不老不死の暴君
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第三十七話 夢見の賢者
前書き
注意:アルシドが若干壊れてます。
神都ブルオミシェイスの神殿はキルティア教会の記録によると今から1800年程前に造られたらしい。
本当に1800年前からあったのかどうか知らないが少なくとも約700年前にセアがこの地に来た時には既にあった。
ブルオミシェイス自体が神殿と言っても過言ではない荘厳な建造物であり、キルティア教会の要職についている者達の住居と礼拝堂で出来ている。
そしてその神殿をぐるりと囲むように避難民達のテントで溢れている。
そんな神殿の入口に入ったセア達はキルティア教徒たちに歓迎された。
なぜこの時に来ることが分かったのかと聞いたところ大僧正が貴方達が来られるのを悟ったかららしい。
そう言ってキルティア教徒達はセア達を光明の間に案内した。
光明の間の奥でキルティア教会のトップ大僧正アナスタシスが瞑想をしていた。
大僧正アナスタシスは色々と逸話の多い人物だ。
まず彼はヘルガス族という長命な少数種族で現在184歳。
因みにヒュム換算すると120~130歳だという。
不老で700歳越えしているセア程では無いにしろかなり異常だ。
さらに僧兵団に所属していた頃にたった一人でパラミナ大峡谷でファーヴニルという邪竜を単騎で討ち取ったと言う。
しかもその竜は円月輪が外れていた邪竜というのだ。
キルティア教の神話では天地創造の際に神が地上に12人(一説には13人)を地上に遣わしたという。
だがその地上には使者達が来るより前に邪竜達が地上を支配し使者達と戦った。
邪竜の力は強く、ある竜は竜巻であらゆる物を吹き飛ばし、ある竜は業火で森を焼き尽くし、
ある竜は地を割り生命を奈落に突き落とし、ある竜は水を操り地上を水で覆った。
その邪竜達の所業をみかねた光の神・善神ファーラムは邪竜達と戦い円月輪を嵌め、その凶暴な力を封じた。
竜に輪を嵌める話は他の宗教の神話やガリフ族の口伝にも似たような話があるので円月輪が邪竜の力を封じてるのは真実だとされている。
そんな邪竜をたった一人で倒せるというのだからアナスタシスの全盛期の力は凄まじいものなのだったのだろう。
更に胡散臭い話だがアナスタシスは神の声を聞いたことがあるというのだ。
そんな逸話の多いアナスタシスの瞑想している姿は神秘的な雰囲気を纏っている。
「寝てないか?」
しかし空気の読めないヴァン君は小声でそう言ってしまった。
全員がヴァンを注意しようとすると
『(なに、眠っておるようなものよ)』
直接脳内に響くように声が聞こえた。
アナスタシスは相変わらず瞑想したままで口も動いていない。
しかしその声が目の前の者からのものだと何故かわかった。
これがアナスタシスが【夢見の賢者】と呼ばれる所以である。
『(夢をみておる。夢幻と現世は表裏の一重を成すものゆえに。夢は真まことを映す鏡よ)』
「アナスタシス猊下げいか。私は―――」
『(語らずともよい)』
アーシェの言葉を遮り、アナスタシスは続ける。
『(ラミナスの娘アーシェ。そなたの夢をみておった。【暁の断片】を手にするそなたこそダルマスカの王統を継ぐ者。王国再興を願うそなたの夢、私にも伝わっておる)』
「それでは大僧正猊下。アーシェ殿下の王位継承は―――」
アナスタシスの言葉を聞いてラーサーがアーシェの即位の話を始めようとする。
しかし入り口の方から聞こえた大声によってそれは遮られた。
「おおっと、そいつはあきらめてもらえませんかね」
そういった男はグラサンをかけた遊び人っぽい姿で後ろに美女を侍らせていた。
その男をみたセアは僅かに驚いた顔をした。
が、その男はセアに気づかずラーサーに話しかける。
「よお、皇帝候補殿。呼び出されてやったぞ」
そう言われてラーサーは右手を差し出したがその男は握り返さずラーサーの頭をなでた。
