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問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ?

作者:Neverleave
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Mission6・① ~鬼の森~

 
前書き
みなさんこんにちは、Neverleaveです。
十話を突破したというのに全然話が進んでへんでおまんがな。いったいどうしたものだろう。
なんとか先の方を書いていきたいものだが、それでも物語はカタツムリのように遅く進行しかしてくれなくて全くやんなっちゃう。
『なげーよ』と皆さんから投げられないことを祈るばかり……がんばるよ、僕。

愚痴を吐いちまってすいません。では細心話……じゃなくて最新話をどうぞ! 

 
 ――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリペット通り・噴水広場前。
 飛鳥、耀、ジン、ダンテ、そして黒ウサギと十六夜と三毛猫は〝フォレス・ガロ〟のコミュニティの居住区を訪れる道中、〝六本傷〟の旗が掲げられたカフェテラスで声をかけられた。

「あー! 昨日のお客さん! もしや今から決闘ですか!?」
『ニャーオ』

 ウェイトレスの猫娘が近寄ってきて、飛鳥達に一礼する。

「ボスからもエールを頼まれました! ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです! この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの! 二度と不義理な真似ができないようにしてやってください!」
「おいおい、女の子にここまで言わせるたァ感心できないね。こりゃあますます、あの猫ちゃんにキツイ躾けをしてやらなきゃならなくなってきたな」

 ブンブンと両手を振りながら応援する鉤尻尾の猫娘。
 その様子や言葉からも、本人がどれだけこちらを支援してくれているのがよく伝わってくる。
 その可愛らしさからダンテは微笑しながら憎まれ口を叩き、一方で飛鳥も苦笑しながらも強く頷いて返した。

「あなたの言う通りね。ええ、こっちだってそのつもりよ」
「おお! 心強い御返事だ!」

 満面の笑みで返す猫娘。だがしかし、何をふと思ったのか急にその笑みを引っ込めると、周囲を見回した後に声を潜めてヒソヒソと呟き始めた。

「実は皆さんにお話があります。〝フォレス・ガロ〟の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」
「居住区画で、ですか?」

 その言葉に真っ先に反応したのは、やはりこの世界のことに一番詳しい黒ウサギ。
 初めて聞くその言葉に飛鳥は小首を傾げる。

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」
「ギフトゲームを行うための専用区画でございますよ」

 彼女の簡単な説明曰く、舞台区画とはコミュニティが保有するギフトゲームを行うための土地だ。
 白夜叉のように、別次元にゲーム盤を用意することができる者は極めて少なく、下層になると尚更それはレアケースとなる。こういった土地によるゲームが主流なのだそうだ。
 他にも商業や娯楽施設を置く自由区画。
 寝食や菜園・飼育などをする居住区画など、一つの外門にも莫大な数と種類の区画があるらしい。

「しかも! 傘下に置いてあるコミュニティや同士を全部ほっぽり出してですよ!」
「…………それは確かにおかしな話ね」

 しかし知れば知るほど、相手側は奇妙なことを仕掛けてきたのがわかる。
 ゲーム専用の土地があるというのにわざわざ自分たちの住処を使ってゲームをする必要などない。さっきも言ったようにそこは本来、寝食を行うための場所であって、もしゲームで損壊などが出ればなかなかの痛手となるはずだ。
 それに、味方を全員そこから放り出したというのもおかしなものである。
 前回の衝突で、こちらがまだ少女と青年ながら相当の実力を持った者達であるということを、相手は理解したはずだ。
 質で勝てぬのなら数で、という行動に出るかと思いきや、その味方を全員退去させてしまっては意味がない。
 いったい何がしたいのやら。というように飛鳥達は顔を見合わせ首をひねる。

