Element Magic Trinity
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計算外
「な・・・何だ、コレ・・・」
「そんな・・・!」
「え・・・?」
六魔将軍の拠点である洞窟にやってきたナツ達は目を疑った。
「ナツ~」
「どうしよう・・・」
そこにいるのは、地面に倒れ伏して涙を浮かべるハッピーと今にも泣きだしそうに表情を歪めるルー。
そして、不敵な笑みを浮かべるブレイン。
「うう・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい、私・・・」
謝罪の言葉を呟きながら泣きじゃくるウェンディ。
だが―――――そこにはもう1人いた。
その人物を見たナツの目が見開かれていく。
服・・・というよりズボンだけの格好をした青年の名を、ナツは呟く。
「ジェラール・・・」
ジェラール・フェルナンデス。
楽園の塔で敵対した、エルザのかつての仲間。
ゼレフの亡霊に取り憑かれた壊れた機関車。哀れな理想論者。
そしてナツにとっては・・・敵以外の何者でもない。
「ごめん・・・なさ・・・うえっ・・・うえっ・・・この人は私達の・・・恩人・・・な・・・の・・・」
ボロボロと涙を零しながらウェンディは必死に言葉を紡ぐ。
「ウェンディ!アンタ治癒の魔法使ったの!?何やってんのよ!その力を無闇に使ったら・・・」
「シャルル待って!ウェンディは悪くないんだっ!」
叫ぶシャルルの言葉を遮るようにルーが叫ぶ。
すると、ウェンディは力尽きたようにフラッと倒れ込んだ。
「ウェンディ!」
1番近くにいたルーが慌てて支える。
「な・・・何で、お前がこんな所に・・・」
ナツの痛いほどに握りしめた拳が小刻みに震える。
目の前に立つジェラールが楽園の塔でエルザに何をしたか・・・そしてかつての仲間であるシモンに何をしたか・・・忘れたくても忘れられない。
多くの記憶が脳裏を駆け、その表情に怒りが宿った。
「ジェラァァァァァアアアル!」
その怒りを抑える事は不可能だった。
右拳に炎を纏い、ナツはジェラールに向かって駆け出していく。
対するジェラールは表情1つ変えず、何も言わず、ただナツを一瞥し――――
「!」
ただその右掌を向けた。
ジェラールがとった行動はそれだけ。
「うあああっ!」
それだけでその手から膨大な量の魔力が放たれ、ナツは吹き飛ばされる。
「ナツ!」
「ナツさん!」
それを見たハッピーとアランが叫ぶ。
「相変わらず凄まじい魔力だな、ジェラール」
ガラガラと洞窟内が小さく崩れるような音が響く。
ブレインが感心の声を上げるが―――――
「!何っ!?」
突如、ジェラールはブレインの左掌を向けた。
「ぐぉあああっ!」
その瞬間、ジェラールの魔法によってブレインの足元に大穴が開いた。
突然の事にブレインは対応出来ず、落下する。
「あ、あの・・・ジェラール、さん・・・」
倒れるウェンディとそれを支えるハッピーとルー、こんな状況でも眠るミッドナイトをスルーして歩いていくジェラールに、アランが震える声で声を掛ける。
が、ジェラールはそんなアランを一瞥すると、すぐに歩みを進め、洞窟から出ていった。
「ジェラール!」
ジェラールが出ていったと同時に瓦礫の山の中からナツが出てくる。
「どこだ!」
「行ったわ」
「あんにゃろォーーーっ!」
「アイツが何者か知らないけどね、今はウェンディとルーを連れて帰る事の方が重要でしょ」
シャルルの言葉にも、ナツの表情から怒りは抜けない。
「エルザを助けたいんでしょ!」
が、続いて放たれたシャルルの言葉には反論出来なかった。
彼等の目的はエルザを救う事であり、ウェンディとルー、ハッピーを連れて帰る事であるのだから。
「わかってんよ!」
シャルルの正論にナツは悔しさを滲ませた声で叫ぶ。
「アイツ・・・」
「ジェラールさん・・・」
だが怒りは完全には抜けず、苛立たしげに呟いた。
アランは呆然と洞窟の入り口を見つめ、言葉を零す。
「行くぞ!ハッピー!」
