不老不死の暴君
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第三十七・五話 暗殺劇
少し時間を遡り、
アルケイディア帝国本国領帝都アルケイディスにて
皇帝宮の廊下を歩いている人物が2人。
一人は親衛軍に所属している親衛円卓艦隊指揮官ラナード卿。
そしてもう一人は第1局ジャッジマスター・エイジスである。
親衛軍は皇帝直属の近衛兵団で、規模は小さいが忠誠心の高い者達で編成されており、ジャッジに監督されていない唯一の軍である。
西方総軍に所属する艦隊に次いで最新の戦闘機で構成されている。
一応、司令官は皇帝ということになっているが殆ど親衛円卓艦隊指揮官が親衛軍を統制している。
第1局は帝都の上流階級―――いわゆる政民達を裁くのが主な任務である。
またエイジスは第1局局長のほかに第1艦隊の指揮官も務めている。
彼らは謁見の間に入るとグラミスに向かって頭を下げた。
そしてグラミスから今回の企みについて2人は聞かされた
「陛下。本気でございますか?」
「ああ。もう決めた事だ」
「確かにそれを成せば元老院の一派を排除できるでしょうが・・・」
「ラナード卿。既に君命は下されたのですぞ」
「貴様!!このようなことがまかりとおってよいと思っておるのか!?」
「思ってはおりませんがロザリアの侵攻が迫るこの時に内輪もめをしている場合ではない」
「それとこれとは話は別だ!!第一陛下は―――ッ!!」
そこまで言うとラナード卿はグラミスの方に顔を向けた。
「そういう、ことなのですか?」
「既に死病に侵されてる身だ。なに今一度祖国の為に血を流すだけではないか」
「・・・」
ラナード卿はグラミスの言葉を聞いて黙りこんだ。
それを見てエイジスはグラミスに話しかける。
「陛下。暗殺の実行犯の捕縛は私達にお任せください。共犯者達の捕縛は私の方から第2局に要請しましょう」
「頼むぞ」
そう言ってグラミスは机の上に置いてあったワインをグラスに注いだ。
そしてそのワインが入ったグラスを3人に配る。
「陛下に40年仕えてきた私にとって今回の企みは本当はやめてほしいのが本音ですがもう何を言っても無駄でしょうな」
「すまんな、ラナード。共にお前達と戦場を駆け回った日々が懐かしいわ」
「・・・私も本当はお止めしたいのですがなにより国の為です。致し方ありません」
「そんな泣き顔で言われても説得力がないぞ? エイジス」
からかうような声でグラミスはそう言い、グラスを掲げる。
その様子を見て戦友達も持っているグラスを掲げる。
それはかつて戦場に赴く際に3人でしていたことだった。
「では今一度戦場に向かうとしよう」
「陛下。私もお供したいですぞ」
「おいおい、ラナードまで逝ってしまったら誰が親衛軍を纏めるんだ?」
「最後くらい大目に見んか。この若造が」
「ははッ、久しぶりに若造なんて言われたよ」
「かわらんなお前らは」
そこで会話は途切れ、暫くしてグラミスが叫ぶ。
「アルケイディア、万歳!!」
「「アルケイディア、万歳!!」」
そう叫び乾杯すると彼らは一気にグラスの中のワインを飲み干し、床に叩きつけた。
その後、二人は何も言わず謁見の間から退室した。
そして翌朝にグラミス皇帝が暗殺されたと言う報告が親衛軍司令部に届いた。
ジャッジ・ガブラスは謁見の間の方に向かって歩いていた。
グラミス皇帝暗殺の報を聞き、ヴェインが帝都にいるジャッジマスター達に召集をかけたのだ。
「何故我等が陛下を手にかけねばならん・・・」
「おのれ、謀ったな・・・このままではすまさんぞっ!!」
元老院議員達が怨嗟の声を漏らしながら帝国兵に連行されているのをガブラスは横目で見ながら謁見の間に入った。
そこにはグラミス皇帝と元老院のグレゴロス議長の死体そしてヴェインと兜を外した4人のジャッジマスターがいた。
「元老院の犯行ですと―――!?」
ドレイスがエイジスを睨みつけ、問いかける。
「ああ、犯人はグレゴロス議長。警備についていた親衛軍の兵士によると陛下に毒をもったことを認め、潔く自決したようだ。そしてラナード卿から私の方に連絡が入り現場に急行した」
「それで第1局から元老院議員を全て捕らえるよう我が第2局に要請があってな。取調べの結果元老院議員の大半が共犯者だ」
「よってただちに議会権限を停止。私が臨時独裁官として事態の収拾にあたる」
「たわごとを―――!私が真の反逆者を見抜けんと思うか!?」
ドレイスはそう言ってヴェインを睨みつける。
今回の暗殺はあまりにも不可解な点が多すぎる。
まず元老院がグラミスを暗殺する理由がなさすぎる。
元々グラミスは死病に犯されており、老い先短い命だったのだ。
既に第8艦隊の件でヴェインを失脚させる算段があるのにそんな手段を取る理由が無い。
グレゴロスはどうしようも無い奴だが伊達に元老院議長の地位を守り続けている訳ではない。
