宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説
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第二章 六話 面接とレース
前書き
この前、ゼロ・グラビティという映画を見た。
彼らも0Gドッグなのだろうか......
ユニコーン 応接室
「No.53番、レイアム・ロー。履歴書はあるか?」
「ああ。」
ユニコーンの応接室では絶賛面接の最中である。なんの面接かというと、勿論新型艦載機【ジェガン】のパイロット選定のためである。作ったはいいが担当するパイロットクルーがいないため倉庫にしまわれていたジェガンにようやく乗りてが見つかる可能性がるのだ。
ネージリンスは艦載機が発達している国であり、その国の0Gドッグならば艦載機パイロットとしても優秀である、という考えの元に今回の面接は開始させれた。
船が新たにクルーを募集する場合、ほとんどの場合は空間通商管理局に依頼して候補を選択する。ほとんどの0Gドッグは空間通商管理局に登録しているので、その星に滞在しているフリーの0Gドッグならばすぐに管理局のAIが能力査定を行い募集側と候補として連絡して面接となるのである。
「この履歴書にある人型兵器操縦歴13年というのは本当か?」
「ああ。昔は相当な腕で名を上げた。」
「そうだとすれば、頼もしいことだ。わかった。追って連絡する。」
「いい返事を期待している。白野艦長。」
53人めの候補が退出すると、白野は一度近くにあった水のボトルをとって呷るとまた次の候補を招き入れた。
「No.54番、カトー。」
面接は続く。サングラスをかけた白野はどこからどう見ても厳しい評価をつける面接官にしか見えなかった。
*
アークネージ 酒場
白野が新たな仲間を募集していた頃、ギリアスは富と名声を手にいれるべく......今回は特に前者のためにアークネージで開催されるスペースシップレースに参加するための受付を終了させた頃だった。
「はい、ギリアス様ですね。エントリーナンバー9635です。これが受付カードですから無くさないようにご注意ください。」
「あいよ。」
ギリアスが受付担当から受け取ったのは直径3cm程度の大きさのプレートである。
表面には9635と表記されているだけの簡素なものである。
他にも9634隻の艦艇が参加するのであろう。それだけでなく、まだ新たに参加する0Gドッグもいるのである。ギリアスが富と名声を手にするためにはそれらの約10000にものぼろうかという艦艇を抜かねばならないのである。
「いやはや......うちの艦長若いけどなかなかチャレンジャー。今回も楽しめっかなぁ......」
などと酒場の隅でバウンゼィの一般クルー二人が酒を飲みながら話している。
「若くてチャレンジャーなのはいいがよ、勇敢と無謀を取り違えるなって言葉もあるだろう?」
「その辺は心配いらないんじゃね?少なくとも今回は宇宙でレースだ。前みたいな殺し合いじゃない。」
「そうだな......艦長があのでっかい......何だっけ?ユニコーンだ。それに突っ込むって言った時は正気を疑ったがな。今回はあんなどでかい戦艦に戦いを挑むなんてことはないだろう......多分。」
「まあ、アレだ。今回はどっちにせよ勝てなけりゃ俺たちの給料にも影響が出てくる。俺は嫌だぜ?マズイ酒しか飲めなくなるなんてのは。」
「そうだな。......機関の点検、念入りにやっとくか。」
「俺も操艦システムの見直しをしておこう」
「レースか......俺の故郷じゃ、建機でレースしてたな......」
「お前の故郷って、大マゼランのどこだった?」
「ネスカージャだ。ウバハリってえ岩だらけの星さ。何にもないとこだったけど、ほら、ボーカノイドってあるだろ?」
「艦船装甲材だったか?プラズマを弾くっていう?」
「ああ。ウバハリはあれの鉱脈があってな。それで稼いでたんだが......」
一般クルーの片方が表情を曇らせる。
「何かあったか」
さらに片方が聞く。
「ああ。政府のお偉方がな」
お偉方、という言葉にやけに強い憎悪の念が込められていた。
「鉱脈の所有権をロンディバルドに売っぱらったんだ。それも、法外なくらい安い値段で。」
適正価格との差額はお偉方のポケットに転がり込んだのであろうことは確実である。
