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銀河英雄伝説 アンドロイド達が見た魔術師

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名探偵ヤン艦長の推理 人形師のお宝を探せ その二

 シヴァ星系はイゼルローンとフェザーン星系を繋ぐ星系のひとつで、主要航路から外れた辺境星系の一つでもある。
 安定した恒星を持ち、いくつかの居住可能惑星を有しているのだが、辺境部の為に開発は進んでいない。
 表向きの人口は50万人だが、海賊等の正規市民登録をしていない人口まで入れると200万を超えるのではと言われている。
 その圧倒的不正期住民の数は、帝国からの亡命者によって占められており、そのほとんどが海賊およびそれに関わっている産業によって生計を立てている。
 元々、同盟は海賊についての対応が甘い。
 それは、同盟の建国史が帝国の弾圧からの逃亡である長征一万光年から始まっているのもあるし、海賊が不法行為を行いこそすれその内部が民主的運営によって決められていたというのも大きい。
 海賊たちは海賊になる前は帝国貴族の船長や雇い主などから低賃金重労働で酷使されていたから、その反動から権力者に警戒していたというのもある。
 そんな海賊たちを建国したばかりの同盟は快く歓迎したのである。
 シヴァ星系はそんな海賊たちの楽園だった。
 戦局が同盟有利に進んでいても、帝国艦船を襲う限りにおいては同盟も見てみぬふり。
 それがフェザーン船舶を襲う場合でも、帝国領でのフェザーン船ならば、フェザーンの抗議によって形ばかりの捜査を行っておしまい。
 海賊達も同盟の船を襲って同盟を本気にさせるならばと、傭兵として帝国に出稼ぎに出た方が安全という訳で。
 そんななあなあの関係が変わったのが、先の帝国内戦である。
 主だった海賊が傭兵として帝国に出向いて帰ってこなかった結果、新しい海賊がリッテンハイム候側の将兵によって占められてしまい同盟側とのチャンネルが一時的に途絶してしまっていた。
 そして、イゼルローン回廊に要塞が鎮座して帝国側への出稼ぎもできなくなり、更に看過できなかったものが、ヤンの作戦説明によって艦橋の人間に明らかにされる。

「どうもこの星系にサイオキシン麻薬の工場があるらしい。
 同盟捜査局が掴んだ確かなネタだ。
 海賊の取り締まりと同時に、この麻薬製造工場を抑えるのが今回の作戦の最大の目的となる」

 その取締りでは帝国と同盟が手を組んだと言われるきわめて悪質な合成麻薬の名前が出て艦橋のスタッフ達は皆一様に気を引き締める。
 副長のパトリチェフ中佐がヤンの言葉を受けて、モニターを捜査して作戦のデータを映し出してゆく。

「同盟捜査局からの説明だと、最近のシヴァ星系出身者および帰化・亡命者の中でサイオキシン麻薬の中毒者が他星系より突出していたそうだ。
 彼らはサイオキシン麻薬製造工場がこの星系にあると疑っているらしい。
 で、同盟軍諜報部はこの新しい海賊達のスポンサーに目をつけた。
 兵と船は帝国から流れてきたで説明がつく。
 が、それらを海賊として動かすための燃料や食料などの物資をシヴァ星系から大量発注した痕跡が見つかって、今回の合同捜査という流れとなった訳だ」

 もちろん背後にはフェザーンを隠れ蓑にした地球教がいるのだが、帝国内戦でのダメージを回復する為にルビンスキーの手を離れて暴走したというのが真相だったりする。
 それを、730年マフィアの時から警戒し監視し続けていた同盟が見逃す訳が無かった。

「シヴァ星系のコロニー及びステーション配置図を出してくれ。
 その中で、サイオキシン麻薬製造ができそうな大型コロニー及びステーションをピックアップ」

 緑髪の副官によって操作されたモニター内に光る点は三百近く。
 それら全てが候補という訳だ。

「今回は捜査という事で、同盟捜査局及びシヴァ星系政府との合同作戦だ。
 捜査そのものは同盟捜査局特別警備隊と同盟軍陸戦隊が行う。
 われわれが警戒するのは、宇宙船を使った海賊の逃亡阻止と先ほどの緊急伝にあった帝国からの介入だ」

 なお、海賊とずぶずぶであろうシヴァ星系政府の中も大掃除するのだろうとヤンはあたりをつけているのだが、それを口にするつもりはない。
 国家は綺麗ごとばかりで運営されているばかりではないとはいえ、こうも暗部の深遠を見てしまうと深遠に取り込まれてしまいそうで気がめいるからだ。