それくらいのことは分からなければそもそも政民でいられるかどうかも怪しい。
だから口封じにヴェインによって殺されてしまったのだろうが。
更にヴェインが臨時独裁官に就任・・・これで疑うなという方が無理な話だ。
臨時独裁官。元老院議員そして皇帝ですら政民と新民による公正な選挙で決めるアルケイディア帝国において有事の際に何らかの理由で元老院や皇帝が機能しなくなった場合公安総局から一時的に国家元首を任命するという法律がある。
要するに一時的ではあるがヴェインが帝国のトップとして君臨することになったのだ。
「言葉が過ぎるぞドレイス!」
「ザルガバース!卿までもが茶番を演じるのか!?」
ザルガバースはグラミス派ではないがヴェイン派でもない。
派閥に属さず、君主よりも国家に忠を尽くすタイプの中立派である。
ある意味一番法の番人としてふさわしい人物である。
ドレイスもそのことについてザルガバースを評価していたので彼を睨みつけ、問いかける。
一方ザルガバースも今回の件がヴェインの仕業であると薄々感づいている。
だが、これ以上混乱を長引かせるの得策ではないと考えていた。
何故なら・・・
「―――ロザリアの侵攻が迫る今はヴェイン殿の力が必要だ」
「チッ!」
ドレイスは盛大に舌打ちし、顔を背ける。
その様子を見てヴェインはグラミスの死体を見ながらはっきり聞こえる声で呟く。
「ソリドール家も私とラーサーを残すのみとなった」
「まさかラーサー様をも―――」
この男ならやりかねない。
11年前に自らの兄2人をその手で殺し、そして自らの父を死に追いやった男だ。
己の障害になるなら目の前の男は容赦なく自らの弟に手をかけるだろう。
ドレイスはそこまで考えると剣を抜き、ヴェインに向けた。
「ヴェイン・ソリドール!法の番人たるジャッジマスターとして貴殿を拘禁させていただく」
そう言ってドレイスはヴェインを睨みつけた。
だが、後ろから殺気を感じドレイスは軽く首を曲げて後ろを見る。
ベルガの剣が自分の首下にあった。
「ヴェイン閣下を独裁官に指名したのは法を司る公安総局だ。わかるか、ドレイス? 閣下に剣を向けた瞬間。お前は法に背いた」
「貴様も茶番の共演か―――!」
ドレイスはゆっくり剣を下ろし、ベルガに横なぎに斬りかかった。
が、ベルガの左手で剣の刃の部分を掴まれ止められた。
ありえない。剣で防がれたというならまだ分かるが素手で・・・
ドレイスが現状を受け入れるのに苦労している間にベルガは左手でドレイス剣を払い、顔を鷲づかみにし、反対方向に放り投げた。
「この―――力は―――」
ドレイスは放り投げられ全身が痛み、朦朧とする頭で思う。
さっきのは人間の力ではない。
「ザルガバース。アレキサンダーを与える。ベルガをともなってラーサーを連れ戻せ」
「はぁっ」
ザルガバースはヴェインの命に頭を下げ、謁見の間から出て行こうとした。
すると入り口の方から声が聞こえた。
「閣下。ラーサー殿の保護は私が」
「私を監視しなくていいのか? あれこれと探りを入れてグラミス陛下に報告していたそうだが」
「それは―――」
ヴェインの皮肉にガブラスは言葉を詰まらせた。
「卿は陛下の犬だった。いまさら飼い主を変えるつもりなら―――そうだな。ジャッジマスターの職務を全うしてみせろ」
ガブラスはヴェインの言葉の裏に隠された意味に気づき、倒れているドレイスの方を見た。
「法に背いた者を裁け」
「閣下。それはあまりに!」
「そうです。それに第13局に続き、第4局までジャッジマスターの地位が空位になるのもどうかと」
ヴェインの命にザルガバースとエイジスが諫言する。
だが2人の諫言はヴェインに黙殺された。
ガブラスは床に落ちていたドレイスの剣を取り、ドレイスの胸元に剣を向ける。
だが、共にラーサーを守ると誓い合った仲。
ガブラスの中に迷いが生じる。
「かまわん―――やれ―――」
ドレイスの弱々しい声を聞き、ガブラスはドレイスの顔を見る。
荒々しい息をしながらドレイスはガブラスに話しかける。
「生き延びて―――ラーサー様を、守って―――」
暫くガブラスは黙り込んだ後、呟いた。
「―――すまん」
「頼む―――」
ドレイスの返答を聞き、ガブラスは一気にドレイスの心臓を貫いた。
ドレイスは僅かに悲鳴をあげた後、絶命した。
その一部始終を見終ったヴェインは死んだグラミスの手を取り、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「すべてはソリドールのために―――」
後書き
FF12の実況とかみて思うけどなんでヴェインがグラミスを暗殺したと勘違いしてる人多いんだ?
グラミスが服毒自殺して元老院議長に罪を擦りつけたのが真相なのに・・・
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