「なるほど。で、宇宙に出たのか。」
「ああ。もう、建機に乗る気にゃなれなかった。」
「そうか......」
それ以降、そのクルー二人は何も言わずにグラスを傾けることに終始した。
*
ユニコーン ブリッジ
「で、どうだった?パイロット候補は?」
面接を終えてきた白野はブリッジにもどるなりゲイケットにそう聞かれた。
「粒揃いだ。誰彼も空間通商管理局から回されてきた技能データによれば一級品の操縦技術を持っている。」
空間通商管理局は登録された0Gドッグのフェノメナログ(航海記録)からその0Gドッグの能力を概算してデータ化する。ゲームにおける能力を数値で、例えば指揮53などの指標で表す。
「で、誰を雇うつもりなんだ?」
ユニコーンは人手不足であるが、沢山のクルーを雇えばいいというものではない。あまり役に立たないクルーを雇っても金の無駄であるからして、有能な人間を見抜いてそれをスカウトする必要である。
艦載機関係の職はそれぞれの部隊の隊長という形で設定されている。
最大員数は4人までである。4つの小隊長4人の小隊長。そのうち一人が総指揮を現場でとることになる。この役職だけは単にパイロットとしての技倆に抜きん出てているだけでは務まらない。
全体を見回しつつ戦いながらも冷静な判断を下し舞台を正しく運用する必要がある。
並のパイロットにはこなせない事である。場合によってはブリッジクルーの一人に艦載機関係専門の戦闘指揮官を雇ってそれに指揮を任せる、という形態を取るかもしれない。
「候補は絞り込んだ。後は明日の模擬戦で決定する。」
「模擬戦?」
「バークに頼んでシミュレーションデータを作ってもらった。戦闘データの蓄積で難易度の変更がおこなられるタイプだ、なかなかに高性能だった。」
白野は先日バークに依頼してパイロット候補をテストするためのシミュレーションデータを制作してもらった。
その内容は、白野の趣味によってモビルスーツによる対空戦と対艦戦を同時に行うようにしてある。
シミュレーションに登場する艦船はそこらへんの軍の巡洋艦や空母に限ってあるが、シチュエーションや戦場が何処かで見たようなもので構成されている。
例えば、一年戦争の最終戦が行われた宇宙要塞とか、そんなものである。
「役にたちそうか?」
「昔一度だけ艦載機に乗ったことがあるが......アレは現実に忠実だな。本当に操縦しているみたいだった。」
「そんなにすごいのか?」
「作ったのはバークだぞ?」
「なるほど。納得だ。」
全ては明日の模擬戦の結果による。
*
バウンゼィ 機関室
バウンゼィの機関室では、先程酒場で話していた二人のうちの片方、がっちりとした体型の男がインフラトン・インヴァイダーの出力チェックを繰り返している。
「さ〜てと......エンジンちゃ〜んしっかりしてくれよぉ......」
呟きながら、手元の端末を操作してエンジン出力の高低をつける。
更に点検を続けていると、普段なら絶対にここにこない人間がコツコツと足音をさせながらこっちにやってきた。
クルーの方はその人物とは反対側の方を見ていたし、まさかここにくるまいという先入観もあったので友人かと思い込み振り返りもせずに言った。
「ケリー、そこにある端末取ってくれ......ありがとさん。って、艦長!?」
クルーに端末を渡してよこしたのは、他でもなくこのバウンゼィの艦長、ギリアスであった。
「よう。」
「どうしたんですかい?こんなとこに?」
「ちょっくら気になってよ。今まで世話になってきた割には一回もバウンゼィのエンジンとか、担当クルーが仕事してるとこを見てねえと思ってな。」
「はぁ......そうですか。ま、今は調整中ですがインフラトン・インヴァイダーはゴキゲンっすよ。」
「よろしく頼むぜ?」
「アイアイ、キャプテン。」
ギリアスは軽くて振りながら去る。
クルーはそれを今までとは少し違った目で見ていた。
「艦長......変わったな。」
そうポツリと呟いた。クルーは考える。あのギリアスという艦長は今まで多くの0Gドッグと同じように一般クルーのことを操艦要員としか捉えていなかったはずである。
勿論、怪我や病気になれば保証金は下ろしてくれるが今回のように【気遣う】ということはなかった。
それが変わったのである。そして、その大きな原因にはやはりあの銀色の戦艦の主である黒い空間服を着たあの白野とかいうランカーの存在があるのだろう......