「あいさ!」
「行くよアラン!大空風翼!」
ハッピーがナツを、シャルルがウェンディを、ルーはその身に風を纏わせ、アランはルーの魔法によって造られた風の翼を使って飛び、洞窟を出ていく。
そして洞窟には眠るミッドナイトとブレインだけが残される。
「計算外だ・・・いや、拘束具を外した私のミスか・・・しかし・・・以前の奴は私にここまでの敵対心は持っていなかったハズ・・・」
穴から出ようと身を起こす。
「眠っている状態でニルヴァーナの話を聞いていたとでもいうのか?」
ふと呟いて見て―――――1つの可能性が浮かび上がる。
「ジェラールめ!まさかニルヴァーナを独占する気か!?」
話を聞いていたかは解らない。
だが、少しでも可能性があればそちらに考えてしまう。
その表情が、怒りに染まった。
先ほどのナツとは違う意味の、怒りというより憎しみに近い感情。
「させぬ!あれは我々のもの!誰にも渡すものか!」
そう言うと、ブレインは上を見上げて叫んだ。
「コブラ!聞こえるかっ!ジェラールが逃げた!奴を追え!奴の行く先に・・・ニルヴァーナがある!」
樹海の草木が茂る、洞窟から距離のあるそこにコブラはいた。
「OK、聞こえたよ。ついでにジェラールの足音もな」
怒りと憎しみを混ぜたブレインの叫びはしっかりとコブラに届いていた。
それを聞いたコブラは相棒の毒蛇『キュベリオス』を連れ、ジェラールを追跡を始める。
「くっ!」
「!頭上!」
一方、レーサーの足止めの為にその場に残ったグレイとティアは、苦戦を強いられていた。
木に打ちつけられたと同時に蹴りが飛び、素早く伏せる事で避ける。
「ちっ、なんて速さだ・・・野郎・・・」
「私でも追いつくのがやっととはね・・・中々やるじゃない」
あのティアさえも苦戦を強いられている。
相手は闇ギルドだし慣れてるでしょ?と言いたいところだが、相手は1人でギルドの1つを潰せる位の魔力を持つ。
が、ティアは魔力は並と比べれば多い方だが、相手と比べると劣っている。
彼女の場合、基本的に魔力の消費を極限まで抑えた戦い方をする為、そしてそこまで魔法を使う必要のない相手が多い為、あまり魔法同士でドンパチやるのは向いていないのだ。
つまり、はっきり言って相手はティアよりも実力は上である。
「オレのコードネームはレーサー」
木の間を幹を蹴る事で上り、1本の枝に降り立ったレーサーが口を開く。
「誰よりも速く、何よりも速く、ただ走る」
身に着けているグローブをぐっと引っ張り、そのスピードに似合うコードネームを持ったレーサーは言い放つ。
「ん?」
「!」
「あれは・・・」
すると、レーサーが空を見上げた。
つられる様にしてグレイとティアも上を見上げる。
その視線の先には、ナツを抱えたハッピー、ウェンディを抱えたシャルル、風を纏って飛ぶルー、風の翼で飛ぶアランがいた。
「助け出したか!」
「バカな!中にはブレインがいたハズだろ!?どうやって!?」
「そんなの単純じゃない。邪魔する奴は蹴散らせばいい話でしょ?アンタ達だってそうやって生きてきたんでしょうが」
それを見たグレイの表情が明るくなり、レーサーが焦ったように叫び、ティアは当然のように表情1つ変えず言い放つ。
「くそっ!行かせるか!」
レーサーは枝から一気に木を昇り、上空へと駆けていく。
「ナツ!よけろォ!」
「!?」
グレイが忠告の言葉を叫ぶが、時既に遅し。
否、その言葉に反応して行動するまでの時間があれば、レーサーは追いついてしまう。
「きゃ!」
「うお!」
「わっ!」
「うあ!」
「んぎゃ!」
レーサーの蹴りが決まる。
それによって飛んでいた6人は落とされた。
「がっ!」
ハッピーの手が離れ、空中から地面に一気に叩き落されたナツ。
そしてその目に頭から落下しそうなウェンディが映る。
「おっとォー!」
4足歩行状態でナツは急ぎ、あと少しの所でウェンディをキャッチした。
その状態のまま、目線だけを動かす。
「ハッピー!シャルル!」
が、返事はない。
2匹は先ほどの攻撃に目を回していた。