「…………なんだこりゃ」

 そのとき。
 スンッ、と。鼻をならしたダンテが訝しげに顔をゆがませると、忌々しそうに吐き捨てた。
 一同はダンテに注目すると、まず十六夜がダンテに訊ねかける。

「どうかしたかダンテ?」

 だが訊ねられたダンテは沈黙したまま、ますます不愉快そうに眉をひそめて遠方に視線を向ける。
 そして重い口を開くと、

「くっせぇ」

 いきなり、罵倒の言葉を漏らした。

「はぁ?」
「え、ええ!? わ、わたし昨日お風呂入りましたよ!?」

 十六夜を始め皆はダンテの言葉に戸惑い、猫娘は何を勘違いしたのかおかしなことを口走る。
 今までも何度か、ダンテが相手をからかいながら品の無い言葉で嘲ることはあった。
しかし今回は違う。その声の裏に含まれた、悪意がハッキリと浮彫りになって表れていて、その表情に軽薄な笑みはない。
 心の底から憎悪を抱き、それを吐き出しているのだ。

「ちげぇよお嬢ちゃん……だがどっからか……クソみてぇな匂いがする」
「……そんな匂い、する?」

 悪臭のような、嗅覚に訴えるものがあると考えてか、同じく鋭い嗅覚をもつに至っている耀が周囲の匂いを嗅いだ。
 しかし彼女は何の違和感も抱かなかった。
それは当然だ。わかるはずもない。
 彼が感知しているのは、もっと別のもの。
 影の世界で血みどろの惨劇を繰り広げてきた、闇の匂いがこびりついた生き物たちの存在――

「ああ、するね。こんなとことはもっと別の場所からやってきた、心の底から何もかもが腐りきったクソ野郎どもの匂いがな」
「……それって……」
「おい、まさか……」

 黒ウサギと十六夜はハッとして、ダンテの言わんとしていることを知る。
 彼をここまでイラつかせている存在。そしてその存在が示す、吐き気を催すような事実に。

「猫耳のお嬢ちゃん。連中のコミュニティの居住区画ってのはどこにあんだ? 方角だけ示してくれればいい、どこらへんにある?」
「え? えーと方角なら……あっち、ですかね」

 ダンテの質問の意味を理解しかねながらも、猫娘は彼の言われた通りに〝フォレス・ガロ〟の居住区画があるであろう場所を指し示した。
 その方向を見た途端、悪い予感が全て的中したかのようにダンテは苦々しい表情を浮かべ舌打ちする。

「ダンテ……」
「もしかして、〝フォレス・ガロ〟は……」

 二人に続いて飛鳥と耀も事態の重大さを理解したらしい。
 少女二人の問いかけに対し、ダンテはしばらくの間沈黙していたがやがて、

「もう躾けじゃ足りねぇ。〝狩る〟必要があるな、こりゃ」

 とだけ答えた。
 その返答に、その場にいたメンバー全員が凍り付く。
 猫娘だけはいったい彼が何のことを言っているのかわからないという表情を浮かべている。〝ノーネーム〟の全員が醸し出す重い空気を察知して、余計に戸惑いを隠せずにいるようだ。

「う、うーん。なんだかよくわかりませんけど、頑張ってくださいね!」
「……おう。ありがとな、勝った後はまたここでストロベリーサンデーもらうから、来た時すぐ出せるようにしてくれよ?」

 猫娘の送るエールに笑顔で応えるダンテ。
 ずっと厳しい顔色だったダンテが表情を和らげてくれたことを喜んでか、猫娘は耳をピコピコと動かして飛び跳ねた。
が、ふと何かが気になったようでダンテに訊ねかける。

「ところで銀髪のカッコイイお兄さん、どうしたんですか? あのとき着ていたド派手な赤いコートは。すごく似合ってたのに……」

 残念そうに唸る猫娘。
 そう、ダンテは昨日の夜から同じ格好のままなのだ。
 トレードマークであったはずの赤いコートは、黒ウサギが今日までに修繕すると宣言していたはずなのに、ダンテはまだ上半身裸の上から黒いスーツを着ている。
 これもこれでカッコイイが、やはり派手さがない。
 しょんぼり、というように耳を垂れさせる猫娘だったが、ダンテは何でもなさそうに返答する。