するとラーサーは鬱陶しそうに左手でなでる手を払いのけた。
そしてラーサーはアーシェの方に振り向いて話しかける。
「彼に会わせたかったんですよ。この人。これでもロザリア帝国を治めるマルガラス家の方なんです」
「山ほどいるうちのひとりですがね。私だけじゃ戦争を止められないんで、ラーサーに協力を仰いだってわけで」
そう言うとマルガラス家の男はかっこよくグラサンを外して隣に侍らせていた美女にグラサンを渡した。
「アルシド・マルガラスと申します。アーシェ殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
そう言ってアルシドは跪き、アーシェの左手の甲に接吻した。
王族の手の甲に忠誠ある貴族や騎士が接吻するのは別にありえない話ではないが・・・
間違っても初対面の王族にやるようなことでは決して無い。
「ダルマスカの砂漠には美しい花が咲くものですな」
その様子にアーシェは困惑し、ラーサーはため息をついた。
だが、まだまだこのカオスな状況は終わらない。
セアがいきなりアルシドの後頭部に向かって飛び蹴りを繰り出した。
しかしアルシドも諜報部を統括してるだけあってそれを華麗に回避したが、回避した方向に飛んできた鞘が脇腹に直撃した。
「よお、久しぶりだなアルシド。大体20年ぶりかな? 俺のこと覚えてる? クライスだよ?」
物凄く低い声でそう言ってセアはアルシドに微笑む。
微笑んでいるのだが目が笑っていない上に目が冷たく光ってる。
「ク、クライスさん」
アルシドが2つの意味で驚き、そして絶望した。
2つの意味で驚くというのは【なんで老けてないんだ!?】と【何でこんなところにいるんだ!?】である。
そして絶望した理由はクライスさんの声が物凄く低いときは酷い事をしてくるのをアルシドは経験上知っている。
「ええっと、セアさんはアルシドさんと知り合いなんですか?」
「ああ、20年位前にちょっとロザリア帝国で働いてたときがあってね。その時に知り合ったんだよ」
ラーサーの質問に答えた後、セアは無表情になってアルシドを睨みつけた。
「さーて覚悟は出来てるかな? アルシド君」
アルシドは既に今日の晩飯はなにかな~?と現実逃避を試みていた。
だがその試みは空しくセアの鉄拳によって実行不可能となった。
アルシドがセアによって半殺し(途中で美女が妨害してきたがセアによって気絶させられた)されて10分後。
セアの魔法でアルシドが回復したのを見計らってアナスタシスが会話を再開する。
『(アルケイディアにはラーサー。ロザリアにはアルシド。彼らは戦の夢を見ておらぬ。両帝国が手を取り合えば新しいイヴァリースがひらかれよう)』
「それこそ夢物語ですな。現実には戦争が起こりかけてる」
「私を招いたのも、大戦を防ぐためと聞いておりましたが、私が王位を継いでダルマスカの復活を宣言し、帝国との友好を訴え解放軍を思いとどまらせる―――と。なのに今になって、あきらめろとは?」
アーシェの疑問にアルシドは頷いて説明を始める。
「姫のお言葉があれば解放軍は動けず、我がロザリアも宣戦布告の大義名分を失う―――そういう狙いでしたがね。流れが変わっちまいまして。2年前、お亡くなりあそばされたはずのあなたが、実は生きていたなんて話が出るとかえって事態が悪化する状況でしてね」
「私に力がないからですか」
「いやいや、あなたのせいじゃありませんよ」
「ではなぜ!?」
アルシドのアーシェに対する返答にラーサーが疑問を呈する。
「アーシェさんから友好の呼びかけがあれば―――僕が皇帝陛下を説得します。陛下が平和的解決を決断すれば―――」
「グラミス皇帝は亡くなった。暗殺されたんだ」
一瞬ラーサーはアルシドの言葉が理解できず呆然とする。
そして理解してしまうと弱々しい声で一言だけ呟いた。
「父上が!?」
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