「くっそーっ!」
「ちょっ、ナツさん!僕達を忘れないでくださいよ!」
「ひどいよー!ナツのバカーっ!」
右腕にウェンディを担ぎ、左腕にハッピーとシャルルを抱えてナツは走り出す。
その後ろから一瞬忘れられていたアランとルーが追いかけるように駆け出した。
すると―――――――
「とうっ!」
威勢のいい声と共に、アイスブルーの影が揺れる。
「乗れ!」
「ヴィーテルシア!?」
「何でここに!?」
青い天馬と行動しているはずのヴィーテルシアがここにいる。
それにルーが問いかけると―――――
「ティアが危険だとクロスからの通信だ!クロスの不在中はティアの事を任されている!」
「アイツ仕事じゃなかったっけ!?」
「通信って何だよオイィ!?」
「そもそもクロスさんって誰ですか!?」
「私の双子の弟!てか、仕事の最中くらい仕事に専念しなさいな!」
いろいろツッコみどころ満載の言葉にそれぞれツッコみを入れる。
「まあとにかく乗れ!それなりのスピードは出せる!」
「おっしゃーっ!」
「ラッキー!」
「ありがとうございます!」
とりあえずナツとルー、アランはヴィーテルシアに乗り、狼のスピードを生かしてヴィーテルシアは樹海を走っていく。
「行かせねぇって言ってんだろ!」
そんな3人を追撃しようとするレーサー、だが―――――――
「アイスメイク、城壁!」
「ぐほっ!」
グレイの造り出した巨大な氷の壁に激突し、行く手を阻まれる。
その壁は大きく広がり、文字通り城壁のように如何なる者さえ通さない様な高さを誇っていた。
「グレイ、ティア」
思わずヴィーテルシアが足を止め、ナツが顔だけ振り返る。
「行けよ・・・こいつァオレがやるって言ったろ」
「勘違いしてるようだから訂正するわ。『オレ』じゃなくて『オレ達』ね」
ハァハァ・・・とグレイは息を切らす。
「けどグレイ・・・お前、今ので魔力を使い過ぎただろ!」
「だから私がいるの。流石にこんなに魔力を消費した奴を置いて行く程私は冷酷じゃない」
「いいから行きやがれ」
ヴィーテルシアは足を動かさない。
その足を止める枷を外すように、グレイが言い放つ。
「ここは死んでも通さねェ!!!!行け!!!!エルザの所に!!!!」
その言葉に、ナツが少し判断に迷う様に震え、口を開く。
「うおおお~~っ!必ずエルザを助けるからな!行くぞヴィーテルシア!」
「了解だっ!」
だーっと背を向けて駆けだしていくナツ達。
「当たり前だ」
「助けられなかったら本気で裁くわよ」
それを聞いたグレイは笑みを浮かべ、ティアは小さく口元を緩め、呟く。
その横に片膝を立てて座るレーサーが口を開いた。
「貴様・・・2度もこのオレの走りを止めたな」
その言葉に、グレイは氷の壁に凭れ掛かるようにして言葉を紡ぐ。
「何度でも止めてやんよ。氷は命の『時』だって止められる」
「序でに言えば、こっちはアンタ達みたいな奴を潰すのは慣れてるのよ。普段と相手の実力が違うってだけで」
続くようにティアが呟く。
レーサーの表情が怒りからか歪んだ。
「そしてお前は永久に追いつけねェ、妖精の尻尾でも眺めてな」
ウェンディの魔法によって、この男は復活した。
ジェラールは近くにいた闇ギルドの人間から服を奪って身に纏い、樹海の中を歩く。
ふいに立ち止まり、彼は自分の右掌を見つめた。
そして、呟く。
「エルザ・・・」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー・・・すいません。2日ばかり。
理由と致しましてはですね・・・インフルのバカが襲来しまして。
今も完治、とは言えないんですが、熱は平熱で起き上がれるので更新です。
ええはい、ここ2日きつかったですよ。
頭痛いし足痛いし熱いし苦しいし・・・今も咳で苦しいんですけれど。
仕舞いには妹のクラスは学級閉鎖だそうで。
皆さんも風邪にはお気を付け下さい。
感想・批評、お待ちしてます。
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