「ランカー、か......」
ランカーとは全ての0Gドッグにとって憧れの対象である。ランクインしている0Gドッグはどいつもこいつも常軌を逸している手練れ達である。
ランクインして一定の順位に勝ち上がると、その順位に応じて想像もつかないような高性能モジュールが管理局から支給されるという噂もある。
多くの0Gドッグはそのランカーになることなく一生を終えるが、ごく稀にわずかな期間で急激に順位を上げて0Gドッグの歴史に燦然とした功績を打ち立てるまさに【伝説】と呼ばれるにふさわしい者もいる。
最近では大海賊ヴァランタインが顕著な例であろう。それにあの白野。彼の艦長はその白野に師事している。
自分は歴史に名を残す偉人の近くにいるのではないか?
一瞬そう思う。
「先のことはわかんねえな。」
クルーはそう呟くと、またインフラトン・インヴァイダーの整備を進める。レースの開始まで、まだ数日の時間があった。
*
ユニコーン カタパルト
「では、模擬戦を開始する。これから対戦表を配る。方式はトーナメント。サドンデスだ。最初の十五分は我々の使っている艦載機の操縦に慣れてもらう。人型兵器だ。言うまでもないと思うが、AMBAC(アンバック)機動を活用することも忘れないでくれ。」
AMBAC(アンバック)とは、手足を持つ物体が宇宙空間においてそれを動かすことで発生するモーメントを利用して機動性を増加させることである。
隕石を蹴って加速するというのも、これに当たる。
白野は候補達に一枚一枚対戦表を渡して行く。
カタパルトの壁には対戦相手の組み合わせが表示されたモニターがある。
「では開始する。この中で正式採用されるのは四名。君らの健闘に期待する......ま、頑張れ。」
最後は妙に砕けた口調でそう言った。
候補達はバーク特製球形シミュレーションマシンに入って行った。
*
ユニコーン モニタールーム
白野は無数のモニターがある部屋にいた。部屋、というよりはカタパルトに併設された壁である。
それぞれのモニターは一つ一つに候補者のシミュレーションデータが表示されている。
今のところ人型兵器の操縦に適応しているのは履歴書に人型兵器操縦歴13年とあったNo.53番のレイアム・ロー。54番のカトーのあたりである。
二人はジェガンの操縦にうまく適応していた。
「レーザー・ライフルを上手く使う.....確かに人型兵器操縦歴13年というのは本当らしい。」
白野は感心しながら各候補達のテストを観察し続ける。
ちょうど、配置した敵が候補達のジェガンに攻撃を開始する頃である。
今回のテストの敵として配置したのは大マゼラン製巡洋艦【バスターゾン級】である。軍事大国アイルラーゼンにおいて主力艦【バゼルナイツ級】と共に長年使用され続けてきた巡洋艦であり、対空能力が高い。おまけに僅かながら艦載機を配備する事も可能である。艦の直掩として搭載するのが本来の用途である。
白野が見ているうちに、グラフィック上に表示された架空のユニコーンから次々と候補達の操るジェガンが出撃して行く。
ユニコーンに接近してきたバスターゾン級からも艦載機【シヴィル】が出撃する。
そのわずか5秒後、ジェガンとシヴィルが苛烈な戦闘を開始した。
*
ユニコーン 球形シミュレーションマシン
ユニコーンの艦載機部隊の候補、レイアム・ローはジェガンを巧みに操りシミュレーションマシンのコントロールするシヴィルを翻弄していた。グラフィック上には彼の他のジェガンがシヴィルを相手にレーザー・ライフルを撃ちまくり対抗している。
レイアムもシヴィルの放った超縮レーザーをひらりと躱し反撃のレーザーを撃ち込む。
しかし、ジェガンのレーザー・ライフルは小マゼランの艦載機のパルスレーバーを改造してライフルタイプに変更しただけのものなので威力的にはシヴィルの超縮レーザーに劣る。命中したパルスレーバーはシヴィルの装甲を削りはしたものの致命的な打撃を与えるには至らない。
そこで、彼は極めて大胆な手法を用いてシヴィルを撃破した。
人型の最大の特徴、手足を用いてシヴィルに組みつきゼロ距離からレーザーを撃ち込んでシヴィルを破壊したのである。しかも、爆発に巻き込まれぬようコクピット・ブロックのみを撃ち抜いていた。
