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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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9,5話 ザ・チンピラーズ

 
前書き
この前某掲示板で、このサイト”暁”に関してイラッとする書き込みを見かけました。
小説なんて理想郷でもハーメルンでもpixivでも書けますし、文章力足りてない人間はそれぞれのサイトに必ず一定量います。皆書き始めるときは大抵素人ですもん。だから別にここでしか小説が書けない人なんていません。それでもここの皆はこのサイトに愛着持って自分の考えた小説投稿したりヘタッピながらコメントしたりしてるんです。
少なくとも海戦型は自分でここを選んで住み着いてます。それを笑うような奴は、自分が鼻で笑われていることに気付くべきです。

・・・と珍しく(?)喧嘩腰になってみましたが、ネット上での喧嘩は落としどころがない事も知ってるので書き込みに対して喧嘩は売れなかったよ・・・ 

 
「あちぃ・・・」
「だりぃ・・・」

互いに似た様な事を言ってどっかり安物のソファに座り込む。
ここは俺達チンピラーズ(この呼び名に特別意味はない)の片割れであるチンピラBことヨコヤマの借りたアパートだ。現在ここにむさくるしい男二人で住みこんでいる。

「クソッ、なんでスーツって奴はこんなに暑苦しいんだ!」
「ついでに体が動かしにくくてしょーがねーな・・・あ゛~今日も偉大なるハルンパス様の御世話になるか」
「湿布に対して止めろよその呼び方。新興宗教みてぇだぞ?」
「あ、新興宗教といえば最近ヒキパニ教ってのが広がってるみたいだぜ」
「知らねぇよそんなコト・・・」

無視して冷蔵庫から発泡酒と裂けるチーズを取り出す。一日終わりのこれが無ければやっていけない。本当はもっといい生ビールでも飲みたい所だが、生活費に余裕がないのではそれも夢のまた夢だ。まさにビールの泡の如く儚いものなのである。

「しっかし今時パートアルバイトでスーツ着用必須なんて珍しいよなぁ、テヅカ?」
「そーかぁ?時々見るだろそんくらい」
「そんなもんかね・・・っとと、いけねぇいけねぇ」

懐からライターとたばこの箱を取り出したヨコヤマは、思い出したようにライターをひっこめて箱の中からガムを取り出した。禁煙対策ガムらしいが詳しい事は知らない。中にたばこが入っていないと分かっていてもライターを出してしまうのは、喫煙者時代に付いた癖はヤニのようにこびり付いておりそうそう簡単には取れないという事だろう。

互いに煙草をたしなんでいた俺達だったが、最近はある理由から禁煙を心掛けている。
それにしてもヨコヤマは俺よりヘビースモーカーだった癖になぜ俺より体力があるんだろうか。神は理不尽である。ちょっと肺をクロスチェンジしろ・・・いや、お前と交換するくらいなら健常者と交換してもらうか。やっぱりテメーの真っ黒い肺なんぞいらねぇーッ!!


で、なんで俺達チンピラーズが都会の一件屋でパートなんぞしながら禁煙にいそしんでいるのかというと、それは俺達の命の恩人に怒られたからである。

定職につけ。
つけなければ努力しろ。
こんな業界さっさと足を洗え。
あとオジサンたちたばこ臭いからキライ。

正直最後の一言が一番傷ついた。恩人は天使のように可愛らしかっただけに涙を流しそうになったのを覚えている。

・・・あ。

「明日10時から昼2時まで町内禁煙活動あるぜ」
「マジか。丁度バイト空いてるな」

恩人天使様はたばこが大っ嫌いなのでこういうイベントには必ず参加している。天使様のご尊顔を拝み、ついでに天使様の住みよい下界づくりをするために俺達はこれに参加しなくてはならない。義務ではないが、自分たちに課した義務である。
・・・決して参加者に配られる昼飯弁当が目当てではない事をここに明記しておく。いいか、絶対だぞ!!



 = = =



「いいか貴様ら!吸ってない人間は吸ってる人間を許してる訳じゃあない・・・吸ってない全ての人間が喫煙者を呪い、喫煙者の死を願っているのだ!!」
「しかし・・・僕たち禁煙派は寛容です。優しく注意してたばこを吸わなくなってくれるなら、何も命までは奪いません」
「そう。タバコを止め、われらズヴィズターの軍門に下るならば生きる権利くらいは与えてやる!だが、言って分からぬゴキブリどもは・・・」
「この世に存在する価値等ありません。撲滅して殲滅して荼毘に付してしまいましょう」

・・・はて、ここはボランティアの会場だと聞いていたのだがどうやら実は過激派テロリストの集会場だったのかな?と聞きたくなる内容だが、実はこれ毎度やっている。よって集まってる皆さんも慣れた顔して自分の巡回ルートを確認している。

