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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第二十八話 口伝

ケルオン大陸バンクール地方オズモーネ平原にて。
ラバナスタの南にあるギーザ草原を越え、セア達はオズモーネの平原にいた。

「あちこちになんかあるぞ?」

ヴァンが何かの残骸を指差しながら言った。

「あれは昔の飛空挺の残骸だ。馬鹿弟子」
「なんでそんなのがあるんだ?」
「昔この場所で飛空挺同士の激戦があったんだ。残骸の数を見る限り結構な数が死んだだろうな」

ミストが安定せずヤクトが多いケルオン大陸において北西部のバンクール地方はミストが安定しており、豊かな土壌を持っている。
そのためこの地を多くの国家が狙っていた。
軍部の独裁政権時代のアルケイディア帝国と前マルガラス王朝時代のロザリア帝国とのバストゥーク戦争以来バンクール地方は中立地帯と存在している。
そんなことをセアがヴァンに教えているとスレイプニルの群れが襲ってきた。
まぁバルフレアが銃で撃ち殺したり、フランが弓で射殺したり、セアが裏拳で敵の頭蓋骨を粉砕したり、他のやつらが斬り殺したりして事なきを得たが。

(馬か・・・懐かしいな・・・)

セアはスレイプニルの死体を見ながら、昔のことを思い出していた。

(父上から聞かされたグリームニルの騎士物語を思い出す)

かつて騎馬部隊が戦の勝敗を左右した時代。
セアの故郷の英雄グリームニルが愛馬スレイプニルに乗り十倍近い敵を倒し国を守った。
そしてグリームニルの愛馬の名前がそのままその種類の馬の品種の名前になった。
だがガルテア連邦時代から馬と比べ安い、早い、繁殖しやすい、持久力が高いチョコボが主流になっていき、ガルテア連邦解体の時には騎馬は戦場から姿を消していた。

「どうかしたのか?」

ずっとスレイプニルの死体を見つめていたセアを心配してバッシュが声をかけた。

「いや、なんでもないよ」

セアはなんでもないという風に笑みを浮かべた。
オズモーネ平原を越え、ソゴト川を渡るとガリフ族の集落ジャハラが目の前に見えた。
集落の入り口に走っていったヴァンは門番のガリフに止められた。

「何だ。お前? ここはガリフの住む里だ。ヒュムの子供が尋ねてくる場所じゃないぞ」
「彼らはただの旅人だ」

セア達の後ろから別のガリフの声が聞こえた。

「彼らがオズモーネを越えてきたのを見た。かなり腕の立つ戦士なのだろう。平原の魔物にもまったく動じていなかった」
「・・・戦士長、またひとりで平原に?」
「・・・」

戦士長と呼ばれたガリフはヴァンの方を見た。

「・・・ガリフの地に何か用があるのか?」

ヴァンが頷くのを見て戦士長と呼ばれたガリフは門番のガリフの方を見て言った。

「彼らを通してやってくれ。責任は私が持とう」
「戦士長がそう言うなら・・・」
「・・・というわけでお前達、入っていいぞ。ここのところ、なんだかヒュムがよく来るな」

そう言われてヴァン達はガリフの集落に入って行った。
すると入り口で戦士長と呼ばれていたガリフが話しかけてきた。

「・・・まだ名乗ってなかったな。私はスピネル。この里の戦士長を務めている。本来、ガリフは外の者に対して寛容だ。しかし近頃はヒュムの世が何かと騒がしい。ゆえに、この里も警戒を強めているのだ」

スピネルが言っていることは本当だ。
ガリフ族は生まれた時に仮面を授かり一生はずすことが無く、狩猟種族だから筋骨隆々であるため恐ろしい印象があるが基本的にとてもいい奴が多い。
セアも100年位前にガリフの里を訪れた時にガリフの人たちは宴を開いて歓迎してくれた。

「里を守る戦士の長として、今一度お前達に問う。何の用があって、この地を訪れたのだ?」

スピネルの問いにセア達は包み隠さず正直に答えた。

「ほう・・・。お前達も破魔石とやらの話を聞きに来たのか。ガリフは口伝で知識を後世に教えている。破魔石について長老方は知らないようだから知っているとすれば最長老くらいだと思うが安易に面会を許すわけには・・・・」
「私は破魔石について知らなければならないのです」

アーシェはスピネルの方を向いてそう言った。

「どうか最長老にお伝えください。私は覇王レイスウォールの血を引くダルマスカ王家の人間です。あなたたちガリフが古の記憶を今に伝えているなら、覇王が手にした破魔石についても、ご存知のはずです」
「お前が覇王の末裔だという証拠はあるのか?」
「それは・・・」

スピネルの問いにアーシェは首を横に振った。

「・・・・・・。お前達を信じよう。最長老はこのつり橋を渡った先におられる」

そう言ってスピネルはつり橋を渡り、アーシェ達も後に続いた。
その先にはこの里の最長老が座っていた。
最長老はスピネルになにか言われるとアーシェに話しかけた。

「そなたが覇王の末裔か。何の用かな?」
「ええ、この破魔石についての話をお聞きしたいのです」

そう言ってアーシェは【暁の断片】を最長老に渡した。
最長老は【暁の断片】を火にかざししばらく眺め、アーシェに問いかけた。

「そなた、この破魔石を使ったのだな?」
「私ではないのです。私には扱い方がわからずそれで・・・」

アーシェの答えを聞き、最長老は少し面白そうな声で言った。

「ほう、どう使うか知らんのか。ならばガリフと同じよの」
「え?」

最長老は自分が若い頃に聞いた口伝を語り始めた。

「往古。ガリフは神々より破魔石を賜った。しかしガリフには破魔石を扱えんでのう。神々はガリフに失望して石を取り上げ・・・今度は人間(ヒュム)の王に授けた。王は破魔石の力で乱世を平らげ、覇王と呼ばれた。奇態なことよ。覇王レイスウォールの血を引くそなたが破魔石を扱えぬとは」
「待ってください!では、あなた方は破魔石の使い方を・・・」
「まことにお恥ずかしい。せっかく覇王の末裔にお会いできたというに・・・何ひとつ教えられん」

そう言って最長老は【暁の断片】をアーシェに返し、最長老は言葉を続けた。

「もっとも使い方がわかったとてどうにもならんよ。その石は長年蓄えたミストを放ち、力を失ってる。再び使えるようになるのはそなたの孫子の代かのう」

【暁の断片】は帝国に対しての力にはならない。
そんな思いがアーシェの心に浮かぶ。

「力の失せた、うつろなる石・・・飢えておるな。空しさを満たそうとあらゆる力を求めておる。人の力、魔の力・・・良き力、悪しき力。破魔石を求める者は破魔石に求められる者でもある」

最長老は火を見つめながらそう言うと優しい声で

「口伝を語るのはこの辺にしてそなたらを歓迎する宴を開くとしよう」

仮面をつけているので分からないが多分最長老は笑みを浮かべていた。
その様子を見てセアはガリフ族というのは100年前と変わらないなと呆れてるのか感心してるのかわからない目で最長老を見ていた。
 
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