ルシル」
「・・・ルシル・・・」
「クロノ、ユーノ。もう起きてきて大丈夫なのか? 身体的なダメージはシャルがどうにかしたが、精神的にはまだ辛いだろう?」
食堂に現れたのは、私とシャルにとっての親友クロノとユーノ。テルミナスに操られ、シャルと戦い、そして・・・
(私たちが今まで隠してきた秘密を、彼女とペッカートゥムの会話から知った・・・)
シャルからそう聞いている。クロノ達に彼女がすでに死んでいることを知られたと。それをクロノ達が真に受けているかどうかは判らない。だが、もうここまで来たのなら包み隠さず話すべきだろう。
「いや。もう大丈夫だ。と言いたいところだが、ハハ、少しクラクラするよ。で、ルシル。もう僕たちに何も隠さないで話してくれるだろうか・・・?」
クロノが側にあった椅子に座り、真剣に、ただ真剣に私の目を見てそう聞いた。見ればユーノもだ。その表情は硬く、真剣さがにじみ出ている。
「・・・ああ。全て話そう。だがその前に、クロノに調べてもらいたい事がある。それとユーノ。君にも頼みたい事がある。構わないだろうか?」
テルミナスが退いたことで、隔離されていたミッドの住民は戻ってきており、管理局ももう活動している。もちろんテルミナスに操られていた間の記憶はないだろうが。動いているなら、簡単な調査くらいは出来るはずだ。
「・・・判った。その後に聞かせてくれるんだな?」
「ああ、約束しよう。我が真名に誓い」
「「真名・・・?」」
「ああ。まずは私の隠しごとを1つ明かそう。私の真名。改めて自己紹介。ルシリオン・セインテスト・アースガルドだ」
10年前、シャルとの契約メンタルリンクの儀式の際、一度だけ告げた私の真名。おそらくクロノ達は憶えていないはずだ。状況が状況だったしな。
「それが君の本当の名前ということか・・・」
「アースガルド・・・?」
「そして、今まで騙していてすまなかった」
立ち上がった私は2人に頭を下げる。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「ん・・・ぅあ・・・?」
目が覚めた。時計を見ると12時半過ぎ。2時間くらい寝てた。
「・・・まったく。もう人間の体じゃなくなっているのに、何寝てんのよ私」
確かに干渉能力の使い過ぎで潰れそうだったけど。だからと言って肉体を持たない今の私に睡眠なんてものは必要ない。
『ルシル・・・ちょっといい?』
ルシルにリンクを通して呼びかける。
『どうした?』
『うん。今どうなってる・・・?』
何を聞いているんだろう。この部屋から出れば判ることなのに。
『・・・フェイト達が起き次第、全て話すつもりだ。フェイト達もそろそろ起きてくるだろうからな』
ルシルの声、すごく判り難いけど少し重い。付き合いの深い私だからこそ分かる。私だけが・・・。
(ううん。きっと、今ならフェイトにも判るはず・・・)
もう私だけじゃない。フェイトだって、きっと判ると思う。あの子のルシルに対する想いは強い。だからこそ、私は・・・
(ルシルに、フェイトと対人契約をさせる。させてみせる)
ルシルをこの世界に残す。私もこれまでかなりの悲劇を見てきた、起こしてきた。けど、私以上の悲劇を、全ての守護神以上に体験してきたルシル。だからこそ幸せになってほしいと思ってる。自己満足のおせっかいかもしれないけど。
『そっか。それじゃ私もそろそろ行くよ。食堂でいいんだよね?』
ベッドから降りて背伸び。ダメだ。ほとんどクセになっちゃってる。
『ああ。それじゃあ待っている』
ルシルとのリンクを切り、少し乱れている髪を手櫛で直す。それから今までお世話になった部屋を見渡した。1年もいなかった場所だけど、それでも思い出のたくさん詰まった部屋。そして、今日でその部屋の私がいなくなる部屋。
「・・・うん。今までお世話になりました!」
頭を下げながらお礼を口にした。私は扉を抜けて、もう二度と帰ってくることの出来ない部屋を後にした。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「ルシル、シャル。話してくれるか?」