「ああ、そいつならちゃんと入ってるさ。俺のギフトカードのとこにな」

 トントン、と黒いスーツの胸元を拳で叩き存在を示すダンテ。
 黒ウサギは昨日言った通り、たった一晩でコートを修繕してくれていたのである。

「え? ならなんで今着ないんですか? イメチェンかなにかですか?」

 が、それを聞いた猫娘は首をかしげた。
 もうとっくに直っているのならば、それを収めている必要などない。
 気分で服装を替えているのだろうかとも思ったが、それにしても少々縁起が悪いしあまり似合わない。
 猫娘からの問いかけにダンテは苦笑いすると、頬を掻きながら応える。

「ん~……まぁ、ゲームの初めに気合いれるため、かね」
「?」

 なんともよくわからない回答だけを残して、そのままダンテ達は〝六本傷〟の喫茶店を後にした。







「あ、皆さん! 見えてきました…………けど、」

 黒ウサギは一瞬、目を疑った。それは他のメンバーも同じだったらしい。
 それもそうだろう。誰だって、森のように豹変してしまった居住区を見てしまえば驚愕するに決まっている。
 辺り一面に鬱葱と生い茂った木々が並び、美しい造形だったであろう門にはツタが絡みついている。
 それらを見回して、耀はつぶやく。

「…………。ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだからな。おかしくはないだろ」
「いや、おかしいです。〝フォレス・ガロ〟のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず…………それにこの木々はまさか」

 ジンはそっと木々に手を伸ばす。
 その木々はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じさせた。

(まるで魔界だな……いや、それみたいではあるが魔界じゃねぇ。もっと別のものが関与して変貌しちまったってとこか)

 ダンテもこれに似たようなものを今までに見たことがあった。
 人界においても、魔界と繋がりかけている場所では瘴気が立ち込め、その場にあった建造物や生き物が影響を受けてしまうことが多々ある。
 しかし目の前にある場所は、確かに異形のものへとその姿形を変えてしまっているが、魔界が関与してこうなったのではない。悪魔の世界特有の禍々しさを感じられないし、そうであるというのならば……二重の意味で、この近くにいる人間が生きていけない。
 一つはもちろんそこに悪魔が出現するからだが、もう一つはその空気である。魔界の瘴気は、人間が吸っただけで即死するものなのだ。
 だが目の前にまでやってきているダンテ達……特に身体は人間のそれと変わらない飛鳥が何ともないのならば、魔界ではないのは確かだ。

「やっぱり――――〝鬼化〟してる? いや、まさか」
「ジン君。ここに〝契約書類(ギアスロール)〟が張ってあるわよ」

 ジンが何かを話しかけたときに、飛鳥が門柱に張られた羊皮紙を発見して声をあげた。
 その言葉を聞いて、一同が〝契約書類(ギアスロール)〟に注目する。


『ギフトゲーム名 〝ハンティング〟

 ・プレイヤー名一覧 久遠 飛鳥
           春日部 耀
           ジン=ラッセル
           ダンテ

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。
 ・クリア方法 ホストが指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は〝契約(ギアス)〟によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。
 ・敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
 ・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。
〝フォレス・ガロ〟印』


「ガルドの身をクリア条件に…………指定武具で打倒!?」
「なるほど、考えてきましたね」

 〝契約書類(ギアスロール)〟に書かれた内容を確認すると、ジンは悲鳴のような声をあげ、黒ウサギは感嘆としたように頷く。
 飛鳥はそれを見て気にかかったのか、二人に質問を投げかけた。

「このゲームのクリア条件、難しいものがあるのかしら?」
「いえ、ゲームそのものは単純なのですが、飛鳥さんの指摘するようにルールが問題なのです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つけることも出来ないことになります…………!」

 ジンの言葉を受けた飛鳥は、険しい顔で黒ウサギに問う。

「…………どういうこと?」
「〝恩恵(ギフト)〟ではなく、〝契約(ギアス)〟によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません……彼は自分の命をクリア条件に組み込むことで、御二人の力を克服したのです」
「すいません、僕の落ち度でした。初めに〝契約書類(ギアスロール)〟を作ったときにルールもその場で決めておけばよかったのに…………!」