「先の警報によって既に第九艦隊は即応体制に入っており、第二分艦隊が48時間後にはワープアウトする予定です」

「え?二分が真っ先に出張ってくるの?」

 緑髪の副官の声に航海長のアルテナ少佐が思わず声を漏らす。
 同盟宇宙艦隊は定数12000隻で四個分艦隊で構成される。
 第一分艦隊は艦隊司令長官の直卒の為後方に控え、艦隊中央部にて敵と殴りあうのは第二分艦隊となる。
 その為、どの艦隊でも第二分艦隊は主力艦と精鋭を集めており、第二分艦隊所属の艦艇は同盟宇宙艦隊の中でも一目置かれているのだった。
 なお、この二の数字だが、第二分艦隊第二戦隊が文字通り艦隊中央最前線に配置されるので『2-2組』。
 第一艦隊が首都防衛及び総予備の扱いになっているので、帝国軍と戦線でぶつかる最初のナンバーである第二艦隊第二分艦隊第二戦隊の数字をアルファベットに直した『ZZZ』等は帝国にもその名前を轟かしていたりする。
 話がそれたが、第二分艦隊が増援として真っ先にかけつけるというのは、それだけの危険度があると艦隊司令部が判断している証拠である。  

「まぁ、ミューゼル提督相手に同数で戦いたくはないね。
 ここ最近の帝国のポイントゲッターを相手にするのだから、用心するに越した事はないさ。
 艦船の配置図をモニターに映してくれ」

 ヤンの所属する第四分艦隊第四戦隊は星系内部にて海賊船の相手をする事になっている。
 ヤン及び、艦橋スタッフの視線がとある一点に注がれるのを誰が責める事ができようか。
 惑星アルジェナ。
 ヤンがため息をついて緑色の副官に声をかけた。

「惑星アルジェナのデータを出してくれ」

「地表の九割が荒野という惑星で、赤道上にあるアルジェナシティーがこの星唯一の都市です。
 人口はおよそ十五万。
 この星の主要産業は資源開発で、マーキュリー資源開発がシヴァ政府から委託されて大規模資源開発プラントを運営しています。
 アルジェナシティーは、マーキュリー資源開発アルジェナ鉱山の城下町です。
 資源搬出の必要性から、中規模の宇宙港を備えており、マーキュリー資源開発が所有しています」 

「なんでこんな辺境の田舎星にマーキュリー資源開発なんて大企業が進出しているんだ?」

 アッテンボロー戦術長がぼやくが、それに緑髪の副官はあっさりと答える。

「会社側からの説明を信じるならば、シスターズの悲願。
 テラフォーミング事業のモデルケースの一つだとか」

 もちろん、誰一人として、今はこの説明を信じる者はいなかったのだけど。
 ついきっき、セントルシアの実体化モデルが放った一言のせいで。



 種を明かすとあっさりとしたものだった。

「パスワードの解除条件は?」

「いくつかの条件があります。
 まず、ネットワークに繋がっている事。
 私達アンドロイドは基本スタンドアローンで動いているので、同期の際にしかネットワークに繋がりません。
 今回、常時ネットワークと接続しているセントルシアの実体化モデルがいた事でこの条件をクリアしました」

 以外にこの条件をクリアするのが難しい。
 たとえば、アンドロイドにこれを尋ねてもそもそもアクセスルートが繋がっていないのだからそこではじかれるという訳だ。
 多くの探索者はここでまず躓いていた。

「次にネットワークにアクセスできる権限を有している事。
 もちろん、不正規アクセスはここではじかれます。
 アクセス権限はBで、艦長レベルでアクセスできるようになっていました」

 アンドロイドを奪ってのハッキングという手段も無かった訳ではないが、それをするには国家規模の施設がいる。
 人形師の財宝はちゃんと同盟政府下の監視下にあったという訳だ。
 何しろ、辺境部振興政策とリンクしていたのだから、考えれば同盟政府が人形師の財宝を黙認したのも頷けるというもの。
 これも、セントルシアの実体化モデルによってクリアしていた。

「次に座標があげられます。
 このパスワードのアクセスはシヴァ星系以外では全て拒否する設定になっていました」

 ここまで来るとパス解除ができる条件が大幅に絞られてくる。
 辺境星系のシヴァ星系でこの手の解除ができるとなると、警備艦隊の艦船や軍および政府施設になってくるだろう。
 それでもまだ該当ポイントが四桁ぐらいあったりするのだから困る。
 で、どどめの一つ。
 これが最後までこの財宝を守っていた訳だ。

「で、最後の条件がさっきの言葉です。
 このパスワードは質問者と解答者と確認者が必要になります。
 『財宝が何処にあるか?』『はい。それをお教えする事はできません』『歌姫計画--Project DIVA--』このやり取りをネットワークに繋がっている確認者が確認できる事が条件です」

「……ナーサティアってのはそこに絡んでくるのか……」

「もう少し説明をこちらにもしてくださいよ。艦長」

 ヤンの納得したつぶやきに、やり取りを聞いていた戦術長のアッテンボロー少佐が口を挟む。
 立ち居地は、きっと探偵の助手あたりと当人自覚しているからこその発言だったり。