管理局から戻ってきたクロノが話を促してきた。この場に居る全員からの視線が私とシャルに集中する。今この場に居るのは、はやてを始めとした隊長陣とザフィーラ、スバル達フォワードとギンガ、そしてユーノとアルフ。スバル達の顔色はまだ悪いのに、どうしても話を聞きたいということでの参加だ。
ロングアーチからはリインのみ。他の隊員は、操られている間のことは何ひとつ憶えていないだろう。そのため、今もなおそれぞれの自室で眠ってもらっている。レヴィとルーテシアとアギトの3人は、海上隔離施設へと戻した。すでに機能し始めているあそこに、収容されているあの3人が居ないと問題だからだ。
『話はクロノとユーノ君から聞かせてもらったわ、ルシリオン君、シャルロッテさん』
モニター越しでのリンディさんと『私も参加させていただきますね』騎士カリムだ。リンディさんは操られていた間の記憶は無く、クロノとユーノから知った口だ。騎士カリムはさすがと言うべきか。操作を受けてから、そう時間を経たずに意識を取り戻したらしい。だから憶えている。
「判りました。まず、クロノ。私が頼んだ事の報告をしてもらっていいか?」
「・・・ああ。君に言われた通りに調べたよ。第97管理外世界・地球。その世界において、ルシルとシャル――いや、フライハイト家そのものの痕跡が何一つとして残っていなかった」
やはりそうだろうな。もう二度と戻ることのない世界だ。本契約も始まったことだし、偽りの設定情報や家族なんてものは用済みとして削除されたんだ。おそらくすずかやアリサ達の記憶からも、私とシャルの事だけ綺麗さっぱり抜けているだろう。今朝、6月にまた逢おうと約束しておいて、もう逢うこともなく、憶えてもらってさえいない。仕方がないとはいえ少し、いや、結構寂しいものだな。
「え? ちょっと待ってクロノ君。痕跡がない? それってつまり・・・え?」
「ちょ、は? それってどういうことなん?」
なのはとはやてが混乱したまま、クロノに問いかけた。クロノが一度私を見て、私は先を話すようにと頷くことで促す。
「地球に、シャルとルシルの戸籍が無かった。フライハイト家という家族も無かったし、フライハイト家の家も無く、そこには別の建物があった。つまり地球の海鳴市には始めからいなかったことになっているんだよ。シャルとルシルは」
再び私たちに視線が集まる。スバル達は話について来れないのか不思議そうな顔をしているが、昔からの付き合いであるフェイト達は顔を青くしている。
『どういうことか教えてくれるかしら?』
「・・・ええ。まずはそうですね・・・。これだけは先に言っておきます」
この場に居る全員をしっかりと一人ひとりを見ていく。そして最後にシャルを見る。シャルは少し泣きそうだったが、すぐに覚悟を決めた表情に変わった。
「私とシャルは・・・人間ではありません」
静かだった食堂が、さらに静かになる錯覚を得た。この静寂を破るために、続きを口にしようとしたとき、「に、人間じゃ・・・ない・・・?」先に静寂を破った声。その声の主に今度は視線が集まる。
「・・・そうだフェイト。私とシャルは人間じゃない。ずっと黙って隠してきたが、私たちはずっと昔に死んでいる人間なんだよ」
さらに嘘を吐いた。シャルは確かにすでに亡くなった存在だが、私はまだ生きている。しかし死んでいると言っても過言ではない以上、死んだと口にする方がいい。
「え? うそ・・・ですよね? 死んでいる人間って・・・。だって・・・だって、今生きているじゃないですか・・・」
「そ、そうですよ。シャルさんとルシルさんは生きてます。だって、触った時温かかった。死んでいるなら・・・死んで・・・」
エリオとスバルが震えた声でそう言ってくれる。
「・・・フェイト達は見ているから判るな? それにクロノ達も」
私の身体が砕かれていた様を実際に見たフェイト達。シャルもそう。クロノ達にその身体を砕かれている。だから私たちが普通ではないことは判っているはずだ。しかし誰も答えない。ただ表情を硬くして、俯いてしまっている。
『どういうことなのか教えていただいても・・・?』
「・・・はい。見ていてください」