 ルールを決めるのが〝主催者(ホスト)〟である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為に等しい。ギフトゲームに参加したことがないジンは、ルールが白紙のゲームに参加することが如何に愚かなことかわかっていなかったのだ。
 これはこちらにとって大きな痛手。クリアするのに大きな障害となることは確実――だとジンは思ったのだが。

「なんで私と耀だけなのかしら」
「…………理解不能」
「え、なに? 俺は何もなしか?」

「……えっ」


 ジン以外の誰も。何も感じなかったのである。
 むしろゲームに参加する者は皆、不服そうに〝契約書類(ギアスロール)〟を眺めていた。

「どういうことよ。なんでダンテには何も制限がないの、腹立たしいわ」
「断固拒否。ルールの改定を求む」
「おいおいおいおい、マジで俺は何もなしかよ。つまんねぇ、これだけか!? ふざけんな、エンターテイナーとしても三流なのかよあのデカブツ!」
「あっちもーちょいルールに書き加えてもよかったんじゃね? ナメてんのか?」
「いや、たぶんダンテさんのことを何も想定に……少なくとも武器を制限するくらいしか頭になかったんじゃないですか?」

 飛鳥、耀、ダンテ、十六夜の四人はルールを指定した向こう側に罵詈雑言をふっかけ、黒ウサギが敵側のはずなのにそれを擁護するという奇妙な構造ができてしまった。
 それについていけないのは……ルールの問題を指摘した、リーダーたるジンだけである。

「あのー……皆さん。なんでそんなに、その……全然焦ってないというか、余裕なんです?」

 恐る恐る、というように訊ねかけるジン。
 彼の疑問に皆が首をかしげたが、やがて「「「「あっ」」」」と全員が理解した。
 そういえば、彼だけだ。あの白夜叉とのゲームの場で、彼の実力を目の当たりにしなかったのは。

「いや、確かに私たちに制約をかけられてはいるんだけど……肝心のこの男だけ、ルールに束縛されてないのよね」
「…………ご立腹」
「あのなぁ。こっちだって最初はハンデがあると思ったんだぜ? なのに蓋を開けてみればこんなのしかねぇ、むしろ俺だって腹が立つっての。つまんねぇ」
「いや、つまんないって……ダンテさん、このルールに従うなら、あなたの剣と銃も使えないってことになるんですが……」

 そう。ダンテの相棒である魔剣『リベリオン』と二丁大型拳銃『エボニー&アイボリー』も、封印されてはいるのだ。
 ……一応、だが。

「大剣、拳銃、散弾銃、対戦車ライフル、マシンガン、ロケットランチャー、籠手、(サムライソード)、ヌンチャク、ギター、バイク……とりあえず今んとこ使ったことがある武器だが、異存あるか?」
「はい?」

 ちなみにどれもこれもが普通の武器からかけ離れた強力な魔具、もしくは並の人間が扱えなくなるほどの改造を受けたものばかりである。ヌンチャクは三つも棍がついているし、バイクは排気ガスだけで雑魚悪魔が焼死する魔改造兵器、刀に至っては空間すら切断可能の妖刀である。

 ……武器じゃないものまで混じってる気がするが気にしてはいけない。

「え、あの……」
「これじゃ間違いなくダンテが主体だな。トドメも全部ダンテに持ってかれるんじゃねーの?」
「いいえ、まだそうと決まったわけじゃないわ。ダンテが使ったことのない武具が指定されてるかもしれないじゃない、ナイフとか」
「……いや、もしかしたら武器と呼べる代物じゃないかも」

 二人が悔しげにダンテを横目で見ながら言い張るが……彼女たちは知らないのだ。彼らの一族が持つ、スパーダ直伝の家訓を。
 まぁそのことは置いておくとして、今使っているリベリオンやエボニー&アイボリーは確かに愛着もあり一番使いやすいものでもあるが、それだけしか扱えないようでは悪魔狩人(デビルハンター)失格だ。

