不老不死の暴君
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第二十九話 宴
最長老の意向でセア達を歓迎する宴が開かれた。
「ほう、数日前に宴を開いたのにまたか」
ガリフの長老の一人がそう言い、その長老にセアは問いかけた。
「数日前に誰か来たのですか?」
「ああ、ヒュムが来たぞ。お前さんらよりは小さかったが」
「その人はまだいますか?」
「ガリフの戦士と共にオズモーネへ行ったが直ぐに戻ってくるじゃろう」
ガリフの長老はそう言うと思い出してように自己紹介をする。
「自己紹介が遅れたな。ワシの名はヤザルじゃ。でお前さんの名前は?」
「セアです」
「ではセアよ。スピネルを知っておるか?」
「戦士長のひとですよね」
「ああ」
そういうとヤザルは自分の服から木片を取り出した。
「少し頼まれてくれんか? これをスピネルに渡して欲しい」
「それは?」
「ジャヤの木片っというお守りみたいなものじゃ。風水士のユクギルから預かってたのじゃが渡すのを忘れてての」
「・・・ご自分でスピネルさんに渡せばいいのでは?」
「また忘れそうじゃ」
おいおいと思いながらセアはジャヤの木片を受け取った。
そしてパンネロの踊りを見ながら酒を飲んでるスピネルに肩をたたいた。
「なんだ?」
「これ。ヤザルっていう長老さんから」
そう言ってセアはスピネルにジャヤの木片を渡す。
「これはジャヤの木片?」
スピネルは手に取ったジャヤの木片を見ながらそう呟く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんなやり取りをしてパンネロの方を見ると彼女が固まっていた。
なにがあったんだろうかとセアが周りを見ると直ぐに原因が分かった。
だって酒を飲んでるガリフ達に混ざってラーサーが座ってたんだから。
おもわずセアはラーサーに近づき話しかける。
「ラーサー・・・」
「あ。お久しぶりですセアさん」
「なんで君がここにいるんだ?」
「破魔石の話を聞きに来たんです」
「最長老に?」
「・・・僕は会えませんでしたけど」
「それでなんとか会おうとここにいたのか」
「いえ、ここに来たのはついでなんです」
「ついで?」
「ええ、ここから東にあるブルオミシェイスへ行く予定なんです」
「ブルオミシェイス? たしかキルティア教の聖地だったよな?」
「ええ、そこに行ってオンドール候の動きを止めないとロザリアが動きかねない状況なんです」
「なるほど大僧正に協力して両国の動きをどうにかしようって魂胆か」
キルティア教はイヴァリース全域とまではいかないがかなりの範囲で信仰されている。
旧ダルマスカは勿論。ビュエルバ・アルケイディアもキルティア教圏国だ。
ロザリアも東部ではキルティア教が信仰されている。
そのキルティア教のトップ大僧正を味方につければそれなりの力になる。
「お見通しなんですね」
「まぁな」
「そういえばなんでセアさん達はガリフの里に来たんですか?」
「・・・俺達は王女様に付いてきたんだよ。な、パンネロ?」
「あ、はい」
固まっていたパンネロは軽く体を動かし、頷いた。
「アーシェさんも一緒なんですか?」
「ああ」
「てっきりセアさんと一緒に旅行でもされているのかと・・・」
「まぁ、あまり間違っては無いか」
「どういう意味ですか?」
「・・・さっき破魔石の話を聞いたんだがあまりいい話じゃなくてな。王女様は落ち込んで宿舎に今いるんだけどヴァンは気にせず宴の料理食い散らかしてるし、空族達と俺は酒を飲みまくっている」
「そうですか・・・」
ラーサーは呆れたような顔でセアを見た。
セアは軽く笑い、話題を変える。
「ところでさ・・・王女様をブルオミシェイスに行かないか誘ってみたらどうだい?」
「え?」
「アルケイディアとロザリアが戦争をするなら戦場はダルマスカだろ? なら王女様も協力してくれるんじゃないか?」
「・・・そうかもしれませんね」
ラーサーは少し考え、そう言って頷いた。