騎士カリムに答え、私は干渉能力で作りだした剣の刃を右腕に当て、一気に引いて右腕を斬った。その光景に目を逸らす子はいない。いや、突然の事に逸らすことが出来なかったと見るべきか。で、右腕につけた斬り口からの出血はなく、虹色の光の粒子が漏れているだけだ。そしてすぐに何事も無かったように元通りに修復された。
「――と言うことです。この体は人の持つような肉体ではないです。ついさっきまでは確かに肉体を持っていましたが・・・。リンディさん、騎士カリム。お判りいただけたでしょうか・・・?」
そう聞くと、2人は声には出さずに頷くことで答えた。
「私とシャルはもうこの世には存在しない死者。だが、何故こうしてみんなの前に存在しているのか。それが私とシャルの正体となる」
青褪め強張った表情が変わらないみんなに、再度死んでいると告げる。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「なのは、ユーノ、クロノ、リンディさん。憶えているかな? ジュエルシード事件が終わって、アースラで私が話した事」
今度は私が説明するために、あの場にいたなのは達に聞いてみた。すると、なのは達はやっぱり憶えていないのか首を横に振った。
「あはは。うん、そうだよね。それじゃあもう1回。界律と呼ばれるモノの説明ね」
そう言うとユーノが「あっ」と言って顔を上げた。さすがユーノ。こういう事に関しての記憶力は抜群だ。
「ユーノは憶えているんだね。それじゃああの時、私が何て言ったか言えるかな?」
「・・・うん。確か、その星そのものとされている世界の意思のことだよね。自分自身である世界の秩序を管理するもので、すべてがそこから生まれて、そして還っていく永久機関。過去、現在、未来の全ての情報があるともされる知識の蔵であり、それぞれの星に必ず存在する究極にして絶対たる力の根本、と聞いたと思う」
そこまでハッキリ憶えてるって、やっぱすごいよ、ユーノ。
「僕も思い出した。君たち魔術師は、その界律によってその力の強弱が決定される、と」
「そう。けどその説明で私は1つ嘘を吐いた。魔術師にそんなことは起こり得ない。何故なら魔術師なんてものはもう存在しないから。確かに私とルシルは界律によって力の強弱を決定される。だけど、それは魔術師じゃなく、私たちが界律の守護神、テスタメントと呼ばれる存在だから」
「「「「「「「テスタメント・・・?」」」」」」」
「テスタメントって・・・。確かアスモデウスがシャルを指してそう言っていたような・・・」
「うん。そうだよ、フェイト。よく憶えていたね」
スカリエッティのアジトで、アスモデウスが私に向かって言っていた。
「君たちがその・・・界律の守護神テスタメントという存在なのは判った。で、守護神と言うからには君たちは世界の意思を守る・・・」
クロノがまとめに入ろうとしている。本当に解っているのかどうかは別としてだけど。
「そうだ。私とシャルは、世界の意思である界律の意思の代行者だ。世界自身の滅亡などを防ぐために、その滅亡の原因を取り除く守護者。それが私とシャルの正体、界律の守護神テスタメントだ。早い話が触れることの出来る幽霊だと思ってくれていい」
ルシルの説明を聞いたみんなが幽霊と呟いて、私とルシルを見る。その表情は恐怖とかじゃなくて、やっぱり戸惑いとか混乱とかだ。
『シャルロッテさん、ルシリオン君。あなた達は世界の滅びを回避するための存在、ということでいいのよね・・・?』
「「はい」」
『なら、私たちを操ったという・・・テルミナス、だったかしら? アレは、あなた達や私たち人間にとって、一体どういう存在なのか教えてくれる?』
リンディさんからは、受け入れて納得しようっていう気概がある。騎士カリムもそう。クロノも。ユーノも。だけど、なのは達はそうじゃなさそう。受け入れたくないっていうのがハッキリ伝わってくる。
「私たちテスタメントは、テルミナスを絶対殲滅対象アポリュオンと呼んでいます。アイツら自身は、霊長の審判者ユースティティアと名乗っていますが・・・」
「絶対殲滅対象? 必ず滅ぼさないといけない連中ということなのか・・・?」
「うん。みんなも、アイツと会って理解できたと思う。頭じゃなくて本能として、テルミナスはまずい存在だって」
私がそう言うと、みんなは一斉に小さく頷いた。