 つまり何が言いたいのかというと――どんなものだろうとダンテが持てば立派な武器、もとい兇器に早変わりするのである。
 ゲームに参加したことがなく未熟者であるジンは最初から除き、そこから飛鳥と耀が封印されたのであれば……残るのはダンテだけ。
 飛鳥や耀でもなんとかできたかもしれないが、彼が自由であるのならこんな遊びは楽勝で終わらせてしまうことができるだろう。
 ――ただ一つのことだけを考慮から除けば、だが。

「敵は命がけで五分に……持ち込んだつもりだったんだろうなぁ。飛鳥と耀だけなら面白かったんだが、こりゃすぐ終わるか?」
「……いえ、気は抜けないわ。だってこのゲームに参加するのは、たぶんガルドだけじゃないもの……ねぇ、ダンテ?」

 そう――悪魔、あるいは魔の眷属の存在を除けば。

「ああ。疑いようもないな、匂いは間違いなくここから漏れてる。にしてもくっせーな、誰か消臭剤持ってきてくれないもんかね?」
「今度から香水を自分につけてくればいいんじゃないかしら?」
「自己責任ってか? ったく、自分らの悪臭くらい自分で処理してほしいんだがな」

 ダンテも断言している。間違いなく奴らはここにいると思っていいだろう。
 ハッキリ言って最大の障害となり得るのはこちらの方だ。
 ルール無用の外道たち。いったいどこからどうやって四人に襲い掛かってくるかもわからぬ連中。数で圧倒するか、もしくは強力な個体がここにやってきている可能性もある。
 この居住区の変貌ぶりから、ガルド本人にも何かしらの変化があるのだろうが……それでもこっちが脅威なのである。
 そして彼らに対して対処ができるのは――またこれも少女たちにしてみれば腹立たしいことこのうえないのだが――ここにいる銀髪の大男しかいないのだ。

 ゲームにしても、そこにある障害物にしても、結果的にどちらもダンテが大いに活躍する舞台が出来上がってしまっているというわけである。
 これは同じ参加者である飛鳥や耀が憤慨しても仕方がないだろう。

「あいつらに対しては、たぶん指定武具じゃなくてもいいはずだ。ガルド=ガスパーの〝討伐〟がクリア条件、そして指定の武具のみで〝討伐可能〟と書いてるから、保護対象はガルドだけのはずだからな」
「そうね。遭遇したら早々に舞台から退場してもらいましょう」
「いいねぇお嬢ちゃん。やる気まんまんってとこだな」
「そうです。ダンテさんはもとより、御二人のギフトは強力ですから魔の眷属相手でも十分に通用します。それに武具だって『指定』されているのだから、ゲームの舞台のどこかにヒントがあります。必ず見つけられるはずです! この黒ウサギがいるかぎり、不正なんてさせませんとも!」
「黒ウサギもこう言ってくれてるし、私も頑張る」
「…………ええ、そうね。あのどこまでも腐りきった外道のプライドを粉砕してやりましょう」

 愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギと、先ほどの落胆ぶりから立ち直って今まで以上の意気込みを見せる飛鳥と耀。
 元々これは、彼女たちがあいつらに売った喧嘩。全員があの外道に憤慨したからには、全員で制裁を加えてやらねば気が済まないというもの。
 ダンテ一人に何もかも任せるつもりなど、毛頭ない。どれだけ分の悪いルールだろうと、そんなものは意にも介してやるものか。

 それぞれが己を奮起させる中、ダンテはこっそりとジンに話しかける。

「ジン。そういうこった、肩の力抜けよ」
「えっ。あ……はい。わかってます」

 突然声をかけられたジンは驚愕するも、何とか返事だけは返す。
 しかしどうにも緊張しすぎているようでいけない。
 確かに十六夜たちを召喚した翌日に自らがゲームに参戦、しかもそれが初めての参加などということになれば緊張もしてしまうというものだろう。
 ましてやそれに魔の眷属が暗躍することになるとなれば尚更だ。
 だがそのようなゲームの条件とは違うどこかで、ジンは目の前の遊戯に気を張っているようだった。