コクピット・ブロックを失い宇宙空間を漂うシヴィルを尻目にレイアムのジェガンは敵艦、【バスターゾン級】に向かう。現時点で敵対していたシヴィルを撃破できたのはレイアム機だけであった。
あとはいずれもレーザー・ライフルの威力不足から苦戦をしいられていたのだ。
*
ユニコーン モニタールーム
「確定は......レイアム・ローだな。」
同時刻、モニタールームでは白野が既に雇用対象者四人のうちの一人を確定させていた。
実力的に言って現在のところ合格基準に届いているのはレイアム一人であると判断している。もちろん、これから行われるジェガン対ジェガンの模擬戦闘の結果も加味するがそれでもレイアム雇用は確定したも同然であろう。
残りの三人がどのような顔ぶれになるかは、これからのテストの結果によるだろう。
*
アークネージ 裏路地
アークネージにある酒場の裏路地で、ギリアスはガラの悪い0Gドッグ四人ほどを叩き伏せていた。
この手のレースにありきたりの選手妨害である。
「チッ......ったくめんどくせえな......」
痩せても枯れてもギリアスは宇宙を支配すべく日々侵略に勤しんでいる軍事大国ヤッハバッハの皇太子候補である。そこらへんの0Gドッグなど喧嘩の相手にもならない。
「てめえらも0Gドッグならせめて宇宙でかかってきやがれ」
もはや聞こえてもいないだろう残念な四人に捨て台詞を投げつけるとギリアスは踵を返して酒場へと戻って行った。
その数分後である。
四人はむくりと起き上がった。
「いってぇ......」
「何だあいつ!?ガキだと思ってやりあってみりゃめちゃくちゃ強えじゃねえか......」
「四人がかかりでやったのに二分ももたずに......」
「ちくしょ〜」
四人は自分が悪いにもかかわらずギリアスの事をひとしきり罵って逃げるようにその場を去って行った。
哀れである。
*
アークネージ 酒場
現在この酒場はレースに出場予定のギリアス達が半ば拠点のように使用していた。店側としてもレースまでの間上得意の客ができるというので大歓迎である。
「マスター、なんか酒。」
ギリアスが椅子に座り込みながら不機嫌そうに言う。
「どうかなさったのですか?」
「それが外でよぉ馬鹿な連中がレース出場の邪魔をしてきやがる。」
「ああ、お客さんも狙われたんですか......いるんですよねぇ、最近そういうの。」
店主も困ったように首を振る。店主の話では、どうやらこの付近でそうした0Gドッグの妨害を行っているゴロツキが集まってきているそうである。店でのマナーも悪く、店主もほとほと困り果てているのだそうだ。
フン、とギリアスは鼻を鳴らす。もともと粗にして野ながら非に非ずの典型的な少年である。正々堂々正面から決着をつけるのが彼の身上であり、そうした脅迫などをする人間に対して好意的であろうはずがない。
「くだらねえことしやがる......」
運ばれてきたグラスを呷りながらギリアスは呟く。どうも、珍しく平和的なレースだと思っていたが裏の方では淀んだ何かが不気味に蠢いているようである。
ギリアス好みの事態ではないことは確かであった。しかし、彼としてはそんな気に入らない展開には首を突っ込まず、当面は彼に向かってくる間抜け共を先ほどのように叩き伏せることに終始すればいいはずである。
しかし、そこでギリアスはもう一つの可能性に行き当たる。本来の彼なら考えもつかない愚劣な予測であり、本人も考えた直後にそれを棄却しかけたのだが、敵も愚劣であるゆえにその可能性を否定できないという笑えない状況である。
「ちょっくらバウンゼィを見てくるか......」
もしやと思うがバウンゼィに爆発物なりなんなりが仕掛けられていたらレースの最中にエンジン暴走という形で不本意な死を迎える結果になるかもしれない。ギリアスは被害妄想の気など皆無であるが、白野との行動によりその行動原理の辞書に【慎重】の一文字が書き加えられていたのである。
*
ユニコーン ブリッジ
「なに?そうか分かった。ピザは三分で届けてくれ。」