「アイツらの目的のそのほとんどが人類の淘汰。人類に関わる全てに対しての滅びを運んでくる破滅の使者。だから私たち守護神は、アイツらを何が何でも斃さないといけない」
テルミナスの今回の目的は何なのかルシルから聞いた。まさかルシルを再度“アポリュオン”にするために、私たちをなのは達と出会わせたなんて・・・。信じたくないけど、アイツが嘘を言うはずがないし、嘘を吐く意味も無い。それにしても、ルシルになのは達を殺させることで、ルシルを堕そうだなんて・・・。
(とことんムカつく奴らだ)
「今まで黙っていてすまなかったと思う。しかし、実際に説明しても意味はなかったんだ」
ルシルがみんなに頭を下げた。私も騙していたことを謝ろうと思って、頭を下げようとした時・・・
「どうして・・・? どうして意味がないって言えるの? 確かに、突然こんなことを言われても信じなかったかもしれない。だけど、だけど・・・」
「なのは・・・」
なのはが立ち上がって、俯きながらそう言う。でもルシルの言う通り。たとえ教えたとしても信じてもらえることは出来なかった。
「なのは。君は、魔術、神秘、半年前で言えばペッカートゥムについて、何故大して疑問を抱かなかったと思う?」
「え?」
ルシルにそう言われて、なのはが考え込む。正直なのはにはあまり意味のない質問だ。こういう場合、聞くなら・・・
「クロノ、リンディさん。あなた達はどうして疑問を抱かなかった?」
そう、当時からすでに魔法に関わっていた管理局の人だ。クロノとリンディさんも考え込む。ユーノもまた1人で唸り始めた。
「いきなり魔術師だとか、界律だとか、そう聞かされて疑問を抱かなかったのは何故? 普通なら疑問を抱き、すぐにでも私とシャルの調査などが出来たはず。事の真相を知るために。なのに、何故あなた達は私たちの話を鵜呑みして、何も調査せずに受け入れた?」
「「それは・・・」」
答えられるわけがない。リンディさん達は、おかしな事ばかりな私たちを全面的に信じて受け入れた。
「界律が、私とシャルと関わる人たち全ての魂に干渉したんだ。テスタメントたる私とシャルを疑問に思わず受け入れろ、と。だが今はもうそんな事はなくなった。だからこそ、今の私たちに疑問を抱ける」
そう。“テスタメント”を呼んだ世界は、常に“テスタメント”に都合がいいように他に干渉する。だから、私たちがその正体を早い段階で告げたところで、なのは達は理解できない。“界律”から魂へと直接そう刻まれてしまっていたんだから。疑問を抱くなって。みんなの何度目かの息を飲む気配。
「だからね、なのは。私とルシルは言わなかった。言ったとしても、なのは達は理解できなかったから。界律によって理解できないようにされていたから」
「シャルちゃん・・・」
椅子に座り直して、ただ呆然とするなのは。いつか語る時が来るかもしれないってことは覚悟していた。だけど、いざその時が来たら、やっぱり辛い。すごく・・・辛いよ・・・。
「ごめんね。本当にごめんなさい。謝ったところで、許されるなんて思ってない。ずっと騙してきたんだから。今までずっと嘘を吐いていてごめんなさい」
私は頭を下げて謝った。
「これが私とシャルの真実だ。界律の守護神テスタメント。人間ではなく、すでに生を終え、世界と人類を護るためだけの虚構の存在」
私たちが話すべき事は全て話した。何一つとして音がしなくなった食堂。みんなは必死に受け入れようとしてくれている。それを見ているのが私には辛すぎた。本当は受け入れてほしくない。つまらない冗談だね、ってそう笑い飛ばしてほしい。
「ルシルさんとシャルさんは・・・本当にもう亡くなっている方なんですか?」
「そうだよ、キャロ。もうずっとずっと昔に死んでいるんだ」
「そう・・・ですか・・・」
そう答えると、キャロから嗚咽が零れ始めた。ごめんね。ごめんねキャロ。
「なぁ。元が人なら、何でお前らその、テスタメントっていうのになったんだ?」
今の今までただ話を聞いていたヴィータがそう聞いてきた。私たちが“テスタメント”になった理由、か。
「それなら、これから話そう。ユーノ、頼んでおいたものを」
(え? ルシルは始めから話すつもりだったの・・・?)
