戦国異伝
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第百五十三話 雲霞の如くその三
「な、夜討ちか!」
「来たか!」
「まずいぞ、これは!」
「近江から来たぞ!」
しかもその声や音の大きさからだ、彼等はこう考えた。
「近江から大軍が来たのか」
「まさか、もうか」
「もう来たのか」
「有り得ぬぞ」
信長が率いる大軍が来たというのだ、それでだった。
長政が率いる軍勢を何かとは見ずその突撃を受けて言う。
「織田の主力じゃ!」
「それが来たぞ!」
「戦え、いや退け!」
「今は戦えぬ!」
「城から逃げよ!」
こう言ってだ、そしてだった。
彼等は今は何とか逃げ去った、そうして。
朝には誰もいなくなっていた、門徒達は城から大きく離れていた。
長政の夜討ちは成功した、場には門徒達の亡骸が転がっている。長政はそれを見て確かな声で言うのだった。
「さて、ここからじゃな」
「はい、まずはですか」
「ここからですか」
「攻める、今日か明日には主力が来る」
それでだというのだ。
「今は敵の勢いを殺して退かせた、後はな」
「殿が来られてからですか」
「あらためて」
「攻める」
まさにそうするというのだ。
「よいな」
「では今はですか」
「再び籠城ですか」
「守りを固めよ」
その勢いを殺した相手に油断せずさらにだというのだ。
「だからな」
「わかりました、では」
「城に戻りましょう」
こう話してだ、そのうえで。
浅井の軍勢はまずは城に戻った、そうしてであった。
その日敵は何もしてこず僅かに距離を縮めただけだった、長政の夜襲に手傷を負いしかも警戒をしてそうしたのだ。
そして次の日朝早くだ、織田家の主力が来た。信長はその大軍を率いつつ金ヶ崎城を見て確かな笑みで言った。
「よくやってくれたわ」
「はい、やってくれましたな猿夜叉殿」
「お見事です」
池田と森も言う。
「見事先陣を務められていますな」
「金ヶ崎を守ってくれました」
「うむ、ではじゃ」
信長も笑みを浮かべつつ言う。
「我等も金ヶ崎を拠点としてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「これより」
「攻めてじゃ」
そうしてだというのだ。
「まずは越前の全てを取り返す」
「そしてですな」
「それから」
「加賀じゃ」
この国だというのだ、越前の次は。
「あの国も攻めるぞ」
「あの国もですな」
「門徒共の国も」
「あの国を抑えずしては収まらぬ」
だからだというのだ。
「ここはな」
「加賀もですか」
「攻めますか」
「門徒達が来るのなら倒せ」
攻めて来る者はだ、これまで通り容赦なくというのだ。
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