ユニコーンのブリッジではゲイケットとルートンが惑星経営のテレビ局からの電波を受信してアークネージ放送局のテレビ放送を見ていた。惑星ごとにテレビ局も違うので、バリエーションが豊かであることに疑いはない。
何とかというアクション物の映画が放映されている。
ゲイケットはユニコーンの食堂にピザを注文して腹の足しにするのである。
どうやら宇宙船内部における白兵戦を題材としいるらしく、モニターの上では筋肉モリモリのマッチョマンが並みいる敵兵をブレードでなぎ払いブラスターで穴だらけにし、グレネードを投擲して一網打尽にしていた。
無論彼らは実際はそんな簡単なことでないということを熟知しているが、娯楽作を見て楽しむのと実際に殺し合いを行うことはまた別の次元の話である。
運ばれてきたピザを齧りながらゲイケットがルートンに問う。
「なあ、ルートン」
「なんだ」
「あのギリアスをうちの艦長が鍛えてるの、何でかわかるか?」
「どういうことだ?」
ルートンは白野が大マゼラン時代から公開を共にした古参メンバーではなく小マゼランで砲撃担当クルーとして新たに雇った新参である。なので、ルートンは白野が大マゼランにいた頃から見込みのある0Gドッグをギリアスのように鍛えているのだと思っていた。実際、そういう例は珍しくない。
「今まで艦長はああいう風に誰かを鍛えるなんてことはしない方針だったからな。急に何故......と思わないでもない。」
「単なる気まぐれか?それともギリアスが艦長の眠っていた教師の資質を刺激する程度の才能を持っているのか......詳しいことは俺にはわからんよ。」
「前者か後者か......はじめは前者と思っていたがな......」
「ああ。あれは勇敢というより無謀の類だったからな。」
ギリアスが白野に襲いかかってきた時、白野の指示でバウンゼィの砲門を吹き飛ばしてユニコーンにおける初陣を勝利で飾ったのは他でもないルートンなのである。
熟練砲手である彼からみれば、その時のギリアスの攻め方は無謀そのものであった。
回避もせずに突っ込んできたのだから砲手にとっては良い的である。
「最近は後者に評価が傾きつつあるが......な。」
シャンプール付近の戦闘におけるギリアスの立てた成果は同じく熟練の0Gドッグであるゲイケットも舌を巻くに十分なものであった。彼は、白野からの教導を受けたとはいえその動きに完全とは言えずともついてこれたのだ。
ユニコーンの快速に追随できるものなど大小マゼランでも数えるほどしかいない。
僅かな間でここまでの成長を見せたギリアスをゲイケットはかなり高く評価している。
後は経験と年齢に伴う【熱さ】を抑制して慎重さをブレンドすれば理想的な0Gドッグとなるであろうと当たりをつけている。
「確かになぁ......」
その成長度合いはルートンも認めるところである。
本来、艦長の仕事というのは【決断】である。
すべての仕事を一人でこなすなどという夢物語を信じている間抜けは置いておくとして、宇宙戦艦を動かすためには必要な人員が多い。
それにおいて艦長のやるべきことは、必要な部署に有意な人間を配置し、戦闘における迎撃か離脱を選択し、砲撃のタイミングなどを指示することである。ついでにクルーの給料を滞らせてもならない。
白野は卓越した操艦技術を有していたのでこの中に【操舵】という項目を付け加えているが。
ゲイケットがギリアスに辛い評価を付けるとすれば、未だにクルーを操艦要員としてしか見ていないということである。
良い艦長は自らの限界を弁え、自分よりもその分野において優れた人物には信頼を寄せるのである。
しかし、ギリアスにはその要素が薄い。才能がありすぎるので、だいたいなんでもできるのである。だから一般クルーを操艦要員としか見られない。
艦船はクルーの協調あって始めて100パーセントの性能を引き出せるのである。
「それにしてもうちの艦長は最初から見抜いていたのだろうか?」
ゲイケットが疑問に思うのも当然、白野がギリアスの才能を見抜いたのはその慧眼故ではなく本来は持ち得るべからず知識によったものであるのだから。
そうでなければ白野はあの時点でバウンゼィを撃沈した......との予想は外れるだろう。