セアは内心で笑みを浮かべた。
はっきりいうとさっきまでセアはこれからどうしろと?という思いに囚われていた。
少なくとも帝国の意図がわかるまではこの話に関わると決めていたのに初っ端から暗礁に乗り上げた。
ラーサーを使う事で別に目的を持てばあの王女も動くだろうとセアは考えたのだ。
セアはその場から立ち、違う集まりで料理を食い荒らしてるヴァンを目掛けて酒瓶を投げた。
ヴァンは飛んできた酒瓶を掴み、セアの方に向く。
「なんだよセア?」
「王女様を呼んできてくれ馬鹿弟子。ラーサーが王女様と話したいらしい」
「ラーサーがここに来てるのか?」
「話し合うのは明日にしろ。国家間の争いごとに知識が無いだろお前は」
「・・・うん」
そう言ってヴァンは宿舎の方に走っていった。
セアはラーサーの方に振り返る。
「ヴァンに王女様を呼びに行かせたから」
「・・・呼び方が酷くないですか?」
「ヴァンは俺の弟子だぞ? あれ位どうってことないよ」
笑みを浮かべながらのセアの回答を聞きラーサーは頭を抑えた。
しばらくして・・・
「ブルオミシェイスへ?」
ラーサーからブルオミシェイスに行かないかと聞かれ、アーシェが疑問の声をあげる。
「明日にでも発ちましょう。大戦を防ぐためにあなたの力を貸してください」
「大戦・・・?」
アーシェは事情を知らないと思い、状況を説明する。
「オンドール侯爵がわが国に対抗する反乱軍・・・あ、失礼。解放軍を組織しているのはご存知ですよね。でも今あの人が行動を起こすとまずいんです。・・・ロザリア帝国が動きます。ロザリアは解放軍への協力を大義名分に我が国に宣戦布告し・・・ふたつの帝国が激突する大戦になります」
二大帝国は互いに強大な国力・軍事力があり、実力はほぼ互角。
もし戦端が開かれれば凄まじい長期戦になりイヴァリースは治安は低下の一途を辿る。
そのことを知ってかしらずかアーシェの顔が少し曇る。
「ですからブルオミシェイスに行きましょう。大僧正アナスタシス猊下(げいか)が承認して下されば・・・あなたは正式に王位を継ぎ、ダルマスカ王国の復活を宣言できます。女王として帝国とダルマスカの友好を訴え・・・オンドール侯爵を止めて下さい」
ラーサーの言葉を聞きアーシェ顔に怒りが浮かぶ。
「・・・友好っ!?」
その言葉には憎しみが混ざっていた。
「勝手なことを! そちらから攻めてきてなにもかも奪って、それを水に流せとでも!?」
アーシェは怒りを含んだ声でそう叫んだ。
だがラーサーも必死に反論する。
「戦場になるのはダルマスカなんです!ラバナスタを第2のナブディスにしたいんですか!兄は破魔石を持っているんです!」
ラーサーの反論を聞き、アーシェは黙り込んでしまった。
確かにこのままではダルマスカ王国再興の前にダルマスカ地方そのものがイヴァリースの地図から消えてしまうかもしれない。
「すみません。図々しい話です。血が流れない方法を他に思いつけなくて・・・信用できないのであれば僕を人質にしてください」
ラーサーが申し訳なさそうにそう言う。
大戦を止める為とはいえ、耐え難いことを頼んでいるのにラーサーは自覚があったためである。
一方そのころセアはというと・・・
「そなた・・・昔どこかで会わなかったか?」
「いえ、そんな筈はないと思いますが・・・」
「勘違いか?」
「そうではないでしょうか?最長老さん」
「うん?そういえばまだ名乗ってなかったな」
「あ、そういえばそうですね」
「名はウバル=カという」
「・・・へぇ、・・・そうですか」
セアは100年位前に共に戦ったガリフ族の戦士のことを思い出した。
当時20歳くらいだった戦士の名前はウバル=カである。
予期せず100年位前の知人と会ってしまったセアは表情に出さなかったが凄まじく動揺していた。
そんなことがあったためセアは宴が終わると直ぐに寝てしまった。
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