 ダンテが『暇』という史上最強の敵を激闘を繰り広げていた昨晩、実はジンは〝ノーネーム〟に侵入してきた部外者と十六夜とのやり取りに立ち会っていたのだ。
 そこで行われた会話というものは、もはや無茶苦茶などという言葉で片付けられたものではない。
なんと十六夜は、『打倒魔王とその関係者』を〝ノーネーム〟の目標として掲げ、さらにその顔役として仕立て上げたのである。
 確かに〝ノーネーム〟、しかも旗印もない自分たちのようなコミュニティでは、もはやリーダーの名前くらいしか売り込むことができるものはなにもない。
 こうしてジンを旗印の代わりとして、次々と活躍の場を公衆の面前で見せることさえできれば信頼を勝ち取ることができる。
 そしてそのままそれを続けていけば……彼らはもしかすれば、新たな同士を引き入れることができるかもしれない。確かに、理論的ではある。

 だが同時に、あまりにも無謀な策だった。このような目標を掲げてしまえば魔王たちに注目されてしまうのは当然。
 今の力のない〝ノーネーム〟のままでこんなことをすれば自殺行為でしかないからだ。
 多くの不安要素が渦巻く中、覚悟する暇もなにもなく実行されたそれにジンはただ頭を痛めるしかなかった。
 しかもこれは、最初のこのゲームで勝利を収めることができなければ成功しない。
 まさに、運命の分かれ目ともいえる大勝負だ。どれくらい大事かというと、これで勝てなかったら十六夜が『俺、このコミュニティから抜けるわ』などと言うくらいである。
 そんなものが目前に控えているのであれば、ガチガチに緊張してしまうのも仕方のないことだった。

「……ッ」

 思わず唾を飲みこみ、汗を流すジン。
 余裕など全くない幼い男の子の姿を見て、ダンテはため息を吐きながら、


「……十六夜との約束なら、そんなに気にする必要なんてねーぞ?」
「!!」


 ボソリ、と。
 ちょっととんでもないことをさらっと言ってのけた。
 それはかなり衝撃的なことだったらしく、ジンは魔人の方へと振り向いて目を見開く。一方でダンテはその反応を楽しげに眺めてもう一言付け足した。

「な……どう……!?」
「わりぃな。でもあんだけ大声で騒いでんだ、そりゃ聞こえちまうってもんだろ?」

 声を出そうとしても、口をパクパクと動かすことしかできないジン。
 そんな彼を見ても、ダンテは悪びれもしない。我に非はあらず、と言いたげな態度だ。
 いったいどこで自分たちの話を聞いていたのだろうか。混乱してしまったジンにそれを知るすべはない。

「固くなり過ぎだな、もうちょい肩の力抜けよ。じゃなきゃ楽しめるもんも楽しめねぇぜ」
「そ、そう言われても……なにぶん、僕はあなた達のように戦う力があるわけでも、ギフトゲームの経験も実践の経験も豊富というわけではないので……」
「初めてだから、ってか? それならもっと大いに楽しまなきゃな。人生ってのはなんでもかんでも、最初が肝心なんだから」

 他人事だと思ってなのか、それとも彼なりに真面目にアドバイスでもしているつもりなのか。ダンテはジンにそう言葉をかけた。
 そして。


「これからテメェに教えてやるよ、一生忘れることができねぇような、とびきり刺激的なお遊戯ってヤツをな」


 まるでその表情は子供を慈しむ父親のように。それでいて、これから行われるであろう最高にオモシロオカシイ遊びに興奮する子供のように。
 ダンテは口を大きく横に広げて、満面の笑みを見せつけた。

「ダンテ。そろそろ行きましょう」

 と、そこで居住区の門の方へ目を向けてみれば、そこにはダンテとジンがこちらへと来るのを待っているお嬢様たちの姿が。
 ジンは慌てた様子でそこに駆け寄り、ダンテもそれに続く。