「ケイトたんハァハァ(´д`*)」
「クロエたんハァハァ(´д`*)」
「ノータッチの原則は守れよ?」
「出来ぬぅ!」
「出来ぬなら、殺してしまえブッコロリ!」
「くぉら貴様ら!!邪魔をするならつまみ出すぞぉ!?」

声を張り上げているコスプレ幼女が星宮ケイトちゃんであり、その隣で拳を振り上げている男の子が我らが天使様(本名はクロエというらしいが天使の名を呼んではならない。それが「天使の教会」の教義)である。二人とも可愛らしい見た目をしているものの、口を開けば喫煙者撲滅主義の過激派でもある。
(なお、天使様には「翠屋」という店に行けばそこそこの確率で出会う事が出来るのだが、あそこは教会の聖域(サンクチュアリ)なので選ばれし財産(チカラ)を持つ人間にしか踏み込めない)

そう、このボランティアはあの二人が主催しているのだ。何も知らないカタギの人間が参加すれば混乱必至だろう。そしてこのボランティアは・・・命懸けの戦いでもある。

「あ、今回も来て下さったんですか?」
「おお、姉御じゃありませんか!おはこんばんにちわ!」
「イヤー今日も天使様は可愛らしいですねー・・・」
「あ、あははは・・・」

話しかけてきたのは天使様の御姉様に当たる美由紀の姉御だ。いつもボランティアに天使様の付き添いとしてやってきているが、俺達「天使の教会」には若干引いていらっしゃる。テヅカもヨコヤマも既に顔見知りであり、時々街中で見かけたら挨拶をする程度には会っている。

一見して仲が良さそうに見える代表2人だがその駆逐スタイルは大きく異なり、ケイトちゃんは彼女の組織した集団「ズヴィズター」が作った珍妙な兵器と引率力を用いて組織型ボランティアをするのに対し、天使様は問答無用で喫煙者の煙草を両断してからOHANASHIを行い最後に可愛らしい笑顔で堕とす洗脳型ボランティアを行う。
毎度毎度最初はうまくいくのだが、最後は「ズヴィズター」と「天使の教会」がどっちの指導者が可愛いかで激突し、相討ちになって自然解散するシステムになっている。

「・・・話が長くなりましたね。そろそろ始めましょう」
「む?・・・うむ!では・・・きゃつ等を地の果てまで追い詰め、一匹残らず殲滅せよ!!我らがズヴィズダーの光を、あまねく世界に!!」

「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「Die Smokers!!(喫煙者は死ね!)」
「私、正義~♪奴ら、悪~♪」
「じっくり、たっぷり、時間ををかけていたぶってやろう!!」
「駆逐してやる・・・!この地上から一人残らず!!」

ちなみに喫煙者の中には「WANTEDメンバーズ」というのが存在し、こいつらのレベルになると幹部クラスの人間でないと勝つことが難しい。有名所では「邪眼の美堂」「蟲師のギンコ」「魔術師殺しの衛宮」「池袋の平和島」などがおり、こいつらのレベルだと全国手配らしい。

「そして捕まえることに成功すれば・・・」
「報奨金100万ジンバブエドルってわけだ・・・!」

俺達チンピラーズの明日のために、必ず貴様らを豚箱にぶち込んでやる!!


尚、当然のことながら彼らはジンバブエドルが日本円換算で今いくらなのかなど知らない。



 = = =



そしてそんなに上手く事が運ぶ道理もなく、今回もいつもと同じ結果になった。

「我が生涯に一片の悔いなし・・・!」
「ロリは万物の理なのだ・・・お前たちには何故それが分からんのだ・・・!!」
「ショタは宇宙の意思なのだ・・・お前たちこそそれを、分かれよ・・・!」
「男と女なら・・・女の方がいいだろぉ・・・!?」
「この・・・馬鹿野郎・・・あんなにかわいい子が、女の子な訳が・・・無いじゃ・・・」

「ううう・・・なぜだ!?なぜいつも惜しい所まで行くのに、毎度毎度共倒れになるのだ!?」
「大丈夫、戦果は挙がってる。諜報部の調べで「魔術師殺しの衛宮」は既に病死していることが分かったんだ」
「何!?そうか・・・メンバーズで最も外道だというあれが・・・そうだな!我らの活動は始まったばかりだ!諦めるには早すぎる!!」

ひしっ!と手を握り合い、輝かしい未来「ノースモーク・ノーライフ」を誓う子供たち。彼らの足元が死屍累々でなければもっと微笑ましい光景に見えたのだが、残念ながら生き残りたちには2大悪魔の更なる地獄宣言に聞こえたとかなんとか。

