万華鏡
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第五十五話 演奏その一
第五十五話 演奏
五人は制服のままだった、そして。
そのそれぞれの制服の上に阪神タイガースの半被を着た、そこに阪神が長い間着ていた白地に黒の縦縞の帽子を被った。
彩夏のその帽子、自分と同じその帽子を見てだ、美優は微笑んでこう言った。
「やっぱりこの帽子いいよな」
「そうね、シンプルだけれどね」
「いいんだよ、この配色が」
「白い虎だよな」
「そうそう、白虎になるわよね」
普通虎は黄色の地に黒い縦縞だ、しかしこの場合はそうなる。
「格好いいわよね」
「だよな、何か阪神のユニフォームって基本白と黒だよな」
「黄色あまりないわよね」
ユニフォームにはないのだ。
「旗とか半被にはあっても」
「これにもな」
美優は首から下げているメガホンを手に取った、アクセサリーとして付けているのだ。
「黒と黄色だからな」
「そうよね、けれどユニフォームはね」
「白と黒なんだよな」
「そうよね」
「阪神は白虎なんだな」
美優は腕を組んでしみじみとして語った。
「格好いいよな」
「ええ、そうよね」
「格好いいけれどな」
それでもだとだ、普段の阪神のことから言う美優だった。
「去年まではな」
「今一つだったわね」
「阪神はな」
「本当に肝心な時で負けるから」
阪神の歴史においては枚挙に暇がない、とにかくここぞという時に負けてしまうのが阪神というチームなのだ。
「そうだからね」
「いつもいつも」
「見事なまでに肝心な時で負けて」
「クライマックスでも」
「シリーズに出ても」
例え日本シリーズに出てもなのだ、阪神は。
「肝心な時でね」
「見事に負けて」
「特にロッテとのシリーズなんか」
最早伝説となっているシリーズだ、その惨状はというと。
「最初から惨敗続きで四連敗」
「甲子園で胴上げ」
そうなってしまったのだ、よりによって本拠地でだ。
「負けに負けて」
「その結果だから」
「けれど今年は」
「クライマックスもあっさり勝ったし」
「ああ、いけるよな」
美優は明るい顔で四人に言い切った。
「これで」
「シリーズよね」
琴乃も美優のその言葉に応える。
「遂にはじまるわよね」
「今年は日本一だよ」
美優も明るい声で応え返す、琴乃に。
「遂にそうなるからな」
「その前祝いも兼ねてね」
「まずは六甲おろしで」
そしてだというのだ。
「他のチームのも歌うか」
「今年の相手はロッテだから」
「二曲目はロッテな」
千葉ロッテマリーンズの応援歌を歌うというのだ、千葉マリンスタジアムにおいて白いユニフォームに黒い帽子のサポーター達が熱狂的に歌う曲だ。
「それでいくか」
「雪辱よね」
景子は相手がロッテと聞いて言う。
「そうなるわね」
「ああ、ロッテだしな」
その二〇〇五年、伝説のシリーズの相手である。
「余計に燃えるよな」
「歌う方もね」
「けれどロッテはいいよな」
美優は雪辱はあるが怨恨はない顔で笑って景子に返した。
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