「オッケー、でも気合ってもんをまだ入れられてないんだ。ちょいとだけ待ってくれるかい?」
「あら、これからいったい何をしようっていうのかしら? ゲームが上手くいくよう神様にお祈りでもするつもり?」
「十字の切り方、ちゃんとわかるの?」
「神様にお祈り? ちゃんと訊いてもらえたらいいんだが、あいにく半分悪魔じゃねぇ」

 彼の発言を聞いて飛鳥と耀が茶化すようにしゃべりかけてくるが、ダンテはニヤリと笑いながら懐からあるものを取り出す。
 それは、血よりも深い赤で縁取られた、一枚の真紅のカード。
 彼が白夜叉から受け取った、彼の持つギフトカードだった。
ダンテは右手に高々とそれを掲げると、辺り一面に眩い光が放たれる。

「?」

 いったい本当に何をするつもりだろうか? 光の眩しさに目を細めそんな疑問を抱きながら、飛鳥たちはダンテの行動を見守った。
 やがて光が収まったとき、ダンテの手元にあったものはカードではなかった。
 それは、色こそカードと全く同じ……しかし、彼のトレードマークであり象徴たる真紅のコート。
 あの一晩のうちに空いた、ありとあらゆる穴が痕も残らずなくなっているのを見て満足げに笑うダンテ。
 そして。

「――――It begins(始めるか)」

 ボソリと呟いた次の瞬間。
 ダンテは背負っていた自らの相棒たち――魔剣・リベリオンと、銃身ごとエボニー&アイボリーを収めるホルスターを空高く投げ放った。
 着ていた黒のスーツをダイナミックに脱ぎ捨てると、その手に持っていた真紅のコートを翻して踊る。
 バサッバサッ! と何度も大きく空気を叩きながらコートは主人を中心に回り、そのまま勢いよく羽織られた。
 瞬きをする暇もなく、上から白と黒の拳銃を収めたホルスターが舞い降りて装着され、ダンテが先ほどのように右手を高くあげたとき――――

 ガシン! と。巨大な大剣が、魔人のその手に握られる。
 そのまま魔剣は振り下ろされ、鋭く空気を切り裂くと、鈍く重い金属音が鳴り響く。
 何度も木霊を繰り返し、異形で静寂な森はその音に包まれた。

「「「「………………」」」」
「Smokin’!! (カッケー!)」

 ……ここまでの時間、約十数秒。
 そのごくごく短い時間で行われたパフォーマンスを目の当たりにして、十六夜とダンテを除く全員が口をポカンと開けて棒立ちすることとなった。
 一方、それを実行した本人はというと、

「っし、気合入った。んじゃ、行くか」

 などとほざきながら、立ち尽くしている他のメンバーを置いて一人居住区の中へと先に入っていった。







「……おや兄者。誰か来たようだぞ」

 ただ一人……いや、一匹(、、)を除いて、誰もいなくなった屋敷の中で、不自然な声が響く。
 それは確かに声だったが、まるでラジオか通信機から聞こえてくる音のようにノイズがかかっていた。
 しかもそれは淡々としていて、そこに人間らしい感情の色というものが全く見受けられない。合成音声と言われれば、それこそ納得してしまいそうなほどに、だ。
 だが、それは全く持って奇妙なことだった。
 この屋敷に機械などない。声を出すような装置を持つものなど、何もありはしないのだ。
 ましてや、きちんと言葉をしゃべることができる者も、ここにはもういない。
 いるのはたった一匹の、牙を剥き出しにして血肉を求める獣だけだ。

「グルルルルルルルル……」

 唸り声をあげ、その一室に佇む虎のような獣。
 それは威嚇の声ではあったが、しかしどこかに怯えているかのようだ。
 実際に、ガルド=ガスパーだったその獣は恐怖していた。だが、何に恐怖しているというのか。
 それは全くわからない。姿も見えない。気配もしない。匂いも嗅ぎ取れない。
 そこに一切の存在を認識するものがないというのに、ただ声だけが聞こえてくる。
 それもどこからか、というものではなく。直接頭の中に響くように、だ。