時代は不幸なしに乗り越える事は出来ないのか。幸せは、犠牲無しに得る事が出来ないのだろうか。その答えを出すには、少年少女たちは幼すぎたのだ・・・たぶん。


「生きてるか、ヨコヤマ・・・」
「なんとかな、テヅカ・・・」

その屍の中からよろよろと立ちあがった二人は、タバコ代わりにガムを噛みながら空を見上げた。午後2時の日差しは余すことなく地上に降り注ぎ、この前まで先の見えない影の世界にいた2人は意味もなく黄昏る。
ガムを包み紙に吐きだし、持参のごみ入れに放り込んだテヅカはふと自分の人生を振り返った。

裏にいた頃は今よりは収入があった。代わりにずっと一人きりで、自由も仁義もあってないような世界を延々とうろつく碌でもない人生だった。そこから自分たちを救い上げたのは、間違いなくあの少年なのだ。だから毎度毎度こんな目に遭おうとも、彼らは次の禁煙活動に必ず参加する。
それはある種のけじめであり、崇拝であり、そして―――

「おじさんたち」
「ん?・・・あ、お久しぶりです天使様!」
「今回も活動ご苦労様です!」

ビシっ!と斜め45度の礼を見せるいい大人二人。大人としての誇りも天使様の前では埃同然に吹き飛ばされている。二人の様子を見た天使様は少し近くに寄り、くんくんと二人の体臭を嗅いだ後にポケットから飴玉を2つ取り出した。
一瞬何が起こっているのか理解できずポカンとするが、天使様はどことなくご満悦な表情である。

「テヅカおじさんもヨコヤマおじさんもよく禁煙できているようで僕は嬉しいです。これ、ご褒美なので食べてください」
「え、俺達の名前覚えて・・・!?」

まさかこの沢山いる中で自分たちの名前を態々憶えていてくれたという事実に衝撃を受けて固まる2人の口に、天使様が直々に飴玉を入れた。2人の口に飴玉が入ったことを確認した天使様は一瞬だけにぱっ☆と笑って帰っていった。

「ぐはぁっ!?う、撃ち抜かれた・・・!心臓(ハート)をよぉ・・・」
「もう俺、ショタ好きのままでいいかなって最近思ってる」

天使の笑顔である(別名堕天使の微笑みとも言うが)。

「クロエ君、最近営業スマイル上手くなったね・・・」
「みんなが喜んでくれるから・・・お姉ちゃんもスマイル欲しいですか?」
「・・・・・・・・・ちょ、ちょっとだけ」




「なぁ、テヅカ」

口の中に入った飴を弄ぶようにカラコロ言わせていたら、ふとヨコヤマが訊ねてくる。

「何だよヨコヤマ」
「いやさ。急に変なこと言うようで悪いんだが・・・俺、なんか今が人生で一番楽しい気がするわ」
「へぇ。お前もそう思うか?俺も実はそんな気がしてる」

「お前からそんなセリフが聞けるとはな・・・ヨコヤマ」

「うぇッ!?」
「何奴!?」

突然後ろから聞こえた声に振り帰ったヨコヤマはそこで信じられない光景を目撃する。そこにいたのは気絶した部下を一人小脇に抱えたズヴィズダー幹部の一人、ピェーペル将軍だった。しかも普段つけっぱなしにしている骸骨のマスクを外している。額に入った大きな傷に思わず息をのむテヅカだったが、ヨコヤマは別の意味で驚いていた。

「鹿羽のおやっさん!?鹿羽連合の総長だったおやっさんじゃないですか!!ヤス先輩も!」
「え、なに?裏社会時代のお仲間!?」

世間は狭いものである。

「今じゃズヴィズダーの幹部さ。抗争の最中にお嬢に命を拾われてね・・・」
「あ、俺も天使様に危ない所を助けられまして・・・」
「最近の子供強すぎるだろ!?いやあの乱戦で平然としてたから大物だとは思ったけど!!」

いつからオヤジ狩りは「小学生がヤクザを狩る」という意味になったのだろうか。この前も地元のヤクザが小学生に吹き飛ばされているのを見たし、案外世界は既に子供たちの時代が来ているのかもしれない。

今日も明日もチンピラーズは社会復帰を目指して奇妙な町に住み続ける。
何れ、翠屋(サンクチュアリ)に堂々と足を踏み入れられるようになる、その日まで。 
 

 
後書き
クロエ君信者になってしまったチンピラーズのお話。
今まで一言も言ってなかったけど、クロエ君の見た目は変猫の筒隠月子ちゃんを男の子にしたようなイメージ。あくまでイメージだけど。 
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