あの時は宇宙港の近くだったのだから、艦船を吹き飛ばせば当然港に被害が及ぶ。白野は賠償金を払うなどごめんであろう。
「そのギリアスだが、近々この星のスペースシップレースに出場するつもりらしいな。」
「アレにか。」
ルートンは小マゼラン出身の0Gドッグであるため、スペースシップレースの存在を前から知っていたらしい。
「長い歴史のあるレースだ。アレに勝てるのはほんの一握りの0Gドッグだけだ。去年は......ランカーのエミーダ・ガヌヌが優勝したな。」
「そんなに難関なのか?」
「コース自体は単純だ。毎回細かに変更されるがだいたいはこのネージリンス本星宙域をぐるりと回る。遠回りしながらな。問題は選手同士だ。あのレース、妨害は許可されていないが通るコースに罠がわんさか仕掛けられているからだからレース中は宙域に青い花火が上がる。」
艦船が撃沈されるとインフラトンインヴァイダーが爆発してインフラトン粒子の青い爆光が広がる。ルートンのいう青い花火とは撃沈された艦船のことを暗喩しているだ。
「そいつは物騒だな。しかし、どんな罠が?」
「それだ。たとえば動力付きの1㎞はある隕石。」
「なに!?」
1㎞といえばユニコーンの約半分の大きさである。それも動力付き。加速しながら突っ込んでくるタチの悪い質量兵器である。ユニコーンでも正面から喰らいたくはない。
「そんなんで生き残れるやつがいるのか?」
「小マゼランの人間でこれに参加するやつは滅多にいないさ。小マゼラン製の艦船じぁ、どんなにやっても生き残るのがやっとで勝つことなんてできないからな。このレースの趣旨は大マゼランの艦船の品評会さ。小マゼラン組の参加者には悪いがな。」
「なんとまぁ......しかし、見る側にとっちゃ気楽なものか」
「そういう事だ。かくいう俺も去年は結構楽しませてもらった。」
「ふむ......しばらく賑やかになるな。ま、何もないよりは遥かにマシだが。」
ゲイケットは肩を竦めるとピザを食べてまた映画の鑑賞を再開した。
筋肉モリモリのマッチョマンがパイプを悪人に投擲して串刺しにしているところだった。
*
ユニコーン 仮想空間
「ぬぅぅうああ!」
「でりゃぁぁぁぁ!」
仮想空間の宇宙で、二機のジェガンがレーザー・ライフルを撃ち合っている。
片方のジェガンはレイアムが操り、もう片方はカトーが操縦している。
二機は絶妙な距離を保ちながら必殺の一撃を直撃させるために目まぐるしく飛び回っている。
レーザー・ライフルの威力は弱いのでジェガンの装甲ならば一撃くらった程度ではビクともしないが二機は長引く戦闘の中でチョコチョコと被弾して行きそろそろ耐久値がレッドゾーンに突入しつつある。
この模擬戦を観察している白野にとってはどっちが勝とうとも生き残っている二人を雇用する事は確定している。
ちなみの他の候補達はバスターゾン級の対空砲火で撃墜されるとか、その後の模擬戦でやはり撃墜されるとかしている。
「そこ!」
「なんの!」
今また、レイアム機の放ったレーザーを急角度に旋回することでカトー機が躱す。
「今度はこちらから!」
「くっ!?」
旋回直後に急ターンをかけてレイアム機を正面に捉えたカトー機はレーザー・ライフルの残存エネルギーすべてを使い切るつもりで怒涛の乱射を仕掛ける。
「ちぃっ!」
対するレイアム機は直撃を避けるために機体を翻させた。
その行動は正しく、しかも迅速に行われたためカトー機の一撃必殺を狙った乱射はそのほとんどが暗い宇宙の向こう側に消え、直撃をくらうことはなかったがジェガンの武器であるレーザー・ライフルの銃床部に命中した。
「とどめ!」
ライフルを失ったレイアム機にとどめを刺すべく突っ込んで行くカトー機。
「まだいける!それなら......これだ!」
素早く機体状況をチェックして損傷度合いを確認し、レイアムは素早く反撃に移る。
カトー機は残り数発分となったレーザー・ライフルのエネルギーを無駄にせぬよう接近して仕留めるつもりだ。そこに徒手空拳となったレイアム機の勝機がある。
「ライフルを......そう使うのか」
ライフルの銃身部をハンマーの柄のように握り、格闘戦の構えを取る。