ルシルはユーノを呼んで、私たちの始まりを語ろうとし始めた。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
ヴィータのような疑問が出てくると思っていた。だからこそ、ユーノに頼んでおいた。今まで騙してきたことへの償いとして、聞かれたことに対して隠さずに全て答えるために。
「・・・どうしてルシルが、僕にあんな事を頼んだのか判らなかった。だけど頼まれたコレを読んで、ようやく理解できたよ」
ユーノが手にするのは分厚く、そして古びた3冊の書物。私が頼んでおいたものだ。
「君とシャルは、この再誕神話に登場するある英雄と全く同じなんだ」
私たちの中央にあるテーブルの上に、ドスンと重い音をさせながら置かれた書物。タイトルは再誕神話。私とシャルが参加していた大戦が神格化され、伝えられてきた書物だ。私が無限書庫でコレを見つけた時、本当に驚いた。まさかこんな形であの大戦が語られているとは、と。
しかも読んでみてさらに驚愕。私を含めた“アンスール“と“戦天使ヴァルキリー”、シャルを含めた“星騎士シュテルン・リッター”と“特務十二将”と“A.M.T.I.S.”などの実名がガッツリ載っているのだ。その上それぞれの特徴まで書かれていた。私の場合は銀の長髪、真紅と瑠璃の虹彩異色、黒衣、蒼翼などなど。ここまで詳細に残されていると、逆に恥ずかしくなった。
「再誕神話・・・?」
「なんだそれは?」
シャマルとシグナムの疑問も尤もだ。再誕神話を知る者はほとんどいない。それほどまでに古く、公には出されることが少ないものだからだ。
「かつてこの次元世界において、6千年以上も前に起きたとされる大きな戦争の事だ」
そう説明すると、スバル達が「6千年」と、信じられないといった表情で呟いていた。確かに6千年前と言われても信じられないだろうな。何せ古代ベルカと呼ばれる時代でさえ、今からたった数百年前の話だ。その何倍ともある昔の話。創作物でさえそこまで昔なことは書かないだろう。
『私も随分と昔ですが、その再誕神話を読んだことがあります。神の住まう世界アースガルドに在る神々と、その神に愛された英雄たち。悪魔にそそのかされ、英雄たちに戦いを挑んだ魔物と蛮勇たちの戦い。その果ての世界の滅亡、そして再生。即ち再誕が記されたお話です』
そういう風に記されていたな、確かに。あながち間違いとも言えないが。
「その再誕神話に出てくる英雄が、ルシルさん達と何か関係があるんですか・・・?」
「それを今から話そう。私とシャルがどうしてテスタメントになったのかを」
1冊目の書物のページを開きつつ、私とシャルの記憶をこの場に居る全員に見せるための術式・・・
「呼び覚ます、汝の普遍」
エモニエルを発動する。言葉で語るより実際に見てもらった方がいいと判断したからだ。全員の意識が再誕神話の書物へと移るのを確認。ゆっくりと崩れ落ちる彼女たちの身体を干渉で支え、優しく横にする。
「そう。あれは私が16の時。ヴィーグリーズの大地に雪の降る、それは冷えた日のことだった・・・」
私の意識もまた書籍へと移した。私とシャルの始まりと終わり。そして、次元世界というものが誕生したその刻を語る為に。
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