「ほう、客か?」
「うむ、おそらく確実に客だ」
「おそらく確実に?」
「おそらく確実に」

 聞こえてくるのは、大抵がバカバカしく思えてくるようなくだらない内容だ。
 ずっとこんなものを聞かされていると、うんざりしてどこか音のない場所に行きたくなるような、知性の感じられぬものばかり。

「少し待て弟よ。言葉がおかしい」
「おかしい? どこがおかしい?」
「おそらく確実に、とは言わぬ」
「では何というのだ兄者?」
「どちらかしか言わぬのだ、弟よ」
「ほう。なら、『どちらか』客だ」
「そういう意味ではないぞ弟よ」

 いつまでも、平坦で感情のない二つの声。
 だがそれは、ガルドを恐怖させるには十分なものだった。
 ガルドは知らない。ただ声を聞くだけで、こんなにも自分を恐れさせる闇の存在を。
 一言一言聞くたびに、彼の中にある原始的な恐怖が掘り起こされ、彼の心は大きく揺さぶられていく。
 彼は感じていた。
 そいつらと自分の間にある、圧倒的な力の差を。
 自分がシマウマなら、こいつらは虎だ。
 こちらは逃げることしかできず、一度つかまってしまえばもう助からない。
 その研ぎ澄まされた爪で己の肉は引き裂かれ。己の牙で己の喉に噛みつかれ。生きながら自分の血肉は貪られることとなるだろう。
 その虎の姿が見えなくとも。その爪と牙を見なくとも。ただの声だけで、それが確信できるのだ。

「『どちらか』ではない。『おそらく』か『確実に』か。どちらか片方だけを言うのだ」
「なぜだ兄者?」
「おそらく、と確実に、を同時に言っては、意味が食い違ってしまうだろう?」
「ふむ。では兄者、この場合どちらが正しいのだ?」
「ううむ、わからん」
「ほう。『わからんが』客だ、が正しいのか」
「いや、それはまた違うぞ弟よ」

 そんな得体の知れないものが、自分のすぐ近くにいるのだ。
 畏怖せずにはいられない。恐怖せずにはいられない。
 今すぐにでも逃げたいのに、どこへ行ってもこいつらはついてくる。
 逃げられない。もう、自分は捕まってしまったのだ。

「グルルルルルルル……!!」

 いつだ?
 いつ、こいつらは襲い掛かってくる?
 いつ自分は己の身を引き裂かれるのだ?
 いつ自分の喉に牙が食い込まれるのだ?
 いつ、自分は喰われるのだ?
 いつ、いつ、いつ、いつ?

「また違うのか? いったいなんと言えばいいというのだ兄者」
「それはまた確実性によるぞ弟よ。確信をもって言えるなら確実に、曖昧ならばおそらく、だ」
「確信? 曖昧? なんだそれは?」
「確信や曖昧というものは――」

 怖い。
 怖くて、怖くてたまらない。
 こんなにもくだらない会話しかしない、たった二つの存在が。
 はるか昔、森の中で燃え盛る炎を見た時よりも深い恐怖を自分に与えてくる。
 音のなくなった、森の中で。
 何時でもどこでも聞こえてくるこの声が。
 己の耳へ、頭へ、脳へ、心へ、魂へと伝わり――その全てを掻き毟る。

「GEEEEYAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 己の背後に忍び寄った姿なき影に、ガルドは怯えるしかない。
 永遠に感じられる時間と、体験したことのない深い闇は徐々に徐々に……彼の心を蝕んでいった。 
 

 
後書き
ぬううう。戦闘か、もしくは開始のとこまで持っていきたかったが長さ的に無理でした(;´・ω・)
この一戦だけでどれだけ長くなることやら……『ゼロの奇妙な腹心』のフーケ戦みたいになりそうでチョー不安である。

さぁて、ここでさっそく出てきたあの悪魔。
いったいダンテ達にどのような激戦を繰り広げてくれるのか?
そしてこいつらの会話、こんなんで大丈夫か?

次回をお楽しみにー(`・ω・´) 
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