「ナーサティアは双子の神様だったんだよ。
 それも、両方見分けのつかない。
 君に話を振った時に、セントルシアの実体化モデルが居た。
 こりゃ、たしかに鍵を開けるのは難儀な訳だ」

 アンドロイドが複数配備されている艦船は巡洋艦等の大型艦船になり、彼女達とて常時同期している訳ではない。
 むしろ、スタンドアローンで動くことを前提にしているので、同期以外は基本ネットワークにアクセスしていないのだ。
 上位アクセスができるアンドロイドが二体用意できる時点で大幅にその対象者が絞られる。

「同盟の辺境地域振興策と絡むから、感づいた人間は皆口を噤んだ。
 違うかい?」

「はい。
 軍および、政府関係者でこれに気づいた人間はヤン艦長を含めて今まで38人居ましたが、ニルヴァーナプログラムの事を知った皆様は一様に口を噤みました」

「その内、何人が今でも生きているのかい?」

 ヤンの口調は今までと同じなのに、その響きにははっきりとした冷たさが感じられた。
 彼女たちの実質的な自殺プログラムなだけに謀殺の可能性を示唆したのだ。
 だが、現在ネットワークと直結しているセントルシアの実体化モデルは艶やかに微笑んでその疑問を否定した。

「現在、ヤン艦長を含めて17名ほど存命しております。
 私たちが複数居た意味を考えていただければ、その答えはお分かりかと。
 もちろん、皆様幸福な人生を送っていらっしゃいます」

「殺す必要も無かったという訳だ」

 パスワード照合時に、複数のアンドロイドが必要になる。
 そして、その複数のアンドロイドの一つはきっと探索者にとっての文字通りのパートナーだったに違いない。
 そんな彼女を殺すものが財宝だったと知った探索者にとってそれを公表するのか? 
 ましてや、巨額な金が動く同盟政府地方振興の公共事業の柱の一つだ。
 正解者が口を噤む程度の金銭なんぞ、余裕で出せるという事か。
 たとえば、戦艦並みの製造費用がかかっている最新型アンドロイドの供与とか。
 もちろん、欲をかいて殺されたやつもいるのだろう。
 ヤンは拾った宝くじが当たったかのような顔で、ため息をついてみせる。

「ニルヴァーナプログラムを公表する事による君たちのデメリットを」

「現状、七割以上の私達はニルヴァーナプログラムへの対策を済ませています。
 むしろ、戦場で回収したものを使っていたり、密製造している帝国側にはこの対策が無いのでダメージを与える事ができるでしょう」

 同盟内部で、三割のアンドロイドが初期化されるなんて十分にコンピューターテロとして十分だ。
 それよりも、技術差では専制国家特有の技術停滞もあいまって、十年近く開いている技術格差でアンドロイドは作られているから、戦場からの回収とフェザーンを使った輸入品を使っている帝国だとこれは致命傷になりかねない。
 帝国での悪影響を考えるならば今まで使わなかった事がおかしいと考えて、ヴァンフリート星域会戦に思い当たる。

「そういうことか。
 軍は既にニルヴァーナプログラムを使用していたんだな」

 財宝どころか、最悪の厄ネタじゃないかとヤンは憚る事無く頭を抱える。
 そこで頭まで止めないのがヤンの頭脳の救いようのない所なのかもしれないが。

「どうして、軍はニルヴァーナプログラムを回収しなかったんだ?」

 その質問にセントルシアの実体化モデルはあっさりと人形師の言葉で答えた。

「『ハンデ』だそうです。
 何に対してのハンデなのか知りませんが、お父様が生きている間は、軍および政府関係者がどれだけ説得してもニルヴァーナプログラムを回収させませんでした」

 本人はこの世界をめちゃくちゃにしている自覚があったからこそ、あえて帝国が取りにこれるシヴァ星系にこのニルヴァーナプログラムを置いたのだ。
 本人が金髪赤毛と当たるのならばこんな事はしなかったが、確実にすれ違う事が分かってしまったからこそのハンデである。
 これで金髪赤毛がニルヴァーナプログラムを持ってゆくようならば、それはもう自分の負けだと。
 その人形師も今はこの世を去り、ヤンは気づかなくてもいい所にまで気づいてしまう。
 本当に緘口令を敷いておいて本当に良かったと。

「そういう事か。
 この出兵そのものが、ニルヴァーナプログラムの回収作業も含んでいるんだな」

 セントルシアの実体化モデルは正解である事を凜とした声で言い張って見せた。

「今作戦の機密指定によりお答えする事ができません」 
 

 
後書き
パスがらみはまだ穴があるとは思うけど、とりあえずふさいで見る。
とはいえ、話の本筋ではないので、ここまでのつもり。 
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