しかし、それはレイアムの仕掛けた巧妙なブラフだった。
「距離を詰めては、こちらが不利か」
ライフルの威力は低い。しかし、ライフルを形成する素材は決して脆弱ではない。コクピットブロックに直接打撃を叩き込まれては戦闘不能に追い込まれることは確実である。
ならば、エネルギーを無駄に消費しても遠距離から確実かつ安全にレイアム機を打ち倒すべきだ。
カトーはそう判断した。それはただしかったのだが、この場合はその正しい判断こそが計略にかかるきっかけとなったのである
「距離をとった!これでいただく」
レイアム機はライフルを投げた。
それだけなら、カトー機は単なる囮として処理し、レイアム機を危なげなく仕留めたであろう。しかし、レイアムは最高のタイミングでライフルをなげたのである。
つまり、カトー機がレーザーを撃ってきたその瞬間に、である。
レーザーに直撃されたライフルは爆散し破片を撒き散らしながら爆煙を吹き上げる。これが、レイアムの狙い。
視界の遮断である。
「もらった!」
爆煙を突き抜けてカトー機に突進するレイアム機。
当然迎撃のためにレーザーを撃つも、遮断された視界のおかげで迅速な反応が出来ずに接近を許してしまう。
カトー機に組み付いたレイアム機は猛然とマニュピレーターを駆使して激烈な殴打を加える。
一撃するごとにカトー機の装甲がボコボコと凹み、内部メカがズタズタに損壊する。
さらに一撃し、ライフルを保持した腕を吹き飛ばすとトドメとばかりにコクピットブロックに蹴りを叩き込んだ。
ガクリとうなだれ、機能を停止するカトー機。
決着はついた。
組み付いたカトー機の残骸から反動で離れて行くレイアム機も相当損傷していたが、動けないことはないようであった。
*
アークネージ星 上空
バウンゼィ ブリッジ
ユニコーンで激闘が繰り広げられ、そして終結した頃、アークネージ星の上空ではべつの激闘が繰り広げられようとしていた。
スペースシップレースの開幕である。
無数に並んだ大小10000は下らないであろう0Gドッグたちの個性豊かな艦船が栄光を掴むためにただひたすらその時を待ち続けている。
そんな艦船の中に、ギリアスの駆るバウンゼィもいた。
「エンジンオールグリーン。出力安定。規定値です。」
「アポジモーター稼働正常。」
「グラビティウェル、異常なし。」
ギリアスのバウンゼィに採用されている艦橋は【ネージ指令艦橋】である。
艦長能力に対するサポートをカットする代償にコマンドタイムを大幅に増加させることがウリのネージリンス製指令艦橋である。艦橋設備のサポートがなくても問題なく艦船運用が可能な手練れの艦長に愛用されること長い傑作艦橋である。
ちなみにこのタイプの艦橋には指揮官席がないのでギリアスは楕円形の艦橋の中心に仁王立ちしている。
バウンゼィのクルーたちは必要事項以外は口にすることなく時を待つ。弓弦が引き絞られるような時が過ぎ、やがてレースの運営からこの宙域に存在するすべての艦船にたいして放送が行われた。
「これよりネージリンススペースシップレースを開催いたします。参加艦船はカンウトダウンの後に発進してください......カウント、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1......スタートです!」
「エンジン全開!一気にトップに躍り出ろ!」
「了解!インフラトンインヴァイダー最大出力!最大船速!」
バウンゼィの特徴的な赤い船体がぐんぐんと加速し、近くにいた艦船をあっという間に引き離す。
「前方に先頭集団確認。総数50!」
「追いつけるか?」
「最大加速でなら5分後に追いつけます。」
「なら、今は......温存だ。機会を待つ。だが引き離されるなよ。」
「了解です。」
この時点において、ギリアスは確かに以前と比べて飛躍的な成長を遂げている。技術面はまだ未熟だが、突出を控える精神的な成長が見られているのだ。
それが、どのような結果につながるかは現在では不明瞭であるが......
続く
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